水商売ウォッチング:その他

NMRの効果をうたった水について(2001/01/17)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 磁気処理水と似て非なるものに、NMRの効果をうたった処理装置がある。効果は、磁気処理水と類似の効果があるらしい。装置構成の例としては、金属でできた水道管の外側から装置をとりつけるというものがある。

 装置説明によれば、NMRの効果によって、水分子の核にエネルギーを与えて水のクラスターを細分化させるということが可能だとされている。電子励起状態や電子の発生も起きるとされることがある。もしこのNMRが、我々の通常使っている核磁気共鳴(NMR)なら、そういうことは起きない。

 NMRをどうやって起こさせるかだが、まず強い磁石を使って試料に一定の磁場をかける。そうすると、核スピンのエネルギー順位が分裂する。そのままだと、低い核スピンのエネルギー状態に多数の原子核が存在し、高いエネルギー状態には少数の原子核が存在する。分裂したエネルギーの差に相当するラジオ波(マイクロ波)を試料に照射すると、核スピンはエネルギーを吸収して高いエネルギー状態になり、低い状態の核の数と高い状態の核の数が最初と違ってくる。ここまでが磁気共鳴である。共鳴を起こさせるには、エネルギー準位の差にちょうどあったエネルギーのラジオ波(マイクロ波)を照射する必要がある。周波数が高すぎても低すぎても共鳴は起きない。次にラジオ波(マイクロ波)を切ると、核スピンは全体としてラジオ波(マイクロ波)をかける前の状態に戻っていく。戻る過程でラジオ波(マイクロ波)を出しながら戻るので、出てくるラジオ波(マイクロ波)を測定すると、核の周りの状態がわかる。これが磁気共鳴(緩和)の測定である。医療用の磁気共鳴画像も同じ原理を利用している。磁気共鳴が起きるには、適切な磁場とラジオ波(マイクロ波)の両方が必要である。

 電磁波のエネルギーを考えると、ラジオ波(マイクロ波)のエネルギーは水分子間の水素結合のエネルギーよりも何桁も低いので、ラジオ波(マイクロ波)の照射によって水分子間の水素結合を切断することは不可能である。従ってクラスターの(定義はともかく)細分化が起きるはずはない。

 次に、水分子の運動エネルギーが上昇したといっても、電子の発生が起こることはない。電子状態を変える(分子から電子を引き剥がす)には、可視から紫外線の光を使わないとできない。これは、水素結合のエネルギーよりはるかに大きい。たとえ水素結合を切って水分子をばらばらにしても、そう都合良く電子は出てこない。

 核スピンの状態を変えても電子状態は変化しない。酸化還元反応を含む化学反応に関与するのは電子状態の違いであるから、磁気共鳴によって化学反応が起きることはない。もし、磁気共鳴で電子が発生するようなことがあれば、病院のMRI検査など、怖くてとてもできない。人体には水が多量に含まれているので、全身でできた電子は無差別に血管や細胞と化学反応するだろうから、その害はおそらく活性酸素の比ではないはずだ。現実に、MRI検査による健康被害が無いに等しいことからみても、そのようなことが起きないのは明らかである。なお、例外的にNMRが引き金になるような化学反応があるかどうかを、知り合いのNMRの研究者(化学屋)にきいたら(注1)、やっぱり無いということだった。

 このようなNMRの知識を前提とし、水道管の外側につけるNMR装置によって核磁気共鳴が起きるかどうか考察してみる。

 まず、NMRを起こさせるなら、水道管の外側につける装置に、ラジオ波(マイクロ波)を発生させるための電力を供給し続ける必要がある。静磁場をかけるだけでは共鳴は起きないからだ。核スピンのエネルギー準位の分裂の大きさは磁場の強さに比例するから、ちょうどそのエネルギーのラジオ波(マイクロ波)を照射しなければならないので、そのための電気回路が必要である。そうすると、ランニングコストとして、電気代がずっとかかることになるはずだ。もし、電源の供給をしない装置なら、そもそもNMRを起こすことは不可能である。いずれにしても、核スピンの分布を延々変え続けることに一体何の意味があるかは謎である。

 さらに、装置に電源と発振器が付属していたとしても、装置のとりつけが水道管を外さず管の外側に設置する方式であるかぎり、NMRは起きない。装置の筐体が金属製だったりするとなおさらで、筐体と鉄管に遮蔽されて、電磁波は水まで届かない。携帯電話やラジオを鉄やステンレスのケースに入れたりアルミホイルで覆ったりすると、電波が届かなくなって使えないのと同じ理由である。従って、磁気共鳴は起こらない。

 前述のような構成の装置で、NMRが起きると業者が主張しているならば、そのNMRとは、我々が通常、分析や医療用のCT等で使っているNMR(医療用ではMRI)とは、名前は同じだが全く別のものであると考えられる。

 なお、水関係の評価で時々出てくる「波動値」というのがあって、これの測定には「共鳴磁場分析器(MRA)」なるものが使われるが、ここで述べたNMR(核磁気共鳴)とは何の関係もないことを付記しておく。

(注1)
NMRの測定をやってる化学屋さんの話だと、磁気共鳴ごときで分子の回転運動の速さが変わるはずはないという....。
「だいたい、回転運動の速さ変わっちゃったら、うちの研究室の過去現在の仕事まんま否定されることになっちゃうんですけど。なにしろ、NMRで核スピンの緩和から、分子の回転運動だしてそれの溶媒効果をずっとやってるわけなんで。」
というわけで、NMRによって分子や核の回転運動が変わると主張するのは、これまでに行われたNMRの測定の全否定になるということです。世界中のNMRの研究者全部向こうに回してそう主張するのならそれはそれであっぱれだけど、直接証拠を出さない限り誰1人認めないと思うよ。


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Y.Amo /
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