0章 はじめに

 「水商売ウォッチング」で、浄水器や活水器の宣伝の変な説明にツッコミを入れてきたが、ここでは、その元になっている科学的知識について、初歩から説明する。とはいえ、私は教員免許も持ってないので、教え方については自信がない。もっといい説明の方法を知っている方がいたら教えていただけるとありがたい。ともかく、巷の宣伝やTV番組のどこが変か見抜くために利用してほしい。読者対象としては、高校まで位の理科は一応経験したが、その後あまり科学に触れる機会もなく、もうだいぶ忘れてしまったという人達を考えている。

 0-0 科学はどうやって作られるのか

 科学の知識は、まず、実験や観察から得られる。世の中には、偶然に1回だけ起きることというのもあるが、これはそれだけでは科学の対象にならない。科学が対象とするのは、繰り返すことのできる現象だけである。また、思い切った理論的予測が先行して、後から実験で証明されるということもたまには起きるが、こういうことは稀であり、科学の歴史に残ることが多い。

 さて、新奇な現象や実験結果を得たとしよう。それだけでは教科書には載らない。その結果が再現されることが必要である。つまり、他の人が同じ手順でやって同じ結果になるということである。さらに、実験や観察の条件を変えて、条件と結果の間にどんな規則性があるかを十分に調べる。沢山の現象をうまく説明できる規則は、法則と呼ばれる。法則が出てきたあたりで、やっと教科書に載ることになる。高校までの理科の教科書の内容は、その多くが19世紀までにわかったことである。

 科学の研究は、まず実験や観察で始まる。1人の研究者やある研究グループができる実験や観察には限りがある。何か新しい結果が出たら、まずは学会で発表したり、研究者仲間の前で発表したりして、大きな間違いがないかをチェックする。次に、論文にして、雑誌に投稿する。科学の世界では、論文を雑誌に投稿すると、編集者が科学者仲間に審査を依頼する(これを査読という)。このとき、誰に審査を依頼するかは編集者が決める。審査を公正に行うために、論文の共著者や論文の最後の謝辞に名前を掲載されている人には頼まない。査読者は原則として匿名である。なお、論文の内容からみて、この分野の人、とかこれを専門としているこんな人が適切だと思う、といった提案を著者から雑誌編集者に対して行うこともあるが、決定権は編集者にある。査読者は論文の内容に不足があったり、矛盾があったりしないかどうかを、その時代の科学の水準に基づいてチェックする。この審査に通ったものだけが論文誌に掲載されて、後の時代の審判を受けることになる。

 論文を書くときは、知識があって訓練を受けた人がそれを読んで、同じ実験をすることができるように書くことになっている。同業の科学者が同じ実験をして結果を確かめることを、追試をするという。追試ができないような、情報の一部を隠した論文はなかなか審査をパスしないし、仮に通ったとしても同業者の評判はすこぶる悪いのが普通である。

 別のグループがまったく同じ実験をして結果を確認したり、最初の結果に基づいて別の実験をして矛盾がないことを示したりして、直接的・間接的にその結果が本当らしいということになると、やがてそれが定説になり、重要なものであれば教科書に載ることになる。

 このような手順を踏むから、教科書に載るまでには世界中でたくさんの人が長期間かけて内容をチェックしていることになる。科学の世界はある意味保守的だが、これは、人間は勘違いや思いこみでエラーを起こすものだということを前提として、誤りを訂正するためのチェック手続きをしているからである。このチェックで、多くの間違いが訂正されて、印刷物として残る頃にはかなり品質が良くなっている。そこからさらに選ばれたのが教科書の内容ということになる。だから、教科書に矛盾するような主張をするときは、決定的な証拠を出さなければ認めてもらえない。

 測定した数値のうち、重要なものは、定数表という本に載る。理科年表、化学便覧、CRC Handbookなどが代表的な定数を集めた本である。これらも、元をたどると論文に掲載された測定値に基づいており、またその数値に基づいてさまざまな実験や観測が世界中で行われているから、間違いがあれば結果がおかしくなるので必ず誰かが気付くだろう。それで研究がうまく行っているということは、正しいかどうかのチェックに通ったということに他ならない。

 教科書という形で皆さんの目に触れる科学の内容は、このようにして作られたものである。また、教科書や定数表を使うことで、直接・間接に検証が続けられている。

 逆に言うと、情報をたどっていったときに、最後に査読を通った論文に到達しない場合は、その話には信憑性はないと判断してもかまわない。


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