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基本に戻って考えよう

怪しい健康食品系放射線対策グッズをどう見るか(よりよい物にするため随時加筆修正中)

はじめに

 怪しい健康食品系放射線対策グッズにツッコミを入れようと思っていたら、シノドスジャーナルに、片瀬さんの「あやしい放射線対策」が先に出てしまった。

 なので、片瀬さんとほぼおなじネタについて、少し違う観点から考えてみたい。

 

判断のよりどころ

 そうは言っても、放射能や放射線自体、3.11以前はまるで関心もなく詳しくしらず、にわかにいろいろ情報が出回るようになったけどやっぱりどういうものか実感がわかず、それでも何だか危険らしいとか、ガイガーですごい値が出たとかで、不安だけが増幅されているという人も多いと思う。これを飲めば放射能を除去できるとか排泄できるといった宣伝につい心惹かれるのも仕方ないかもしれない。

 しかし、今は、「本当に」効果がある放射能対策にお金や時間を振り向けるべきときであり、効果があるかないかわからなかったり、場合によっては被害を増やしかねないものに金を投じている余裕なんか無いはずである。そこで、普段から、私が、基盤教育の学生たちに教えているフローチャートを紹介したい。

【健康情報の信頼性を評価するためのフローチャート】
ステップ1 具体的な研究にもとづいているか
はい  いいえ → それ以上考慮しない(終わり)

ステップ2 研究対象はヒトか
ヒト  動物実験や培養細胞 → 「有害作用」についての研究は、それなりの注意を払う。
                「利益」についての研究は、人間にあてはまるとは限らない
↓                ので、話半分に聞いておく(終わり)
ステップ3 学会発表か、論文報告か
論文報告↓    学会発表 → 科学的評価の対象として不十分なので、
↓               話半分に聞いておく(終わり)
ステップ4 研究デザインは「無作為割付臨床試験」や「前向きコホート研究」か
はい      いいえ → 重視しない(終わり)

ステップ5 複数の研究で支持されているか
はい    いいえ → 判断を留保して、他の研究を待つ(終わり)

 これは、http://www.metamedica.com/news2001/howto07.htmlで公開されていたもので、坪野さんという方が造られたものである。放射能とは関係なく、巷にあふれるダイエット法や、健康食品、サプリメントといったものの信頼性を評価するときのチェックポイントが書かれている。

 フローチャート中の用語の意味は次の通り。

○無作為割付臨床試験
くじ引きや乱数で患者を2つのグループに分け、一方に効果を評価するための治療をしたり薬を与えたりし、もう一方に従来の治療を行ったり、偽薬(見た目は同じだけど実は効果がないもの)を与える。こうすることで、患者が自己暗示で良くなったと感じたりすることを防ぐ。また、「都合の良い」「もともと治りそうな」患者ばかりを選んでしまうことを防ぐ。二つの患者グループで治療成績に差があるかどうかを評価する。

○前向きコホート研究
多数の健康人の集団を対象として、最初に、疾病の原因となる可能性のある要因(喫煙・食生活・血液データなど)を調査する。次に、この集団を追跡調査して、疾病にかかる者を確認する。その上で、最初に調査した要因と、その後の疾病の発生との関連を分析する。多人数の集団(数万人から数十万人)を長期間(5〜20年)にわたって追跡調査しないと結果が出ない。

※ただしこのステップ4はかなり厳しい。この点について、Rsider(Hiroto Kawabata)さんから次のようなコメントをいただいた。
「すでに動物実験で有害性が示唆されている場合はもちろん、逆に有用性の証拠とする場合も、RCTやコホートでなくても、症例対照研究で取り急ぎ目安をつけるのは悪くないはずです。坪野さんは「平時の栄養疫学」を論じているのでそのようになっているとおもいますが。実際、前向きコホートは時間もお金もかかりすぎるし、RCTをするといっても動物実験で効いても人間には毒か害か分からないものを(薬剤の場合はすごく手間をかけてステップを踏みます)いきなり人間で実験するのは倫理的に問題があります。すでに、なんとか剤やなんとか療法をためして効果があった人となかった人、なんにもしなかったけど効果があった人なかった人を比較する症例対照研究や、場合によっては「後ろ向きのコホート」が有効な時もあります。ですので、ざっくり、人を対象とした疫学研究で信頼できる結果がでいるかというのが目安になるのだと思います。その疫学研究の一例として、RCT(薬剤疫学や臨床疫学で多用)や前向きコホート(予算と時間が潤沢な場合、また、見極めたいエンドボインとが希すぎない場合によく行われる)を挙げておくのはもちろん正しいと思います。要はステップ4は、人を対象にした疫学研究の証拠があるか(無作為割り付け試験や前向きコホート研究など)くらいが誤解を招きにくい表現かなあ感じた、というのが要約。」

 これを使って、片瀬さんのとりあげた例に適用してみよう。

具体的なあてはめ

マクロビオティック

 そもそもの発端である、「長崎の原爆被害者に医師が食餌療法を指導していた」だけでは、放射線障害や放射能の影響に対して効果があるということとは全く関係がない。よって、ステップ1で「いいえ」を選んで話は終わる。

 味噌のジピコリン酸の効果については、動物実験が行われているので、ステップ1はクリア、ステップ2で「動物実験」を選ぶ。すると、「「利益」についての研究は、人間にあてはまるとは限らないので、話半分に聞いておく(終わり)」となる。つまり、その動物実験に基づいて、人間が何かアクションを起こす必要は全く無いということである。

EM菌、EM菌もどき

 EM菌飲料(EM-X Gole)については、効果を人で検証した論文が無いのであれば、フローチャートのステップ1すら怪しいことになるので、考慮の対象にする必要すらない。

 なお、1200℃に相当する熱エネルギーは、この温度を絶対温度に直してボルツマン定数をかけると、1.38e-23 × 1473 = 2.03e-20 J。これを電子ボルトに直すには、1.60e-19で割ればよく、0.13eV。一方、ガンマ線のエネルギーは数十keVだから、十万倍ほど違うので、1200℃に耐えられるからγ線もオッケー、という理屈は、考えているエネルギーの桁がまるで合わないことになる。

米のとぎ汁乳酸菌

 実験どころか、体験談しかない(その体験談も、効いたと言い張っているだけで、客観的にみるとややこしい菌に感染したとしか思えない)のだから、健康法としてはステップ1どまりである。

 ただし、製造の過程で雑菌が混じり放題なので、使うと、健康法どころか感染源になりかねず、直ちに健康に(悪く)影響する可能性がきわめて高い。

ホメオパシー

 体内の放射能除去の効果についてのみ考えるとしても、「人で効果を確認した」と言い張っているだけで学会発表も論文も出てこないのであれば、ステップ1のクリアも怪しい。よって考慮の必要なし。

ペクチン

「怪しい放射線対策」からリンクされている報告書"Evaluation of the use of pectin in children living in regions contaminated by caesium"を見た限りでは、ステップ3をクリアしているものもあるが、ステップ4の実験デザインの問題が指摘されている上に、副作用もある。結論は「重視しない」だが、副作用まで考慮するならば、積極的に試す理由は何もない。

スピルリナ

 ステップ2を通過するものがほとんどなく、ステップ3までたどりついても発表が学会止まりなら、結論は「話半分にきいておく」。つまり、今、わざわざ金を払って買うような代物ではない。

報道機関へ

 センセーショナルな見出しで煽る前に、そのネタが、フローチャートの何段階目の話かくらいは取材で確認してもらいたい。消費者が金を払う価値があるのは、ステップ6までパスしたものだけである。ステップ6に到達していないものを記事として取り上げるのは、消費者を惑わし、後で消費者被害を引き起こすだけなのでやめていただきたい。ステップ4については、人を対象とした疫学研究の根拠を出せるような実験デザインであるか、と、少し和らげるとしても。

消費者の方へ:買わないことも勇気です

 低線量であっても、自然放射線以上の被曝はしないにこしたことがありません。しかし、放射能対策は手順を間違えると被害が拡大します。

 EM菌のところで書きましたように、放射線のエネルギーは大きいのです。生き物が起こせるような化学反応では、原子核の中の出来事には干渉できません。放射線を出す物質を洗い流したり集めたりして移動させることはできますが、分解して消去すること=原子核を人為的に変えてしまうこと、は不可能です。かつて、人類は、卑金属から金を生み出すことを夢見て、その時代の大勢の優秀な人たちが様々な化学的な手段で実験を繰り返しました。しかし、この試みはすべて失敗しました。卑金属を金に変えるというのは、原子核を変えてしまうということだったからです。化学的な方法(生き物が行う生化学的な方法を含む)では原子核の状態を変えることは決してできない、というのは、大勢の人たちが人生をかけて確認した事実であり、人類が手にした科学の成果でもあります。

 放射能対策のつもりで、はっきりした根拠のない製品に金を投じるなら、そのお金はとっておいて、本当に効果のある放射能除去のために使うべきです。最終的に国が予算を出して行う事だと思いますが、それでも手薄になった場合は、自分たちを守るために私費を出さざるを得ないこともあり得ますので。

 放射能不安商法に使われる商材は、今後も増え続けるでしょう。個別におかしいところを取り上げていたのではきりがありません。ぜひ、フローチャートを活用して自衛してください。何か勧められたら、フローチャートの何番目かを確認してください。「白衣を着た立派そうな人が言うのだからフローチャートの下までたどり着いているにちがいない」などと、勝手に相手を弁護してはいけません。誰が勧めたか、ではなく、確認できる証拠でフローチャートの何番目までたどり着いているか、を基準に判断してください。新しい効果を謳う側が十分な証拠を出すのが原則です。

 なお、「放射能を直接消去する」効果を謳う製品については、「それがなぜ事故を起こした原子炉の中に投入されていないのか」と問うてください。本当に放射能消去効果があるなら、東電が真っ先に買い占めて、原子炉の容器や漏れて地下に溜まった水の中に投入しているはずです。そうなっていないということは、謳われている効果はあてにならないし怪しい、ということです。

 放射能を除去すると謳う商品の売り込みを受けた方は、セールストークと事業者名をしっかり覚えて、お近くの消費生活センターまで通報をお願いします。みなさんの通報が集まれば、行政が動き、さらなる被害防止につながります。

本学の学生さんへ

 この時期にここを見つけたあなた、ぜひ基盤教育のレポート課題2をやるときの参考にしてください。あてはめの基準としては、テキストの項目+フローチャートを使うことになってますので。ただし、丸パクリは不可です。

 片瀬さんの記事と見比べてください。片瀬さんは、個別のネタについて、何がどう怪しいか具体的に指摘しています。一方、私がやって見せているのは、内容に踏み込むのは最小限にして、形式的に基準を適用して却下するという方法です。

 たとえば、大学受験では(ひょっとしたら大学の講義でも)、試験に際しては限られた範囲で十分な知識を事前に得るチャンスがあることになっています。しかし、現実の問題はそうではありません。不十分な知識と不十分な情報で結論を出さなければならないことの方が多いのです。何でもかんでも完全な情報を得るまで勉強するというのは不可能です。そうであるならば、知識が足りない状態でチェックを行い、より安全な判断をする方法を求めることにも意味があるでしょう。半期15回の講義では、どうがんばっても、ニセ科学商品が繰り出してくる多種多様な理屈を全部チェックできるだけの体系だった科学の知識を身につけるのは不可能です。私が受講者の皆さんに伝えたいのは、知識が足りない場合にどうするかという経験をし、そこから学んでもらうことです。