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水の味とNMRの信号幅との関連性

 元の文献は、「水の味と17O NMRの信号幅との関連性について」日本電子(株) 分析機器技術本部NMRグループ(日本電子ニュース、vol.31 No.1 (1990) 14-16)です。

 「水のクラスター」でも引用した論文の著者の1人である、山中@オルガノ様より、上記の文献の存在をお教えいただきました。

 日本電子(株)の許可を得たので、全文をpdfにて公開します。スキャナで取り込んだので8.9MBあります。

 以下に、当ウェブページの主張と関連すると思われる部分を引用します。

■はじめに
・・・水の評価が17O NMRの信号幅で直接判定できるとの主張が一部でなされているが、飲料水の17O NMRの信号幅を決めている要因は複雑であり、測定温度にも大きく影響される。・・・
17O NMRの信号幅の要因
・・・四重極モーメントを持つ核のNMR信号の半値幅は・・・観測核に対する化学結合や配位子の違いによって変化する。つまり観測核のまわりの電子の状態に依存しているのである。このことが四重極モーメントを持った核の緩和時間の解釈や分子運動の議論を複雑にしている。特に信号幅のみからの議論には注意を要する。
17O NMRの緩和時間と水の構造
・・・Hindmanらは2Hと17O NMRの緩和時間の温度依存性の実験結果と誘電緩和の結果を合わせて、熱力学的な考察からclusterの存在を示唆している。・・・しかしながら上記のHindmanらの理論的な考察は純水な水の場合であり、かつk3,k1 >> k1,k2 およびk2 << k1や、lattice waterとfree waterでe2qQが変化しないなどの仮定の上に成り立っている。
<文献>
Hindman, J.C.,Zilen, A.J., Svirmickas, A. and Wood M.: J. Chem. Phys. 54(1971)621.
Hindman, J.C.: J. Chem. Phys. 60(1974)4488.
■水の17O NMRの信号幅の要因
 実際の飲料水などの水の17O NMRの信号幅に影響をおよぼす要因としては、H-O間のスピン−スピン相互作用や常磁性溶解物、反磁性金属イオンなどが考えられる。・・・1点の17O NMRの信号幅の測定から分子運動を議論したり、clusterの大小を議論したりすることはきわめて危険であり、誤った結論に陥りやすい。17O NMR信号幅から水分子の運動や水の構造を議論する場合は信号幅と温度の相関データや溶解物に対する詳細なデータなど総合的な見地から検討する必要がある。まして種々の水の間で相互比較する場合は特に注意を要する。
■水と味覚
 飲料水の中には、CaやMgやNaなどのミネラル成分や有機物や酸素や炭酸ガスなど種々の物質が溶けているであろう。人間はそれら成分の総合的な組み合わせを味としてとらえているのではないだろうか。しかも人間には嗅覚や慣れなども味に関係してくるファクタとなるであろう。
 したがって、このような複雑なからみから成り立っている味に対して17O NMRの信号幅のみで評価することなど到底不可能であろう。事実ある機関で”おいしい”と評価されている市販のミネラルウォーターAとB、およびある地方の”まずい”といわれている水道水とその蒸留水の4種の水に対して官能テストと17O の信号幅との相関をとった結果、Table1のようになった。・・・これらの結果から、17Oの信号幅と”おいしさ”との間に相関関係があるとは認められない。これは当然の結果といわざるを得ない。・・・水の17O NMRの信号幅を決めている要因は複雑であり、1点のみの17O NMRの比較では何を比較しているのかわからない。したがって複雑な機構の組み合わせと考えられる味覚と直接的な相関が成り立つとはとても考えられないのである。・・・17Oの信号幅の要因を考慮した上でないと、たとえ定性的とはいえ相対的な議論をしても意味が無いであろう。
■おわりに
 17O NMRは分子運動や分子集合体に関する知見を与える可能性を含んでいる。しかしながら、その緩和機構においては核四重極モーメントが支配的であるためやや複雑である。従って17O NMRを用いて分子運動などの議論をする場合は
1)1Hとのスピン−スピン結合の影響を除くためプロトンデカップリングのもとで測定すること。
2)相関時間を見積もるためにも数点の温度で測定し、同一温度で相対比較を行う。
3)金属イオンなど溶解物を考慮する。可能な限り、その種類と量を確認し、同一条件下で比較する。
などの細心の注意をはらわれたい。さらに可能な限り他の物性的な情報(たとえば誘電緩和など)とあわせて総合的な判断のもとに議論を遂行することを心がけてほしい。

 日本電子は、NMR、ESRをはじめとする分光・分析機器メーカーである。


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