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エコクリンズ(1999/02/19)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 高性能浄水器(家庭用)の紹介のページ。トップページは何てことはない、普通の浄水器の案内に見える。

ダイオキシン、トリハロメタンなど人類が作り出した化学物質を完全に取り除き、水道水を最も自然な方法で活性化する浄水器です。

とあり、これに引き続いて、

米国のNSF(公衆衛生規格認定機関)によって、第一位の浄水器として認定されました。

という売り文句と、健康のためにこの浄水器をおすすめすしますということが書いてある。一瞬、いつから「全米科学財団」が公衆衛生規格認定機関になったのかと思ったが、NSF International(National Sanitation Foundation)という別の団体があって、確かにこちらは公衆衛生の企画を定めたり認定したりしている。

 話のツカミだが、まず「水道水は安全か?」で始まる。河川が農薬などの化学物質で汚染されているという話のあと、さらに水道局が塩素を大量に使って殺菌しているということが書いてある。塩素を飲み続ける害として、以下のようなリストが上がっている。

★ 気管支や肺などの粘膜に障害が起きやすい。
★ 食べ物に含まれるヒダミンC・ビタミンB1を破壊する
★ しみ、そばかす、しわ等の老化を促す。 
★ 血液壁の退行性動脈硬化による心臓病の原因。
★ 生体の老化を促し、成人病(生活習慣病)の原因。
★ コレステロールを増やす。
★ 胃の粘膜を傷め、胃潰瘍の原因となる。
★ 細胞の遺伝子を傷付けるので、様々な病気を誘発する。

 塩素は万病の元、といったリストである。こんなに害って多かったっけ?次の見出しはさらにインパクトがある。「水道設備の老朽化による問題 あなたは知らずに死骸のエキスを飲んでいるかも 」で、古いマンションの給水設備の欠陥のために、ネズミの死骸、鳥の死骸 、赤サビなどが受水槽にまぎれこんでいることがある、と書いてある。最後がトリハロメタンとダイオキシンの話である。恐怖感をあおったところで、おもむろに、

この様な危険から回避するための浄水器を選ぶ方法としては
第一条件  本当に有害物質を除去できるか そしてその裏付けは
第二条件  除去性能がいつまで維持できるのか 安全性
第三条件  ランニングコストは安いのか 経済性

 と、至極まっとうな条件をあげて、活水器がこれらの条件を満たしていると控えめに主張している。水道局の人々には悪いが、水道水について不安をしっかりあおった後、いかにも誠実かつ冷静に浄水器をすすめるあたり、セールストークとしてはよくできている。

 ところが、「☆ なぜ活水器」というページに次のように書いてある。(問題の箇所だけ赤で表示した)

大自然の湧き水は岩石の中を通って流れ出しているもの、その時に触れる岩石が水に活力を与え生きた水として生命の源となっています。「マルチピュア活水器」は、その考えに基づき、富山県の医王山で採掘した岩石を加工した活性化セラミックを日本独自のアイデアで搭載しました日本のマルチピュア活水器だけに使用されています。これにより、遠赤外線による水の活性化で、さまざまな効能が生まれています。このことは専門研究機関の波動測定により実証されています。

 なぜ「波動」が問題なのかについては、最近読んだ「トンデモ本1999」の108-109ページに簡潔にまとめられているので、少し引用する。

 このブームの火つけ役になったのが、MRA総合研究所所長で「国際波動友の会」代表の江本勝氏。江本氏はMRA(共鳴磁場分析機)という装置の普及に力を入れてきた。
 この装置は物質が発する固有の「波動」を検知できると宣伝されていた。測定したい物質にプローブ(測定用の金属棒)を当て、ダイヤルを回しながら、装置が発する音の変化を聞き取る。装置に表示されるコードを読み取ることにより、物質の成分を分析したり、病気を診断できる。そればかりか、悪い「波動」を中和し、どんな病気も治すことができるという。
(中略)
 実際にはMRAの正体はすでに暴かれている。「共鳴磁場分析機」と名乗りながら、磁場を分析する回路がない。コードを表示する部分がプローブの部分と接続されておらず、もちろん機械の周波数などは何の関係もない。機械から出る音はプローブを押しつける強さによって自由に変化させることができ、もちろん物質の成分や患者の身体状態とは関係がない。

 他のコメントでも書いたように、遠赤外線を水に照射したところで、その効果は温度が上昇するだけである。さらに、それを「波動」で評価するのは、「波動」の測定そのものがインチキだと判明している以上、意味がない。水をミネラル石に通してミネラルウォーターにするところだけは信じてもよいが、このページに載っているそれ以外の話はまるきり嘘になってしまっている。社員にだれか「波動」商法に引っかかった人でもいたのだろうか。今時波動測定を引き受けてくれる「専門研究機関」って一体どこだろう。

 このページの次の「NSFとは」では、ちゃんと試験結果案内やNSFの定める浄水器の規格と、マルチピュア活水器が各有害物質をどれだけ除去できるかという表がある。「マルチピュアの活用方法」では、まあ飲んでよし料理によし、日常生活全般にわたって活用できると書いてあるし、「利用者からの声」では、アトピーが軽くなったとか水がおいしくなったとか、ごく普通の内容である。試験項目のリストを見る限り、浄水器としては高性能で安心して家庭で使えそうである。他の分析結果でいい値を出している時に、インチキ「波動」の測定結果をつけ加えたりしたら、逆効果になると思うのだが。

【引用文献】
[1]「トンデモ本1999 このベストセラーがトンデモない!!」と学会 著 (光文社)1999 108-113
[2]「トンデモさんの大逆襲!」別冊宝島334 宝島社
「波動汚染」

【余談その1】
 「死骸のエキスを飲んでいる」話で一番インパクトがあったのは、テレビドラマの1シーンである。ある朝、蛇口をひねると長い髪が流れ落ちる。悲鳴を上げて警察を呼んで調べてもらったら、マンションの屋上の受水漕に(そのドラマの中で警察が行方を探していた)女性の全裸死体が浮いているというものである。この水だと、浄水器を通した後、蒸留でもしないとちょっと飲む気になれないなあ。推理ドラマもアクション物も好きだけど、リアルな気分の悪さを感じさせてくれる1シーンだった。

【余談その2】
 「波動」の正体は上に書いた通りだけど、私の身内に信じてる人が居たりする。某宗教(反射会的なやつじゃないです。ごく穏健な仏教系の宗教らしい)に帰依していて、信心深く情に厚い人で、個人的には好きなんだけど、「まだまだ科学じゃわからないことがあるよね。たとえば“波動”とか」って言い出したので驚いた。多分こういう人たちにとっては、「波動」と言っても「神通力」っていっても大差ないんだろうなあ。


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