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「花粉を水に変えるマスク」をめぐる追加の議論

【2019/07/04追記】

 ついに,というか,当然,というか,消費者庁の措置命令が出ました。宣伝が,景品表示法に違反する行為(5条第1号,優良誤認)にあたるというのが理由です。

 科学として実験が不十分あるいは実際に行っている実験とは違う条件で使って効果があるかのような宣伝に走っている様子だったので,危ないと思っていたら,案の定引っかかったか,というところです。

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花粉を水に変えるマスクに飛びついてはいけない」の関連情報。

この件については,景品表示法に抵触する表示で,それもかなり真っ黒だと考えざるを得ない。

ところでこのマスクについて批判的なことを書くと,信州大医の新藤隆行教授からいろいろ情報提供してもらえたりする。それも,じつはこんな開発をしていますといった情報にとどまらず,企業が訴訟の準備をしていますといった,ちょっと踏み込んだ情報までいただける。訴訟については,既に,新藤教授から「時期尚早だったと反省しております」というメールをいただいているので,改めて取り上げるのもどうかなとも思ったが,事は訴訟であり,一体他の何人にそのようなことを新藤教授が伝えたのか私には知りようがないので,同様のメールやメッセージを受け取った方のために,この件も含めてこちらで少し検討しておく。

結論を先に書いてしまうと,企業が新藤教授にじゅうぶんな情報を提供していないか,あるいは,企業のやっていることを新藤教授が正確に把握していない状態で批判に対して反論を送っているのではないかと思われる節があるので,とりあえず今のところ,話半分にきいておくとよい。そう考えるに至った理由はいくつかある。

新藤教授からいただいたメールには,花粉を水に変えるマスクという名前について,「”水に変える”というのは、あくまで、製品の名前」「製品のパッケージには、注意書きで、花粉のタンパクを分解するということであると書かれている」との説明のあと「これらのネーミングおよび注釈については、東京都薬務課および消費者庁との協議の上でのこと」と企業からきいている,ということが書かれていた。消費者庁がこのネーミングでOKを出すとはとても信じられないでいたところ,消費者問題に詳しい川村哲二弁護士もブログで,「効果の説明ではなくて商品名だから良いのだ、という珍解説もあるのだそうですが、商品名だからといって許されるものではありません」と指摘していた。これにOKを出す消費者庁の担当者が存在したとしたら,更迭すべきだろうが,さすがにその可能性は低いに違いない。そうすると,消費者庁との協議,ということについて,企業が新藤教授に実際には何をやったか伝えていないか,あるいは新藤教授がきいた内容を十分把握せずにメールを書いたのではないかと疑わざるを得なくなってくる。その後,新藤教授と何回かやりとりをしていて,私が,景品表示法7条2項の運用指針について書いてある消費者庁のページを示したメールを送った。そうしたら,新藤教授から,その内容を企業に伝える旨の返信が来た。これには驚いた。ネーミングの段階で企業が消費者庁と相談しているのであれば,企業は景品表示法7条2項の運用指針がどういうものであるか具体的に把握しているはず(知っていて相談にいったか,知らずに行って消費者庁から知らされたかどちらかになるはず)なので,今更企業に伝えても全く意味が無い。つまり,企業がネーミングを決めるにあたって消費者庁に相談済みだという話と矛盾する内容の返事が来たことになる。

「厚労省のPMDA(医薬品医療機器総合機構)の指導の下行われ、近く、医療機器として認可される見込み」と新藤教授は書き送ってきたが,実際にどんな医療機器として申請するつもりなのかという詳細には一切触れていない。何かの企業秘密に触れるため書かなかったのかと思って,私も敢えて触れずにいたのだけど,これもちょっとおかしな話である。

実は,縁あって,2017年の年末頃から,適格消費者団体の「消費者市民ねっととうほく」に検討委員として参加している。団体の主力は現役の弁護士や法律の研究者,消費生活相談員の方々で,私は,科学技術がからんだ表示が問題になったときに,法律家が検討するのに先だって調査をし協力をする立場である。守秘義務があるので詳細は書けないが,とある調査の過程で,医療機器認可について少し調べる機会があった。医療機器の区分は大きく分けて4分類で,クラスIからクラスIVにわかれている。クラスの番号が大きいほど,不具合があった場合に患者へのリスクが高い。認証の基本的な考え方は,たとえばここに出ている。一番リスクが低いものはクラスIで,一般医療機器に分類されており,届出だけで販売できる。クラスIIは管理医療機器に分類されていて,第三者認証をうけると販売できる。PMDAの審査が必要になるのは,クラスIIIとクラスIVの,高度管理医療機器に分類されるものである。何がどれに該当するかは,医療機器クラス分類表を見れば出ている。膨大な表なので,検索しながらエクセル表を追いかけ回して,商品がどの区分名称に対応するかをつきとめ,その区分に認められた効果効能を逸脱した宣伝があったかどうかを確認するというのが下調べ作業になるわけで,年始早々そういう作業をしていたところだった。それはともかく,PMDA申請が必要となる医療機器は素人が勝手に使えるようなものではない。そもそも,花粉症用(など,いわゆる一般人が薬局で買える使い捨て)マスクは区分に存在しない。PMDA申請中が事実であるとしても,その申請区分は,花粉症用の一般の人が薬局などで買える「花粉を水に変えるマスク」があてはまるようなものではあり得ない。ハイドロ銀チタンシートという材料を用いた何らかの医療機器が開発されPMDAの申請を行っているのが事実であるとしても,あのマスクそのものを申請しているわけではないだろう。だから,PMDA申請中を理由にして,マスクの機能に関連したハイドロ銀チタンシートそのものの花粉分解効果の情報提供を拒むというのは,やはり対応としておかしい。このあたりも,企業から,正確な情報が新藤教授に提供されていないのではないかと疑問をもったところである。うがった見方をすれば,企業が,PMDA申請を隠れ蓑にすれば詳しい情報を出さない理由付けができると考えた上で「花粉を水に変えるマスク」の販売を決めた,とも思えてくる。

景品表示法については新藤教授と他にもやりとりがあった。景表法は,表示の合理的な根拠を事実上販売開始時には備えていることを求めているということを伝えたところ,要求されたら出す合理的根拠として,新藤教授から実験結果をまとめたものを見せられた。確かにハイドロ銀チタンシートが花粉を分解する結果が書かれていたが,液相つまり溶液中での実験だった。そこで,景表法の不実証広告規制では,実際の使用条件と同じ条件で試験をした結果を備えていないとひっかかるので,もしこの結果を紹介するのであれば,景表法的に問題があるということも指摘せざるを得ない旨返信したところ,やはり内容は出さないでほしいと言われた。そのときに,企業はもっと他に情報を持っているかもしれない旨のことも書いてあった。このことから,せっかく企業を擁護する立場でがんばっている新藤教授に,企業が十分な情報を伝えていないのではないかという疑問を持った。

それから訴訟の話。これは私が受け取ったわけではなく,桑満先生にメッセージが届いたというもので,新藤教授からの文言には,批判的なブログの内容に修正を求める内容とともに

未だに検討して頂いたはずのブログの方の修正を頂いておりませんが、すでにツイッターやネットニュースを通じて、多くの人に先生を震源とする風評が拡散されてしまいました。弁護士との協議の結果、DR.C医薬およびコラボ企業40社より、五本木クリニックに対する集団訴訟を行わせて頂く様に進行中です。よろしくお願い致します。

とあった。これを桑満先生から知らされたので,私は,批判に対し企業が集団で訴訟をちらつかせるというのは一種の恫喝であり,そういう企業は反社会的な行動をする要注意企業として広く社会に知られるべきであると考えたので,40社の名前をまずは明らかにするように新藤教授に求めた。そうしたら,新藤教授の回答は

訴訟の件を伝えたのは、私も時期尚早だったと反省しております。 40社は具体的な企業名を知らされた訳ではありません。 私が、心配してメーカーに相談したところ、 あまりにひどい誹謗中傷への対応は、コラボ企業40社と弁護士を交えて、こちらで検討していますので、心配しないで下さい。 と、伝えられたのが事実です。

というものであった。桑満先生のところに書かれた内容からうけるイメージとはだいぶ違っていた。あとの方の文面からは,原告になる予定の企業がどことどこで,現在どこまで進んでいるのか把握していないことがわかる。従って,桑満先生以外で,新藤教授経由で訴訟云々のメッセージを受け取った方がおられたとしても,びびる必要は全くないということを改めて注意喚起しておく。なお,この訴訟云々の件については,新藤教授から謝罪があったと,桑満先生から教えていただいた。

 というわけで,「こういう事情なので限られた情報の中で本日のような表現は控えて頂けないか」という新藤教授からのメッセージは,そっくりそのままご本人にお返ししたい。


ハイドロ銀チタンシートそのものは,シーズとしては良さそうである。また,開発を行っている企業に長野県の企業が加わっており,信州大学の地域貢献を兼ねた産学連携のテーマの一つなのだろうとも思う。こういったことは,今,全国各地の地方国立大学法人に,まさに求められている活動であり事業であるといえる。そうであるからこそ,景表法的に問題のある宣伝はやめていただきたい。また,批判的な情報に対して反論を行う時は,状況を十分に把握してからおこなって戴きたい。不十分な情報に基づく反論や,景表法に抵触しそうな宣伝といったことが頻発すると,国立大学法人の地域貢献・産学連携事業そのものに対する社会からの信頼を損なう結果になる。