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学科の標語

Posted on 5月 23rd, 2005 in 倉庫 by apj

 学科長(本人は学級委員長と自称)の先生が、今年の学科の標語を決めた。

壷を洗って水を汲む

これが、学生実験室のドアに貼ってある。なんでも、学科長が義務教育を受けてた時分に、校長先生の訓話として出てきて、印象に残ったのだそうだ。意味を訊くと、「壷を借りたらきちんと洗って水を汲んで返すのが良い」ということだ。
 ところが、最初にこれを見かけたのが実験室だった上、その日の学生実験でフラスコをよく洗わずに試料を作って実験に失敗し、やり直しになったグループが出て、遅くまで付き合う羽目になった。だから、てっきり「実験器具はよく洗え」という意味以外にないと思っていたのだが、違う意味だった。
 それで、いろいろ考えたのだが、ウチの学科の場合、壷を洗っているつもりで別のことをする奴が多数かもしれないと思い当たった。それで、学科長の張り紙に落書きを加えておいた。
『洗っているものが壷であることをまず確認せよ』
『お前が洗っているのは本当に壷か?』
 これで完璧だと思う、多分。

教養の講義で意外な質問が

Posted on 5月 22nd, 2005 in 倉庫 by apj

 今年から教養の化学で「科学リテラシー」というのをやっている。化学の基礎的な知識や、水の話を紹介しつつ、科学的情報の扱い方を考えようというものだ。去年までは「水の化学」と言ってたのだが、もう少し「騙されないための考え方、科学知識の使い方」にシフトしようと思ってタイトルを変えた。一般向けなので、文系も含め全学部が対象である。出席確認のため、毎回、出席カードを配って回収しているが、裏がコメント欄になっている。講義では毎回プリントを配り、そこに前回出た質問やコメントをまとめて掲載していて、大教室でのマスプロ講義なのに、毎回結構な数の学生さんが質問や感想を書いてくれている。科学(化学)そのものについての質問や、日常の疑問(例えば電子レンジの原理とか)がほとんどで、何だか子供電話相談室のノリになってきている。その中でこんなのがあった。

少し古いアニメで「ルパン三世」がありますね。その中で石川五右衛門が『斬鉄剣』を操り、鋼鉄の金庫からヘリコプターに至るまで切り捨てていくシーンをよく見かけますが、刀って基本的に「鉄」のはずなのに、なぜ「斬鉄剣」は「鉄」の金庫などを相殺を受けずに斬れるのでしょうか。

フィクションの話を訊かれたのはこれが初めてだ。
 アニメの表現手段なんていろいろあるわけで、ディズニーのアニメのキャラクターの動きが厳密に物理法則に従ってない(落ちる寸前しばらく空中に止まって、焦ったり驚いたりしてから落ちる、など)理由を問うのとどれほどの違いがあるかとは思うのだが、そう言って切り捨てるのも何だしなあ。そういえば、「ロジャー・ラビット」(アニメと実写が共存しているという設定)で、実写の俳優がアニメのピストルを拾って発射したら、弾が十字路まで飛んでいって、左右を見てからターゲットの方に曲がっていったので実写俳優が「やってらんねぇよ」とため息をつく、てのがあって、大笑いしたのを覚えている。
 ここは一つ、フィクションに向き合うときの科学考証とSF考証の違いについて議論でもしておくとするか。まあ、ルパン三世がSFかどうかというのは異論も多数あることだとは思うが。
 「科学的に正しい結論はこうだ」という議論をするのが科学考証、「どうすれば作品世界を説明できるか、そのためにはどこでどう嘘をつけばよいか」を考えるのがSF考証で、どちらも科学の知識を必要とするが、全くの別物である。前者に近いのが柳田理科雄の「空想科学読本」シリーズ、後者が長谷川祐一の「すごい科学で守ります」シリーズだろう。フィクションを科学的に否定することは誰でも簡単にできるし、やって面白いかというと、あんまり面白く無さそうだと思う。作品を味わい尽くすには、SF考証をして、成り立たせるために何が必要かを考える方が、より楽しめるのではないか。ただ、ルパン三世にSF考証が果たして必要かというと……ちょっと微妙かな。もともと、実写じゃできないアクションやコミカルな動きも魅力の一つだし、それを成り立たせるための細かい設定も必要としていないようだし。素直に楽しめや、ってことでFA?

そろそろマイナスイオンブームも終わりか?

Posted on 5月 21st, 2005 in 倉庫 by apj

 昨日、共同研究先で作ってるウェブページの「水商売ウォッチング」のコメントに対する削除依頼があった。すでに掲示板では公開したのだが、要求を出してきたのはセルミ医療器という、マイナスイオン機器を作っている会社で、マイナスイオン関係の著書を多数出してテレビ出演もこなした堀口昇氏が代表取締役をやっていたことのある会社である。それで、いろいろ調べてみたら、2ちゃんねるにスレ【疑似科学】セ○ミを斬る【疑似医師】が立っていて、セルミ関係者とおぼしき書き込みがあるうちの一人の名前が、私のところに削除依頼を送ってきた人の名前に一致した。また、Yahoo!掲示板>化学>マイナスイオンってなんです?にもコメントが出ていた。
 ウチの掲示板では削除依頼を公開したのだが、そのURLが貼られた2ちゃんねるの投稿に対して、かなり迅速に削除依頼が出たこと。なのに、私のところには、掲示板の方の削除依頼が全く来ていない。ウチに削除依頼を出したと2ちゃんねるにカキコしてる人たちは、同じ名前を名乗った別人なのだろうか?一体中の人がどうなってるのか、謎である。

 それはともかく、Yahoo!掲示板の方に、amakubo2さんという方が、今朝の新聞の今夏のエアコン広告特集からマイナスイオンが消えたと書いておられた。大手家電メーカーがとうとう手を引いたということらしい。
 私は、去年エアコンを買ったのだが、半分くらいはまだマイナスイオンを謳っていた。もちろん、何とかイオンのないものを買ったのだけれど。
 掲示板の他の記事をあたっていたら、やはりamakubo2さんが、「927マイナスイオン商品開発の暗部が明らかに」の中で、楽天の日記を紹介しておられた。「マイナスイオンと技術者の良心」というものである。内容には非常に納得できるものがあるが、少し情報を追加しておく。
 私のところに、某大手家電メーカー系列のエアコン開発技術者から相談があったのは、確か2000年の年明け早々だったと記憶している。大々的なブームが始まる前のことだが、そのときの話だと、「現場の技術者が怪しいと思っていても、営業が、家電量販店などに行って『他のメーカーさんの製品にはマイナスイオン発生装置がついているのに、どうしておたくの製品にはついてないのいか』と言われて帰ってきたりすると、会社としては競争に勝つために機能を搭載せざろを得ない」ということだった。つまり、起きていたことは、書籍やテレビのバラエティ番組でマイナスイオンが取り上げられて、騙される消費者の数が増えてしまうと、メーカーに良心的な技術者が居ても、流れに抗しきれないということなのだ。まあ、「マイナスイオンは科学的根拠に乏しいのでウチでは搭載しません」と言い出すメーカーが1つでもあれば、まだ救いがあったのではないかと思うのだが、そこまで腹をくくれるメーカーが無かったのが残念である。
 ここ数回、教養の授業で、「マイナスイオンの疑い方」の話をして、学生さんの反応も結構いいので、今学期もやる予定である。

Diploma Mills(卒業証明書製造所):自己満足だけならいいんだが

Posted on 5月 18th, 2005 in 倉庫 by apj

 例のNHKスペシャルの学位製造工場の話、知人に録画したビデオを貸してもらえるかもしれない。が、まだ内容を見たわけではない。
 CATさんのところからトラックバックがあったので、こちらからもトラックバックして、私なりの意見を書いておく。
CATさんは、「個人個人の価値判断というのもあると思う。フリーページにも書いたが、自己満足のためであれば自分の金をどう使おうとその人の自由だし、他人がとやかく言うことではないと思う。それが公に通用するかどうかとか、倫理的な問題はあるけどね。」と書いておられるが、これは、単なる自己満足に止まった場合の話だろう。実のところ、学位製造工場の問題は、個人が単なる消費者として金で称号を買って学位記を家のどこかに飾っておくだけなら、さほど大きな問題ではない。それだけであれば、名称がちょいと紛らわしいというだけで、世の中にあまたあるお稽古事教室の修了証書とか級・段認定証書と大差ないからだ。
 一方、研究者の業界(但し理系)では、学位は持っていて当然という扱いで、しかもそれほどウェイトは高くない。就職の時も研究費を獲得するときも、単に学位を取得しているだけでは不十分で、必ず研究業績を評価されることになる。普通の大学で取得しようが、Diploma Millsで得たものであろうが、業績を伴わなければ実質効力無しということになる。
 問題となるのは、その「学位」が研究者業界以外に対して「権威付け」のために悪用された場合である。典型的なものとしては、健康食品や健康器具を売るのに、「**博士」の肩書きのある人の推薦文や調査結果と称するものをくっつけて行うというものがある。これも、普通に学位を得た研究者が、専門ではない分野に名前を貸して宣伝に登場していることがあったり、専門の筈なのに何故か怪しい業者に名前を貸したりしていることがある。だから、国内の大学で普通に学位を取得すればそれだけで悪用が行われないということではないのだけれど、今のところは、怪しい商売に名前を貸すケースは非常に少ないと思う。
 しかし、Diploma Millsから出された学位は、簡単に権威付けのために利用される可能性が高い。まともな研究者業界では全く使えないので、手っ取り早く投じた費用を回収するには商売に利用するしかないからだ。たとえば、怪しい商品を売ってる会社の社長が学位を買ったら、まず100%の割合で宣伝の中で自慢するだろう。売りつけられる側も、ついうっかり、専門の研究者がお墨付きを与えていると勘違いするかもしれない。Diploma Millsを放置しておくということは、詐欺の道具を売っているのを放置しておくのと同じことじゃないかと思う。

博士が100にんいるむら

Posted on 5月 17th, 2005 in 倉庫 by apj

博士が100にんいるむらがネットのあちこちで話題になっている。最初に見かけたのは2ちゃんねるだったが。で、内訳は
16人 医者
14人 助手(最近は任期制)
20人 ポスドク(任期制)
8人 会社
11人 公務員
7人 他分野
16人 無職
8人 死亡あるいは不明
ということだ。元データは博士の生き方の「数字で見る博士課程修了後」の「第1回:博士課程修了者の選択肢」の表とのこと。平成12年度の調査がもとになっている。
この中で、まあそれなりに安定した将来を歩めることが確実なのは、医者+会社+公務員の35人だけだろう。任期制の職は、終われば無職突入だし、博士終わった直後で無職だとその後職にありつくのは非常に大変である。任期付き助手とポスドクの一部が職を得るとして、せいぜい4割ちょっとが何とか幸せになれるのかな、と思っていたら、平成14年度の統計では、社会人の大学院後期課程の院生が約2割だそうで。てことは、100人中40数人の職に困らない人のうち20人は最初から職があった人たちということになる。てことは、無職&数年後無職が50人以上、博士を得て新規に職を得られる人が20人ちょっと位、で、社会人以外で進学して何とかなるのは1/3ってことになる。
 これじゃ、アカデミックへの期待を煽って博士進学を勧めるのは犯罪的行為に思える。進学を勧めるとしたら、在学中に企業のインターンシップなどの利用を促し、フレッシュマンとして3年間終わった後で企業に入るという進路を提示しながらでないと、人生棒に振ることになりそうだ。
 文部科学省は修士の学生を企業で研修させることを考えているが、理工系の修士課程は実はそんなに就職に困っていない。困っているのは博士課程の院生で、修了時に会社に行ければ良いが、下手にポスドクをやってしまうと人生のやり直しが難しくなる。むしろ、博士課程の院生にこそ企業での研修をさせた方が良いように思う。

ドイツ語の参考書

Posted on 5月 17th, 2005 in 倉庫 by apj

 化学英語の担当が当たったため、ひさしぶりに構文を考えなければならなくなって、家の語学参考書類に箱を開けて資料あさりをしたのだが、一緒に入れてあったドイツ語の参考書類が目に入り、ついなつかしくなって読みふけってしまった。で、私のオススメの参考書をいくつか列挙しておく。
【辞書】
「独話広辞典」 R.シンチンゲル著 三修社
 中級程度のものを読むには使いやすい。ただ、今なら大修館の「マイスター独和辞典」がいいかもしれない。
【文法】
「必携 ドイツ文法総まとめ」 中島 他著 白水社
 教養のドイツ語の参考書として薦められたので買った。学生時代に使った教科書は、文法、読本ともに内容が少なすぎて役に立たないのでどっかにやってしまったが、このハンドブックだけは後になっても使えた。
「中級ドイツ語の研究」 信岡・藤井著 朝日出版社
 レベル的には高校英文法のドイツ語版といったところか。ドイツ語再入門のときの主力で活用したが、今は品切れのようだ。これにかわるものが他に出ているといいのだが。
【解釈】
「独文解釈の秘訣 大学入試問題の徹底的研究 I・II」 横山靖著 郁文堂
 英語でいうなら中級から中の上程度の難易度の大学入試英文解釈のドイツ語版。これも院試対策の主力で2冊ともやった。
【単語帳】
「ドイツ重要単語4000」 羽鳥・平塚著 白水社
「例文で覚える役に立つドイツ単語」 大岩信太郎著 郁文堂
「読んで覚えるドイツ単語3000」 岡田・畔上著 朝日出版社
「ドイツ語単語熟語臭」 安部賀隆著 第三書房
 「重要単語4000」は改訂新版が出ている。前半の2000語が普通の単語帳、後半はジャンルごとの単語。まず、こいつをノートに書いたりして前半をやる。同時に違うパターンで単語に触れる方が気分が変わって良いので「読んで覚える…」を並行して読む。こいつは、英語に似た単語、最重要動詞、旅行用、重要単語(これが普通の単語帳っぽい)にジャンル分けされている。この2冊が終わったあたりで、「単語熟語臭」にマーカーでチェックを入れながら再確認する。「例文で覚える…」は、高校時代に使っていた英単語集に雰囲気が似ていたので買ったが、あまり使わなかった(2000語レベル)。重要単語4000のかわりに使ってもよかったかもしれない。
 まあ、単語を覚えながら中級ドイツ語の研究を最初から(辞書ひきながら)やって、終わったところで「独文解釈の秘訣」で仕上げると、それなりに辞書無しで読めるようになる。教養の語学でドイツ語をやっていた場合、大体4ヶ月から5ヶ月かかる。
 なぜこんなことが必要だったかというと、博士課程の入試にドイツ語辞書無し2000語レベルの読解を課されて、しかも語学で足切りされるという状況だったからである。
 今回思わずドイツ語関連一式を引っ張り出したのは、ちょっと読みたい本があったから。ヘルマン・ワイル「空間・時間・物質」なのだが、昔は訳本があったはずなのに何となく買いそびれているうちに絶版となった。ところが、ドイツ語の原著”Raum Zeit Materie” Springer-Verlag が手元にある。で、今年は世界物理年だし読んでみるかと思ったのだけど、腹立たしいことに、院試以来ドイツ語を使うことが全くなかったので、昔さんざん苦労したのにきれいさっぱり忘れているんだな、これが。
 で、どうしたもんかと考えたのだが、とりあえず「中級ドイツ語…」と手持ちの単語帳のどれかはそのまま使ってもう一度やるとして、あと。トレーニングペーパーでも買って慣らしつつ、「独文解釈の研究」阿部 賀隆著(郁文堂)あたりを買ってやってみるとちょうどいいのかな、と思ったり。

 それにしても「ドイツ重要単語4000」は懐かしすぎ。1982年に第19刷発行のものだ。実はこれを買ったのは高校の時で、簡単な文法書も持っていた。いやなんとなく、英語以外の語学に興味を持った時期があって、参考書を買って読んでいた。それでも使わなければ忘れて終わりなのが情けない。そういえば、ペーパーバックの英語版ドイツ語参考書、捨ててはいないはずなんだが、ドコへ行ってしまったのだろう……。

知財の講習会

Posted on 5月 16th, 2005 in 倉庫 by apj

 通常実施権を確保して、他から邪魔されないようにするために、「確定日附アル証書」を作ろうという話。なので、ノウハウやら著作やら含めてどんどん報告しろということらしい。

東京行き

Posted on 5月 14th, 2005 in 倉庫 by apj

 前回に続いて誘っていただくことができたのでと学会に参加。終了時に推薦してもらって入会が認められた。ちなみに今日持っていったのは、文部科学省「心のノート」。

 帰りに本屋で、吾妻ひでお「失踪日記」を買った。あまりに真に迫った路上生活の描写は、まるで「路上生活サバイバルマニュアル」の趣があり、この通りに一度やって体験してみたいという衝動にかられた。

 中西氏の名誉毀損訴訟については、どうやら、市民団体が訴訟を利用して言論封鎖をもくろんだのではないかという節がある。中西氏の方も、民事訴訟に対して抱いているイメージが適切ではないと思うので、そのへんを今後コメントしたいなあ。そんなことを考えながら久しぶりに東武百貨店の本やを見ていて、「名誉毀損の法律実務」佃克彦著(弘文堂)を衝動買いした。新しい本なので、2ちゃんねるに対する訴訟の話も入っている。
 今考えているのは、この訴訟を授業のネタにすること。ググル八分の話題とセットかな。内容には踏み込めないので、(1)訴訟に対する偏見を持ってはいけないこと(民事訴訟とは何か、誰でも当事者になりうる、など)、(2)目的外の訴訟であっても提訴されたら戦略上言論を隠さなければならず、その中に必要な科学的情報が入っている場合もあること、つまり訴訟による言論封鎖があり得ること、(3)情報が無いからといって事実がないわけではないこと。探し方に工夫が必要(ググル八分、事件関係共に)、といったことをリテラシーの問題という観点から取り扱ってみよう。特に(1)は必須で、偏見をまず除去しないと、科学的情報の判断にたどり着かないこともある。

 昨日から読み始めたのが、スティグリッツの「人間が幸福になる経済とは何か」。スティグリッツの教科書の方も手に入れてるので、眺めつつ読んでいる。

「二十歳の民事訴訟」を!

Posted on 5月 13th, 2005 in 倉庫 by apj

 昨日に引き続いて、中西氏の訴えられている件について考えてみた( 掲示板 の方のVulkanさんとTamaさんのコメントが参考になった)。
おかしいと思うのは、どう考えても、名誉毀損訴訟としては、余分な話を出しすぎで、本来の趣旨から外れているという点である。
 民法で該当するのは

第七百九条  故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第七百十条  他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス

の2つである。ところで、名誉毀損は刑事でも定められている。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に同する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 この、刑法二百三十条の二は、民事の不法行為の判断においても同様に適用されるという判例がすでにある。
 松井センセがウェブであれこれ書かれてブチキレた挙げ句訴訟に走ったとして、原告側弁護士が「松井氏が個人的な名誉回復だけを求めて提訴したものではない。」なんて書くのは、一体何を考えているのかと思う。提訴する側の主張とは、普通は「名誉が毀損され、回復措置と損害賠償を求めてもちっとも相手が応じないから提訴する」ってな内容になるはずで、民事訴訟とは実際そういうものだと理解しているわけだが。大体、被った損害の回復以外の目的に裁判を利用するのは、明らかに裁判所の目的外利用である。法律素人の松井センセが言うのならともかく、代理人弁護士がこんなことを提訴の直後に言ったら、裁判官の心証をおもいっきり悪くしそうに思える。感情にまかせて原告がこういうことを言い出したら、弁護士が止めるものではないだろうか。被告側としては、「名誉毀損といえるほどの内容はそもそも無かった。本件訴訟は名誉毀損とは関係のないことを争うために起こされたので訴え自体にほとんど意味がない」てな主張だってできそうだ。そもそも、原告側弁護士が「松井氏は、研究者として、国民の一人として、中西氏のこのような誤りを断じて見過ごすことはできないものと考え、貴重な研究時間を割いて、敢えて本件提訴に踏み切ったのである。」なんて主張してるわけで、やりたいことは名誉の回復と損害の賠償ではないと明言してしまっている。仮に、論点をそっちに誘導したいという意図があったとしても(どんなメリットがあるのか全く謎だが)、あまり上手い方法とは思えない。
#まさかと思うが、松井センセがおかしな弁護士に入れ知恵されたってことはないよな?科学的に誤りを言ったって理由で簡単に訴訟に走るようでは、松井センセの研究者生命の方が先に終わるんじゃないのか。
 また、裁判所で取り扱えるのは、

裁判所法第三条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法 に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

とあるように、「法律上の争訟」だけであって、環境ホルモン騒動が済んだ話かどうかを司法で判断するなんてことはそもそもあり得ない。法律素人の松井センセが勝手に勘違いしたというのならわからないでもないが、プロはそんな勘違いはしないものだと思っていた。だから、この点でも、代理人弁護士が一体何を考えているのか理解に苦しむ。
 また、「公益性」を主張するとしたら、大抵は、名誉毀損で訴えられた側が、名誉毀損にあたらないことを言う時だろう。原告の方から公益性を主張して行う名誉毀損訴訟というのは、相当に変なことではないのか。
 ここらへんの感覚は、訴状や告訴状を書いてみればわかる。私自身、告訴状が終わって訴状制作中のまっただ中だったりするわけなんだが。
 ともかく、意味不明な訴えに至った経緯を読み返して、これは「訴訟のための訴訟」ではないかと思っていたら、掲示板の方で、「環境ホルモン騒ぎが終わっては困る人達が得をする」のではないかという指摘があって、なるほどと思った。さらに「中西先生が訴えられたということがメディアに取り上げられることが目的」だそうで、まだまだ「世間」に残っている「訴訟への偏見」を利用して、中西先生の信用を落とすことが目的ではないかという指摘もあった(そうなると、原告側代理人弁護士が環境カルトに関わってるかどうかもチェックポイントの1つになるだろう)。

 そうであれば、(環境問題は専門外の)私が個人的にこの件で(面識のまったくない)中西先生を応援する理由ができる。そこで、「二十歳の民事訴訟」が標語となるわけだ。

 もともと、「二十歳の民事訴訟」を言い出したのは、悪マニ掲示板の常連の「ものつくり屋」さんである。この標語の趣旨は、社会に出るときに一度は民事訴訟を経験しよう、という意味である。もちろん、現実に実行するにも、そうやたらと訴訟の原因が転がっているわけではないし、第一裁判所がパンクするだろう。この標語の趣旨は、社会に出る時に民事訴訟の仕組みをちゃんと知っておこう、という意味である。
 日本の法は、自救行為の禁止が原則である。つまり、穏やかに催告して応じてもらえなければ、強引に金払えなんてやってはいけなくて、訴訟をしなければならない。民事はとどのつまりは言った・言わないの争いで、法にのっとって裁判官を納得させた側が勝つ。普通に商売をしていたとして、代金を払わない奴にあたったら、払ってちょうだいって手紙出したり穏やかに催告したりして、それでだめなら裁判所を通して請求することになる。つまり、民事訴訟というのは結構身近なものである。だからこそ、現実にかかる費用と手間以上の「敷居の高さ」という偏見は無くす努力をしなければならない。また、訴え・訴えられたことで、訴訟外で不利益を被るような偏見も無くす努力をしなければならない。これは、嫌がらせで提訴される可能性の高いウェブサイトをやっている私自身にも関わる問題である。訴えるだけなら割と簡単にできるし、応訴する側はそれなりの手間も金もかかるから、嫌がらせとしてはそこそこ有効(ただし訴える側も金と手間がかかるしリスクも負うけどね)な方法でもある。

 中西先生には、ぜひきっちり応訴して、変な負け方をしないように最後まで戦ってもらいたいと思う。可能なら、訴訟の顛末を本にでもして世に問うてほしい。この手の本で関心したのが「判決 訴権の濫用」というもので、創価学会が巻き込まれた虚偽訴訟の顛末をまとめたものである。類似のものを出すことができれば、「訴訟に偏見を持つような人は縦書きの本にも容易にだまされる」ことが予想されるため、中西先生の被る不利益をメリットに変えることも可能ではないかと思う。

訴権の濫用じゃないのか?中西準子氏を名誉毀損で提訴

Posted on 5月 12th, 2005 in 倉庫 by apj

2科学と社会105120050512訴権の濫用じゃないのか?中西準子氏を名誉毀損で提訴95菊池さんのところのブログからたどって情報にたどりついた。
松井三郎京大大学院教授、中西準子氏を名誉毀損で提訴!の話だ。資料として全文引用しておく。  名誉毀損行為の中身が微妙っつーか、曖昧だなあ、と。はっきりしたことを知るには、傍聴に行くしかないのだろうけど、これって民事だし、準備書面の交換でほとんど手続きが終わるようなら行っても情報を得るのは難しそうだわな。
 中西氏が出したとされるウェブの内容と、原告側の主張に、訴訟になるほどの差があるように、私には見えない((3)名誉毀損行為の内容)。ここに書いてある内容って、原告側の主張だよね。それにしては主張が弱いような。  ところで、この、 松井三郎氏がどういう利害関係を持ってる人なのかということを特に知りたいと思った。つまり、「次はナノ粒子問題、というテーマででかいプロジェクトを動かそうというようなプランを持っていたかどうか」ということに興味がある。そういうことに何も関係がなければ、純粋に名誉毀損訴をしてみただけなんだろうけど、もしその裏側に、次にどういうプロジェクトに予算を付けるかといった政治的問題があるとしたら、話が違ってくると思う。この人が実際にどういうプロジェクトに絡んでたかということについては、広く情報を集めて共有しておく必要があるだろう。幸い、ネットという便利な道具もあることだし。コメントでもかまわない。「名誉毀損にならない」「事実に基づいた」情報がほしい。  サマリーを読んだ限りでは、原告側の主張には矛盾があると思う。提訴に至った理由の(1)では、要するに批判するときは慎重にすべしと主張している。これはわからないでもない。ところが、中西氏の方は詳細を調査中だったらしい。てことは、原告がやってることは「批判の時は慎重にすべきだが一度批判をした内容を撤回するときは慎重ではなく拙速にやれ」ということになる。何だかダブルスタンダード丸出しなわけだが。

中西氏のように、国の科学技術のあり方を決定する立場の人が、そのような誤った認識を持ち、その結果、国が政策決定を誤ることになれば、国民の健康や生態系に取り返しのつかない事態も招来しかねない。

 という意見はわかるが、その意見を通すための解決策が、民事の名誉毀損訴訟だってのは何か根本的に間違ってないか?中西氏が「環境ホルモン問題は終わった」と考えていたとしても、それこそ、これまでの研究経過によってどういう意見を持つかは科学者の自由のはずである。その意見に異議申し立てをしたいのなら、それこそ科学の土俵でやればよいのであって、裁判所でやるというのは、裁判所の目的外利用、つまり訴権の濫用じゃないかと思う。裁判所は学会じゃないぞ。それに、アレルギー性疾患の原因として環境中の化学物質の問題が「懸念されている」だけで、反対意見を持つ人に対して訴訟をしかけるというのは、ちょっと尋常ではないように思う。文章をそのまま読むと、中西氏が終わったと主張したのは「環境ホルモン」問題であって、「化学物質一般の害」ではない。どうも、巧みに、対象となる物質の範囲をすり替えているように見えるが、単にサマリーの文章がまずいだけなんだろうか。
2005年3月16日 本件名誉毀損裁判について
原告代理人 〒105-0004東京都港区新橋4-25-6ヤスヰビル2・6階
コスモス法律事務所
TEL03-3432-1475/FAX03-3437-3986
弁護士 中 下 裕 子
1.本件訴訟の概要 (1)当事者 原告:松井三郎・京都大学地球環境学大学院教授、文部科学省特定領域研究班(平成13~15年度)「内分泌攪乱化学物質の環境リスク」代表 被告:中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター所長、前横浜国立大学教授 (2)請求内容
11159375261118839109133.24.28.17/::/1116105世間のジョーシキ松井さんのプレスリリースの中身を検索してみると文科省の研究費による業績評価が下記で見られる。
www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/12/04120103/005/006.htm
高く評価されている。が中西さんの環境ホルモン研究評価(プレスリリースが言うところの)とは真っ向から対立する。ウーン!

訴権の濫用?という指摘に真実味がでてくるな。
ここに次の松井さんのナノの危険性を研究しようとする研究プロジェクトなどに(研費や京大COE研究など)松井さんの名前が出てくると、とっても危ないです。まさかですが、
プレスリリースはあまりにも正直に事情を告白してくれているのではないのですかね。まさに事象の地平線上になにかが霞んで見えてきませんか。このブログはなかなか中身が濃いい。1116493803218.137.150.57