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癒しの森(2001/02/05)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 家庭用浄水器の販売。「癒しの森」のトップページから「エネルギーウォーター」を選ぶと見れる。フレームを使ったページなので、トップからたどらないとうまくブラウザで表示されないかもしれない。左側フレームに書かれている項目をクリックすると、詳しい説明のページが右側に表示される。

 まず、「エネルギーウォーター」を見ると、イチゴとこの浄水器で作った水を瓶に入れておくと腐敗せずにイチゴジュースができたという写真が出ている。その説明として、

それは、この水がクラスターゼロの「単分子水」だからです。

クラスターとは、水分子の塊。
普通の水道水では、13〜23個の水分子が、ぶどうの房のようにくっついています。
しかし、「単分子水」の場合、クラスターがゼロであるために、水は究極的にスリムな状態になっています。

 と書いてある。水のクラスターがこわれてばらばらであることをどうやって確認したのだろうか。私が見た限り、どういう実験で確認したかはどこにも書いてなかった。「Q&A」を見ると、NMRの測定もしたようだが際だった結果が得られていない、となっている。

どうも、説明を見ると、開発者は、性能が良くて細かいフィルターを通すと水分子間の結合が切れてばらばらのままになってくれると考えているらしい。それでは、フィルターを通っている間は水分子間の結合がばらばらになっているとしよう。フィルターで水分子間の結合を切るには、フィルターの孔が水分子の大きさ程度でないとだめである。そういうサイズの孔を通すには、強い圧力をかけないと通らないが、水道水の水圧でできるのだろうか。これが技術的に実現できたとしても、フィルターを通り抜けてきた水が再度水素結合でつながらずにそのままいてくれるかというと、ちょっとそれはなさそうだと思う。

 もし、本当に液体の水の中で水分子間の水素結合が切れてばらばらの状態になっているとしたら、誘電率の値が大きく変わるはずである。水分子自身は電気双極子モーメントを持っている。水の静的誘電率は室温で約80であるが、この値は水の大きな電気双極子モーメントのみならず、分子配向の相関にも依存する。水分子がバラバラになったとすると、分子配向の相関が無くなるわけだから、誘電率が減少するはずである。さらに、水を特徴づける誘電損失は25GHzにピークを持つが、これは水分子が数十個まとまって動く時間スケールに対応している。分子がばらばらに動けば、少なくともこれよりはだいぶ高い周波数にピークが出るはずである。また、ある水分子に着目したときに、周りには平均4.4個の水分子が存在することが実験で得られている。これをもとにして、液体中の水分子は水素結合でゆがんだ4面体的な配置をとっていると推定されているが、水分子がバラバラに動けばこの4.4配位という値も変わるはずである。単分子水の誘電緩和を測定した結果が、緩和強度が目に見えて減少し緩和時間が数倍速くなるということなら、確かに分子同士がくっついていないと言えるだろう。もし、誘電スペクトルが普通の水と変わらなければ、単分子状態になっているというふれこみを認めるわけにはいかない。

 水分子間に強い水素結合が存在するおかげで、水の凝固点は摂氏0度で沸点は摂氏100度なのだが、この結合が全部無くなったとすると、水が液体でいられる温度範囲はずっと低くなる。沸点が摂氏0度以下になるかもしれない。また、水の熱容量は他の液体に比べて大きい。これは、与えた熱エネルギーが水素結合を切断するのに使われるからだと理解されている。もしこの水素結合が全くない「単分子水」だと、熱容量が小さくなって、ちょっと太陽に照らされただけですぐに沸騰し蒸発するだろう。地球上に多量に水が存在するおかげで、急激な温度変化を免れているが、単分子水では温度に対する緩衝効果は期待できない。「単分子水」環境では生物は住めない。

 Q&Aには、

 その水が完全な「単分子水」であるかどうかを調べるには、まずそのまま発酵実験をやります。次に2週間程度汲み置きをしてから、同様に発酵実験をします。

 と書いてあるが、この実験で「単分子水」かどうかは決まらない。前述したように、「単分子」状態になれば、誘電緩和や密度や平均の配位数、比熱や融点・沸点といった物理量が必ず変わる。物理量の測定結果から「単分子」が裏付けられない限り、単分子水ができたとはいえない。

 さらに、

・「単分子水」の中では「発酵菌」が育ち「腐敗菌」が抑制されるため。
・「単分子水」が果肉の間に入り込むことができ、また振動数が高いため、エキスが水中に出てくるため。
・「単分子水」が生命を生かす方向に働くため。

 などと言われています。

 ここでいう「振動」が意味不明である。水の分子内振動なら、ウチでやってるラマン散乱か赤外吸収で、振動数が求まるが、そういう測定で確認した話は出ていない。NMRの振動数(17O-NMRの線幅?)だとしても、「際だった結果が得られていない」んでしょ。ってことはこの部分は単なる想像で書いたのだろうか。

「よい浄水器の条件」では、

 人間にとって有益な菌が繁殖するのが「発酵」です。「発酵」も「腐敗」も現 象としては同じですが、「腐敗」が死であるとすれば、「発酵」は再生であると 言えましょう。

 発酵することによって、そのものに新たな価値が生まれるのです。
 また「腐敗」を「酸化」と見、「発酵」を「還元」と見る見方もあります。

とある。菌が繁殖した結果できたものが人間にとって役立つときに「発酵」と呼び、役立たないときを「腐敗」と言っているだけだから、「腐敗」「発酵」はあくまでも人間の都合で決めた分類である。「死」や「再生」とは結びつきようがない。また、「酸化」や「還元」は、具体的にどういう反応が起きているかによって決まるので、「発酵」か「腐敗」かには無関係である。ここの記述はちょっと無茶なのではないか。

 「Q&A」の中で、

Q:ミニマルフロオを購入してから普通の水でイチゴジュースの実験をしましたが、腐らずに発酵します。どんな水でも発酵するのでは?

    A:これは「情報の転写」が起こっているためと考えられます。普通の水では、絶対に発酵現象は起きません。普通の水と「ミニマルフロオ」の水で、発酵の「対照実験」を行う場合、注意が必要です。
 例えば、普通の水を入れる容器を「単分子水」で洗っただけで、容器に残ったわずかな水から「単分子水」の情報が伝わり、普通の水に「転写」され、普通の水が「単分子水」になります。
(中略)
 なんだかオカルトめいた説明になってしまうのですが、「単分子水」の情報は、まるで磁力のように、空間を超えて、ある程度の距離に及ぶ性質があるのです。
(略)

 これって完璧にオカルトだと思うぞ。普通は、他の水でも発酵が起きたなら、条件がよければ菌がうまく繁殖してくれて発酵が可能だと考えるんじゃないのか。もし、「情報の転写」が起きるなら、普通の水の情報が単分子水に転写されることだって起こりそうなものだ。逆が起きないことをどう説明するのだろう。

 それでもともかく「情報の転写」が1方向にしか起きず、単分子水が混入すると普通の水が単分子水に変わるというなら、装置を買う必要はまったくなくなる。誰かに単分子水を一瓶わけてもらい、例えばアパートだったら給水タンクの中に混ぜておけばよい。給水タンクの水はじきに単分子水に変わり、後から入ってきた水は既にある単分子水の影響によって変わってしまうから、各部屋に流れる水は全部単分子水だということになる。ということで、こんな説明をみんなが真に受けたら、製品が売れなくなると思うんですけどどうなんでしょうか。

それはともかく転写のためのエネルギーがどこからくるのか?この疑問に対する答えがさらに「Q&A」に書かれている。

Q:「単分子水」を普通の水に入れると、その水も「単分子水」になるということですが、普通の水のクラスターを破壊するにはエネルギーが必要だと思います。そのエネルギーはどこから来るのでしょうか?

  A:「単分子水」は「触媒」のように働きます。「触媒」とは、ご存知のように「化学反応の速度に関係し(普通は反応を早める)、それ自身は変化しないもの」のことです。
「触媒」は、自らエネルギーを使うことなく、他の変化を早める(あるいは遅くする)のです。
「単分子水」が普通の水のクラスターを小さくする作用も、同様に、「単分子水」が「触媒」のように働くためと考えられています。
 しかし、このメカニズムも、まだよく分かっていません。
 理屈はともかく、「水の性質がまったく変わってしまう」ことは、各種の実験で客観的に確かめることができます。

 物質Aが物質Bに変わる化学反応があったとしよう。外からエネルギーを与えなくてもこの反応が進むためには、まず、物質Bのエネルギー状態が物質Aのエネルギー状態より小さくなければならない。そういう反応のうち、A->Bになるためには途中で反応のポテンシャル障壁を越えなければならず、普通の状態ではその障壁を越えられないために反応が進まない、ということがよくある。高温・高圧などにしてやるとポテンシャル障壁を越えて反応を進めることができるが、触媒はこの障壁を低くして穏和な条件でも反応が進むようにする。この説明では、外からエネルギーを与えるとは書いてないから、物質Aは普通の水、Bは「単分子水」、触媒も「単分子水」ということになる。また、エネルギー的に高い状態なのが普通の水、低いのが「単分子水」でなければならない。しかも、普通の水と単分子水の間には高いエネルギー障壁がないと、熱揺らぎその他の撹乱で、単分子水->普通の水、の反応が起こって水が元に戻ってしまうだろう。一般に反応では、触媒は少量でよい。ここで想定した反応が進むと、触媒である「単分子水」が急激に増えるわけだから、反応の効率は爆発的に上昇する。いつから「単分子水」の利用者がいたのか私は知らないが、利用者の流した水は既に下水に入り込んで、海に達しているはずである。その間ずっとこの反応が起きたとすると、ネズミ算式に「単分子水」の割合が増えていくので、既に広範囲に「単分子水」が存在するのではないだろうか。

 確かに「単分子水」なら、水の物理的性質が全く異なるだろう。比熱が小さいから熱の緩衝効果は期待できない。すぐに蒸発してしまって、室温では多分気体になってしまう。生物が生存できる温度範囲で液体でいてくれそうにない。こんな水がどんどん地球上で増えたら、生物は絶滅してしまう。しかも、ちょっとでも「単分子水」が混じると普通の水も「単分子水」になり、近づくだけでも「情報の転写」で「単分子水」ができると書いてある。これはおおごとである。ふれこみ通りなら、こんな危険な水を環境中に垂れ流すのは即刻やめるべきである。我々はまだ絶滅したくない。本当にふれこみ通りなら既に手遅れかもしれないが。

 さらに「Q&A」にはスゴイ説明がある。

Q:「単分子水」の情報がどんどん「転写」されていくとすれば、そのうちに川の水も、湖の水も、海の水も、全部「単分子水」になってしまうのでしょうか?

  A:(株)ウオーターワークは、「単分子水」の「転写」能力を応用した製品を実用化しています。
 たとえば、「マスタバ ジャグ」(商品名)という「水差し」です。(7500 円 税別)
(中略)
   普通の水道水をこの「マスタバ ジャグ」に入れておきますと、約 24時間〜1週間で「単分子水」になります。
「単分子水」が環境に流れ出せば、「単分子水」がふれあう水は、徐々に「単分子水」になっていきます。
 時間はかかるでしょうが、環境に流れ出す「単分子水」が増えていけば、最終的には、川や湖や海の水の性質を大きく変えることも可能だと思われます。
(略)

 大きく変えてもらっちゃ人間以外の生物にとっても迷惑なんですが。少なくとも私は融点が摂氏0度、沸点が100度の普通の水の方がいい。「単分子水」から予想される水の物理的性質を考えると、その水でいっぱいになった地球上には、とても生物は住めそうにない。

 お値段は

ミニマルフロオの定価は18900円(税込み)

だそうな。フィルターを使って有害物を除去したあとミネラルを加えるという、普通の浄水器としての性能はしっかりありそうだし、リーズナブルなお値段ではないだろうか。地球上の生物を絶滅させる装置のお値段としてはちょっと安すぎる気がするが。

 

 

【追加コメント】(2000/02/22)

「消えろダイオキシン」を読んでみたのだが、何だかよくわからない。画像で公開されている、ウォーターサイエンス研究所による試験結果報告には、
 畑土(4メッシュ通過)を採り1,100ppbのダイオキシン類化合物水溶液に10分間浸漬、風乾後100gをポリエチレン容器に分注し、これにミニマルフロオー通過水を50ml添加した。
 24時間後、容器にn-ヘキサン100mlを加え、3分間激しく振とうしてダイオキシン類化合物を抽出し、蛍光吸光度法によりダイオキシン類化合物の残留濃度を測定した。
 なお、風乾後の畑土100gを採り、n-ヘキサンにて抽出し、0時間の測定値とした。
経過時間 ダイオキシン類化合物濃度(ppb)
風乾後 1,100
処理24時間後 10
とある。

 この実験で疑問に思ったのは、単分子水のダイオキシン類分解効果を知りたいのだったら、なぜ畑土という余分なものを使っているのかということである。ダイオキシン類化合物水溶液があるなら、その水溶液にミニマルフロオ水を直接加えて、時間とともにダイオキシン濃度がどうなるか調べる方がずっと簡単で精度の高い実験ができるはずである。畑土にダイオキシンを加えて、あとで抽出という操作をすると、どうしても誤差が入り込むと思う。畑土を使う必要が全くないし、実験としてはまずいのではないか。

 次にわからないのが、蛍光吸光度法で測定している点である。この蛍光吸光度法ってどんな方法なのだろう。蛍光分光光度計を使ったり普通の吸光度の測定ならどこにでもあるが、蛍光吸光度法というのはきいたことがない。ネットで検索してみたら引っかかったのは1件だけで、それがこの「癒しの森」のページだった。ダイオキシン類からうまく蛍光を出させるような励起方法は無いし、普通の吸収測定でppbオーダーの濃度の定量は非常に難しいのではないだろうか。現状では、ダイオキシン類の定量は、ガスクロマトグラフ質量分析法を使うか、抗原抗体反応を利用するキットを使うかのどちらかである。リアルタイムではないにせよ、それなりに迅速に測定できて、化合物の種類もわかるガスクロマトグラフ質量分析法が、環境関係の研究所や研究室に売れている。但し装置が高価なので気軽に買うわけにはいかない。レーザー光を多重照射する技術を使って安価に連続測定する装置は、東京電子が昨年末に新聞発表したばかりである。こんな状況だから、上記の測定結果を鵜呑みにするのは危ないのではないかと思う。畑土を使わず、試験管内でダイオキシン類水溶液と単分子水を直接混合し、ガスクロマトグラフ質量分析法で測った測定結果なら信用する気になるのだが。

 分解の効果を確認するのに畑土という余計なものを入れているのに加えて、この実験では対照実験がないことも気になる。同じ実験を、単分子水と、たとえば普通の水道水や蒸留水で行ってみて、差がでることが確認されるまでは、単分子水の効果だという主張はできないのではないだろうか。

 とにかく、この結果だけで、「科学的な裏付けはとれています」と主張しても、ダイオキシン類のモニタリングをしている人達はおそらく信用しないと思うが、どうなんでしょうね。


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