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株式会社フリーサイエンスへのコメント(2022/07/19)

 

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

「素粒水」というよくわからない水を作っている。「素粒水って…?」の解説を見ていこう。といっても,この会社の説明はただのお話か空想に過ぎず,おそらくは自然科学の解説を適当に引っ張ってきて想像を交えて書いただけで,実験的裏付けは何一つ書かれていない。

まず,記載の最初から大きな矛盾がある。囲み記事で「素粒子は計測が困難」とあり,その理由として,

物質を構成する最小の単位でそれより小さな存在がないということです。 素粒子は、いくつかの素粒子が生成されると同時にいくつかの素粒子が消滅してしまう不思議な特性があります。 ナノ技術[1ナノメートル(10億分の1m)]でも原子数個分に相当する大きさがあり、このナノ単位よりも微少で生成と消滅を繰り返す素粒子の階層は、 一般的な計測技術では確実な計測をするのが困難です。。

と述べている。おそらくこれは,科学の一般的な解説から引っ張ってきたものだろう。ところがその直下に,

太陽から届く光のエネルギーにはたくさんの素粒子が含まれており、地球生物の生育光線となって命を育む大切な要素となります。

と書いている。

太陽から飛んでくる素粒子とは一体どの粒子を意味するのか具体的な粒子の名前すら書いてない。素粒子の計測が難しい理由は,短時間で生成消滅してしまうからだというのなら,太陽から飛んでくるものだって同じ状況であるはずで,それが植物に安定的に届いて育成光線になるというのは主張自体が矛盾している。つまりこの記述は,どちらか一方しか成り立たないのである。つまり,植物が安定利用できるような「育成光線」であれば測定はそれほど難しくないし,測定が困難なほど消滅が早いなら植物が利用するのは無理ということである。

なお,ac.jp限定で「育成光線」を検索しても定義が出てこないのだが,産業界のいうところの「育成光線」とは波長が8〜15μm,あるいは4〜14μmの赤外線とされている。まあ,「光子」も素粒子の一種ではあるが,赤外線であれば割と簡単に測定できるし,もったい付けて「素粒子」などと言わず,素直に赤外線,と言えばいい。この場合,計測が難しい素粒子の話は全くの見当外れということになる。

 「水の力=エネルギー」というのは全くの勘違いである。水が持つエネルギーというのは酸素と水素の結合のエネルギーだが,これは,液体の水で-237.13kJ/molである。つまり水は,原料である酸素分子と水素分子を基準にした場合,1モルあたり-237.13kJだけエネルギーが低い状態にある。酸素と水素を混ぜて火花を散らすと爆発することは良く知られている。爆発するということは,ごく短時間にたくさんの熱エネルギーを外に放出するということである。放出したエネルギーの分だけ,後に残った水は,原料の酸素と水素よりもエネルギーが低い状態となる。

 水分子は何をしようが水分子でしかないので,特定の処理をした水分子が「生物細胞の酸化を抑制」することは無い。もしなにがしかの効果があるとしたら,それは水分子の働きではなく,水に溶けている何か別の成分によるものである。

素粒水は発酵する水です」の説明も,ナンセンスな内容である。何かの菌が繁殖た結果を発酵と呼ぶか腐敗と呼ぶかは人間の都合による。「素粒水」の振動エネルギー」と書いてはあるが,1分子あたり(1モルあたりでも良いが)そのエネルギーはどれだけの大きさかとか,振動とは何の振動なのか,振動数は何Hzなのかも書いていない。おそらく想像しただけで実測はしていないから何も書けないのだろう。なお,水分子の振動を励起するという実験方法が20年以上前からあって,パルスレーザーを使って実際に振動にエネルギーを与えてみると,短時間でそのエネルギーは散逸して,最終的には熱エネルギーに変わってしまう(が,水は熱容量が大きいので,わずかに温度が上がる程度の影響しかない)。

「素粒水」は生体内で酵素(エンザイム)の役割を担って物質代謝を促進してくれるということです」と書いてあるが,何一つ根拠が示されていない。酵素反応であれば試験管内で実験できるので,実際に酵素と使ったものと,酵素の代わりに素粒水を入れたものを用意し,反応が起きるかどうか生成物の量を比較すれば良いはずだが,そのような実験結果がどこにもない。単なるお話か空想である。 

  なお,このページの最後にある「発酵エキスの作り方」は,実践しない方が良いし,できたものを飲食するのは危険である。瓶漬けにして菌を繁殖させた場合,どの菌が優勢になるか,素人の実験ではコントロールができないからである。

 「液体の特性「毛細管現象」に優れた素粒水」の解説では「血液が毛細血管に速やかに流れる要因の一つがこの「毛細管現象」です。」と書いてあるが,これは全くの間違いである。毛細血管の血流のことを「微小循環」という。医療・看護のどの資料を見ても,毛細管現象によるとは書いてない。これは当然で,毛細血管の循環は,心臓が全身に血液を押し出すことで生じているからで,物理化学的なプロセスの毛細管現象が原因ではないからである。

 ほうれん草の実験の説明で「液体の種類や水分子の大きさ、分子運動能力によってその効果(特性)に違いが発生します。」と書いているが,水分子の大きさはどんな水でも変わらないので,これも間違った理解に基づく記載である。

 毛細管現象は,表面張力と壁面の濡れやすさや液体の密度によって置き方が変わっており,わざわざ再現性に乏しいほうれん草など使わなくても,毛細管現象に違いがあるかどうかは,液面の上昇として簡単に測定することができる。なぜ,簡単で確実に比較できる測定を真っ先にしないのだろうか。

 「素粒水の品質(クオリティ)は半永久的です!」は,なぜか,水道水との比較が無い。水道水で同じ実験をしてもやっぱり4年間腐敗しなくて,差が出ないからではないだろうか。この実験結果を説明するのは簡単で,もともとの水に電解質や有機物がほとんど含まれておらず,菌も少ない状態でペットボトルに詰めれば,偶然細菌が混入していたとしても栄養分がないので増えることができないというだけの話である。

 まあ,分析結果を見た限り,飲料に適した水であることはわかった。

「素粒水」は人も環境も健康にします!」は,ボートを使って水の循環をさせる時に「素粒水」の製造装置を通したというものらしい。「ボート作動前は池の中が酸欠状態でした」とあるのがキーポイントである。というのは,ただ単に池の中の水を循環させるだけで,池の水の酸素濃度が変わり,微生物のはたらきで水質が変わるということが起こりうるからである。水源となるダムや貯水池の水質改善目的で,水底までパイプを通して空気を吹き込むといったことが行われることもある。池などの閉鎖系の水質は,流入するリンと窒素の量に依存し,流入量が季節に依存することが普通である。こういった実験をするのであれば,最低1年間,リンと窒素の量を同時に測定しながら行う必要がある。また,水をかき混ぜたことの効果であるなら,素粒水は実験結果に関係がないことになる。着眼点は良かったのだが,実験自体が不十分で,素粒水の効果なのかそれ以外の効果なのかが分離できていないので,これで素粒水の効果であるという主張をするのは無理がある。

 「ワンウォーターECOで「素粒水」をご家庭に」には,素粒水を作る浄水器のカートリッジについて書かれている。

この不織布フィルターに水流の圧触(圧力接触)が起こると瞬時に水分子の集団を細かく粒子状にした「素粒水」が創られます。細かく粒子状となった「水」は分子運動が活発になり細胞への吸収と新陳代謝を促進し、「水」自らの自浄能力が高まり酸化現象を抑制してくれます。

とあるが,これはよくある間違いである。というのは,もし書かれているように,水分子がばらばらになるということが起きれば,水の沸点と凝固点が数十度下がることになるからである。水は分子量が小さいのに融点が0℃で沸点が100℃と,同族の化合物に比べると著しく高い。その理由は,分子間水素結合が存在するからである。もし,フィルターを通すことで分子間水素結合の切れた水が安定に存在するとしたら,まっさきに沸点と融点の低下としてあらわれるはずである。この浄水器を通した水が,相変わらず(不純物によるわずかな効果の範囲で)およそ100℃で沸騰しおよそ0℃で凍るのであれば,水分子の粒子状態が違う水など実現していないのである。

 浄水器自体は吸着濾過をしていると書いてあるので,ホームセンターで売っている活性炭を用いた浄水器と大差ない製品だと思って使う分には特に問題は無いだろう。

 

 

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