成績不振のときの救済措置の今昔

最終変更 2026年05月14日

 昔の大学では、試験の成績が悪かった時に、担当教員を拝み倒して追試やレポートを出してもらうといった救済措置を求める学生がいたし、それに応じる教員もいた。就活が決まっているからと泣きついてどうにかしてもらうことに成功したという話も、昔話としては見受けられる。

 しかし、最近ではシラバスが厳格になっており、シラバスに書いた以外の方法での判定はできなくなっている。「千葉大教授が単位不正 停職処分、教員免許取得で」という報道があったので、こちらに貼っておく。

 シラバスに書いてある以外の判定方法をしたり、合理的な理由なく人によって異なった判定基準を適用したりすると、単位の不正認定として教員が処分されるということである。

 もう年数が経っているので個人を特定されることはなさそうだから書いておくと、私の講義の単位を取り損なったまま4年生になり、再履修したがやはり不合格という学生がいた。A君としよう。A君は4年生なので就職も決まっていたが、私の講義で単位がとれないと留年となり就活からやり直しになる状況であった。

 試験問題は、教科書の章末の演習問題で物質や数値を変えたものをそのまま出す・A4用紙1枚に作ったメモのみ持ち込み可能、と予告してあり、章末の演習問題さえ事前にしっかり自分で解いておけば合格できる内容であった。また、試験範囲の演習問題は講義期間中に宿題として解いてくるように指示し、授業日の何日かを使ってランダムに指名した人に解いてきた問題の答えを黒板に書いてもらって、間違いがあればその場で添削するなどして、みんなで答え合わせをしていた。決して理不尽に難しい問題を出したのではなかった。

 試験結果を知らせてすぐに、A君と同じ研究室のB君が私のところにきて「A君が就職も決まっているのに不合格になってとても嘆いているので何とかしてやってほしい」と言いにきた。事前に通知した方法以外で合格を出すと不正になるからできない、と伝えて追い返した。

 その後で、A君の指導教員のC先生が「判定を変えてくれというつもりはないがその……」という話をしにきた。判定を変えろとはさすがにはっきりは言えないので、まあ、大変遠回しな発言になっていた。

 最初に来たのが教員であれば、もしかしたらなにがしかの手当をする可能性があったかもしれない。しかし、教員が来る前に学生が頼みに来ていて、私は断って追い返していた。もし、この後で私が評価を変えたら、そのことはA君だけでなくB君にも伝わるだろう。B君はわざわざA君のことを頼みに来るぐらいに、A君とは親しい間柄だからである。すると、B君は、自分が頼み込んだことで評価が変わったに違いない、と思うことになるだろう。そして、B君が「頼み込んだら評価が変わった」ということをこの先死ぬまで秘密にしておけるかというと、甚だ心許ない。数年してどこかで酔っ払った折に「そういえばさあ……」と話し出さないとも限らない。この話が表に出たとたん、懲戒処分の対象になるのは私ということになる。そんな危ない橋を渡ることはとてもできない。指導教員から遠回しに言われても、お断りの一択しかなかった。

 遠回しに言いに来た指導教員は、私のことを頑固で融通がきかないと思ったに違いない。私からすれば、それはそっちの考えの足りない学生が早まったせいでこっそり評価を見直すというのが危険極まりないことになってしまったからで、私に頼みに来るぐらいなら、学生が早まった行動をとらないように監督しておくべきだったとしか言いようがなかったのである。また、わざわざ頼みに来たB君は、自分の行動によって、完全にA君の評価にトドメを刺したとは思ってもみなかっただろう。私からすれば、こいつは一体何がしたいんだ?だったのだが。

 ただまあ、こういう頼み込みがあったのはこのときが最後だった。その後まもなく、大学が、教務を通して書面で成績に異議申立をし、教員も書面で教務を通して回答するという方法が確立されて、教員同士や学生と教員が触接単位について話をするということは無くなった。個人に心理的負担を負わせるような交渉は間違いのもとなので、仕組みで防ぐのが良い方法であるといえる。