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思想の問題というよりも、信用されてないだけなんじゃ……

Posted on 12月 7th, 2008 in 倉庫 by apj

 週間金曜日の記事より。

国籍法改正が参院でストップ
組織による妨害工作の可能性も

 婚姻関係にないフィリピン人女性と日本人男性の間の子どもの国籍確認を求めた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・島田仁郎長官)は六月四日、父母の婚姻を国籍取得の要件としている国籍法三条の規定は法の下の平等を定めた憲法に違反すると判断し、原告の子ども全員に日本国籍を認めた(本欄六月一三日号で既報)。
 判決の翌日には、鳩山邦夫法務大臣(当時)が国籍法改正の意向を表明し、改正案は一一月四日、閣議決定後に国会に提出された。最高裁の違憲判決を受けたことから改正に与・野党の異論はなく、衆・参それぞれ一日の審議で可決させることが合意されていた。
 ところが、法案が提出された直後から、外国人排斥ともとれるような反対意見が法務委員や政党などへファクスで数多く寄せられた。そのため、一一月一八日の衆議院法務委員会の審議では、自民党や民主党の議員から法改正に慎重な質問が集中した。
 稲田朋美議員(自民)は「最高裁から(判決が)出たんだから変えるのは当然だという無責任な考え方でこの改正をしてもらっては困る」と、驚くべき反対意見を展開。さらに「これは司法権による立法府への介入の恐れがあったのではないか」と続けた。
 民主党の古本伸一郎議員は「真正なる日本人の血統」という言葉を繰り返し、偽装認知防止策を訴えた。質問に立った多くの議員が同様の質問を行なったが、法案は全会一致で可決、参議院へ送付された。
 衆議院で可決されたにもかかわらず、反対派の議員は国会内で反対集会を行なうなど、この法案への反対を訴えていた。その中心メンバーが、平沼赳夫議員や稲田議員、山谷えり子議員ら、歴史修正主義者たちだった。
 参議院では、自民党が強硬に慎重審議を主張し、これに民主党が応じたため、審議日数を二日とし、参考人から意見を聴取することになった。質疑終了後に採決されることになっていたが、自民党と民主党の話し合いで二七日の採決は見送りとなった。公明・共産・社民の議員は、民主党の態度に一斉に反発。二七日の委員会前の理事懇で結論は出ず、話し合いは打ち切られ、参考人質疑が始まった。
 二人の参考人からは、DNA鑑定は人権侵害の恐れがあること、違憲審査が認められている以上立法権を侵害したことにならないなどと、改正反対派の主張に反論した。しかし、この参考人質疑後、参考人の意見を全く蔑ろにする質問が行なわれた。
 新党日本の田中康夫議員は「すべての認知にDNA鑑定を義務付けるべき。偽装認知奨励法にほかならぬと懸念されている本法案は、人身売買促進法、小児性愛黙認法と呼び得る危険性をはらんでいる」とまで言い放った。まるで外国人を見たら犯罪者と思えと言わんばかりだ。田中議員はこの改正に反対し、独自の法改正案を主張。「国民新党の亀井静香代表代行や民主党の鳩山由紀夫幹事長からも法案修正を勝ち取って衆議院に差し戻してほしいと激励を受けた」と述べた。
 この他、質問に立った山谷議員も慎重審議をするべきと、稲田議員と同様の質問をした。審議終了後、社民党の議員は「自民党だけでなく民主党の対応がひどかった」と怒りをあらわにした。
 公明党議員は「過半数の民主党が採決すると言えばすぐにできた。民主党の千葉景子議員は速やかに採決をするよう主張したが、他の民主党議員に反対され孤立した形で気の毒だった」と語った。
今回の国籍法改正法案の審議過程で見えてきたのは、排外主義、歴史修正主義者が自民党だけでなく民主党、さらに市民派と言われる議員にも見られたことだ。
 かつて薬害エイズの原告として闘い、市民派の支持を受けて参議院議員となった川田龍平議員も自身のホームページで反対を表明し、稲田議員らと同様の主張を行なった。
 今回の改正は、胎児認知には国籍を認め、出生後認知にはさらに婚姻要件を課すことが憲法違反とされたのであり、婚姻要件を削除しただけの改正だ。さらに偽装認知の防止策として罰則規定を新たに設けているのだ。なぜ、法案審議が偽装認知の防止に集中するのか理解に苦しむ。
坂本洋子・mネット・民法改正情報ネットワーク共同代表

▼法務委員会に所属する国会議員の各事務所には、国籍法改正反対のファクスが大量に届く現象が起こっているという。ある国会議員秘書は、「連日、事務所には二〇〇通以上のファクス、加えてメールに電話対応と、事務所機能が完全に麻痺してしまい、通常の業務が滞る状態が何日も続いています」と困惑している。
 ファクスの内容は、ほぼ同じ内容をなぞっただけの「コピー&ペースト」で、チェーンメール、組織票と呼べるようなもの。閣僚経験のある別の与党議員事務所秘書は「法案の問題点を精査していない理解の浅さからくる発言ばかり。しかもほとんどが匿名なので対応もできません。内容は『外国人との婚外子に国籍を与えるにはDNA鑑定を』と国籍法の問題と『認知』の定義の問題を混同しているものが多いですね。しかしそもそも現状の認知制度が血縁関係の厳密な認定を求めていません。ならば、外国人との子ばかりではなく、日本人同士の場合を含めて、認知のありかたを議論する必要があるでしょうね。むしろ法案成立の阻止に効果がない空回りした運動ですよ」としている。
 なお、ある議員事務所では「ネットなどで『議員にFAXを送れ』などとしている煽動者を特定してください」と、威力業務妨害で、警視庁麹町警察署に被害届を提出している。
小谷洋之・ジャーナリスト

 これまでの状況を見ていると、国籍法改正反対の動きが派手だったのは、これまでの政府の対応に対する信用失墜が積み重なっていたってことではないのかと。
 思い当たる節としては次のようなものがある。
 たとえば、留学生を増やせという話があるが、酒田短大のようにやってきた学生の多くが行方不明で多分不法就労しているだろうという状態になったら、何らかの規制を設けるのが普通だと思うが、そういう話は出てきていない。不法就労しなくても経済的にやっていける層に限って受け入れるとか、その他実効性のある対策をするのが普通だと思うが、そういう話は国民には伝わっていない。行方不明になった留学生の行方を何人まできちんと突き止めたかについてもはっきりしない。
 不法就労の状況が改善したという話も出てこないし、改善するために予算と人員を大幅に増やしたという話もない。
 この間報道されていたフィリピンへの強制送還問題だって、親のやったことの責任を子供に負わせるのは気の毒だという意見があり、それはそれで尤もだけど、それだけならこっそり子供を産んで運良く見つからなければ、不法滞在してもやった者勝ちだというのを助長するに終わる。特定の子供に対する救済を考えるのは良いとしても、同時に、「長期にわたって不法滞在して子供を産んで育てる」ようなことが今後発生しないように、不法就労やら不法滞在をしている人を徹底的に調べて早々にご自分の国に帰っていただくということをやらないとまずい。しかし、子供がかわいそうという意見が出てくるだけで、「今後同じようなことになるケースをチェックを厳しくすることで減らす」という動きは出てこない。これでは問題の解決にならない。
 さらに、見た目で日本人と区別が付かない中国人や韓国人の入国のハードルを下げたがっているっぽい(見た目の区別がつく場合は一般の人によるチェックもしやすいから、不法就労やら不法滞在の早期発見がしやすくなる結果、通報だってしやすくなるはず。見た目の区別がつかない場合にはチェックのためのハードルが上がる)。
 法にのっとった出入国管理が徹底されることが原則なのに、そっちがなかなかうまくいかない状態が長期間続いている。うまくいってないのに、日本に入国する外国人の数を増やそうとしている。このことによって、出入国管理に対する不信感は確実に増大しているはずである。そこに国籍法改正案なんか出したら、反発があるのがむしろ当たり前である。国籍法改正に対する反対が起きたのは政治思想によるものではなくて、これまでの出入国管理のやり方が信頼されていないことが積み重なっていたものが、国籍法をきっかけに出てきたということのように私には思える。
 もし、これまでに、やったもん勝ちにならないような出入国管理が十分に行われ、不法就労やら不法滞在を一掃するだけの実績を上げており、かつそのことが国民に周知されていたならば、国籍法改正が騒ぎになることはなかったのではないか。
 居もしない排外主義、歴史修正主義者などを探す暇があったら、条文通りの出入国の管理を徹底させることを、まずは実行してもらいたい。不法滞在やら不法就労やらを十分取り締まれていない現実があるのに、改正国籍法については悪用はされませんなどと説明したって、信用しろという方が無理である。

 あともう1つツッコミを。そんなに素直に最高裁判決に従うのなら、一票の格差の是正を機械的に判決通りに行うための法律を直ちに作らなかった理由を国民にわかるように説明してもらいたいなぁ:-P。