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風評被害対策をどうするのか

Posted on 12月 13th, 2005 in 倉庫 by apj

 日経ビジネス(2005/11/14)の特集記事「虚妄の大学発ベンチャー:民営化時代のタックスイーター 」に出ていた、阪大の産学連携批判に対して、ライブドアニュースでツッコミ記事が出た。このことが、毎日インタラクティブでも取り上げられた(こちらは、記事が見えなくなるかも知れないので全文引用させていただく)。

日経BP:ライブドアの批判記事に反論
 ポータルサイト「ライブドア」のニュースサイトで12日、大手ビジネス誌「日経ビジネス」(日経BP)の記事について「事実が歪曲された可能性がある」などと報じた。この批判に対し、日経BP広報部は「わい曲や脚色することはあり得ない」と反論している。
 ライブドアがニュースサイトの記事で批判したのは、同誌11月14日号の「変だぞシリーズニッポン 虚妄の大学発ベンチャー 民営化時代のタックスイーター」という特集記事の一つ。記事では、「上場益を見越して、車と一戸建て選び、税金で起業した青年社長」の見出しで大阪大学を卒業したベンチャー企業の男性社長を取り上げている。記事によると、同社長は経済産業省傘下の独立行政法人 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のフェローとなり、給料をもらいながら、省庁から補助金を獲得するなどして事業展開。「国費でベンチャーと社長が増殖していく」などと結んでいる。
 この特集記事について、ライブドアのPJ(パブリックジャーナリスト)は「事実歪曲、報道被害か?日経の『大学発ベンチャー』記事」との見出しで批判。「記者の勝手な筋書きの中に、取材源の発言の一部をはめ込む手口。これはジャーナリズムの御法度だ」「今回の記事が発端となり(男性社長の会社が)NEDOなど公的機関の助成金などから締め出されたり、大学など研究機関に出入りがしにくくなったとしたら、報道被害は実害となり、賠償金の請求になってもおかしくない」などと批判している。また、日経ビジネス編集部から『事実を歪曲または脚色をした認識はありません』とのコメントを得た、としている。
 一方、記事を批判された日経BP社広報部は「編集部のコメントは、読者からの問い合わせに説明したもので、取材に対するコメントではない」とした上で、「当然どの記事もわい曲や脚色することはあり得ない」としている。【デジタルメディア局】
毎日新聞 2005年12月13日 12時38分

 問題の記事で取り上げられた黒川氏とは、阪大VBL時代に一緒だったので、日系ビジネスのこの号は私も注文して買った。ライブドアニュースで引用され紹介された内容は、まったくその通りであると私も思う。何も知らずに日経ビジネスの記事を読めば、あたかも黒川氏が税金で会社を立ち上げて巨額の収入を得て、会社の金で買った高級外車を乗り回し、高額の収入を得て一戸建ての住宅まで用意しているような印象を与える記事であった。しかし、ライブドアニュースによれば、外車は中古で大した値段ではない上、写真はわざわざ住宅展示場ロケをやって撮影したものだということらしい。これが事実なら、記事は捏造かヤラセということになる。
 真実がどうであるかは、今後の取材で明らかになっていくだろう。黒川氏やその周辺を直接知っている身としては、おそらく、ライブドアニュースの方が真実ではないかと思う。まあ、実際に被害が発生した場合は当事者で法的にケリをつけるしかないだろうし、白黒はっきりさせるためにも、むしろ裁判所でやり合ってほしいものだ。
 で、少し気になったのが、黒川氏が立ち上げたサインポスト側が、表向きは黙っているということだ。ウェブを見ても、日経ビジネスの記事に対する反論が見あたらない。これって、風評被害対策としてどうよ、というのが私が引っかかったところである。
 実際に持っている車の値段や、住宅展示場の状態と場所は、写真を掲載すれば誰でも検証できる。ネットのように人目のあるところなら、分かる人にはよくわかるから、速やかに正しい情報が流通するだろう。後は、取材に至った経緯を細かく正確に書いて公開するだけで、日経ビジネスの記事の信憑性は相当程度落とせるだろうし、それが風評被害を防ぐ効果的な方法ではないかと思う。
 ネット上での対等なやりとりであれば、十分に議論を尽くせば、対抗言論の法理が適用されて、少なくとも名誉毀損は成立しなくなる(風評被害で生じた損害は別扱い)。今回のように、一方がプレスで雑誌を通して情報が流通した場合は、ネット上で反論したとしても、直ちに対抗言論の法理が適用されることはないのではないか。生じた損害を後から賠償させるという方法もあるが、訴訟には手間も時間もかかる。情報開示が風評を断つというのが基本だと思うので、今回のような場合には、説得力のある形で事実を詳しく出した方が良のではないか。
 まあ、大学の人間にとっては、プレスは信用ならない、という教訓その1ということかもしれない。マスコミの人間と会う時は、ICレコーダーを携帯して、後日のためにやりとりの記録を残しておくと良いだろう。