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見た限り、ムペンバ効果以外の部分には問題は無いし、理科の演示実験としても面白いものであった。番組冒頭のチンダル像の映像がなかなか面白い。
では、ムペンバ効果がどう紹介されたか。
番組冒頭で、「さらに、一刻も早く氷を作りたい、そんなあなたに朗報が!!」と強調した後、前野さん登場。「日本ではほとんどこの現象、紹介されていませんので」のあと、論文のコピーを積み重ねるシーンが入り、「それは世界中の科学者を驚愕させた大発見」とナレーションが続く。
この内容が紹介されるのは、番組後半になってからである。
最初に、「速く氷を作るには、製氷皿に水を入れるかお湯を入れるか?」と問いかけて、スタジオに、ヤカンの湯とペットボトルの水を出している。
その後、「世界が凍った大実験」「科学の世界で謎とされる現象」として、ムペンバ君の経験が紹介される。アイスクリームの素を冷まさないで冷凍庫にいれたら先に凍ったという内容である。
その後、温度計を入れたビーカーを並べて凍らせるVTRが出る。が、元の温度を表示するところで、逆回しビデオが速すぎて、温度変化の方も早送りされてしまい、どういう変化をしたかがはっきりしない。何回やったうちの成功例かもわからない。
NHKが再現実験をしたと称しているのは、別のドラマ仕立ての実験。-20℃度の部屋で男女が言い争いをしていて、女性が男性に、カップに入った水をかけると水がちゃんと男性のところまでとどいてかかるが、熱いお湯をカップに入れてかけると、大量の湯気とともに細かい粒になって下に落ちてしまう。
その後、スタジオでは、20℃以下の水は凍るまでにかかる時間が、温度が下がるとともに短くなるが、20℃以上の水では温度が高くなるほど凍るまでにかかる時間が短くなる、というグラフが出された。また、繰り返し実験では、製氷皿にお湯を入れた場合、冷凍庫の温度は1℃か2℃上がるが速やかに元に戻る、と紹介された。
終了の時のコメントでも、「熱湯が先に氷になるのでウチでもやってみたい」というものが出ていた。
引っ掛かったところを書いておく。
番組中で、透明な氷ができるかどうかを検討している場面で、家庭用冷凍庫の温度が-20℃と紹介されていた。実際には、制御や霜取りに伴う温度変動があるので、常に一定ではないし、どの程度安定するかは冷蔵庫によって異なる。食品の保存という点では、大体-20℃と思っても大丈夫だろうが、精密な実験ということになると、温度変動の影響がどう入るかわからず、ちょっと心許ない。
ムペンバ君の経験とその後の実験については、番組の紹介では、条件がはっきりしない。こちらは、Physics Educationの内容を確認してからでないと何とも言えない。モノがアイスクリームだと、どれだけ泡立てたかとか、ちゃんと他のグループと同じ組成になってたかあたりから見ないと何とも言えない。冷凍庫のどの場所に置いたかによっても違ってきそうではあるが……。
ビーカーを並べて凍らせるVTRでは、何例やったうちの何例が成功したのかがわからない。偶然、お湯だった方が先に凍ることもある上、時間の経過がわからないので、あのビデオだけでは何とも言えない。
ドラマ仕立ての実験は……見てるものが違うのではないか。お湯の方が先に凍るというよりも、お湯の方が細かい粒になりやすいという現象を捉えているように見える。ビデオだけでは何とも言えないのだが、大量の湯気が出る勢いでまず細かい粒ができ、急速に冷えたことで凍っているのではないか。水の熱容量を考えると、細かい粒になった方が速く凍ることになる。お湯の方が粘性は下がっているので、ばらまいた時に飛び散りやすくはなっているはずだが、それだけなのか? -20℃の部屋に湯をばらまいた時に細かくなる理由については、私も、まだ、何が起きているかを確定させる実験を思いつかない。
冷凍庫の温度が下がるかどうかの繰り返し実験をしたのであれば、ムペンバ効果を確認できるチャンスは何回もあったはずだが、そのことには全く触れていない。また、スタジオで見せたように、ヤカンで湯を沸かして……だと、不純物の入り具合が違ったり、核になる細かいチリの入り具合も違ってくるので、チリの状態を同じにすれば冷たい水から冷やしても普通に速やかに氷ができやすい、ということもありそうなオチである。
スタジオに出された、凍るまでにかかる時間のグラフの出所がよくわからない。physicsworld.comの記事からかと思ったが、あの形にはならない。編集したのだろうか?
番組の紹介のされ方だと、ムペンバ効果が必ず起きるかのような印象を与えるものになっている。早く氷を作ろうとして、お湯を冷凍庫に入れる人が出てきても不思議ではない。
また、お湯を入れた時の方が確実に電力は要するのだが、このことを番組中で指摘しなかったのはまずいだろう。
謎なのは、番組でも論文のコピーらしきものがいろいろ出ていたことで、arXiv.orgの印刷物らしきものも出ていたことである。Jengの論文は関連文献のまとめだし、Katzの論文はモデルの提案である。どちらも、ムペンバ効果が起きる証拠を実験的に確定させたものではない。この手のあやふやな話は、実験で確実に観測できる条件を確定させるところから始めないと、危なくて仕方がない。理論的なモデルは、精度の悪い実験に対しても作りうる。だから、今回、私が最初に探したのは、実験で何をどこまで確定させているかということがわかるような、実験の論文だった。つまり、理論の論文はとりあえず棚上げ(=あることだけ確認するが内容には重きを置かない)していた。普通に調べれば、最新のPhysica Aにたどり着かなくても、ちょっと前のAm. J. Phys.にはたどり着くだろう。実験の論文のみに注目すれば、確率的な現象だと主張しているものがあるはず(前のエントリーで紹介した文献中のリファレンス[4])なので、きちんと読んでいれば、百発百中再現する現象だという話にはならないはずである。
ムペンバ効果については、もともと簡単な話ではないので、簡単な形で演示実験できると思ってしまった製作スタッフの見込み違いということではないか。視聴者のメディアリテラシーの問題というよりも、番組製作スタッフが、ためしてガッテンのようなやり方で扱いきれる現象かどうかを見切れなかったという問題ではないか。
「科学の世界での謎」が、「現象を説明できる理論が無いだけで現象を観測する方法は確立している」という意味なのか、「現象を再現性良く起こすこと自体ができず、時々しか観測できないからまだ謎」という意味なのかで話は随分違ってくる。前者であれば、理屈はともかく手段としては使えるが、後者であれば手段にすらならない。再現性があるからといってそれだけで安心はできず、「再現性はあるが実は別の影響が再現性良く紛れ込んでいた」ということもあるので、実験の精度も問題になる。現状が一体どれであるのかを、番組製作スタッフが十分認識できていなかったように見える。
本筋とは関係無いが、久しぶりにテレビ番組を見た感想。情報伝達がえらく冗長で気になったし、見ていていらいらした。単位時間あたりに得られる情報で比較すると、テレビはえらく間延びしていることを実感した。本やネットは速読や拾い読みができるけど、テレビを短縮するのはちょっと難しい。
posted at 2008/07/27 03:35:53
lastupdate at 2008/07/27 20:55:42
リンクさせていただきました。
今,J-Cast ニュースで話が出て再び検索で飛んでくるのが増えました。この後何度もぶり返されて,その内トンデモに化けるかもしれませんね。私はそれを危惧しております。
現時点で既に先生のところで総括いただけたので,ここを示せばいいなということで,ありがたいものです。
細かいチリやら埃やらの入り具合まで確認しての実験をしたかどうかがわからないので、何とも言えません。凍るきっかけとしては、本当にささいなこと(核になるチリがあるかとか、容器表面の荒れ具合とか)が影響することがあるので、どこまで注意を払ったかで結果が違ってきそうです。まあ、普通の理科実験の操作でも、ペットボトル過冷却の実験ができるのですけれど……。
お湯でやった場合、余分に冷やす電力が(見た目は目立たないけど)確実に必要なことは確かですし。
全然違うところが気になってしまったのですが、今時の家庭用冷凍冷蔵庫の製氷皿ってプラスチック製のしか見たこと無いんですけど、熱湯なんか注いだらその時点で製氷皿そのものがおシャカになっちゃいそうな気がするんですが・・・
もし、ためしてガッテンを見たヒトが、ソレを信じて実践しようとしたら、熱で変形しつつある製氷皿を手でもって冷凍庫まで運ぶ訳で、日本中のアチコチで火傷する事故が発生しそうな気がします。
>熱湯なんか注いだらその時点で製氷皿そのものがおシャカ
さすがにNHKも注意のテロップを入れてました。正確な文言は忘れましたが、「製氷皿の仕様を越えた熱湯を注ぐな、火傷には注意しろ」って内容でした。
ああいった、何を注がれるかわからないような家庭用容器には、
ポリプロピレン(PP)が使われることが多いです。
今、手元に詳細な資料がないので、記憶をたどりますと、
80℃で常温の半分くらいの強度になりますが、
その状態で加圧されるわけではありませんので、
よほどの事がない限り、オシャカになることは、ないと思います。
もちろん、製氷皿ごと、鍋に入れて煮沸したりしたら別ですが。
>さすがにNHKも注意のテロップを入れてました。
NHKのためしてガッテンのサイト( » link here « )を見に行ったら、仰る通り、下記のような注意書きがしてありました。
『※ご注意:お湯は熱いほど早く凍りますが、製氷皿の耐熱温度を超えるような高温はさけ、やけどには十分ご注意ください!』
で、これって一応注意はして責任逃れはしてるみたいですけど、とっても不親切というか不誠実だと思うのですね。
だって、製氷皿の耐熱温度って一般の人がどうやって知れば良いのかってところに斟酌してないんですよ。
例えばですねぇ、我が職場の冷蔵庫の中にあった製氷皿確認したら、ドコにも材質表示が無いヤツばっかりでした。冷蔵庫付属のヤツなら取説に、後に買い足したヤツなら包装に書いてあったかも知れませんが、実はドッチも既に行方不明。一般家庭でもそんな例多いのでは?
また、温度にしたって急いで氷作るために、一旦沸騰させたりとか電気ポットのお湯を、料理用の温度計(←そんなに普及してるものなの?)つっこんで適温になるまで放冷する・・・なんて、めんどくさすぎて裏技にならんし。
だいたい『お湯は熱いほど早く凍ります』なんて断言できるほどの根拠があるとも思えませんしねぇ。
mimonさん、
>ああいった、何を注がれるかわからないような家庭用容器には、
>ポリプロピレン(PP)が使われることが多いです。
いや、そうとも言い切れないですよ。
今日、帰る途中で立ち寄った100円ショップで製氷皿を見てみたら、もちろんPPもあるんですが、7:3か6:4くらいでポリエチレンの方が多かったです。(耐熱温度:70℃でした。)
最近の冷凍冷蔵庫は自動製氷が多いので、一般家庭でこの裏技使おうと思ったら、この辺りで買うてくるのも無視出来んくらいの数になるんじゃないですかねぇ。
おそらく『製氷皿』と銘打って売ってる以上は、熱湯掛けるなんて『想定外』の使用法と割り切って、耐熱性は低くとも出来るだけ安上がりな材質を選択しそうな気がします。
100円ショップだけや無うて、楽天で『製氷皿』で検索して出てきたの(↓)はポリエチ製ですしねぇ。
» link here «
それと、下手したらEVAなんてのも使われる可能性もあるみたいです。
(ココ( » link here « )の下の方にある『Q それぞれのプラスチックの特長を教えて?』の表の製品例の欄をご参照下さい。)
とは言っても、流石に実物でEVA製は見たことはないですが・・・
> ポリエチレンの方が多かったです。(耐熱温度:70℃でした。)
ポリエチレンにも色々あり、高温強度に優れる架橋ポリエチレンなら・・・。
と、負け惜しみを言っても無駄ですね。耐熱温度が70℃なら、普通の高密度ポリエチレンでしょう。熱湯を注ぐと、変形する可能性があります。
残念ながら放送を見逃してしまったのですが、「うらわざ」とか、「生活に役立ちそう」とか、ネタ切れで終了した某民間放送の番組制作の残党でも紛れ込んでしまったのか、という番組になってしまいましたね。
こちらでの説明を拝見する限り、再現条件が確定できないものなので、「便利」でもないし、「画期的」でもない気がします。
あえて質問してみますが、
「結局、できるだけ早く家庭用冷蔵庫で氷を作るにはどうしたらよいのでしょうか?」
この答え(の少なくとも1つ)が「冷蔵庫に入れる水の温度がより高いこと」だった場合は、NHKの番組が視聴者にとって正しいと感じることになるでしょうし、
答えに含まれない場合、「NHKの番組は間違いを放送した」ことになると思います。
(あくまでも、科学的な話としてではなく、無責任な1視聴者としての観点に限って、ですが)
これまでの説明を文科系の私が読んで判断する限りでは、NHKの説明は、現象が必ず起きることを保証できていませんから、実用的に考えても間違い、だと思います。
それから、冷蔵庫の冷凍室は、氷を作る部分だけ独立しているものばかりではないので、一般論で語ると、隣の冷凍食品に対する影響等、問題はさらに複雑になる気がします。















普通は、食事でもしながら、ちらちら見るようなものですので、そんなもんでしょう。
NHKだから、まだましで、民放だと、途中にCMが入りますので、もっと冗長になります。