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【第6報】シリコン製剤の論文の方も何だかあやしい

note記事転載。初出は2025年12月14日。

 阪大小林らの出した特許で、論文のデータを0.9倍したものが特許の別試料の測定結果とされていたことは、既に第5報にまとめた。その後、特許を読んでいたところ、論文の方も実は怪しいのでは?という記述を見つけてしまった。
 もちろん、研究者に対して実は実験していないのでは?という疑いをかけるというのはそれなりに重大なことで、軽々しく言えることではないので、疑うだけの十分な根拠が必要である。第5報と一部重複するが、まとめておく。
 なお、第1報から第5報までは以下の通り。

  • 第1報 産学連携と景表法7条2項
  • 第2報 阪大が開発に関わったケイ素製剤水素サプリにいろいろと問題がある件
  • 第3報 阪大のケイ素サプリの水素捕集をした結果わかってきたこと
  • 第4報 サプリ屋さん向け:阪大のシリコン製剤水素サプリは裁判所公認の"効果保証なし"
  • 第5報 サプリ屋さん必読:いかにしてマルカンは阪大小林らのシリコン製剤に引っかかったのか

 

論文と特許の図まとめ

 第5報と重複するが、論文も実は怪しいのでは、という議論をするのに必要なので、論文と特許の実験条件がどうであったか、データ流用がどうであったかを、もういちどまとめておく。

[小林1] J. Nanopart. Res.19(2017)176

 測定した試料は、ミリング法でナノサイズに砕いたケイ素粒子に、フッ酸による表面処理を行い、エタノールをしみこませた後、異なった種類の水溶液に入れて、その後の水素発生の時間変化を記録したものである。反応時の温度は20℃、水素濃度の測定には東亜DKKの溶存水素計DH-35Aを用いた。ケイ素粒子の量は10 mg、液量は30 mLである。
 問題の図はFig.2である。図には4種類のプロットがあり、水素発生の少ない方から、超純水、水道水、pH 8.0の水、pH 8.6の水、となっている。
 pH 8.0とpH 8.6についてはホウ酸緩衝液を用いたとされている。
 この論文は2016年に投稿され2017年に掲載されている。

[小林2]ケミカルタイムス2019年10月号

 この報文の図1は、[小林1]のFig.2と同じものである。論文の内容を解説したのであれば、同じ図が使われていても何の問題もないが、実験条件として、pH 8.0とpH 8.6についてはKOHを用いたと書いてある。まったく同じ図なのに違う実験条件が書かれている。

[小林3]特許第6467071号

 14ページの【図2】が、[小林1]のFig.2と同じに見えるものである。傾きの小さい方から、参考例、実施例1、実施例2、実施例3、となっている。
 5ページから、実施形態についての説明があり、第1の実施形態はビーズミル法により粉砕したシリコン粒子をそのまま用いる、第2の実施形態は炭酸水素ナトリウムとクエン酸を粉末に混ぜて錠剤にしたもの、第3の実施形態は第2と同じでクエン酸の量を増やしたもの、第4の実施形態は第1の実施形態の粉末にフッ酸処理を行ったものである。
 実施例1〜3は、第1の実施形態によると書かれているので、フッ酸処理は行われていない
 グラフの傾きの小さい順にみていくと、参考例1は超純水、実施例1はpH 7.1の水道水、実施例2はpH 8.0の水酸化カリウム溶液、実施例3はpH 8.6の水酸化カリウム溶液となっている。また、反応の温度は25℃である。
 溶液の種類としては、[小林2」の方に一致している。
 そこで[小林1]のFig.2と特許の【図2】の画像を取り出し、縦横のスケールを合わせて重ねてみた。

図1

論文の図と特許の図のスケールを合わせて重ねた。論文の図の方がやや水素発生量が多いように見える。

 一見しただけだと同じグラフが使い回されたように見えたのだけど、[小林1]の論文の水素発生量の方が多い。そこで、[小林1]の図を縦方向に縮めて重ねた結果、およそ0.9倍すると、データのばらつきも含めて一致することがわかった。

 図2

[小林1]のフッ酸処理をした測定結果を0.9倍すれば、[小林3]のフッ酸処理していないケイ素粉末の測定結果にばらつきも含めて一致する。

 KOHとホウ酸緩衝液の記載の違い程度なら、うっかり書き間違えたということも起こりうる。しかし、フッ酸処理した試料で20℃で測定したデータを0.9倍してグラフを作り直してフッ酸処理していない試料の25℃での測定結果として出す、というのは、うっかりで済む話ではなく、明らかな捏造といえる。

[小林4]特許第6508664号

 [小林3]と同じ図、同じ実験条件が記載されている。
 上記捏造グラフは2度に渡って特許で使われたことになる。

 

論文の実験を疑う理由

実験装置と試料の量

 [小林1]の実験は、水素濃度の測定を東亜DKKのDH-35Aという溶存水素計を用いて行い、ケイ素粉末は10 mg、液量は30 mLであった。
 [小林3][小林4]には、もっと詳しい実験の方法が書かれている。

第1 の実施形態において説明したシリコンナノ粒子1 0 m g を散剤の状態で( すなわち炭酸水素ナトリウム粉末を混合することなく、また混錬することもなく) 容量1 0 0 m lのガラス瓶( 硼ケイ酸ガラス厚さ1 m m 程度、A S O N E 社製ラボランスクリュー管瓶)に入れた。このガラス瓶にp H 値7 . 1 の水道水3 0 m l を入れて、液温を2 5 ℃ の温度条件において密閉し、該ガラス瓶内の液中の水素濃度を測定し、これを用いて水素発生量を求めた。水素濃度の測定には、ポータブル溶存水素計( 東亜D K K 株式会社製、型式DH - 3 5 A ) を用いた。

 太字部分は筆者による。

 使ったスクリュー管瓶のメーカーや容量まで書いてあって随分具体的である。試料の量、測定装置が同じであることから、論文の実験と特許の実験は同じ方法で行われている(実際に実験されていればだが)はずである。

特許に書かれた実験は物理的に不可能

  まず、東亜DKKのDH-35Aは、カタログによると次のようなものである。

図3

 DH-35Aカタログより。

 センサー部分を金属製のフローセルに取り付けて使う仕組みである。東亜DKKに問い合わせたところ、液量30 mLを循環させるのは難しいし、循環させて測らないと正確な値は得られない、という回答を得た。
 特許の記述は、循環させずに密閉した状態で測定した、というものである(ま、まあ密閉しても攪拌して流れを作ればなんとかなるのかな……)。そこで、溶存水素電極がどうなっているかをカタログで確認した。

図4

 DH-35Aのカタログより。

先端部分は、金属製の電極らしきものが樹脂製のパーツの真ん中にはめ込まれている。樹脂の筒状の部分はφ30、先端から36 mmのところにφ48のフランジがある。電極だけを取りだして使えなくもないように見える。
 この樹脂部分やフランジを取り外せるのかどうか、東亜DKKに問い合わせた。フランジ部分は一体となっていて取り外せないし、樹脂の筒状の部分も外して使うことはできない、という回答とともに、電極の取扱説明書を送ってくれた。取扱説明書によると、電極の構造は次の通り。

図5

 東亜DKK溶存水素電極取扱説明書より。

 写真で樹脂パーツ中央に見えていた金属電極は作用極で、樹脂の筒内部に電解液を入れ、膜を被せて漏れないようにリングでとめてキャップで固定する、という仕組みである。つまり、外側の樹脂の筒を外せば壊す結果になって使えなくなってしまう。
 次に、AS ONE社のラボランスクリュー管瓶100 mLを確認する。細かいことを言うなら100 mLのものは実は存在せず、110 mLなのだけど、まあこのサイズを指して100 mLと呼ぶことはよくあること(私も過去によく使っていたけど、100 mLのを使う、って普通に言ってたし)。

図6

 

 サイズを見ると、口内径×胴径×全長:φ20.3×φ40×120mm、と書いてある。
 φ30の溶存水素電極は、口内径φ20.3のラボランスクリュー管瓶(100 mL)にどうやっても入らない。
 広口のスクリュー管が他にあるのではないかと探したが、大体この写真のような形状で、他メーカーのものでやや口内径の広いものも存在するが、それでもφ25(ウチの実験室の乾燥機の中にあったものをノギスで実測)だからやっぱり電極は入らない。
 スチロールスクリュー管瓶であればφ44×96 mmの100 mLのものが存在する。それでもフランジの部分がひっかかるので、口の部分から36 mmのところまでしか電極は入らない。この容器に30 mLの試料を入れたら、水素電極先端が液面に届かないのでやっぱり測れない。

論文の実験までが疑わしい理由 

 特許には、物理的に実行不可能な実験が書かれていることがわかった。そもそも水素電極がスクリュー管瓶に入らないのであるから、密閉して測定云々以前の問題である。瓶のサイズの数値だけならうっかり書き間違えることもあり得るが、特許では製造元と商品名まで特定しているので、全く別の製品でした、というのはまず無いだろう。
 特許用に、フッ酸処理していないケイ素粉末の測定をしていれば、論文の図の流用などせずに測定結果を載せるはずである。ところが論文の別試料のデータを編集したものが掲載された上に、実験方法も実行不可能な内容でああった。このことから、特許用の実験は全く行われなかったと判断するしかない。
 問題は、特許に実験方法が詳しく書いてあることである。行っていない実験で使った実験器具や方法は一体何に基づいて書かれたのか。論文のデータを流用したとしても、試料の量も測定装置も論文と同じだし、論文からあまり時間も経っていないのだから、測定の詳細の方も論文の実験をしたときのものをそのまま書くのが普通ではないだろうか。データを流用した上に、実験詳細としてわざわざ論文とは異なる内容の実行できないものを新たに作文して特許に書いたというのは考えにくい。特許に書かれた発明はシリコン製剤の製造と利用方法であって、シリコン製剤が水素を発生することの確認の手法ではないので、詳しく書いてその通りにだれかに実験されても、シリコン製剤の性能の確認に役立つだけであって、発明を真似されるおそれはないのである。特許を見て製品を買った人が特許に書かれた通りの測定をしようとしたときに、できないような内容をわざとに書いておく理由はないだろう。
 こうなると、[小林1]のFig.2の実験も実は存在しないのでは、という疑いが出てくる。出所が論文しか考えられない実験方法が物理的に不可能だからである。溶存水素電極がサイズ的にラボランスクリュー管瓶100 mLに入らないのであるから、器具を揃えて実験しようとした時点で誰でもできないことに気づく筈である。小林らは、器具を揃えて実際に測定したことがなかかったために、特許の方に詳しくやり方を書いたときにそれが実行不可能な内容になっていることに気づかなかった、という説明ができてしまう。
 さらに、間接的だが不自然というか何だかなあ、な点。DH-35Aはフローで測らないと正確な値が出ないというのが東亜DKKの説明であった。30 mLのサンプルを付属のセルで循環させることはできない。DH-35Aの溶存水素電極を口の内経がφ30以上の何かの容器の蓋に取り付けてシールし30 mLの試料を入れて測定、といったことは可能だが、こういった工夫をした場合は、追試ができるように論文にも特許にもその旨記載するものである。しかし論文と特許の両方ともそういったことは何も書かれていない。いずれにしてもフローでの測定でない以上、[小林1]のFig.2の値は不正確ということになる。グラフに一緒に描かれている曲線はモデルによるもので、測定結果によく合っている。不正確な値でもモデルがよく再現してしまっている。モデルに表現力がありすぎるとこういうことはしばしば起こるが、モデルが実験を再現できたということの方に意味がなくなってしまう。

 まとめ 

 まあこんなわけで、特許で流用された図の元になった論文の実験が本当に行われたのかを疑わざるを得ない状態である。絶対にできない実験方法が書いてあるのだから、あんたホンマに実験したんか?ってなるのは当然だよね。
 ところで、そもそもこのケイ素製剤に関わる羽目になったのは、2022年に岡山の企業から相談を受けたことがきっかけである。使えそうなら使いたい、と考えたその企業は、既に製品になっているサプリを購入して溶存水素電極で測定したら何も出なかった。そこでチェックしてほしい、といってもろもろが私のところに持ち込まれた。そのときに溶存水素系を借りて、お試しということでバッチで測定した。反応中は容器を密閉し、測る時だけ蓋を開けて水素電極で測定する、という方法で確認した。このときは、ある程度水素が出ていれば、蓋をあけたときに気相中の水素は逃げても液相中の水素が全部出て行くまでにはタイムラグがあるので、そのタイムラグの間に測ってしまえば、水素がそれなりに出ているかいないかぐらいは見当がつくはずだし、それで水素が出ているようならもっと正確に測ろう、というつもりでいた。溶存水素電極で水素が検出できなかったので、以後、水上置換で発生総量を見る方法に切り替えた。
 で、最初の溶存水素電極をつかった測定の話は別企業経由で小林らに伝えられ、小林らからの反論は私がやった方法では正確に測れない、というものだったらしい。それはその通りなのだけど、小林らも特許の方に、そもそも水素電極を入れられない測定法を書いていたわけで、測定が正確じゃないと言われても、何だかなあ、という感想しか出てこない。

 

引用文献

  • [小林1]Y. Kobayashi et al., "Hydrogen generation by reaction of Si nanopowder with neutral water", J. Nanopart. Res.19(2017)19
  • [小林2]小林悠輝他,「シリコン製剤による体内水素発生と医薬応用」ケミカルタイムズ,2019年10月
  • [小林3]特許第6467071号「固形製剤,固形製剤の製造方法及び水素発生方法」(発行日2019.2.6)
  • [小林4]特許第6508664号「経口製剤,飼料,サプリメント,食品添加物,健康食品」(2019.4.12)