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磁気処理水など水処理器にご注意を!

文献を利用するときは必ず原典にあたること。ここに書いてある要約を一人歩きさせないように!
カテゴリ 報文
資料名

磁気処理水など水処理器にご注意を!
水処理・淡水腐食小委員会 材料と環境 vol.53 No.5 2004 pp280-283

要約

 市販磁気活水器の評価レポート。これまでに評価を行った磁気活水器の大半では、主張するような効果は見いだせなかった。ブランクに比べて有意な違いが見られた4つの例について検討したが、その後の調査により、磁気以外の効果であることがわかった。

【事例1】
 循環ラインに磁気活水器を設置し、厚木市の水道水20Lを循環させ、水槽内に炭素鋼(SPCC)と銅(C1220P)の試験片を浸して、試験5日後の腐食減量から腐食速度を求めた。水温は26℃。磁気処理器無し(ブランク)の結果と比較。
 ブランクに比べて腐食速度の小さかった炭素鋼試験片表面をEPMAにより元素分析したところ、ブランク試験片にはみられなかったZnが検出された。装置を分解したところ、内部に金属亜鉛が取り付けてあった。メーカーの説明では、磁石の腐食を防ぐために犠牲陽極として亜鉛を内蔵しているということだった。銅については腐食に差がなかった。
 炭素鋼の腐食が少なかった原因は、犠牲陽極から析出した亜鉛によると考えられた。なお、亜鉛ではなくAlが溶出する装置もあり、こちらでは炭素鋼の腐食を促進する効果が見られた。

【事例2】
 二重管式熱交換機を有する循環試験装置を用いて、磁気処理器のスケール防止効果を評価した。厚木市水道水にCaCl2及びNaHCO3試薬を添加して、カルシウム硬度とアルカリ度を300mg/Lに調整した試験水を使用。SUS304鋼熱伝導管外側に試験水(30℃)、内側に(40℃)を流して、7日間に外側表面に付着するCaCO3量の測定により評価。磁気処理器は金属配管にとりつけて配管をアースするのがノウハウとされていた。
 実験では磁気処理器の効果は認められず。取り付け管を亜鉛メッキ鋼管に変えたところ、磁気処理機の有無にかかわらず付着量が減少。亜鉛メッキ鋼管の接地により亜鉛が溶出してCaCO3の付着を抑制したと考えられる。

【事例3】
 ビル給水系の赤水防止効果をうたった装置の試験。厚木市水道水200Lを循環させ、滞留時間が10時間になるように水道水を補給。試験片は炭素鋼、25A炭素鋼管。磁気処理器は麦飯石をろ剤とする濾過器と組で使用することになっているので、送水側に磁気処理器を、戻り側に濾過器をとりつけた。循環水中の鉄濃度をブランク及び重合リン酸塩の防錆剤を使った場合と比較した。
 磁気処理器ではブランクの半分程度で推移、防錆剤では鉄濃度の増加は認められず。
 炭素鋼試験片から得られた腐食速度の平均値は、ブランク19.5mdd、磁気処理3.8mdd、防錆剤処理0.7mdd。
 磁気処理器で腐食速度が大きいにもかかわらず鉄濃度の増加が無かったのは、組で使用することとされている濾過器に鉄が捕捉されたためで、濾材の表面から鉄が検出された。
 腐食が大きくなった理由は、麦飯石からAlが溶出することが知られているので、事例1と同じ理由の可能性がある。

【事例4】
 蓄熱水系における磁気処理の影響について、事例3と同様の装置で試験。磁気処理器は鉄製セパレータと組になっている。給水はせず、循環水の減少分だけ水を補給。
 試験30日間で鉄濃度は1-2mg/L程度まで増加後減少、30日以降で磁気処理器で急増。溶存酸素濃度もブランクに比べて1/3以下に減少。鉄濃度急増の際に、セパレータ内部が著しく腐食していた。
 そこで、磁気処理系に空気を吹き込み、52日目にセパレータを取り外して試験したところ、鉄、溶存酸素ともに磁気処理系はブランクと同様に推移した。
 磁気処理系の試験片では、黒錆の割合が多くなって(物質としてはマグネタイト)いたが、溶存酸素や鉄濃度がブランクと著しく異なる条件で起きたことなので、磁気処理の作用と考えるわけにはいかない。

 この報文では、最後に、問題点として、
(1)水処理器の作用機構が既存科学技術の知識で理解できないこと
(2)メーカが主張する効果の確認が得られにくいこと
を挙げている。さらに、「また「霊感」や営業的な判断が優先され、水クラスターやマイナスイオンなどその時々に流行した術語を乱用して説明していることも科学的議論を困難にしている。開発に至った基礎的データや磁力と効果の関係を示す定量的なデータも公表されていない」と述べている。

 

コメント

 磁気処理は未だ効果を明らかにするための研究の段階である、というのが本報文の著者の判断である。

 ブランクと差があったものが、ことごとく磁気以外の効果であることが判明したというのが興味深い。活水器からの金属の溶出や濾過器の併設によって、見かけ上の効果を示すものが混じっているということなのだろう。確かに「その磁気活水器の効果」ではあるかもしれないが「磁気の効果」ではないというオチになる。

 亜鉛板を流路に接地すれば足りるところ、手間暇かけて装置を作り磁気活水器と称して磁石の効果を謳うというのは、そもそも商売としてどうかと思う。

 磁気活水器の宣伝においては、装置設置後に配管内部の錆が減ったという写真が出されることが多い。水は常に流れているから、新たな錆の形成が抑制されれば、水流によって流された分だけ錆は減るだろう。このとき、ユーザーに見せられるのは「配管の写真」のみで、磁気活水器本体がどうなったかということは、なぜかいつも隠されている。つまりは、手品のような宣伝というべきだろう。見せられたものだけ見て効果に感動していると、他に何が起きているかを見落とすという意味で。

 結局、物質の量と効果を見落とさずに評価した後でなければ、磁気の効果を云々することなど意味がない。

 もし、危険があるとしたら、「水の活性化」だの「マイナスイオン」やら「還元」といった、実態を伴わない言葉に騙されて、磁気活水器本体から何が溶出するかを見落としたままで「ユーザーの声」を頼りに商売する、つまりはユーザーで試験しながら販売をするということだろう。微量の亜鉛程度なら害はないし過剰症も滅多に起きないということだが、アルミニウムだとまずいかもしれない。磁気活水器に限らず、麦飯石を使った濾過器を使って良いのかということは別に検討する必要がある。また、健康な人なら問題なくても、腎臓障害などがあると蓄積による被害が発生する可能性もある。

 活水器を取り付ける時に接地が必要だ、などという場合は、管内部や装置そのものからの金属成分の溶出も考慮しなければならない。

 この報文の内容は、既存の科学の範囲の話であり、反応論レベルでの詳細なメカニズムがまだはっきりしていなくても、磁気活水器の摩訶不思議な宣伝に比べれば、よっぽど腑に落ちる内容である。