研究テーマ

目次

はじめに

 冨永研のテーマは「水素結合の物性の分光学的研究」である。実験手法は主にラマン散乱で、特に300cm-1以下の低振動数領域の測定をちゃんとやっているところがウリである。業績リストを見ればわかるとおり、その大部分が水素結合に関連している。教授本人は修士課程までは磁性体の研究をしていたが、博士課程で誘電体の研究に移った。その後強誘電体であるBaTiO3をやったあと同じく強誘電体であるKH2PO4の構造相転移の研究を始めた。研究が進んで相転移メカニズムがだいぶわかってきた頃に、水のラマン散乱のスペクトルと4面体の形をしたPO4の示すスペクトルが似通っていることに気づいた。水もまた水素結合のかたまりの物質であり、液体では水分子が水素結合で4面体的な配置を瞬間的にとっていることがWalrafenらによって示されていた。乱暴な話だが同じ4面体で似たようなスペクトルパターンが出てくるなら水でも仕事ができるんじゃないかということで始めたのだが......決着のつかない問題がたくさんあって、現在も研究を続けている。
 生体分子の機能に水が単なる溶媒以上の役割を果たしているのではないかという可能性を探ろうとして、DNAの結合水をしらべてみたり低分子のアスコルビン酸や糖の水和を調べたりしている。
 共同研究者の興味にそって、高分子の光散乱や材料系の話もやっていたことがあるが今はやっている人がいない。高分子・液晶の話なら今井研を勧めるけど、どうしてもここに来てやりたきゃ勝手にどうぞ。

【冨永研での研究を希望する人へ】
 テーマの選択は基本的に自由である。ただし「永久機関の研究」のような物理学の基本法則に反するような研究は、物理学の基本法則の枠組を作りなおす筋道を矛盾無くちゃんと説明してまわりを納得させない限りたぶん不可。教授になじみのない物質や手法を使う研究テーマを考えた場合でも、拒否されることはないし他の先生を紹介してくれたりもするだろうが、研究室内での情報交換や議論は必要な知識を周りのみんなが十分持っていないという理由で難しくなるから、その分さらに自分でしっかり頑張る必要がある。
 これまでのテーマの決め方を見ていると、修士課程までは自分でテーマを思いつかなかった場合は教授に相談すればなんとかなる。博士課程は自分でテーマを決めることになっているから、興味がはっきりしない状態での進学は進学してから何をしていいかわからず多分苦労する。

 最近気づいたので、もう少し突っ込んだ話を書いておく。冨永教授は、固体(誘電体)の研究を長くやってきており、液体を見るときに、どうしても固体の立場から見ようとする。これはこれでユニークな切り口なのだが、冨永教授にしかできない切り口である。4年生と修士までは、ある意味努力賞で学位が出るので、教授の考え方に即した研究をしてもかまわない。問題は、オリジナリティを要求される博士課程になってからである。冨永教授に倣って固体の立場で液体を見ようとしても、冨永研で過ごした最近の学生は固体をちゃんとやっていない(教科書レベルの知識はあっても、研究対象として論文が書けるだけのことをやっていないという意味)から、まず失敗する。冨永教授と同じ切り口で成果を出そうと思ったら、冨永教授並みかそれ以上の固体の研究の蓄積が必要である。また、液体の研究をするなら必ず知っているべき液体論の基礎がゼミでまともに行われたことはない。冨永教授の方法だけに従っていると、液体の常識を身につけず、固体の知識もないままに、固体の考え方で液体を考えるという経験を積むことになる。こういうことをしていると、自分の研究のための足場がうまく作れないのではないかと思う。博士課程進学を考えるなら、教授の方法論を学びつつ、そこからどう脱却して自分の研究を作っていくか、修士課程のうちから意識しておく方がいい。


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強誘電体KH2PO4の相転移

水素結合型強誘電体における強誘電性相転移の動的機構の実験的研究
(量が多いのでこのリンクをたどってください)


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水および水溶液系の動的構造

 水は地球上でもっともありふれた物質であるが、液体としてはかなり変わった性質を持っている。それを以下に列挙すると、

  1. 沸点、融点が高い
  2. 蒸発熱、凝固熱が大きい
  3. 熱容量が大きい(温度変化に対する緩衝効果)
  4. 4℃で最大密度になる
    氷が浮かぶ理由。普通は結晶を作って固体になった時の方が密度は高い。ベンゼンの氷はめでたく沈んでいる。第1原理計算ではまだ未解決。
  5. 4℃で熱膨張係数が符号を変える
  6. 等温圧縮率が46℃で極小になる
  7. 粘性率の圧力依存性が30℃で負になる
  8. 表面張力が大きい
  9. 誘電率が大きい
    水分子1つ1つの電気双極子モーメントが独立なら、室温で80という値にはとてもならない。ちなみにアルコールが25から40程度、ベンゼン、トルエンなどは10以下である。

 これらの性質は、液体状態で水分子同士が複雑な相互作用をしていることを示している。水分子は水素結合で互いに3次元的につながっている。水素結合には異方性があってつながった状態で水分子の向きやすい方向とそうでない方向があって、熱揺らぎによってできたり壊れたりしている。水は電解質やアルコールをはじめ、様々な物質を溶かすが、ものが溶けた状態では水分子の動きや向きが変化していると考えられる。
 純水の場合、水分子がどのような動的相関をもって運動しているのか
 水溶液をつくると、水分子の運動の様子がどう変わるか

この2つがテーマである。

 冨永研究室では、これを調べるのにラマン散乱を用いている。ラマン散乱では、高い振動数領域(300cm-1以上)では、液体を構成する分子の分子内振動を観測できる。低い振動数領域(300cm-1以下)では分子間の振動や衝突にともなう情報が得られる。高い振動数領域の測定は分析化学の手段として広く利用されており、すでにさまざまな物質のスペクトルと振動モードの帰属がなされているが、低い振動数領域では観測されるピークは幅が広いもので分子内振動のように帰属がなかなかはっきりせず、特に数cm-1以下にあらわれる幅の広いモードの解釈はまだこれからである。

 これまでにやってきた実験は、

である。水素結合にこだわって「アンモニアとアンモニア水溶液の測定」は現在博士課程の学生がやっている。

居候(apj)は勝手にいろいろやっているが別ページに書くので略。

2001年のテーマは次の通り。




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Y.Amo /
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