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特命リサーチX「磁石で二日酔いが防止できる」(2002/01/21)

 特命リサーチXで「磁石で二日酔いが防止できる」という放映があったそうです。私自身は番組を見ていないのですが、ツッコミどころは満載のようです。

 この番組に関連して、当ページの読者の方から質問やコメントをいただきましたのでここにまとめます。

 まず、いただいた質問の一部から。

また本日(1/20)のテレビ(特命リサーチ200X)で、磁石(磁力)で水分子を振動させて大きなアルコールの分子を小さくすると身体に吸収しやすく二日酔いしにくいと言っていました。

そこで、質問なのですが、この場合の大きな分子というのは、浄水器の宣伝文句のクラスターとは違うのですか?
それともアルコールの場合は水とはちがうのでしょうか?
根本的に私の解釈が間違っているのでしょうか?

最後に、空気にもクラスターはあるのでしょうか?
実は、空気のクラスターを細分化してよい空気にするという宣伝文句を見たものですから・・・。

 アルコール(エタノール分子)の大きさが変わることはありません。分子そのものの大きさが変わったという話なら、それはもはやエタノールではありません。分子集団の大きさが変わという話なら、いわゆるクラスターの話ではないかと思われます。しかし、水であってもアルコールであっても、液体の状態でクラスターの大きさを直接測定する方法はありません。

 磁力が交流磁場で、かつ著しく強い(ネオジウム磁石で出せる程度の磁場)なら、水が反磁性体であることを利用して、磁場の強弱によって水を揺さぶることは可能でしょう。でも、その効果は普通にスプーンでかき混ぜる方がずっと大きいはずです。

 水とアルコールがミクロに見た場合均一に混じっているかどうかは、昔から興味が持たれてきて、今も研究テーマの1つとなっています。アルコールの濃度によって、ミクロに見た場合の混じりやすさが変わっている(濃度揺らぎが変わる)というのが、小角X線散乱や、Raleigh-Brillouin散乱という方法で観測した結果で、定性的に一致しています。でも、この混じりやすさの違いは、アルコールと水それぞれの性質から決まるものであって、外から磁場や電場をかけたることで状態を変えて、それを保つようなことはできません。

 空気についてですが、室温では多分ないと思います(正確に調べるには、空気のマイクロ波分光をやって、空気、つまり窒素や酸素や二酸化炭素の回転スペクトルを測定するとわかります)。空気の分子(窒素、酸素、二酸化炭素)同士の相互作用は、水分子間の相互作用とくらべてずっと弱いので、室温ではクラスターを組めません。今までの物理化学では、空気を構成している分子が室温でクラスターを組んでいるというのはまずあり得ない話ですし、そのような実験事実はありません。しかし、うんと低温の、液体窒素とか液体酸素が存在する温度ならありそうです。つまり、液体窒素の表面から窒素がどんどん飛び出しているところでは、塊で出ている可能性はあります。また、湿気(水蒸気)については、水分子が何個かまとまって飛んでいそうだという測定結果があります。

 第一、もしアルコール分子が吸収されやすかったら、酔いが回るのが早いってことですよね。番組の主張だと、二日酔いの原因って、アルコールの吸収が遅いことによって起きるかのように受け取れますが、そんな説は初耳です。真面目に考えると、同じ量飲んで吸収が早かったなら、酸化されてアセトアルデヒドになるところで、アルデヒドの濃度の立ち上がりも早いはずだから、二日酔いはともかく悪酔いしやすい酒ということになりそうですが・・・・。

 

 

 別の方からのメールはこんな内容でした。

磁力によってお酒の分子集団が小さくなるという内容で二日酔いが軽減されるなどというてますが、水の場合はともかく、溶解物の場合の分子集団は測定可能であってまたそれを磁力によって細かくしたりできるものなのでしょうか?

ちなみにこの御高説は 元東京農工大学農学部 武永順次教官 がおっしゃっておられるものでした。クラスターの話を信じた人リスト の上部に名前が挙がっている人ですね。

その数値の変化というのは、同じ酒を10分間磁石を底に置いたビーカーに注ぎ液体密度計なるもので分子集団の変化を計測した結果を見ると解るらしく
計測値は
処理前 0.99610g/cm3
処理後 0.99627g/cm3
となっていました。

この数値、素人が見て何がどうだとわかる人がいるのでしょうか…。
アルコールみたいな揮発成分がある試料なのに、大気に解放した状態で実験していたのも気になる所なのですが…。

この実験の検証で、8人のサンプルに対し、未処理の酒と処理した酒を中1日あけてから飲ませて呼気中アルコール濃度と血中乳酸濃度を測定し、各々が下がったという実験でした。
(ちなみに呼気アルコール濃度はピーク値で0.45mg/lが0.28mg/lになっており乳酸濃度は3.0mmol/l から 2.8mmol/l になってましたが、これまた医者でもない人間がみて有為差といえるかどうか…。)
8人のサンプルで何が正しいというのか…。
それにしても血中乳酸濃度を測定しているのに、アルコール濃度が呼気なのか激しく疑問です。採血しているなら血中アルコール濃度の方が正確だと思うのですが。


さらに備前焼からは電磁波が出ており(その原因は不明だそうですが、こちらは岡山理科大学理学部応用物理学科 光藤浩之(MITUDOU HIROYUKI)名誉教授の説)

こちらの測定結果は
処理前 0.99610g/cm3
処理後 0.99634g/cm3
となってました。

放射線ならともかく、電位の変動がなさそうな固体から電磁波が出続ける事が有り得るのでしょうか?
ちなみにこちらの御高説ではこの電磁波が水分子に振動を与え、アルコールの分子集団を小さくするとの事でした。
(だったら燗酒にすればいいじゃない?と思った私は間違ってますか?)
ついでに味もまろやかになるそうで、水がダメなら酒っていう事なんでしょうか…(笑)

ということで、液体密度計でアルコールの分子集団の大きさがわかるかどうか、簡単にお教えくだされれば幸いです。

 溶解物の場合の分子集団の測定ですが、未だに定説はありません。水・エタノール水溶液は昔から興味が持たれて、計算機実験も、X線や光による測定もなされており、いろんなモデルが提案されていますが、誰もが認める決定打となる説はまだ出されておりません。出てたら私がそれを引用して論文を書いていますよ。水とアルコールのミクロな混じり具合についての実験は、私も光を使ってやっていますから。密度の測定でミクロな液体の混じり具体がわかるようなら、誰も苦労して小角X線散乱を測定したり、Rayleigh-Brillouin散乱を測ったりしませんし、それが論文として認められることもないでしょうよ。

 一般に、磁力をかけても分子レベルで混合状態を変えるような効果はありません。普段我々は水溶液を作るときに、マグネチックスターラーで攪拌します。これは、スターラーバーという、永久磁石をテフロンで覆った棒をビーカーに入れ、ビーカーの下で永久磁石を回すことで、棒を回転させて、中の液体をかき混ぜるという実験器具です。変動磁場も永久磁場も試料液にかかりまくりです。スターラーバーにはいろんな大きさがあり、磁力の強さも違いますが、バーを変えたからといって、混合状態が変わって実験結果が変わったという話はきいたことがありません。この装置は、化学・生物の広範な分野で使われていますから、永久磁石が原因で液体の性質が変わるなら、他の多くの実験結果でそれが観測されるはずです。現実には、そんな話はありません。

 お酒のような、フタを開けておくとアルコールがどんどん蒸発するようなものの密度を測定するのに、フタを開けたままにして測定値の4桁目を議論するというのは、実験として問題がありすぎます。とても信頼できそうにありません。

 アルコール濃度についてもおっしゃるとおりだと思います。血中アルコール濃度で見るべきです。できれば、アルデヒドと酢酸濃度も測定し、酸化されていくプロセスの各段階で違いがあるか、などをみないとわからないと思います。また8人というのも少ないでしょう。さらに、人間の体の慣れを考慮すると、正しい実験は、試験する人を半分に分けて初日には半分の人に処理した酒を飲ませ、残る半分には処理しない酒を飲ませる、1日おいて今度は酒を入れ替えて飲ませる、という実験をする必要があると思います。これで、統計処理できるだけの人数で試験をすれば、アルコールに対する慣れの効果を除去できると思います。

 備前焼と電磁波の件ですが、電磁波をどう考えるかによります。黒体輻射という現象があって、ある温度の物体はかならず電磁波を出しています。室温付近だと遠赤外線を中心とする波長の電磁波です。熱の伝わり方について、教科書では、伝導・対流・放射という3つが出てきましたが、「放射」というのがこの黒体輻射のことです。部屋の中に備前焼の壺を置いた場合、壺からも電磁波がでますが、部屋の壁や天井からも出ています。壺の温度と部屋の温度が同じなら、どちらかが電磁波を片方に浴びせかけるような関係にはなりません。部屋の壁から出る電磁波のエネルギーと、壺から出る電磁波のエネルギーは、部屋をある温度に保つために入れた、日光や暖房装置から供給されたものです。ですから、別にエネルギー保存則に反するものではありません。備前焼を宇宙空間に持っていって、太陽の光の届かないところに置いたとすると、温度が下がって遠赤外線の放射も無くなり・・・・それっきりです。

 大抵の場合、電磁波が出ているというときは、室温で出ている黒体輻射以上の何かを出している場合を指します。上記のような主張をしている方に突っ込むと、黒体輻射の話をして言い逃れされる可能性もありますね。

 外部から備前焼に余分にエネルギーを供給して備前焼の温度が室温より上がれば、備前焼から遠赤外線や赤外線が放射されて、部屋の空気や壁を温めることになります。備前焼ヒーターということになりますね。それ以外では、備前焼の中の放射性同位元素の崩壊でガンマ線が出てきてそれが他の物質に突き当たって・・・最終的には熱になる、てのがありますが、そういう過程を熱で吸収するのは変化が小さいからほとんど無理でしょう。素直にシンチレーションカウンターでも構えるべきです。