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隠蔽を疑う、その前に

はじめに

 これを書くにあたって、まず、私の立場をはっきりさせておく。私はここ数年、全学のハラスメント防止委員をしており、今年度からはハラスメント相談員でもある。

 工学部でアカデミックハラスメントが起き、学生の自殺という結果を引き起こしたという報道が河北新報によって繰り返し行われている。報道内容が、大学が事件を隠蔽しようとしているのではないかと疑う立場でなされているため、誤解を生じているのではないかと考えたので、いち委員から見たハラスメント対応について、学内外に向けて説明しておきたい。

 まず、工学部のハラスメントの状況がどうだったかについては、ハラスメント防止委員にも詳細は全く知らされていない。この件は総務担当理事が全て対応することになっていて、外部の法律家による第三者の調査委員会を作って聴き取り調査などを行う、ということを知らされたのみである。つまり、新聞報道以上の情報を持っているのは担当理事のみという状況である。

河北新報の記事

河北新報の記事で、いくつか気になったものを引用しておく。

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201708/20170804_53007.html

<山形大アカハラ自殺>学長「一般論としては申し訳ない」

 「一般論としては申し訳ない」「規則に従って非公表」-。アカデミックハラスメントを受けた男子学生の自殺について、山形大の小山清人学長は3日の定例記者会見で、質問した記者たちも首をかしげるような答えを連発した。
 学生の自殺や助教の実名を公表しなかった理由を「個人情報保護が最重要」と説明。だが、「保護すべき個人情報は助教か学生か」との質問には「ノーコメント」と口をつぐんだ。
 自殺した学生の両親への思いを問われると、「一般論として学生が亡くなったことについて申し訳ない。裁判の話とは別個。一般論としては申し訳ないと思っている」と話した。
 山形大では2004年8~10月、報道機関の情報開示請求などで教職員によるセクシュアルハラスメント6件が相次いで発覚。再発防止のため、重大事案は学長判断で被処分者を実名公表できるとした「キャンパスハラスメントの防止等に関する規則」を策定した。
 ところが、小山学長は助教を懲戒処分とした際に匿名で発表した理由を「規則に従った」と言うだけで、実名公表しない理由への言及を避けた。
 学生の命を守り切れなかったことに関しては、「学長の責任はケース・バイ・ケース。裁判で大学に責任があるとされれば(学長にも)責任があると思う」との考えを示した。

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201708/20170804_53008.html

<山形大アカハラ自殺>非公表は「時代錯誤」学生ら、大学の姿勢疑問視

 アカデミックハラスメントが原因で山形大工学部の男子学生が自殺した問題で、同大の学生たちからは3日、自殺した学生を悼むとともに、情報公開に消極的な大学の姿勢を疑問視する声が上がった。
 大学は助教の懲戒処分を発表した際にも学生の自殺を伏せ、1年半余り明らかにしなかった。工学部3年の女子学生(21)は「今どき隠そうとするのは時代錯誤。研究成果のようないいことばかり公表して、嫌なことは表に出さないという姿勢はいかがなものか」と対応を疑問視した。
 「自殺について全く知らなかった」と話すのは工学部2年の男子学生(19)。大学は今後の学生への説明に関し、訴訟の判決を踏まえて判断する方針を示しているが、「裁判になる前に事実関係は公表すべきだ。事実だとしたら、自殺した学生が気の毒すぎる」と思いやった。
 大学が学生の自殺を防げなかったことへの懸念も広がる。医学部1年の女子学生(19)は「とてもショック。大学には自殺を未然に防ぐ対応を取ってほしい」と訴えた。

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201708/20170805_53030.html

<山形大アカハラ自殺>「ばれたら進級できない」学生、報復恐れ相談せず?

 山形大工学部(米沢市)の男子学生が助教のアカデミックハラスメント(アカハラ)を苦に自殺した問題で、学生は自殺前、ハラスメントに関する学内の窓口に相談するよう勧めた父親に「(助教に)ばれたら進級できなくなる」という趣旨の話をしていたことが4日、大学が設置した第三者調査委員会の報告書で分かった。学生が誰にも相談できないほど、助教の報復を恐れていた可能性が浮かび上がった。
 学生は3年生だった2014年度の後期、希望する研究室に進めず、助教の研究室への配属が決まった。助教の評判が悪いことを知って思い悩んでいた際、父親が窓口の利用を促した。学生は4年生になった15年4月から、助教の研究室に所属。助教は長時間の説教をするなどのアカハラを繰り返したとされる。
 両親は調査委の聞き取りに対し、学生が15年8月に大学院入試を受けた際も、周囲に「(助教に)何を言われるか分からないから」と言って、大学院での研究室変更を希望しなかったと話している。
 両親は大学と助教に損害賠償を求めて山形地裁に提訴。調査委の報告書は自殺とアカハラの因果関係を認定しており、7月25日の第1回口頭弁論で証拠として提出された。大学側は答弁書で、報告書は「聞き取りが不十分」などとして因果関係を否定している。

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201708/20170827_53037.html

<山形大アカハラ自殺>アドバイザー機能せず 両親、学生自殺前に相談

 山形大工学部(米沢市)の男子学生が2015年11月、指導教員の助教によるアカデミックハラスメント(アカハラ)を苦に自殺した問題で、学生の自殺前に両親が相談した教員3人のうち、最初の1人は大学側が学生の相談相手として指定した「アドバイザー教員」だったことが26日、大学が設置した第三者調査委の報告書で分かった。
 アドバイザー教員は学業や就職、人間関係の悩みなど、大学生活全般の相談相手となる教員を学生それぞれに指定する制度。専門的な対応が必要な場合、担当者に取り次ぐことになっており、調査委は報告書で「制度が全く機能していなかった」と指摘した。
 報告書によると、学生の父親は15年5月、学生が助教からたびたび人格を否定するような発言を浴びせられ、悩んでいることをメールでアドバイザー教員に相談。教員は「様子を見ましょう」という趣旨の返答をし、学部内のハラスメント担当者らに伝えなかった。
 両親は工学部後援会と保護者会の場で、別の教員2人に相談したものの、いずれも学部の担当者らに伝わらなかったことも報告書から明らかになっている。
 山形大によると、アドバイザー教員制度は04年ごろにスタート。アドバイザー教員には、受け持ちの学生に成績表を手渡す役割もあり、相談がない場合でも年2回は学生と接触する機会が設けられている。

なぜ非公表なのか

 報道では、学長の説明があまりにも木で鼻を括った内容になってしまっていて、冷淡な印象を与えているのはちょっとまずいと思う。

 保護すべき情報が、学生の個人情報であることは間違いがない。今回は、研究室内の話で、自殺という結果が生じているので、助教の名前を特定したら、学生の名前もほぼ自動的に特定されてしまう。今はSNSが発達していて、野次馬もいっぱいいるので、学生の名前が特定されたら、自宅やら修学状況やらの情報を掘り起こして広める人は確実に出てくる。そうすると、助教が非難され学生に同情する意見が出てくるだろうが、その一方で、これまでのネット言論の常として、学生が悪いとか能力不足などと中傷する意見も出てくることが予想される。特定されたことで、学生への2次被害(正確には、故人への中傷や名誉毀損という形での遺族への2次被害)が発生する可能性は高い。学生の間の噂話やSNSや掲示板などで個人名が出回るのを止められないとしても、それはあくまでも噂に過ぎない。大学が改めて誰の話であるかをオーソライズしてしまうのとは意味が違う。個人を特定した結果2次被害が生じたら、その責任の一端は大学にあることになるが、大学としてはそれは避けたいだろう。

 遺族と大学の間で訴訟になっているにもかかわらず、遺族としては、今のところは名前を出して積極的に大学を非難する考えはない様子である。ウェブでは見つけられなかったが、河北新報の紙面に掲載された記事には、河北新報の記者が遺族に取材したところ、応じてはもらえず、遺族代理人弁護士から、取材で接触しないように申し入れられたとあった。

 河北新報の記者は私のところにもやってきた。少し話をした時、記者の方は、この件をなんとか問題にしたい旨のことを言っていた。これが、記者個人の考えなのか新聞社としての方針なのかまでは確認していない。この件については情報がほとんど出て来ない、ということを記者は言っていた。この件を社会問題にしたいのは遺族の方針ではないのかと思って、遺族が積極的に大学の責任を追及したいのなら記者に詳細を伝えるのではないですか、と尋ねたら、遺族は取材に応じないという答えだった。私が聞いた話と紙面の内容は一致しているので、遺族としてはマスコミに詳細を話して大学の責任を大々的に追及するというつもりはないのだろう。この状況で、一方当事者である大学がしゃしゃり出て誰の話で何があったかを公開するのは、遺族の意志にも反することになる。

 また、第三者調査委の判断と裁判所の判断が一致するとは限らないので、法人責任者の学長としては、現段階では、裁判所の判断に従う、以上の方針は示しようがないだろう。

ハラスメント対応手続きについて

 これはハラスメントではないか?という事案があった場合、手続きの最初は、各部局のハラスメント相談員に申し出ることである。申し出は本人が直接行う。申し出を受けた相談員は、概要を聴き取って記録にまとめる。この入り口に辿り着いてくれないことには、ハラスメント対応の手続きを用意した側としてはどうしようもない。相談員や防止委員が職権で調査する仕組みは無い。なお、相談員には守秘義務が課せられるので、今回のような、某助教に酷い扱いをされてます、という場合、相談員から当該助教に話が漏れることはない。漏らせば相談員が処分対象になる。

 だから、記事中の、アドバイザーがハラスメント担当者に伝えなかった、というのはちょっと違っていて、本人にハラスメントとして申し出るように促さなかった、という問題である。アドバイサーに相談員のところに来られても、相談員としては、本人が来るように促してくれ、としか答えようがない。現状では、本人が申し出る、という規則になっている。

 調査委員会の設置はさまざまで、学部に設置することも、特別委員会になることもあり、どちらの場合も、学外の第三者を入れることができるようになっている。また、学部内に調査委員会を設置した場合も、学部内の人間関係だけで恣意的な判断がなされないように、他学部や他部局の委員がメンバーに入ることになっている。それでも、学部だともみ消されるかも、という場合は、特別委員会の設置を求めることもでき、この場合は直接本部(総務担当理事)が対応する。

 つまり、規則に定められたハラスメントの対応手続きに一旦乗ってしまえば、隠蔽というのは極めてやりづらい仕組みになっている。規則を作る側だって、人間関係やら力関係やらで隠蔽が生じうることは予想しているし、規則の利用者に隠蔽を疑わせるようではせっかく作った手続きの意味がなくなるから、極力そうならない・疑われない規則を作ることになる。

 調査委員会を設置した後は、事実関係の確認のために関係者を呼んで聴き取り調査が始まる。このときも、関係者全員に守秘義務があることを伝えると同時に、証言等によって不利益な取り扱いをしないということも伝えられる。呼ばれて話を聞かれたこと自体が秘匿対象だから、仮に今回のようなケースで某助教が呼び出されたとして、そのことを理由に当該学生に当たるということはできないし、それをやらかせば、後でハラスメント認定で何らかの処分ということになった場合、処分はもっと重くなるだろう。常識的に考えると、まずは、手続きの結論が出るまで接触は避けるようにということが、管理職経由などで伝えられるはずである。

 最終的な結論や対策がどうなるかは、ケース・バイ・ケースである。が、教員対学生で教員が加害者として申し出された場合、その学生が学業を続けて卒業できることを最優先にして対応する。これまでに私が関わったケースでは、どれもそうなっている。また、これはハラスメントではなく教務で対応すべき事案だろうというものもハラスメントの手続きに乗ってくる。教務の問題を個別対応するルートが無いため、人間関係の感情的なトラブルに起因するものだけではなく、研究室でひどいストレスを感じる状況だとか、成績判定が不当過ぎるといった話に至るまでが、全部ハラスメント申し出のルートに乗ってくるというのが最近の状況でもある。そうすると、これは単に教務の問題でハラスメントではないという結論になったりするが、その場合でも、問題をそのまま放置はしていない。

 記事によると、報復を恐れてハラスメントの相談をしなかったとあるが、委員会としては当事者が報復を行う展開も想定している。だから、ハラスメント相談の手続きにのせてくれてさえいれば、まずは当人たちを接触させない措置、次は当該助教と今後一切関わらなくても単位取得できる措置、例えば卒業研究の指導教員の変更や成績判定の担当教員の変更、そういった変更に伴う不利益を最小限に抑えるようなフォロー、といった対応も取れたはずである。卒業研究の配属の方法は学部や学科の申し合わせで決めているが、絶対ではない。教員の転出やらその他諸々の理由で途中で指導教員を変更するというのはよくあることである。大学院進学だって、学内の別研究室に進学してしまえば、某助教に何を言われようが何の効力もない(∵成績判定は別の教員がやるから)。それも面倒なら、他大の大学院に進学するという手もあったはずだ。このあたりの対応は、実際の運用がもっと知られていれば、ハラスメントとして相談したら進級できなくなるという判断にはならなかったのではないかと思う。もどかしいことに、特定の教員との接触なしに学業を続けられるような措置をとった実績が過去にあったとしても、個別の事案への対応の具体的な内容は一切明らかにできない。委員からの各学部への教授会報告でさえもできない。このため、手続きを信じてもらうための情報が十分提供できていなかったのではないかというのが悔やまれるところである。私が見た限りでは、ハラスメントだという判断にならなかった場合でも、ワンストップのトラブル解決システムとしてそれなりにハラスメントの相談制度は機能しているし、このことはもっと知られた方が良いと思う。

隠すことで守っているものは何か

 記事にあるように、事実関係を公表すべきだという学生の意見は分からないでもない。が、大学にとってまずい情報だから公開しないのかというと、そういう理由ではないと私は考えている。

 年度の初めにキャンパスハラスメントの防止委員会があって、前年度に申し出があった事案一覧(個人情報は抜いてあるが学部などは記載)が配られるが、その一覧は回収され、各学部への持ち帰り報告は申し出の件数のみとすることになっている。その一覧は、教員にとって今後気をつけるべき参考になる情報が出ている資料でもあるのだが、秘匿せよという指示があるため、一切共有もできず活用もできなくて困っている。が、見方を変えればそれもやむを得ない面がある。個人名を出さない情報でも、簡単な状況の説明があれば、当該学部全員でそれを共有すると、多くの場合、誰と誰の間の何の話か、大体の見当がついてしまう。相談の時に秘密は守りますと伝えてあるのに、後から名前を伏せた情報共有で推測できて分かってしまうというのは非常にまずい。

 それでも、教員の無茶振りが原因です、という事案については、共有して教員全員で教訓とするメリットはある。しかし、同じ相談のシステムで、セクシャルハラスメントも取り扱うのである。そして、どういう事案であればどこまでの情報を後で共有する、という明確な基準は定められていない。可能な範囲で情報を共有する、とした場合、それが相談者の予想に合致するとは限らない。相談者が予想している範囲と異なる情報共有をしたら、新たなトラブルの原因になるだろう。もっと大事な問題は、後の情報共有でなにがしかの推測が可能になるという運用をしているシステムを、たとえば深刻な性被害を訴えるのに使えるか、ということである。情報を秘匿することで守りたいものは、大学の評判ではなく、今後新たな事案が発生したときに安心して申し出してもらえる学内の環境の方であろう。

 学生から見ると、大学の情報不開示は時代錯誤に見えるのだろう。しかし、今回の事案を第三者の学生が満足いく程度まで公開した結果、「申し出すると後で内容がある程度は公開されて新聞記事にもなるかも」ということが既成事実になって、次に起きるトラブルが相談しづらくなってしまったのでは、制度を作った意味がない。大学による隠蔽を疑うまえに、このことを考えてみて欲しい。

河北新報の報道に疑問

 新聞社が事件を取材して、広く社会的な問題にするというのはそれが仕事だから理解はできる。

 ハラスメントが原因の自殺が疑われる状態になったのだから、遺族が大学の対応に納得できず、責任を追及したいとか、真相を明らかにしたいという気持ちから、マスコミに対して大学を批判したり非難したりするメッセージを出した結果の報道であるというのであればわかる。大学の訴訟のやり方が責任逃れに見えるからやっぱりマスコミにも告発するわ、となったならばそれもわかる。しかし、今回、遺族の態度は全く逆である。当事者双方が情報を出したがっていない上、裁判所で責任をはっきりさせることになっている(つまり大学が隠蔽はできない状態)であるのに、第三者である河北新報が積極的に問題として取り上げようとしている。その理由がわからない。

 現在、遺族と大学の間で訴訟になっているが、どういう内容で争っているかという情報は全く開示されていない。河北新報も内容を把握してはいない。遺族の側がどういう意図で訴訟をしているかも明らかにしていない。つまり全く情報が無い。

 一般的に、このような事案が起きた時に提訴する理由としては、さまざまなものが考えられる。大学の責任を追及したいとか、大学からの説明が足り無いから訴訟することで状況を知りたいという目的で提訴する場合もあるだろう。だが、民事訴訟そのものは、被害を全て金に換算することで争いに決着をつけるという、情緒の介在しない、ある意味身も蓋もないシステムである。訴訟の過程で証拠がいろいろ出て来てそれによって当事者が納得することがあったとしても、訴訟という制度そのものが持っているこの性質は変わらない。そうである以上、賠償金の額で遺族と大学の折り合いがつかなかったから訴訟になっているという可能性もある。もちろん、まだ他にも理由はあるかもしれないが。

 目下のところ、訴訟に至った理由は河北新報も掴んでいない。責任追及なのか、情報開示なのか、なにがしかの納得を求めているのか、賠償金の額なのか、それ以外なのか、当事者以外には全くわからない。取材や調査の結果、責任追及や説明の不足といった理由が出てくれば、今後の改善を促すという意味のある記事になりそうである。が、金額が折り合わないという理由であった場合、河北新報としては、判明した状況に比して安いあるいは高いといった論評をせざるを得なくなるのではないか。単純に正義感や倫理観から取材と報道をしているとして、その結果、学生の命の値段を第三者の立場で云々することになったら、元の目的とは違う展開になるのではないかと思うのだが、そうなる可能性を考慮に入れた上で、本件を問題にするための報道を続けているのだろうか。この点が私には引っかかっている。

もっと気軽に相談を

 ハラスメント相談のシステムは、誰かの責任を追及したり処罰したりするのが主目的ではなく、学業や業務の妨げになるような人間関係のトラブルを早急に取り除くためにある。だから、報復を恐れずに相談してほしい。事実関係を調査した上で、当事者同士が接触しなくても学業や業務が円滑に進められるような措置をとるといったことをできる限り行う。調査の結果、ハラスメントではない、ということになっても、申し出た人への不利益やペナルティは一切無い。隠蔽を疑われても関係者一同守秘義務は守り、相談したことによって新たな波風が立たないように最大限の配慮をしている。

 私が最初に巻き込まれた時は、制度としての運用がこなれていなかったし、学科内だけで何とかしようとして逆に紛争が激化したが、ここ数年委員の立場で見ている限りでは、ハラスメント相談の制度はまともに運用されている。

 教務はある程度一律に対応しなければならない面がある。たとえば、卒業研究の研究室配属やゼミの配属といったものは、学部や学科で申し合わせて決めている。相性とか人間関係をもとに決めるということは普通はやっていない。これは、公平かつ効率的に、運営が円滑にいくようにするにはそうするしかないからである。また、某助教の評判が悪かったのが事実だとしても、それを理由に学生を一切配属しないといったことをしたら、今度は大学による某助教に対するハラスメント事案になってしまう。だから、ある程度機械的に処理せざるを得ない。評判が悪い、程度では、必ず大きなトラブルが発生するとも限らない。お説教によるプレッシャーも人によって受け止め方はいろいろだから、確実にハラスメント事案になるともいえない。教務の方で事前に個別の理由を考慮するというのは難しそうである。

 しかし、具体的に酷いことをされた、たとえば、人格を否定するようなお説教を何回もされたとか、ろくに相談にのってもらえず指導を放棄されている、といったことがあれば、話は別である。いつ、どこで、何回、何時間、誰がどんな内容を、というのをメモしておいて、ハラスメント相談員に申し出てほしい。ハラスメント相談の手続きに乗れば、その人に限って指導を外すとか、成績判定の担当を他の教員にするといった、教務上の措置を提案することができる。教務に学生が直接申し入れても個人のわがままだと思われてしまうかもしれないが、委員会からの調査結果に基づく提案があれば、教務の担当者は確実に動いてくれるはずである。