雑記帳

科学のような話(1999/11/09)

 水商売ウォッチングの、その他の活性水のところで、「超自然水」についてコメントしたら、その販売元の古賀@アクアセラピーさんから次のようなメールをいただいた。(メールの署名部分以外を引用する。

To: apj@atom.phys.ocha.ac.jp
Subject: 超自然水の件で

Y.Amoさま、初めまして。
私、超自然水の販売をしております古賀 新と申します。
事後のご報告で申し訳けありませんが、こちらのサイトにリンクを
はらしていただいたものです。
本日ある方の勧めでこちらのHPへやってきたのですが、
超自然水のリンクの件で奇妙に思われていらっしゃるとのコメントを
お見受け致しましたので急遽メールを差し上げることに致しました。

こちらのHPは水に関するおもしろいコメントをだされていらっしゃったので、
ときどき拝見させていただいていました。
とくにクラスター説を否定する見解に関しては、結構有名な『せっけん掲示板』と
いうところで紹介もされていましたし、今やオピニオンリーダー的なサイトとして
認められていらっしゃるように思います。

今回こちらからリンクを張らせていただきましたのは、そういう水にたいする
詳しい話が他の人にも大変参考になるのではないかと思ったからです。
また自分のほうでクラスターという言葉を軽率に使っていたのではないかという
ことを問い正す意味もありました。

今日おじゃまして、超自然水のことをコメントされていらっしゃるのには
少しびっくりしましたが、リンクを取りやめたり不満を言ったりするつもりは毛頭
ありません。正直言って超自然水はまだまだ成長途中の商品ですので、
一人でも多くの人に忌憚ない意見をいただき、より良い方向に育てていきたい
(自分自身の成長も含めて)と本気で考えています。ぜひとも今後とも
よろしくご指導ください。

あと今回プランセスのほうへリンクを張っていただいていますが、できましたら
こちらのほうへ変更していただければありがたいです。プランセスのほうでは
こちらのHPからリンクされることを好ましく思わないと思います。私のほうでは
歓迎させていただきますので。HPの内容を少し修正する手間がでてくると思い
ますがなにとぞよろしくお願い致します。

PS: こちらのHPへくるのを勧めていただいた方にもせっかくですのでこのメール
のコピー送らせていただきます。

 このメールに対して私がどういう返事を書いたかは、このページの最後に掲載する。ここでは、そういう返事を書くに至った、普段から私が思っていることについて、少しまとめることにする。

 水に関しては、いろいろ怪しい話が多い。例えば、「磁気処理をした水はクラスターが小さくなって体に良くおいしい」「水とアルコールを混ぜたもの(=酒)に弱い超音波をかけると混じり方が変わる(だからうまい酒になる)」「細い管の中の水は構造が通常の水と異なる」という具体的なものから、「水にはとにかく神秘的な力がある」といった調子の少し宗教がかったものまで様々である。これらの話にほとんど共通のキーワードに、「水のクラスター」がある。大抵の場合、「何らかの方法を用いて水を処理すると、水のクラスターが小さくなり、それは美味しく体によい水である」とされている。書店の健康や家庭医学関係のコーナーに置かれている水の本では、独立した水分子の塊の絵で「クラスター」を説明しており、WWW上の水に関するページでも同じような説明がされている。

 場合によっては、「(インチキ)波動」で評価したというものや、どう見てもクラスターとも水の美味しさとも関係なさそうな実験の結果を掲載していることもある。

 実際には、水に限らず液体中で「クラスター」というものをきちんと考えようとすると、とたんに話が難しくなる。液体中では、分子が絶えず周りの分子の影響を受けながら、多少は周りと歩調を合わせて動き回っているので、分子が何個か集まってできている独立した集団というものは存在しない。「クラスター」を定義するのがそもそも困難である。これについては、「水のクラスター」で書いたので、ここでは詳しくは述べない。一言でまとめると、「クラスター」の大小をいうためには分子の空間的分布の様子を測定する必要があるのに、そもそもそういう情報は測定できないNMRという手段で得られた結果を、水のクラスターの大小と結びつけたのが間違いだということである。測定法を正しく理解していない人が話をきくと、何となくうまい説明になっているため信じてしまって、そのまま話が広まったと思われる。

 さて、何らかの処理をした水は特別な機能を持つらしい、という結果が出たとしよう。これまでの所、製品にして売る場合に「理由はわかりませんが効果があります」と宣伝するよりは、「この効果は水のクラスターが小さくなったことによります」という文句をつける方が好まれるようである。液体の水を毎日使っていても、水分子がどうなっているか見た人はいないので、「クラスター」と言われると、何となく水分子が数個まとまった塊を想像して納得してしまうのかもしれない。
 クラスターの話以外にも、どう見ても、水の提供元が期待しているような水の性質とはほぼ無関係な測定結果が掲載されていることがある。電気分解をやって違いが出たと書いているが、電極が鉄とアルミで、電流を流したら何かを電気分解する前に電極が溶解しそうな系だったり、何を測定したか情報を書かずに不純物が少ないという数値だけ掲載してみたり、(インチキ)波動の測定結果の数値をならべてみたりである。

 どうも、メーカーは、科学っぽい理屈を付けた方が売れると考えているように見える。また、「消費者は科学的説明がないと胡散臭いと思って買わないに違いない」という考えに基づいてそういう宣伝を行っているのかもしれない。あるいは、本当に、科学的根拠がある、又は、あってしかるべきだと思っているのかもしれない。
 実際には、水の特別な機能の存在について、正しい手順を踏んだ実験で確認されてさえいれば(官能検査をやっておいしいと出た、ちゃんとテストして肌に良いとわかった、など)、原理はともかく売っても買ってもかまわない。効果のメカニズムに対し科学的説明がなくても、何の問題もないはずである。にもかかわらず、一見科学的に見える説明をつけたがるのは、科学というものを誤解している人がそれなりの割合でいるためではないかと思われる。

 誤解は、「科学でわかるということ」をどう判断するかという点で起きていると私は考えている。

 科学で「わかる」というときには、「現象のhowを記述する」というのと、「根源的にwhyを説明する」という、2通りがある。後者は、問いのたてかたを間違えると、科学ではなくて、メタ科学や哲学になってしまう可能性がある。水の話に関しては、むしろ前者をどう位置づけているかが問題である。
 科学でいう「わかる」とは、測定によって得られるある量の間の関係性を正しく記述でき、その記述を使って予測できることがたくさんある、ということだとしよう。その測定には再現性が必要で、かつ対照実験をして意図しない効果によるエラーを除くように注意する必要がある。科学で「わかる」ということをこのように定義するなら、科学でわからないことがたくさんあっても、それは単に関係性でもって記述できる事柄の中に含まれていないということに過ぎない。科学で説明できる、とは、関係性を記述できるということと同義である。だから、私や私のまわりでは、科学で説明できないことがあっても、特に気にしていない。科学の枠組みの中で研究をしている側は、科学で説明できないということに対する一種の耐性をもっているように思う。
 そうすると、既存の知識と矛盾するような現象が出てきたときは、検証実験が済むまで判断を保留するだけで、頭ごなしに否定もしないし飛びつきもしない。ところが、水のクラスターの話の広まり具合や、無理に実験結果を付け足したがる様子を見ると、どうやら科学研究を日常行っていない人々の方が、科学に何かを期待し科学的説明を性急に求めたがり、あげくに「一見科学のような」説明に飛びついてしまっているように思われる。また、科学とはすごいものだという思いこみの裏返しによって、科学では説明できないという事実に特別な意味を見いだそうとし、疑似科学やオカルトにはまったりしている。科学に対する過剰な期待や過信も、過度の不信も、科学で「わかる」ということを誤解することによって生じるのではないか。

 個人で科学を誤解している分には単なる趣味で済むのだが、会社の開発部隊の上司が誤解している場合、直接の担当者は悲劇である。私が公開したWWWに対するコメントとして、水のクラスターの話に乗せられて高価なNMRを買ったが結局役にたたなかったという話や、磁気処理で水のクラスターを小さくすることができるか調査を命じられたという話が届いている。また、個々の製品について、一般の消費者から「製品の効果が水のクラスターで説明されているが、買っていいのか?」という質問がときどききている。大抵の場合は、製造方法からみてその効果を水の中の微量成分の変化で説明できそうなことが多いので、そう返事に書いている。
 いずれにしても、クラスターという曖昧なものを持ち出すよりは、きちんと測定できる成分の変化と水の機能を結びつけるほうが、効果の説明としては適切だろう。少し考えれば変だとわかる測定を、実験したらこんなすごい結果がでましたという触れ込みで商品の説明に付属させるよりは、その水がいかにすぐれているかを、実際の効果を評価することによって示した方が、より信用されると思う。

 返事には結局、以下のようなことを書いた。

古賀 様

At 23:02 99.11.8 +0900, Arata Koga wrote:
>事後のご報告で申し訳けありませんが、こちらのサイトにリンクを
>はらしていただいたものです。
 基本的に、ウェブで公開したということは、誰がどこにリンクを
貼ってもかまわないということを意味するので、別に断る必要は
ないと思います。私も別に断らないでリンクしていますし、こちらの
ページを無断でリンクしたという理由で誰かに抗議することもないです。

>超自然水のリンクの件で奇妙に思われていらっしゃるとのコメントを
>お見受け致しましたので急遽メールを差し上げることに致しました。
 あ、これは、「商売にならなさそうなのに何でまた...」という内容
のメールをいただいたからです。

>とくにクラスター説を否定する見解に関しては、結構有名な『せっけん掲示板』と
>いうところで紹介もされていましたし、今やオピニオンリーダー的なサイトとして
>認められていらっしゃるように思います。
 少し微妙な話になりますが、クラスターというモデルを使って実験結果を
解釈することについては、かまわないと思っています。それはあくまでも
仮説の域を出ません。しかし、クラスターの大小が、例えばpHの値のように、
測定で決められて水の品質を決める指標になると考えるのは、行き過ぎ
だと思います。

>今回こちらからリンクを張らせていただきましたのは、そういう水にたいする
>詳しい話が他の人にも大変参考になるのではないかと思ったからです。
>また自分のほうでクラスターという言葉を軽率に使っていたのではないかという
>ことを問い正す意味もありました。
 クラスターの話が一人歩きするのはよくないと思います。
 個人が趣味でそう思っていることについては、いちいち訂正するのも
野暮な話なのでめくじらたてる気は全くありません。しかし、会社で
上司がこの話にはまって、部下にクラスターの大きさに基づいた製品
開発などを命じた場合、ちょっと困ったことになります。
 水の研究の現状からいって、クラスターの話にはまるよりは、水の成分
の分析をきちんとした方が、再現性のある安定した品質の製品開発に
結びつくと考えています。
 多分、企業は限りある開発費を可能な限り有効に利用したいと考えて
いるはずですよね。それなら、クラスターにおどらされて数億円する
NMRを買ったりするよりは、成分分析をちゃんとできる設備を整えた
方が効果的だという話です。

>今日おじゃまして、超自然水のことをコメントされていらっしゃるのには
>少しびっくりしましたが、リンクを取りやめたり不満を言ったりするつもりは毛頭
>ありません。正直言って超自然水はまだまだ成長途中の商品ですので、
>一人でも多くの人に忌憚ない意見をいただき、より良い方向に育てていきたい
>(自分自身の成長も含めて)と本気で考えています。ぜひとも今後とも
>よろしくご指導ください。
 私は今のところ肌のトラブルは抱えていないので、しばらくは超自然水の
ユーザーになることは残念ながらないと思います。しかし、体験談からは、
実際に効いたという人がそれなりの数いらっしゃるように思います。副作用の
ない民間療法の1つとして育つなら、それはユーザーにとってもよいこと
だと思います。
 販売しておられる方は別の意見をお持ちかもしれませんが、私は今の所
超自然水とは、化粧品と同じカテゴリーに属するものだと思っています。
効果が人によって異なる、実際に効いたと感じる人がいる、という点でです。
1種の医薬部外品と思っています。
 明白に誰にでも一定以上の効果があるなら、それは医薬品に分類されます
よね。

>あと今回プランセスのほうへリンクを張っていただいていますが、できましたら
>こちらのほうへ変更していただければありがたいです。プランセスのほうでは
>こちらのHPからリンクされることを好ましく思わないと思います。
 多分そうでしょう。実験についてしっかりツッコミを入れていますので。
 アクアセラピーのページでは、超自然水の分析の実験を公開されて
いないようですね?今ページを見たのですが、リンクを見つけられません
でした。
 で、多分プランセスの人が顔をしかめるであろうことは承知の上で、
水商売ウォッチングのリンクはそのままにしておきます。あのページの
見所は、
1)不純物の電気分解といいつつ、容易に溶けるような電極を使っている。
2)フィルターを通した水のクラスターが小さくなると書いてある。
3)謎の不純物測定結果が出ている。
4)(他のページからの引用ですが)フィルターを通った水に含まれる
ミネラルの評価は今の技術では調べられないと書いたすぐ後に、超自然水は
ミネラルのバランスが良いと主張している。
点にあります。
 開発者が確信犯でやってるのか本気でそう思っているのかわかりませんが、
少なくとも、この4つは実験の記述としてはかなり変です。
 このページを見て、
「水の中の不純物の電気分解は鉄とアルミの電極を使って行うのだ」
「フィルターを通すと水のクラスターを小さくできる」
などと思いこむ人が出てきたら、ちょっと問題があると思います。

 この4点を書いたからといって、超自然水の製品としての機能を否定したり
疑問を投げかけたりしているわけではありません。製品としての機能は、
それが効いたと報告する人が一定数いるということで決まるからです。


>私のほうでは
>歓迎させていただきますので。HPの内容を少し修正する手間がでてくると思い
>ますがなにとぞよろしくお願い致します。
 実際の体験談へのリンクは、必要としている人にとっては貴重だと
思います。そちらのページへのリンクも、同時に追加します。

 もう少し(あと数時間)お待ちください。これから修正と追加を
書きます。また、関連する議論もすこし追加したいです。
追加したらまた連絡さしあげます。
注意
ここでとりあげた水に関する議論は、製品が一種の化粧品や健康食品に分類され、善意で開発されたもののみを対象としている。最初から詐欺を目的としたような商品は考えていない。また、「癌が治ります」などという触れ込みで、早期に治療すれば助かる患者をだまして手遅れにしてしまうような製品も考慮していない。このような、明白に害を及ぼす商売に対しては、ウェブでとやかく書くよりも、さっさと訴訟を起こすべきであろう。

さらに追加
一定数の人に効果があるというレベルでよいのは、まあ化粧品と同レベルの話ならそれでいいという意味である。医学的に効果があるかどうかを評価するには、体験談は役に立たなくて、まともに臨床試験をしなければならない。



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