誘電緩和のデータ解析

 誘電緩和のスペクトルは周波数軸上で広がっていて、誘電率が大きく単一の物質の場合以外ははっきりしたピークを持たないことが多い。このような場合、スペクトルの量的な評価は、次のような実験式を用いてフィッティングを行い、そのパラメータの変化を見ることで行う場合が多い。

eq17

 ここで、εはイオン分極および電子分極の項、Δεiは緩和強度、τiは緩和時間、αiは高周波への非対称な緩和時間の分布の程度、βiは対称な緩和時間の分布の程度を表す。αとβは、0と1の間の値をとり、値が小さくなるほどスペクトルが拡がりを持つようになる。nはある周波数範囲に存在するスペクトルの個数である。(α、βではなく1-α、1-βで書かれる場合もある)

 α=β≡1のときをDebye型、α≡1のときをCole-Cole型、β≡1のときをDavidson-Cole型、α≠1、β≠1の一般的な場合をHavriliak-Negami型と呼ぶ。多くの場合、誘電緩和スペクトルはこれらの式の重ね合わせとして表すことができる。

 Debye型のスペクトルが最もはっきりしたピークを示すが、それでもなだらかに拡がっているため、周波数軸上でのピークの位置が少しだけ異なったDebye型の緩和が2つ存在する場合、1つのCole-Cole型の緩和と区別できない。したがってnをむやみに大きくしてもフィッティングの結果は無意味なものとなるだけである。

 αとβはDebyeの式に緩和時間の分布を導入した実験式であり、分布がこのような形で書けるというモデルがあるわけではない。それでも多くの実験結果を定性的によく説明することと、解析的に書けていることから、広く利用されている。

 これ以外に、Korlrausch-Williams-Watts(KWW)関数が使われることもある。これは、時間領域で分極の応答が

eq18

の形に書けるというものである。ただし、0<βKWW≦1である。指数関数を引き延ばしたような形をしているので、stretched exponentialともいう。時間領域は簡単な形をしているが、複素誘電率の周波数領域の形になおすと解析的に書けず、これでフィッティングの解析をするのはHavriliak-Negami式を使うよりは計算が大変である。方法については別に説明する。

 ともかく、これで緩和強度や緩和時間が出るので、活性化エネルギーを考えたり、その他の定性的な解釈を行ったりする。


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