5.TDR測定の実際

4.セル定数の決定及び標準試料の選択

 サンプルセルの電気長γdは反射波の測定を行い、

eq16

を用いて計算することもできる。ここでcは光速、V0は印加電圧、εrは標準試料の比誘電率、Rsは標準試料の反射波、Raは空気の反射波である。しかしこの方法で求めたγdは正確ではない。そこで、2種類の標準試料の反射波を測定し、式(8)により誘電率のスペクトルを求め、その結果が標準試料と同じになるようにγdを決めた。たとえばアセトンとメタノールの組み合わせの場合は次のようになる。まずアセトンを標準試料とし、通常の手順でメタノールの誘電率の測定を行った。計算結果の1 MHzから10 MHzの誘電率の実部が、標準試料の計算式で求めたメタノールの値と同じになるようなγdをサンプルセルの電気長として採用する。標準試料の他の組み合わせでもγdを決定することができる。

 サンプルセルを溶液に浸して測定する場合は、アセトンとメタノールの組み合わせでできるが、セルを上向きに設置しサンプルを入れる場合はアセトンを使用すると測定中に気泡ができやすく正しい反射波を測定できない。そこで本実験では水を標準としてメタノールを測定し、得られた誘電率からγdを決定することが多かった。この場合、γdは測定に使える値が出るが、得られたメタノールのスペクトルをフィッティングしようとすると実部と虚部の緩和強度が異なっていてうまくいかなかった。

 標準試料として未知試料とそれほど変わらない誘電率を持つものを選ぶと測定の誤差を少なくできる。すでに述べたように誘電率の計算には時間領域の反射波形の差が必要であるが、これらの波形には測定系のインピーダンスの不整合による試料の信号の多重反射が含まれている。この不要な反射波形は試料の誘電率によって異なる。標準試料と未知試料の誘電率に大きな差が無ければ、波形の差をとったときにその部分はキャンセルされる。差をとったときに多重反射の信号が残っていると、その影響はフーリエ変換で周波数軸上に拡げられることになり、正確なスペクトルの計算が困難になる。また(8)式のイテレーションの計算をする際にも、初期条件(標準試料の誘電率の値)と、求める誘電率(未知試料)の値の間の差は小さい方が正確に計算できる。

 従って、水溶液の測定なら水、他の溶液の測定ならばその溶媒を標準試料として選べばまず問題なく測定できる。

 また、10 GHz付近を正確に測る場合は、その付近に誘電分散のある試料を使うよりは、セルを空にして空気をリファレンスにする方が再現性よく測定できる。


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Y.Amo /
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