水商売ウォッチング:マイナスイオン関係

善意が宣伝に利用されるとき(2003/12/19)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 この文書は、公開してから時間が経ち、当時の会社の名前や取締役の名前も変わっていること、会社の製品自体が新しくなり、宣伝の態様も変わった(医療目的の販売は行っていない)ことから、会社名等を伏せ字にします。文書そのものは残します。これは、大学と企業との連携において、実験データの取り扱い等の詰めが少々甘かった場合、世間からどう見られるかということについての教訓とするためです。(2007/04/06)

発端

 12月上旬に,(財)山形県企業振興公社の方からこんなメールをいただいた。

Subject: 山形大学理学部?

天羽 優子 先生 様
おはようございます。
突然メールいたしまして申し訳ございません。
先生のホームページ興味深く拝見しております。
2002年の9月の山形新聞に下記のような記事が載っていましたが、
同じ理学部の教授としてどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

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健康器具・食品販売などの○○○○(山形市、○○○○社長)は、県工業技術センターなどと共同で、コロナ放電方式で放出量を大幅に高めたマイナスイオン発生器「○○」を開発した。発生量は1cc当たり最大1200万個以上で、自然の滝の1000倍を超える。代理店や医療機器卸業者などを通じて販売していく考えだ。
 マイナスイオンは、自然界の森や滝、水辺などに多く存在し、血液浄化などの働きがあり、人に安らぎやそう快感をもたらすとされる。大手家電メーカーは、発生機能付きのエアコンや空気清浄機などを相次いで発売している。

 ○○○○が採用したコロナ放電方式は、局部的に高電圧をかけて空気の絶縁を破壊し、その際に発生する光を伴う静かな放電現象を利用したもの。空気中の酸素分子がマイナスに帯電し、空気中の水の分子が引き寄せられてマイナスイオンが発生する。

 ○○は、電極針を6本ずつ横に2段に配列してそれぞれに高電圧をかけて放電させる。背面に静音タイプの小型ファンを付け、計12の吹き出し口からマイナスイオンを放出する仕組みにした。独自の技術で、イオン効果を損なうとされるプラスイオンの発生を抑えた。

 山形大理学部の崎山博史助教授が測定した際は、マイナスイオンの発生量は1分当たりに換算すると最大で6000万個に上り、プラスイオンは測定されなかった。

 微量のオゾンも発生するため脱臭作用もある。製造は県内の装置メーカーに委託。製品が完成したのは今年8月で、既に全国に200近い代理店を設けた。ほかに卸売業者やスーパーなどに販売。健康食品販売会社へのOEM(相手先ブランドによる生産)供給も近く始める予定だ。

 大きさは幅30センチ、高さ21.5センチ、奥行き8センチ。定価は22万円。問い合わせは同社×××(×××)××××。

 私,教授じゃなくて助教授なんですが,というのはともかく,私の研究室の斜め上が崎山氏の部屋である。実は,このメールをもらう前に,別の方からのメールで,山形大学理学部物質生命化学科でマイナスイオンの測定をしているのは本当かという問い合わせをいただいたので,崎山氏の所へ行って確認した。そのとき,ファラデーケージやイオンカウンタを見せてもらったりしたのだが,そのときに,名前を宣伝に使われたということをちらっときいていた。そこで,今回,改めて経緯を崎山氏に確認することにした。

崎山氏にうかがった経緯

 まず,崎山氏がマイナスイオン測定を始めることになったきっかけは,山形県内のTMテクノという会社から,「トルマリンでマイナスイオンを出す装置を作りたいが,マイナスイオンを測定できないか?」という相談を受けたことによる。これが2,3年前のことで,測定は可能だということで,ファラデーケージを自作したり,市販のイオンカウンタを使ったりして測定しつつ,測定に関する相談にも乗っていた。マイナスイオン装置は特に空調ダクトの吹き出し部分に取り付けることを目的としており,この開発のためにTMテクノと空調の会社が共同で作ったイオンテクノという会社があって,この会社に主に協力している。ただし,崎山氏の守備範囲は,イオンカウンタで測定してマイナスイオンの存在を確認するところと,測定に関する議論までであって,マイナスイオンがヒトに対して何らかの効果を示すものであるかどうかについては,一切実験を行っていない。このことは,TMテクノにもイオンテクノにも説明し,了解を得ており,製品の宣伝においてもこの2社の活動では,事実以上のことが出されることは無かった。つまり,常識的かつ良好な関係が今まで続いているということだ。

 件の○○○○という会社から連絡があったのは,2002年の夏だった。いきなり電話がかかってきたのだが,そのときのやりとりはこんな感じだった。

会社「マイナスイオン発生装置を作ったので推薦文を書いてほしい」
崎山「機械を見ていないので推薦文と言われたって書けません」
会社「じゃあ今から行きます」

 ということで,大学に社長と専務が訪れた。この日は,マイナスイオン発生装置は持ち込まれなかったが,いろいろ話をして,「測ってみてください」と頼まれたので,測定するだけなら,ということで実験して数値を出したのが,2002年の8月だった。このときの測定結果は,会社が期待していた値よりは低かったらしい。ともかく,マイナスイオンの濃度と1分間の積算量を数値で示した。さらに,「放電式なのでオゾンやスーパーオキサイドも出ているので,殺菌には使えるだろう。しかし,人体に直接触れさせるのは,良いものではないし,衣類などの色落ちの可能性もある。生き物や色あせしやすいものには近づけないよう注意が必要である。このような性質を正しく理解して使えばいい。」というコメントをした。

 その後,新聞に載ってましたよ,という連絡を受けた。また,○○○○から,「(宣伝のため)TVに出てください」という連絡があったので,「宣伝で名前を出さないで欲しい。TVにも出ません。」と電話で伝えた。

 さらに,予想しない形で宣伝に名前が出たということで,大学にも報告した。報告先は,当時の総務係長だった。大学としては,産学でいろんな活動をするのはむしろ進めてほしいところだが,問題があるのなら判断にまかせますということであった。

 宣伝に名前が出たことで,県の中でも問題になった。特に,山形県にあるラジカル生物研究所の吉村氏からは「手を引きなさい」と再三助言があった。

 その後は,最初から問題なく協力関係を作れたTMテクノ・イオンテクノ以外とは,マイナスイオンの測定で協力したり,何か装置を共同開発するようなことはしていない。TMテクノ・イオンテクノとの協力関係は,イオンの測定と測定に関する技術相談に限られており,マイナスイオンの人に対する効果については,調べるノウハウもないしリソースもないということで,何もしていない。

 なお,TMテクノ・イオンテクノからはマイナスイオン測定について20万円の補助を受けたので,これをきっかけとして,大学内の公開講座でマイナスイオン測定の講演を行った。これは,大学が企画して行っている一連の公開講座で,疑似科学に関する批判もテーマとして含まれているものである。公開講座のテキストは,崎山氏の許可を得たので,付録としてこのウェブページの最後に掲載する。

その後の宣伝

 私が山形大に着任して,たまたまそれが崎山氏と同じ学科だったとはいえ,問い合わせが1年以上前の新聞記事に関するものだったので,なぜ今ごろ問題にするのかと疑問に思っていたのだが,次に受け取ったメールには,

私どもの仕事は、県内の中小企業の支援ということで金融、労務、業務提携までいろいろな案件が持ち込まれます。
その中で、新商品開発、産学官共同研究などで、先生のおっしゃる「ウォータービジネス」関連の物が最近多く、工業技術センターに案件を持っていっても、まったく取り合ってくれないのが現状です。製造業者も、消費者も納得して経済行動を起こすのなら問題ないと思いますが販売の際、宣伝文句の中に、大学名や教授名を出し、さも信頼できる製品であるように、PRすることはいかがなものかと思います。
 先週も、山形県工業技術センターと山形大学の崎山先生と産学共同研究によって完成した商品ということで、介護関係の企業にセールスにいった会社があり、介護関係の企業より、この商品は信頼できる商品なのかというような問い合わせがありました。工業技術センターにも問い合わせたところ、名前を使われてしまったとの回答でした。

公的な企業支援ということで、天羽先生の主張を前面に出し、「ウォータービジネス」をまったく排除することも難しいのですが、大変に参考になりました。

また何かありましたらよろしくお願いいたします。

 と書かれていた。どうやら,○○○○ではないが,ここの商品を扱っている別会社が,1年経つのに相変わらず崎山氏と山形大学の名前を出して装置を売って歩いているらしい。崎山氏が「名前を出さないでくれ」と頼んだことは無視されているようだ。それどころか,このメールが本当なら,宣伝内容が勝手にエスカレートしている。1年前の新聞記事では,崎山氏が行ったのはイオンの測定だけであることと,測定時間が違うので直接比較はできないとしても崎山氏の確認したイオンの数の方がだいぶ少ないらしいことが窺える。それが,今度は「産学共同研究」とされてしまった。これでは,単なるイオンの測定じゃなくて製品の企画・開発のかなりの部分を一緒にやったような印象を消費者に与えてしまうに違いない。

情報開示が風評を断つ

 特にここ数年は,産学協同でできることがあればどんどんやれ,ということになってきている。国立大学の法人化でこの傾向はさらに加速するだろう。マイナスイオンに限らず,使える測定手段を大学が持っているときに,企業から測定してくれと頼まれた場合,大学側が断る理由は無いのではないか。産学は協力すべきだから,とか,たとえ怪しい話に関係していたとしても,科学技術の裏付けのある測定をすること自体を拒む根拠がない,ということが,測定で協力することの理由となるだろう。とにかく,怪しいのもまともなのも含めて,測定依頼されて引き受けるということが,これからはもっと増えていくだろう。

 実は,こういった依頼測定を受けるに際して,その測定の位置づけや意味にまで踏み込むべきかどうかについては,今のところコンセンサスはなく,研究者個人の価値判断にまかされている。だから,言われた通りの測定をして正確な数値を出すことはできるが意味付けについては責任をもてないよ,というやり方もあるし,測定自体に意味がないからやめろという忠告をしてもかまわない。最初からいっしょに開発をしていたのであれば,怪しいほうに話がいきかけたときには軌道修正するのが大学の役割になるだろうが,測定して数値だけ欲しいと言われたときにどこまでアドバイスをすればいいのかについては,全く合意がとれていないのだ。

 この事情は,地方公共団体の運営する試験研究機関でも同様である。産業技術研究所,産業技術センター,工業試験所といった組織が全国各地にあって,自前で分析装置を持たない中小企業の分析業務を支援している。このような試験研究機関は,「どんな測定法があるでしょう?」と訊かれれば相談にのるが,企業が最初から測定方法を指定してきた場合,測定の背景や意味は問わずに数値だけ出すところが多い。企業が間違った知識や思い込みで測定法を指定してきたとしても,試験研究機関ではそこまでチェックしない。つまり,どの測定法を投入するかということは,測定を依頼する側に任されているということだ。測定の意味についてまで説明するというサービスを行った方が良いのではないかという意見も出てはいるが,どうするかという基準は今のところない。

 当サイトの目的の1つは,「クラスターの小さい水がいい」「クラスターのサイズはNMRでわかる」といった誤解を正すことだったのだが,実際,多数の企業がNMR測定を試験研究機関や分析会社に依頼しており,測定結果を宣伝中に掲載している。業界誌や同業他社の宣伝を見て測定法と出すべきデータを指定して測定依頼をしたために,測定そのものに意味があるかどうかについてはほとんどチェックされないままに測定結果が出回ったのだと思われる。

 まともな試験研究機関が怪しい理論を載せた宣伝を広めるのに一役買うのはけしからん,という意見は当然あると思う。もっともな意見なのだが,もし,測定の使われ方や製品開発での測定の位置づけを全部チェックして内容で判断するというルールを作った場合,製品開発の詳細を企業に提出させない限り測定手段を提供できないことになる。企業にとっては,製品開発のごく一部のための測定を頼むために,企業秘密に近い部分まで情報開示が必要だということになりかねない。これでは,普通の協力関係もうまく作れなくなってしまうだろう。「内容で判断」というのは,個人の価値観で行うのは比較的簡単だが,ルールとして決めようとするとなかなかに難しい。試験研究機関の名前の濫用を防ぐとしたら,たとえば,名前の出し方をあらかじめ指定するといった,形式的な基準を作る程度のことしかできないだろう。

 その一方で,試験研究機関の役割が,一般の消費者に十分正しく知られていないという現実がある。宣伝の一部に,試験研究機関の名前と一緒に検査データが出ているだけで,宣伝の他の部分もその研究機関がチェックしたのだと,無意識に思い込む人が後をたたない。それでも,検査を行ったことは事実であるのなら,その事実を普通に読めば誤解しないようなやり方で宣伝に書くことを禁止する理由はない。それを,他の部分にまでお墨付きがあるかのように受け取ってしまうとしたら,読む側にも責任があるということだろう。念のため,検査結果以外についてまでお墨付きを与えたかのような表現を避けるように,試験を依頼した企業と事前に申し合わせておけばよいのではないか。まとまった検査を引き受ける場合は契約書に記載し,ボランティアで少しだけ協力する場合は申し合わせで足りるだろう。大抵の普通の企業とは,これで良好な関係を作れるはずである。

 企業が悪質だった場合は,宣伝にお墨付きを与えたかのような表現をするなと言っても,まず従ってはくれないだろう。たとえば,こんなケースがあった。装置を大学の研究室に持ち込んで試験依頼したので,研究室で調べたら全く効果がなかった。それで,放置しておいたら,展示会で勝手に「**大学**研究室で効果を実証」という宣伝をされてしまったというものだ。病院や大学や公共施設に無料で装置を持ち込んで「どうか試してみてください」とやっておいて,宣伝中では「名の通った病院・大学・施設で使われています」と書くやり方もある。もちろん,研究機関では一切その装置に関する研究を行っていなかったりするのだ。ひどいときには,研究機関側が一応試して「効果がなかった」と連絡しているにも関わらず,宣伝にはその研究機関の名前が出されることもある。本物の試験研究機関や著名な民間企業のお墨付きを得るのが難しいために,わざわざ似た名前の分析会社を作って,怪しい説明付きの製品の検査結果をそこの名前で出して宣伝で使うということも行われている。民間企業内に理化学研究所という部署を作って,その名前で怪しい検査結果を出したのが宣伝に使われて,本家理研(独立行政法人の方)に宣伝を見た人から問い合わせが行ったりもしている。私自身も,磁気活水器の宣伝について業者から相談されたので,「波動と遠赤外線はまずいんじゃないの」って善意でコメントしたら,そういう怪しい部分を直さないまま別の会社に売り込みにいって,「天羽のチェックが入った宣伝だから怪しくない」っていう宣伝をやられたことがある。このときは,売り込みに行った先の会社の技術者と私が既に別件でメールのやりとりがある状態だったので,すぐさまこんな宣伝があったと連絡がきて発覚したわけだが。とにかく,研究機関等の名前を利用したがる企業と関わると,油断も隙もないという状態である。

 運悪く,研究機関の名前を利用したがる企業に関わってしまった場合,法的に名前の使用を差し止めるしか方法がないが,これには時間も手間もかかるし,必ずしも可能とは限らない。無制限に宣伝に利用されないための1つの方法は,試験研究機関側でガイドラインを作って,どんな企業とどんな内容でどこまで関わったかということを,徹底的に情報公開することだ。事前に,結果が良かった場合も悪かった場合も事実を公表するというルールを作っておけば,濫用を防ぐことができる。もし,開発途中で,持ち込まれる試料のなかには良くないものもあるということなら,開発が確定するまで試験研究機関の名前を出さないということと,違反した場合は途中経過であっても状況を公表するということに同意させるという対応をすればいいだろう。そうすれば,宣伝中で試験研究機関の名前が出てきたとしても,本当にその研究が行われたのか,研究機関の関与が実際にはどの程度だったのか,結果がどうだったのかについて,誰でも確認することができる。権威づけに研究機関の名前を濫用しようとしても,すぐにバレるようにしておけばいいのではないか。先に独立行政法人化した研究機関では,名前を利用されることの危険性に気付いているようだが,大学はその認識が遅れているように見える。

 極めて悪質な場合に限っては,研究者個人に法的責任をおわせてもいいのではないか。たとえば,研究者と企業がグルになって,まだはっきりしていない科学理論をさも確定したかのように宣伝し,その結果,消費者に高額の装置を売りつけるといった場合である。つまり,研究者の職位や学位,所属機関の名前に対する社会的信用に乗じて,学問的に決着していない内容を広く一般に振りまいて消費者を誤認させるような行為の責任を問うということである。勝手に利用されてしまったケースについては,名前の利用を知ってからそれをやめさせるように働き掛けたり,事実を公表して濫用であることを広く世の中に示した場合には,注意義務を果たしたということで,責任を問う必要はないだろう。濫用されている状態を知っていながら放置したり,それに乗じて積極的に宣伝活動を行った場合には,何らかの責任が生じると考えても良いのではないだろうか。もちろん,この規制を安易にかけると,産学協同の開発を阻害したり,研究者の研究活動を阻害したりする可能性があるから,事実関係をよく確認した上で慎重に行う必要があるだろう。ただ,私個人としては,どこぞの弁護団が,企業の御用聞き学者の民事的責任まで追及して,責任をおわせる判決を引き出してくれないかと期待していたりする。判決1つでいろんな状況が変わってくるのではないかと思うので・・・・。

付録:公開講座テキスト

 なお,測定原意の図は掲載していない。

マイナスイオンの計測
山形大学理学部助教授 
崎山博史 

はじめに

 近頃「マイナスイオン」という言葉をよく耳にします。体に良く癒しの効果があると言う人もいれば,インチキのお題目だという人もいます。「イオン」という言葉から,化学の用語のように思われがちですが,化学でよく登場するイオンとは少し違っていて,そんなところから,多くの化学者は「マイナスイオンはインチキだ」と言うようです。今回,科学的な立場からマイナスイオンについて考えてみましょう。

マイナスイオンとは

 空気中には,窒素や酸素の他に水分が含まれています。この水分は,数個から数十個の水分子が集まった形(気相クラスター)として存在したり,またはもう少し大きい微小水滴として存在しています。通常,水溶液中では,陽イオンと陰イオンが同じ分量だけ含まれ全体としては電気的に中性になっていますが,空気中の微小な水滴の中では陽イオンと陰イオンの分量がずれ,水滴が正または負に帯電することがあります。これらは空気イオンと呼ばれ,負の空気イオンが「マイナスイオン(注:正しい学術用語ではありませんが今回は「マイナスイオン」という言葉を使います。)」と呼ばれます。
 水滴が小さく,クラスターとみなせる場合には,化学の用語で,負のイオンクラスターと呼ばれます。数個の水と一つの陰イオンという形が最も単純な形です。自然に存在するものは,陰イオンが水酸化物イオンのものや炭酸イオン,硝酸イオン,硫酸イオンのものなどがあります。ひとくちにマイナスイオンといっても色々な種類があります。

滝壷でのマイナスイオンの発生

 滝壷では,水が勢いよく落下してぶつかり合い,水滴が飛び散ります。勢いよく飛び散った水滴は空中で更に小さな水滴に分かれていきます。このとき,水滴が正に,周りの空気が負に帯電することが知られています。微視的には,水滴が分かれるときに水由来のマイナスイオン(水酸化物イオンのイオンクラスター)が飛び出すことで,このように帯電すると考えられます。正に帯電した水滴は比較的早く水面近くに落ちてきますが,負に帯電したイオンクラスターはしばらく空中にとどまります。このように滝壷周辺では,水面付近が正に,上空が負にという広い範囲にわたる電荷分布が生じます。

コロナ放電によるマイナスイオンの発生

 コロナ放電によってマイナスイオンを発生させることもできます。この場合は超酸化物イオン(スーパーオキシドアニオンラジカル)のイオンクラスターが発生します。スーパーオキシドは活性酸素であるため,殺菌・空気清浄という点からは意義がありますが,生体に対しては危険も含んでいます。発生量と安全性の関係に注意する必要性があります。

 ※その他にもマイナスイオンの発生法がありますが,ここでは省略します。

マイナスイオンの測定

金属でできた二重管の外管をアースし,内管に空気を流し込むと,空気の帯電量に応じて内管と外管の電位差が変化します。このときの電圧の変化を測定することで,空気の帯電量を測ることができます。測定器の形状,計測方法ともに色々あり,プラスイオンを除いて測定する方法もあります。
 今回は,市販の測定器と自作のファラデーケージ式測定装置をお見せします。
((図 測定原理の一例  普通の電圧計ではなく,エレクトロメータと呼ばれる内部抵抗の大きな測定器などを用います。))

測定における注意

 測定者を含め,周りの空気や物体などが持っている静電気のために基準が狂ってしまうと,正しい測定ができません。アースを正しくおこなえば良いのですが,携帯式の測定器はアースされていない場合がほとんどなので,注意が必要です。市販の測定器の中にも誤動作していると思われるものがあります。

マイナスイオン研究の問題点

 一番の問題は,イオンの種類を区別した研究が少ないことだと思います。特定のイオンの作用なのか,電荷の作用なのかを区別して考える必要があります。また初期の研究は巨視的なものでしたが,イオンという用語を用いるのであれば,微視的な考察が必須です。イオンの種類を特定するには質量分析という方法が用いられますが,マイナスイオンの濃度は通常非常に小さく,電気的には観測されても化学的には観測できないことが多く,これも難しい問題です。また発生の簡便さから,電気的に作りだした活性酸素種(スーパーオキシド)のマイナスイオンを用いる研究が多いことも,見直すべきだと思います。

マイナスイオンと健康

 現時点では,断言できないというのが正しいと思いますが,私なりの考えを述べさせていただきます。
 私たちが生活している地球上は地面と電離層に挟まれたコンデンサーと見ることができ,天気の良い日は地面の方がマイナスに,天気が悪い日は地面がプラスに帯電しています。天気が悪くなると神経痛がでるというのは,この電荷の問題のようです。もうひとつ,私たちが身に付けている衣服の素材は,まず間違いなく帯電列がプラスの上位です。このような衣服で身を包むことで私たちの体はわずかながらもマイナスに帯電します。このようなことを考えていくと,マイナス環境は体に良さそうだという気がしてきます。(この場合はイオンの種類は関係なく,負の電荷だけが意味を持ちます。)もしも,このような意味でマイナスイオンを取り入れたいというのであれば,天気の良い日に窓をあける。乾布摩擦をする,といったことが挙げられます。

 



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