水のラマンスペクトル

はじめに

 ここでは、水の高振動数および低振動数ラマン散乱のスペクトルのデータ公開を行う。ラマン散乱そのものに関する詳しい解説はしないので、文献*1,*2などで各自調べること。

 このデータの利用は原則として自由であるが、出版物等に利用する場合は連絡してほしい。データの利用によって、万一損害が生じても保証はしないので各自の責任で利用すること。

 データの質については、我々のグループでは、この程度のデータであれば、フィッティングその他の解析を行い論文で使うということを付記しておく。

 それぞれの図のところにあるdownloadをクリックすると数値データをダウンロードできる。.awavという拡張子のついたファイルを読みにいくが、これは単なるテキストファイルで、3つの数値がタブで区切られて、3つごとに改行が入っているだけである。ブラウザの設定によっては、単に数字の列が出るだけになるので、ブラウザ側の機能でテキストとして保存してから手持ちのグラフソフトなどを使ってながめてみてください。各ファイルの列は左から、ラマンシフト(波数)、VH、VVの順である。

水の高振動数スペクトル(生データ)

 室温にて、水の高振動数スペクトルの測定を行った結果を図1に示す。データはStokes側である。VV,VHはそれぞれ偏光および偏光解消ラマンスペクトルである。測定は室温(295K)である。励起光はアルゴンイオンレーザーの488nm、出力300mWで、分光器のスリットは400μmである。水は、FreseniusのAmpureという商品名の水で、純水かつホコリを取り除いて透明なガラスのアンプルに封じてある医療用のものを、取り出さずにそのまま使用している。分光器はJobin-Yvon U1000を用いた。

fig.1
図1:水の高振動数スペクトル(生データ)download


 実は、このデータはこのままでは正しくない。というのは、フォトマルの感度が波数によって異なるために、全体としてひずんだスペクトルになっているからである。

水の高振動数スペクトル(感度補正済み)

 我々のところでは感度補正曲線をあらかじめ測定し、それによってデータを校正している。このために、各波数での蛍光強度がわかっているキニーネ溶液を使う。水銀ランプでキニーネを励起し、蛍光をVV,VHについて測定する。そのスペクトルを適当な滑らかな関数(たとえばガウシアン数個)でフィッティングし、キニーネのスペクトルを正しく再現するように各波数での係数を求めておく。この係数は半年か1年に一度取り直している。また、フォトマルを交換したときには必ずとるようにしている。キニーネによる校正法の詳しい手順や数値については、文献*2の101ページあたりに詳しく出ている。

 この補正を行ったデータを図2に示す。

fig.1
図2:水の高振動数スペクトル(感度補正済み)download

水の高振動数領域の感受率

 感度補正したスペクトルをBose-Einstein因子で割ると、動的感受率の虚部のスペクトルを計算することができる(図3)。この計算式は、こちらの式(1)である。

fig.3
図3:水の高振動数領域の動的感受率download

水の低振動数ラマン散乱(生データ)

 高振動数領域とほぼ同じ設定で、スリットのみ200μmにして測定した。

 低振動数ラマン散乱の測定で得られる生データを図4に示す。

fig.4
図4:水の低振動数ラマン散乱(生データ)download

 レーザー光の波長(シフト0)に近づくにつれて、急激に散乱強度が増加している。0付近で強度が落ちているのはシャッターでレーザーを切っているからである。あまり強い光をフォトマルにあてるとフォトマルの調子が悪くなったり壊れたりするからである。

水の低振動数ラマン散乱(感度補正済み)

 高振動数のときと同じように、フォトマルの感度補正を行う。フォトマルの感度はたいていなだらかなカーブで変化し、低振動数ラマン散乱の測定では測定範囲が狭いので、感度補正をしなくても解析に耐えられるデータが得られることが多い。

fig.5
図5:水の低振動数ラマン散乱(感度補正済み)download

水の低振動数領域の感受率

 低振動数領域でも、感度補正したスペクトルをBose-Einstein因子で割ると、動的感受率の虚部のスペクトルを計算することができる(図6)。この計算式は、こちらの式(1)である。

fig.6
図6:水の低振動数領域の感受率download


*1「赤外吸収とラマン効果」水島・島内著、共立全書
*2「ラマン分光法」、日本分光学会測定法シリーズ17、濱口・平川著(学会出版センター)参照



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