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署名活動「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」の報告

2015年にChange.orgを用いて行った署名活動の紹介。活動の結果報告として理科の探検に書いた内容の一部を追記しておく。

2015年の夏頃から、Change.orgという署名募集サイトにて、小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」という署名活動を行った。署名活動自体は無事終了した。そのときの呼びかけの文章をここにも掲載する。署名を呼びかけるにあたって、EMを学校で、特に環境教育の教材として使った場合の問題点についてまとめた。このまとめは、署名が終わっても有用であると考えるので、改めてここに掲載しておく。

呼びかけの文章

 その評価が科学的・学術的に定まっていないだけではなく、科学的にはあり得ない「万能性」をうたう微生物資材「EM」(通称:EM菌)が、全国の学校教育で用いられています。

 EMは複数の細菌を混ぜ合わせたものとされ、元々は土壌改良などの農業資材として開発されました。しかしEMの開発者らは、環境浄化や健康効果、放射性物質の影響低減、ガソリンに混ぜれば燃費が向上する、などの機能もあると主張しています。

 

 学校では、児童らにEMを混ぜた泥団子を河川に投入させて「水質が浄化される」と教えるなど、環境教育での活用が多くみられます。ただ、水質浄化でも顕著な効果が無いことは過去、公的機関に繰り返し指摘されています。これは、児童・生徒に科学的に誤った事実を信じさせることだけにとどまらず、彼らから疑うべき情報を疑う能力をそぐことになるのではないか、と懸念をおぼえざるを得ません。

正しい知識を子供達に伝達するべき教育に、このような背景をもつEMが入り込むことは不健全と考えます。

(1)河川などの浄化の効果が明らかではない

 EMの投入によって河川などが浄化されたという実験結果で、公的な試験機関から得られたものがありません。逆に、顕著な効果が無かったという報告が地方公共団体から出てきています。
[岡山県]
http://www.chieiken.gr.jp/chieiken/oky_PDF/d331.pdf
http://www.chieiken.gr.jp/chieiken/oky_PDF/e331.pdf
[広島県]
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/70543.pdf
(検証概要)
http://web.archive.org/web/20031207195111/
http://www.chugoku-np.co.jp /News/Tn03091304.html(報道アーカイブ)

 上記のように、客観的な効果が認められていないもの、また、それを検証する手段が提示されていないものを、学校教育の場で無批判に利用することは、子どもの客観的判断能力の成長を著しく阻害します。これは公教育として、絶対にあってはならないことです。

(2)環境浄化への取り組みを誤解させた上、むしろ環境を悪くする可能性がある

 河川や湖、海などで、「ヘドロが多い」「匂いがある」等の有機汚濁が問題になっている場所で水質を浄化するためには、
a)有機物の負荷を減らすこと、
b) 窒素やリンの負荷を減らすこと、
c)浄化機能を担う生物の生息場所である浅い 水域を増やすこと、
d)有機物を水域から取り除くこと、
e)水底まで酸素を行き渡らせること、
などが有効です。

 EMを投入するだけで環境浄化に役立つと教えることは、これらa)〜e)に示したまっとうな環境浄化の方法を学ぶ機会を失わせることになります。

 EMは微生物ですからそれ自体が有機物です。河川・湖・海に投入すればかえって水域への有機物負荷を増大させることになり、水質を 悪化させる可能性があります。

 また、水中の有機物を分解する微生物は自然の中に多数いますので、そこにEMを追加しても、EMが狙った通りに増えるとは限りません。もし、狙った通り増えたとしたら外来の菌により元々の菌の組成を変えてしまうことになり、外来生物の導入という面からも望ましくありません。

 EMは「有用微生物群」であるとされ、複数の微生物の混合物と推定されます。しかし、製品としてどんな菌がどういう割合で入っているかは明らかにされていません。

(3)(1)と(2)どちらが主に実現しても望ましくない結果になる

 微生物を混ぜ合わせたものを海や川にごく少量投げ入れるわけですから多くの場合は、水質を変えたい水に対して圧倒的に少ない量のEMを加えることになります。これでは環境はほとんど変わらないことが予想され、この場合は(1)が実現します。すると、環境浄化目的でEMを使うことは、ただのパフォーマンスに過ぎず、情緒に訴えるだけで何の意味もないということになります。無駄なパフォーマンスをする習慣を学校で教育するのは良くないことです。

 EMを入れたことで、微生物の分布が変わるなどの違いが生じた場合、(1)が実現するとは限らない上に(2)が主な問題となります。

(4)安全性についての情報が不足している

 EMの人体に対する安全性について、はっきりした資料が出されていません。

 プール清掃のために、生徒の自宅で培養したEMを投入するイベントを行った学校もありました。

 どのような菌種であるかが明らかでないEMは、誤飲した際に、たとえ医療関係者であっても適切な処置をできない可能性が大きいでしょう。これは学校教育で使用する教材としては基本的な安全性に欠陥があるといわざるを得ません。

 さらに、EM活性液・EM発酵液の製造プロセスには、原料及び器具の殺菌工程が無いのでどのような菌が優性になるかもわからず、人体に対する安全性の保証は困難です。子供達がそのような培養液に直接触れた場合の危険性は予測が困難です。

プール清掃用のEM活性液培養を自宅で行う学校の事例
http://www2.kobe-c.ed.jp/fkd-es/index.php?key=jo9zqkcx6-63
http://www.city.yukuhashi.fukuoka.jp/kyouiku/nobunaga-e/em/empage.html
川や海にEMを使った泥団子を投入して「浄化」する学校の事例
http://www.e-shiroi.jp/cgi-bin/ikn/topics/topics.cgi 
http://www.e-shiroi.jp/sr1/tokusyoku/project/empro.html
http://www.ako-minpo.jp/news/2231.html

(5)飲用でないEM活性液を飲んでしまう事例があった

 EM関連商品には、EM・X GOLDという発酵飲料があります。この商品と勘違いしたのか、学校で、農業資材用のEM-1を培養したEM活性液を飲ませた事例が新潟市で起きました。教師はこれを止めることができませんでした。

 この件については、新潟市議会の平成27年2月定例会で議論されています。
https://www.youtube.com/watch?v=h2kYQ7VVePU (この映像の33分から)
http://em2civil.wiki.fc2.com/wiki/新潟市%284%29 (文字起こし)

 食品でないものを学校で生徒に飲ませるのは危険です。

 EM研究機構は、飲用でないものを飲むことについて一応の注意喚起はしていますが、その表現は「微生物資材のEM・1®を飲まれる方もいるようですが、基本的には土壌改良材とご理解下さい。」にとどまっています。

(6)開発者の主張が全くの非科学である(販売元はそれを容認している)

 EMの開発者は元琉球大学農学部教授の比嘉照夫氏です。比嘉氏は自説を「新・夢に生きる」や「蘇れ!食と健康と地球環境」という連載記事で展開しています。その中で、

「EMの本質的な効果は改めて述べるまでもなく蘇生の法則、すなわちシントロ ピーを支える抗酸化作用と非イオン作用と重力波と想定される三次元の波動作用 によるものです。」
http://www.ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru21.html

「使用された建築用のEMは1,500トンあまり、この効果は一般用のEMの数倍にも なりますので、この地域は巨大な強烈なパワースポットとなっています。当然の ことながら、このような建物に住む人々は病気になることもなく、その中心部に ある大型のプールは、すでに聖水となっており、この2点だけとっても、地上天 国と言っても過言ではありません。」
http://ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru86.html

「EMによる波動作用は、その当初より様々な現象を引き起こし、研究機関による EMの否定的見解の原因となってきた。すなわち、室内で化学物質の分解や水質浄 化の実験を行なうと、当初はEM投入区の方に明確な効果が認められるが、時間の 経過とともにEMを投入しない区の化学物質も分解されたり、無処理区の汚水も浄 化されるようになる。」
http://dndi.jp/19-higa/higa_61.php

などと述べています。

 「シントロピー」は比嘉氏の造語です。「蘇生の法則」と呼ばれるようなものは科学の分野には存在しません。「三次元の波動作用」も全く意味不明です。「聖水」「パワースポット」はオカルトではポピュラーですが、科学には全く関係がありません。また、EMの作用が「波動作用」で、菌や物質が無くてもその作用が何も無い空間を伝わって効果を示すというのも、科学としては全くのナンセンスです。

 しかし、EMを農業資材以外の用途で使うことを推進しているEM研究機構では、この比嘉氏の主張に何ら批判を加えないまま、開発者として紹介しています。(7月22日付け「新・夢に生きる」 http://www.ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru97.html 参照)

さらに比嘉氏は「微生物資材で科学的検証の必要なものは「まったく未知の微生物」か「遺伝子組み換えをした微生物」に限られており、法的な義務づけがあります。EMは、そのいずれにも該当せず、科学的検証はまったく必要なく、各試験研究機関もEM研究機構の同意なしには、勝手に試験をして、その効果を判定する権限もありません。」
http://www.ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru62.html

と主張し、科学的検証を拒んでいます。比嘉氏とEM研究機構は酵母、乳酸菌、光合成細菌と書くだけで、正式な名称を使わずに菌の分類が済んでいるように主張しています。菌の詳細な説明が何もないのにこれでは、比嘉氏らの主張を信じるか、疑う以外の選択肢がありません。これは、科学的根拠のある製品についての一般的な社会通念に全くあてはまりません。

 学校でのEM使用の問題点は、その効果の有無をめぐる問題とは別に、EMの原理をめぐる非科学的主張に教育現場が一種の「お墨付き」を与えている、という点にもあります。児童・生徒の科学リテラシー育成に重大な悪影響を与える可能性が危惧され、不適当と言わざるを得ません。

 まとめると、
・環境浄化のエビデンスがない
・環境汚染の可能性すらある
・環境浄化のプロセスを生徒に誤解させる
・(夢のような宣伝が原因で)間違って飲用する指導が行われる危険もある
・効果の説明が全くの非科学で、学校の理科教育と相容れないし両立もしない

という理由から、EMは学校で教育目的で生徒に使わせてはいけない素材であると考えます。

この主張に賛同されるかたは署名をお願いいたします。

署名の有効性を高めるために、高等教育機関、研究機関等に所属する方は所属機関名を氏名の後に記載願えないでしょうか。


署名が必要になった理由と経過報告

 EMとは、有用微生物群(Effective Microorganisms)のことで、元琉球大学教授の比嘉照夫氏によって開発された土壌改良資材である。これが、そもそもの開発目的であった農業用途にのみ使われているのであれば何の問題も無かったのだが、環境教育の教材として学校で使われるようになり、新聞などでも全国の学校での使用例が好意的に紹介されるということが起きた。その後、EMを用いた環境浄化にははっきりした根拠が無いことに新聞記者が気付き、注意喚起を行って、地方版も含め新聞では学校でのEMを使った実践を好意的に紹介しないようになり、記事なる頻度は激減した。

 しかし、地方自治体や学校では、まだEMに環境浄化の効果があると信じて、海の日にEMをまぜた泥団子を海に投入するといったイベントを行っている。

 そこで電子署名サイトchange.orgにて、「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」というキャンペーンを、2015年8月から始めた。その時の呼びかけの内容が、上記のものになる。

 環境教育の教材としてのEMはニセ科学であり、教育で使うには不適切であることは明らかである。本来なら、科学の問題であるので、学会等の場で結論を出すべき問題ではある。ところが、EMを推進する側は、十分な実験的根拠を欠いたまま、政策としてEM利用の推進を求める署名を集めたり、有用微生物利活用推進議連(以下EM議連と呼ぶ)を国会に作り、トップダウンで行政を動かしてEMの利用を勧めようとしている。つまり、科学の成果を社会に伝えて利用する手順を先に破っているのである。大人がEMを使うことを自らの判断で行うのであればそれは自由だが、教材を自分で選ぶことができない児童や生徒に使用させるのは大変良くないことである。そこで、反対意見の署名を集め、学校教育の現場で今問題となっているという認識を、まずは監督官庁に持っていただくということを目指した。

 短期間のうちに3000人を越える賛同者が集まりましたので、2015年の秋頃に、署名とメッセージを取りまとめました(趣旨には賛同して署名したが文科省に提出するという手段に同意できないとおっしゃった方は除外しました)。これまでのEMについての資料を添えて、衆議院議員中川正春氏に仲介をお願いし、文部科学省初等中等教育局教育課程専門官に提出し、状況の説明を行った。国会にEM議連がある以上、署名提出と問題提起を行うタイミングで、何らかの邪魔が入る可能性もあった。このため、提出を行ったことを、ネット上ではこれまで伏せていた。理科の探検という雑誌記事に書いたのが、署名の報告の第一報となった。時間も経ったことなので、誰でも読める形でこのように提出の報告を公開する。

文部科学省が手をこまねいていたわけではない

 署名を文部科学省に届けたからといって、特定の教材であるEMに対して文部科学省が直ちになんらかのアクションを起こすということまでは期待していなかった。それでも、このような問題のある教材が広まっているということを文部科学省が認識すれば、今後の教育行政を注意深く行うようになるのではないかということを考えての、今回の署名提出であった。

 ところが、文部科学省に今回の署名を提出するよりも前に、平成27年3月4日付で文部科学省から「学校における補助教材の適切な取扱いについて(通知)」が出ていたことがわかった(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1355677.htm)。関連する部分を引用する。

1.補助教材の使用について
(1)学校においては,文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならないが,教科用図書以外の図書その他の教材(補助教材)で,有益適切なものは,これを使用することができること(学校教育法第34条第2項,第49条,第62条,第70条,第82条)。
   なお,補助教材には,一般に,市販,自作等を問わず,例えば,副読本,解説書,資料集,学習帳,問題集等のほか,プリント類,視聴覚教材,掛図,新聞等も含まれること。
(2)各学校においては,指導の効果を高めるため,地域や学校及び児童生徒の実態等に応じ,校長の責任の下,教育的見地からみて有益適切な補助教材を有効に活用することが重要であること。
2.補助教材の内容及び取扱いに関する留意事項について
(1)学校における補助教材の使用の検討に当たっては,その内容及び取扱いに関し,特に以下の点に十分留意すること。
  ・ 教育基本法,学校教育法,学習指導要領等の趣旨に従っていること。
  ・ その使用される学年の児童生徒の心身の発達の段階に即していること。
  ・ 多様な見方や考え方のできる事柄,未確定な事柄を取り上げる場合には,特定の事柄を強調し過ぎたり,一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど,特定の見方や考え方に偏った取扱いとならないこと。
(2)補助教材の購入に関して保護者等に経済的負担が生じる場合は,その負担が過重なものとならないよう留意すること。
(3)教育委員会は,所管の学校における補助教材の使用について,あらかじめ,教育委員会に届け出させ,又は教育委員会の承認を受けさせることとする定を設けるものとされており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第33条第2項),この規定を適確に履行するとともに,必要に応じて補助教材の内容を確認するなど,各学校において補助教材が不適切に使用されないよう管理を行うこと。

 小中学校の環境教育で使われるEMが、この通知でいう「補助教材」にあてはまるということは、文科省に直接問い合わせて確認済みである。従って、EMを学校で取り扱う際には「多様な見方や考え方のできる事柄,未確定な事柄を取り上げる場合には,特定の事柄を強調し過ぎたり,一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど,特定の見方や考え方に偏った取扱いとならないこと。」という留意事項が適用されることになる。素直にこの留意事項を適用するなら、EMが河川や海の水質浄化に及ぼす効果は未確定であり、かつ水質浄化を行うには多様なやり方があるので、EMの効果を前提にして泥団子を作って投げ込むように生徒を指導することは、偏った取り扱いであるということになり、通知の留意事項に引っかかることになる。

 この通知の変遷を遡ってみると、興味深いことがわかった。

 一番古いのが、昭和三九年三月七日付の通達「学校における補助教材の取り扱いなどについて(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19640307001/t19640307001.html)で、教師に対し、市販の問題集を使って採点や生徒の評価を外部委託したり、学校で使う教材の選定に当たって利益を得てはいけないと注意喚起する内容である。

 次が、昭和四九年九月三日付の通達「学校における補助教材の適正な取扱いについて」(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19740903001/t19740903001.html)で「ことに政治や宗教について、特定の政党や宗派に偏つた思想、題材によつているなど不公正な立場のものでないよう十分留意すること」となっている。

 古い2つの通達では、注意喚起する対象が限定されている。EMが、教員の独自の判断に基づき、特定の業者から利益を受けること無しに学校に持ち込まれた場合、内容がニセ科学であるというだけでは直ちに政党とも宗派とも関連しないので、通達の内容に当てはまらず、網をかけることができない。実のところ、EMと世界救世教の関係がわかってきているので、EMの普及は科学を装った宗教的活動である、という形での通知の適用が可能かもしれないが、少々苦しい。しかし、追加で出された平成27年の通知であれば、ニセ科学に対しても一定の歯止めをかけることができる。

通知を適切に運用するために

 EMの普及に比べてだいぶ遅れたとはいえ、文部科学省は適切な通知を出していた。教育委員会も現場の教員も、文部科学省の通知・通達には従う意志があるだろう。問題は、EMがこの通知に当てはまるということに気づかない教員や教育委員会の委員が多数居るのではないかというところにある。

 EMが環境浄化素材として有用である、という言説がニセ科学であることを判定するには、自然科学において内容が確定したといえる根拠とはどのようなものかを知っていなければならない。それは、およそ次のようなものである。

 まず、謳っている効果は客観的に実証されたものでなくてはいけない。客観的に実証、とは、(1)試験によって得られた結果が出ている、(2)専門家や専門家団体、専門機関の見解があるか、学術文献がある、といったことを意味する。

 (1)の試験は、関連する分野の標準的な方法(たとえばJISに定める方法)や専門家多数が認める方法によって行われなければならない。公的機関による調査結果があるということも有力な裏付けとなる。(2)については学術文献が出ているかどうかのチェックをすることになる。自然科学の場合、学術文献は、査読のある欧文誌に掲載されたもののことをいう。学会や研究会での発表は審査が無いまま行われるので、発表の予稿は学術文献とはいえない。なお、ニセ科学にありがちな、一部の「信者」があつまって作っているお手盛りの学術団体モドキが発行する雑誌は学術雑誌とは言えない。企業が出しているパンフレットや出版物は学術文献ではないし、教員が発表したEMの環境浄化への実践例も、EMの環境への効果そのものの裏付けとなる学術文献とはいえない。

 EMの裏付けについては、EM研究機構が学会発表・論文一覧を公開している(http://www.emro.co.jp/treatise/)ので、このリストを確認することになる。開発元が公開している業績だから、最大限EMに好意的なリストのはずである。そしてこのリストを確認すると、環境浄化に使えるということのエビデンスは得られないのである。

 小中学校の教員養成課程の大部分は文系と位置づけられている。理工系学部が行っているような自然科学をテーマとする卒業研究をすれば、自然科学の論文を調査するスキルが身につくが、教育学部ではその機会は無い。また、スキルがあっても、小中学校には、発表済みの学術論文の論文の内容を気軽に取り寄せることができる環境がないし(論文誌は有料で個人でネットで購入するなら1篇に数千円がかかるし、紙のコピーを安く入手するには図書館の対応が必要にある)、取り寄せることができても英語の論文を読んで内容を理解し評価するのは、よほど興味をもって勉強した人以外は困難であろう。多忙な教員に、こういった調査にさけるリソースがあるとも思えない。文科省が出した通知を実際に活用するためのハードルは実はかなり高い。

 教員がEMを環境教育に使うことを決めた理由は、他の教員が既に実践している・実践例がマスコミで取り上げられたのを見た・地方公共団体が使っている・ネットで調べたら使ってみて良かったと言ってる人がいる、といったものではないかと推察する。発表済みの論文をきちんと読んでいれば、大多数が農業資材としての利用でしかないことも、使用に当たっての前提条件がいろいろあって単に水に投げ込めば良いというものではないこともわかるので、使おうとは思わないだろう。

 署名の説明の中で、水質浄化の客観的証拠となるはずの自治体の試験の結果がネガティブであることを取り上げている。今回の署名活動にあたっては、環境問題の専門家も署名していることから、EMの環境浄化は未確定であることがはっきりしたはずである。安全性の確認が十分でないことも指摘しているので、EMを使用したり生徒に培養させたりすることは「有益適切」とは言えない。

 今回の署名によって、EMによる環境浄化は、面倒な文献調査をしなくても、文部科学省の通知で注意喚起されている教材にあてはまるという判断がしやすくなったと考える。署名が行われた事実と、署名を集めるにあたってまとめたEMの問題点を活用し、文部科学省の通知に当てはめをおこなって、通知を正しく適用してもらいたい。

  多くの教員は、善意から、「良いモノだと思って」EMを環境教育の教材として持ち込んでしまったのだろう。しかしそれは明らかに不適切であり、誤りである。善意は無知であることの免責の理由にはならないと肝に銘じていただきたい。

 撤退にあたっての注意

 ここや、他のEMに批判的な情報を見て、環境教育に使うことが間違いと気づいた場合、上記の通知を理由としてひっそりと撤退するのが安全である。批判などは特に行わない方が良いかもしれない。なぜなら、EMの批判をした場合、批判をしている人の職場に直接クレームをつけたり、会うことを拒んでいる批判者に強引に面会したりといった圧力のかけ方をするのがEM推進側の常套手段だからである。また、批判的言説の言葉尻を捉えてのスラップ訴訟というのも常套手段である。大学の場合はこの手のクレームには慣れているし、学問の自由も教授の自由もあるので特に問題は生じないし、訴訟になっても特に影響はない(教員個人の場合は)。しかし小中学校だと、校長に圧力とか、教育委員会に圧力といった形で妨害されることは想定しておく必要がある。経過を出すことが現在EMに嵌められてる人の役に立ちそうだということであれば、どこでどんな風にどの程度の期間使って効果がどうであった、という簡単な事実のみを公開すると良いだろう。