Archive for 9月, 2007

postheadericon 原告準備書面1

 原告準備書面1と証拠説明書をウェブにアップ。
スキャナで取り込んで、OCR(e.Typist)でテキストにして、エディタで修正してhtmlに貼り付けた。テキスト変換しただけだと、改行やら空白やらが無視されているので、書類を見ながら適当に直す。この作業をすると、弁論の流れがよくわかる。
 で、準備書面を読んでみた感想。プロバイダ責任制限法の細かい議論は訴訟代理人、残りの部分は、多分原告本人が書いたものを訴訟代理人が多少追加修正して清書したものに見える。つっこみどころの数と難易度がだいぶ違う部分が混在しているっぽい。まあ、代理人は本人の意向に反することはできないから当たり前か……。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon 謄本が来たので

 書証を確認してウェブサイトにアップ。
スキャナで取り込んでOCRでテキスト化していて、手間が掛かるから、一度に全部は無理なので、一区切りつくところまでやってみた。
お茶の水大の顧問弁護士、否認するところはきっちり外さずやってくれている。

 しかし、原告の提出した証拠を見ると、こちらが主張に使いたいものとかぶりまくっている。これで、丙号証を出しまくったら、証拠書類の重複がやたらに多い訴訟記録ができあがりそうな予感。

 オーマイニュースから取材があったので、メールインタビューに回答。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon 訴訟の多数当事者関連で出題された例

 旧司法試験の過去問より。
平成6年度第2問。

訴訟告知の存在意義及び効果。

平成13年度第2問。

 甲は乙に対し、自己の所有するA土地について偽造書類によって甲から乙に所有権移転登記がされているとして、甲から乙への所有権移転登記の抹消及びA土地の所有権確認を求める訴えを提起した。
1.乙の債権者である丙は、甲乙間の訴訟に補助参加することができるか。
2.甲乙間の訴訟の係属前にA土地を乙から買い受けたと主張する丁が、甲乙間の訴訟に参加した。この場合に、丁は、それまでの訴訟の中で乙が自白した事実を争うことができるか。

・訴訟の結果と利害関係について検討すること。
・共同訴訟参加と共同訴訟的補助参加←判決効が及ぶ立場でないとできない
・訴訟承継←前後関係を検討
・補助参加←訴訟物の判断に限定、判決文中の理由の判断は該当せず。
・独立当事者参加←自らの請求を立てられる場合。

 紛争発生の際は訴訟告知せよ、という学内規則を作った場合、何か不具合は起こりうるか?

postheadericon 原告の講演

 ここに出ている講演案内を見ると、原告は、お茶の水大を訴えたことについて講演したらしい。

「『ニセ科学批判者』を批判する」
  1. ニセ科学批判者たちの怠惰と傲慢
  2. お茶の水女子大「水商売ウォッチング」を名誉毀損で提訴
  3. 民事裁判の経過
マグローブ(株) 代表
健康と環境の神戸クラブ 代表
吉岡 英介

 しかし、実際の提訴の内容とプログラムの内容が食い違っている。というか、矛盾がある。
 まず、「ニセ科学批判者」を批判するなら、あくまでも批判を行っている個人を批判するしかないわけで、大学を訴えるのは筋違い、あるいは見当外れである。
 次に、「水商売ウォッチング」を提訴したかのような書き方をしているが、原告が訴えたのは、お茶の水大だけであって、「水商売ウォッチング」の制作者(=天羽)でも責任者(=冨永)でもないから、2.の記述の半分は事実と異なる。しかも、訴状に書かれた名誉毀損は、水商売ウォッチングのコンテンツ(htmlファイルに書いた固定記事)ではなく、掲示板の投稿で、その上「匿名」でなされたという主張をしている。まあ、書いたのは私だが、原告の主張は訴状の通りというのがタテマエであり、「水商売ウォッチング」を提訴したとはとても言えない訴訟である。さらに、名誉毀損とされた書き込みはわずか3行で、その中にはニセ科学批判の内容が全く含まれていない。原告が自費出版した本については言及したが、それだけであり、文言を読んだだけでは、「ニセ科学批判」にあてはまる表現がどこにもない。だから、ニセ科学批判に対抗するために目的外提訴をしたのだと最大限善意に(?)解釈しようとしても、やはり無理がありすぎる。
 3.は、何を説明したのか知りたいところだが、私が独立当事者参加したことの法的な意味を、他人にわかるように正しく説明するのはちょっと面倒かもしれない。手続きとしてはかなりイレギュラーなので、とりあえず訴訟法の教科書でも読んでまとめてからでないと難しいだろう。おそらくほとんどの人は民訴47条など知らないし(裁判弁護士でなければプロでも知らないことがある)、原告代理人の弁護士でさえ、異議申立が無い手続きだと言うことを知らなかったのか、申立書を用意してきていた。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon 不作為の値段

 独立当事者参加の申出書の中に、

損害賠償等請求事件 訴訟物の価格 3,300,000円
貼用印紙   22,000円

 と書かれている。一方、元の訴訟の損害賠償請求の金額は1,700,000円である。その差は1,600,000円である。
 一般的な予備知識として、民事訴訟の訴えには3種類あることを知っておく必要がある。
 まず、「給付」の訴えというのがある。金を返せとか土地を渡せとか絵を描けといった、人に何かをしてもらうことが内容となっている訴えである。賠償金を払えとか掲示板の記事を削除せよ、というのもこれにあたる。次に「確認」の訴えというのがある。これは、法律や権利関係がこうなっている、ということを定めるだけの訴えである。例えば「借金はない」とか「払うのは100万円まで」といったことを決める訴えである。給付の場合は、原告に「金払え」と訴えてもらって初めて「借金はない」「100万円しか払わなくていいはず」といった主張をすることになるが、確認の訴えでは、誰かに訴えてもらわなくても、積極的に権利関係を確定させることができる。三つ目が「形成」の訴えだが、これは何でもできるわけではなくて、法律で決められたものに対してしかできない。
 で、民事訴訟では、こういった請求に対して必ず値段をつけることになる。「借金を返せ」なら、借金の金額がそのまま請求の価格になるし、「土地を明け渡せ」ならその土地の値段が訴状に価格として書かれる。訴訟の金額が算定できないときでも、とにかく推定した金額を書くことになっている。
 これらを踏まえて申出書の中身と金額を見てほしい。
 申出書の中では、原告が請求した損害賠償を負う必要が無いことの確認を求めている。この部分の値段が1,700,000円となる。もう一つは、削除義務が無いということを主張し「削除しない」という行為を求めている。
 「削除せよ」の場合でも、現実に発生する労力は限りなく少ないため、作業量に値段をつけると、とんでもなく安い価格にしかならない。これが「削除するな」だと、本当に新たに何もすることが無いから、価格の付けようない。つまり、「削除するな」という行為を要求するということに価格をつけようとしても、価格は算定不能ということになる。そこで、何もしないままにすること、つまり不作為について、1,600,000円という値段を(推定によって)つけた。2つの金額を足すと、申出書に書かれた訴訟物の価格となる。
 物に値段が付くとか、ややこしい作業にそれなりの値段が付く、というのは日常の感覚にも合っているが、民事訴訟では、何もしないことについても、それをわざわざ求めると値段をつけなければならなくなる。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon お茶の水大に文書開示請求

 原告(吉岡)と被告(お茶の水大)の間でやりとりされた文書について、文書開示請求を行った。甲7から甲10の文書は裁判所に出ているが、それ以前のやりとりの日付と内容を知るため。請求手数料は収入印紙300円。開示になったら実費がかかるが、いくらになるかは未定。

postheadericon 訴訟のヘンテコ

 お茶の水大が訴えられている件について、もう少し。
細かい議論は、訴状が読める状態になってからだろうと思っているし、昨日のエントリは当事者のメモで、初めて見に来た人には何が何だかわからないだろうから、簡単に状況説明をしておく。

 お茶の水大内のサーバに設置した掲示板に「匿名で」投稿された記事が、「名誉毀損に該当する」ということで、大学が提訴された。
これだけなら、ありふれた事件のはずなのだが、たくさんある変な点のうち特におかしなものを列挙すると次の通りである。

○「匿名」ではなく、ハンドル名とこれまでのやりとりから、原告は、投稿者が私であることを容易に知り得たはずだし、早い話がメール一通送って「投稿者は誰?」と訊けば、私は即座に自分が書いたと返事するつもりだった。しかし、ただの一度も問い合わせが無かった。
○たった3行の書き込みを対象にして提訴、しかもその内容は、裁判官が読んでもどこが名誉毀損なのかよくわからず、説明が必要だと裁判官に言われている状態である。
○私が法廷に出向いて「発信者ですが訴訟に当事者参加します」と裁判官の前で言い、裁判官が「発信者に損害賠償は請求しないのですか?」と訊いたら、原告は「そのつもりはない」と答えた。しかも、私の参加が適切ではないという内容の異議申立書を準備していた(現在、これは手続き上の理由で保留になっている)。

 名誉毀損でサーバを置いている大学を訴えておいて、肝心の表現を公表した人間が法廷で目の前に居るのにそちらは訴訟の対象にはしない、というのが原告の意思ということである。こんなので、名誉毀損訴訟が果たして成立するものなのか?

 折も折、「ネットの書き込みにトレーサビリティは必要か–「ネットID」を識者が激論(前編)」というCNET Japanの記事を読んで、「実名晒して発信者本人が法廷に出て行っても原告が無視することもありますが何か?」と茶々を入れたくなった。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon 独立当事者参加の申出

 カテゴリーに示した、マイナスイオンウォーターの吉岡氏がお茶の水大を訴えた件について、民訴法47条に基づく独立当事者参加の申出をするため、神戸地裁に出向いた。代理人の弘中絵里弁護士(通称絵里タン)とは現地集合で、13時ちょっと過ぎに裁判所で合流。
 独立当事者参加の申出は、訴えの提起と変わらないので、認めるかどうかが裁判によってなされる。申出書を送って1週間程度しか経ってないので、裁判の日程でも示されるのかと思っていたら、弁論の一覧のところに参加人と代理人の名前も書いてあった。ということは、傍聴席ではなく仕切りの向こうの法廷の方に居なきゃいけないことになる。
 妙に傍聴人が多かったが、午後イチの口頭弁論が労働争議だったのでその関係者だろうと思ってスルーしていた。午後2番目が本件口頭弁論。独立当事者参加の申出書は既に裁判所に送って、書記官にも電話で連絡済み(絵里タンの仕事)。始まる前に、代理人と本人ですと名乗って、出席簿みたいなのに○を付ける。私は本人であることの確認を求められたので健康保険証を提示(多分パスポートとか運転免許証でも可)。
 労働争議が終わって、傍聴人が出てきたけど全傍聴人の半分くらいが残っている。私は、当事者参加がどうなるかの方を気にしていたので傍聴席はどうでもいいから今回はスルーしてた。ラウンドテーブルではない普通の法廷で、原告側3人分、被告側3人分の椅子しか用意されていない。
私「他の居場所はあそこ(=裁判官の正面の長い椅子)しかなさそうな……」
絵里タン「あそこは被告人の席」
裁判長「とりあえず被告側の方に座ってください」
裁判長「これで全員揃ったわけですがゴニョゴニョ」と弁論が始まった。始まってみたら何だか手続きがわからない。
 裁判長からして「これ(=独立当事者参加)って中間判決を出すんですよね……」と何となくはっきりしない。原告代理人は、当事者参加に対して異議申立書を出してきたが、裁判長に「補助参加じゃないから異議申立の手続きって無いんですよねぇ……」と言われてこちらも何だか不発。さらに、独立当事者参加がダメだった場合の予備的な申出として補助参加も……などと書いておいたから、「予備的な申し出で補助参加ってありなのか?」と裁判長が首をかしげた。そこへ絵里タンが「判例によれば、独立当事者参加が無理でも補助参加が認められる場合がありました」とフォローを入れた。「補助参加ならこちらも異議を申し立てる部分があるが、まずは独立当事者参加について決めるべき」と被告代理人が主張。原告は、このまま弁論して後で補助参加が認められた場合に後の主張が難しくなるんじゃないかと心配している様子。
「権利主張参加か詐害防止参加かどっちですか」という裁判官の問いには、絵里タンが47条前段であると3回ほど強調。つまり詐害防止参加ということである。権利主張参加は認定されにくいのではないかと予測しているからで……。
 結局、弁論しながら要件を満たすか考えよう、という雰囲気で、結論が出ないまま、私は「(仮)独立当事者参加人」のような地位で、次回の口頭弁論を継続することになった。とりあえず門前払いは免れた。まあ、最終的には判決で参加できるかどうかを決めるということで、申出書を陳述し、丙第1号証を提出したことになった。
 裁判長が改めて、原告に対し「参加人に損害賠償を求めるつもりはないのか」と訊いたら原告は「無い」と断言。
 本当なら、今回、表現のどこが名誉毀損かを原告がはっきりさせるはずだったらしいが、当事者参加の申出で手順が変わったらしい。
 裁判長からは、原告に対し、
・プロバイダ責任制限法についてはお茶の水大との関係が問題になる
・削除請求については民法739条になる
と、適用する条文が示された。
次に、
・削除については名誉毀損の有無
・賠償については権利侵害の立証
が必要で、今回の原告提出書面は賠償についてのものなので、掲示板記載内容のどこが名誉毀損になるのかを説明するように、という求釈明があった。普通は読めば(どこが名誉毀損)わかるが今回のは説明が必要、ということである。「京大卒の学歴を自慢した」がそうなのか、「ダウンの人々が……」の意味がそもそもよくわからないので書いた人にきかないとわからない、など。また、プロバイダ責任制限法にのっとって削除しないと判断したことについては、具体的に被告が示さないといけない、と言われた。
 次回期日は11月13日、13:15-。
 準備書面提出期限は10月30日。

 終わってから書記官室に行って、謄本はどこで申し込むのか訊いていたら(これも絵里タンの仕事。さすがプロは次に何が必要かわかってるなぁ。私だけなら迷うところだった)、さっきの裁判官がぞろぞろやってきて、弁論分離ってことは無いと思うけど……とつぶやいて立ち去られた。1階で申し込めと言われたので、申込書を書く。謄本とは訴状に始まるこれまでの原告と被告の提出書類全部のコピーで、数日で絵里タンのところに届くはずである。

 帰りの新幹線の中で絵里タンといろいろ話をした。独立当事者参加は、惇一郎先生が法律事務所ヒロナカを営業して30年になるが、ただの一度もやったことがない手続きだというほど希で、民訴が選択だった時代に司法試験を通った友人弁護士(法廷弁護士はしていない)に「今度独立当事者参加をやる」と言ったら「独立当事者参加って何?」という状態だったとか。最高裁の判例は2つほどしか無くその意味もはっきりせず、下級審にも裁判例が無いから裁判所の判断の相場も見当がつかないそうだ。私が読んだ限りでは、コンメンタールを見ても学者の説は分かれてて、最近出た民訴の演習書にも、数少ない判例を取り上げてはこの考え方じゃ説明できない云々てなこと、ばっかり書いてあって「法学者の解釈もだめぽ」としか見えない。旧民訴ではかならず3面訴訟すべきという解釈が出ていたが、新民訴(現行法)では当事者の一方を相手方とする参加もできると明文で書かれたので旧法とは性格が変わったようで、その後の裁判例も判例も本当に無い。だから私もあきらめて、この先どうなるのか絵里タンにあれこれ訊くことはしなかった。裁判所がすぐに答えなかったのもわかるような……。
 また、独立に裁判して争うことになったら、当事者参加の申出についてだけ控訴審までやるってこともあるわけで、その間に元の裁判の弁論を進めたりしたら条文の意義が失われるし、かといって訴訟手続きを止めるのも何だしなぁ。ただ、さんざん弁論した後で「やっぱり当事者参加ダメです」となったら、その弁論は何だったのかということになるし。まあ、このへんのゴチャゴチャを時期が来たときに一気に解決するつもりで、今はわざと結論を先送りにして弁論を進めるつもりなのかな、と。
 あまりにも判例がないので、これで当事者参加が認められたら民訴47条の判例その1追加は間違いない。
 こういうことになるのも、原告がヘンテコな訴訟をするからだろう。大体、「匿名」で名誉を毀損する書き込みが行われたからという理由でお茶の水大を提訴しておいて、書き込んで発信した本人が目の前に当事者として名乗り出たのに争わない、当事者になってもらっても困るとは一体どういうつもりなんだ?

 あと、傍聴人のおばちゃん達は主に吉岡氏のファンクラブというかシンパというかむしろ信者(?)らしい。人数は数えていなかったんだけど。

※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。

postheadericon 弁護士を選ぶということ

 司法制度改革が進み、弁護士の卵の数が増え過ぎて就職難まで起きているが、一般人にとってはちっとも司法が身近になっていく気がしない。
 今回、自分の問題を解決するために弁護士に仕事を頼んでみて、その理由がわかった。値段に比して情報が少なすぎるのである。
 今回の案件の受任にかかった費用は、値段の目安としてはそこそこの国産中古車が買える程度、国立大学法人の1年間の授業料よりもちょいと高い程度である。ちょっとややこしい病気で入院した時の値段も(保健の範囲内で)こんなもんだろう。では、庶民がこの程度の買い物をするとき、普通どんな態度で臨むかを考えてみよう。
 車の場合はどうか。中古車の雑誌は出ているし、ネットもあるから、「どんな車をいくらで買おうか」「買った車をこんなふうに使って便利に、楽しく」などと想像しながら、あれこれ見比べるだろう。相場の見当を付け、店頭に出向き、個別の車を前にしてこれまでにどんな乗られ方をしてきたか、大きな事故や修理はないか、同型の車で何かトラブルは無かったかなどを詳しく聞き出し、比較検討して選ぶに違いない。
 大学はどうか。まずは受からないと仕方がないから、自分の偏差値や予備校のデータと大学の難易度、出題傾向を見極め、そこに入ったらどんな教育が受けられたり資格がとれたりするのか、卒業後の就職先はどうか、といったことを詳しく調べて、どこを受けるか決めることになる。先輩の就職実績は大事である。いずれは自分も似たような道を歩むことになるかもしれないからだ。
 医者はどうか。弁護士と異なり受任義務がある。それでも、あの先生は腕がいいとか親切だとか安心できるといった情報が井戸端会議レベルで流れているし、暫く入院ということで大きめの病院を紹介されたとしても、何曜日の誰それ先生は上手いとか治りが早かったという情報が飛び交っている。最近では、ややこしい治療になりそうな時はセカンドオピニオンをもらって患者も治療方法の決定に関われるようになってきている。
 ところが、弁護士はどうか。庶民の感覚からすると、情報をあつめて詳しく比較検討しないと払わないような額の費用がかかるというのに、誰がどんな仕事をしているかという情報がほとんどない。訴訟することになった場合、弁護士を選ぶポイントは「どんな弁論をしてくれそうか」ということに尽きる。しかし、守秘義務があったりするので、弁護士がどんな場面でどんな準備書面を書いてくれるかといった情報が全く得られないまま、仕事を頼まなければならない。消費者としては「商品の実際」つまり「準備書面の中身」を見て比較検討したいと思うのが当然だが、今の制度はそうなっていない。これでは、高価な「福袋を買わされている」のと変わらない。
 せめて町医者なみに「あそこの事務所は……」という情報が交換されるか、中古車市場並に見やすい情報提供がなされない限り、この先弁護士が増えたとしても、一般人にとっては、弁護士までの距離は相変わらず遠いままではないか。