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postheadericon 訴えの取り下げの打診があったが……

2021年3月1日になって、株式会社ウルフアンドカンパニーの代表取締役の大竹氏から、山形地裁の提訴を取り下げるならさいたま地裁の提訴も取り下げるがどうか、という旨のメールがあった。他の事でいろいろと多忙なのと、次亜塩素酸水関連の営業ができていないので争っても不毛だということが書いてあった。

私の方からは、山形の分は取り下げるつもりはないし、さいたま地裁の分の取り下げにも同意しないと回答した。

まず、山形地裁で私が提訴した分は、大竹氏がまともに反論の書面を出さなかったため既に結審していて、双方ともにやることはもうない。取り下げの書類を書くだけ余計な手間が掛かる上に、もっと手間をかけて準備した訴状や書証が無駄になってしまう。また、山形の訴訟は、そもそも、大竹氏が訴訟予告をしてまで行った、専門家に対するコメントの撤回や特定企業の製品を安全だと言わせるといったことに何ら法的裏付けがないことを確定させるために始めたので、取り下げると確定させたかったことが確定しないままになってしまう。従って、私にとっては取り下げるデメリットはあってもメリットが無い。

また、私は、訴訟を回避する機会をきちんと大竹氏に提供していた。2020年7月1日付けの内容証明で、訴訟の予告を取り消すかどうかの意思確認をしている。この時、大竹氏は訴訟の予告を取り消さず「貴殿が待てないのであれば、どうぞご自由に訴訟の提起をしてください。」と回答した。訴訟の予告をそのままにすることを選んだのは大竹氏なので、事が終わりに近づいてから取り下げを言い出すのは随分と虫の良い主張といえる。

訴えの取下げについては、民事訴訟法に、

(訴えの取下げ)
第二百六十一条 訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
2 訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。

のように定められている。さいたま地裁の方は、答弁書も出した上に、第一回期日に私が出頭し弁論しているので、取り下げるには私の同意が必要である。取り下げの書面が来ても、私が異議を出せばそのまま続行となる。

さいたま地裁の分についても、私は大竹氏に取り下げを提案しその機会を与えた。第一回期日は2021年1月27日、書面提出〆切が2021年1月20日であったところ、2020年12月7日にさいたま地裁宛に答弁書を提出し、その中で、取り下げを勧告する旨書いた。7日は月曜日なので、この週のうちか、遅くともその次の週には、大竹氏は私の答弁書を受け取っていたはずである。大竹氏には、訴えを取り下げるかどうか検討する期間が、年末年始も含めて1ヶ月以上あったのである。そして第1回期日の前までであれば、被告の同意は不要で、大竹氏はいつでも自由に訴えの取り下げが可能であった。しかし、第一回期日に法廷で顔を合わせたところ、大竹氏は訴えを取り下げるつもりがなさそうなだけではなく、右翼を呼ぶぞの表現について警察が証拠を持っているから裁判所が職権で取りよせろと強く主張していた。

私はすでに浦和まで出向いて一泊し弁論するという労力もかけているし(しかもその日は大学院の講義でホテルからZoom配信する羽目になった)、判例を調べたり資料となる著作権法の書籍も買ったりしているので、取り下げに同意するつもりはない。

大竹氏がどこまで考えて著作権法違反を主張するつもりになったのかは知らないが、結果として割と面白い裁判になっていることは確かである。訴訟をちらつかせて他人を脅す(大竹氏としては脅したつもりはないだろうが)ようなメールは、これまでも届いたし今後も届くことがあるだろう。手っ取り早い対応としては、メールを引用しそういう脅しがあったことを公表して批判を加えるといったものになるのだが、確かに著作権法的にはグレーかもしれない。要は、脅迫文書のようなものに著作権を認めて保護し批判や告発を妨げることが妥当かどうか、という問題で、判例データベースを調べたところ、下級審も含めて正面から争った例が見つからなかった。マスコミが何かの脅迫事件を報道するにあたって脅迫状の全文を引用し公表する場合は,時事の事件の報道として引用が認められている。それ以外の場合については、争われていないためはっきりしない部分があるので,一度、裁判所の判断を知る機会があった方が良さそうだと考えている。大竹氏の提訴が、知りたかった裁判所の判断を引き出せそうなものになっているので、取り下げに応じる理由はない。というか,判決がどうなるか知りたいという好奇心に逆らえないw。

また,本人訴訟が得意と自慢している大竹氏謹製の準備書面をまだ見ていないので(山形では提出がなかった),どれほどのものか見たいという好奇心もある。弁護士はへなちょこばかりと断言した人物の書面,同じく本人訴訟で書面書いてる身としては読んでみたいに決まっている。

なお,判例検索しても裁判例が出てこない理由もなんとなく見当はつく。まず,脅迫もどきをマスコミでない一般の人が気軽に公開できるようになったのはネットの普及以降である。また,訴えてやる,という内容を送るような人は,自分が正しいことを主張しているとの確信があるだろう。すると,その内容が広く読まれる状態になったとして,自分の正しい主張が広まるのだからむしろ望むところであって,著作権を持ち出して公表を制限する動機には乏しいだろう。だから,こういった争いがこれまでほとんど無かったのではないだろうか。

ところで,山形地裁に来ない理由の説明として,大竹氏は答弁書で「暇な学者と違い、会社の代表取締役社長兼営業マンとして売り上げの上昇もあり多忙」と書いていた。大竹氏の理解では,私は暇な学者だから裁判所に通っているのだ,ということになっている。じゃあ,その暇だから裁判所に来ている,つまり応訴を負担と感じていない相手に向かって,ほぼ確実に請求が通りそうな山形地裁の訴えの取り下げとバーターでさいたま地裁の訴えの取り下げを持ちかけたって,交渉になるはずがないとは思わなかったのだろうか。大竹氏の考えていることはよくわからない。

取り下げを言い出したのが3月1日だというのも解せない。さいたま地裁の方は、書面による準備手続になっていて、ウルフアンドカンパニーの書面提出〆切が3月1日、それを見た上で私の書面提出〆切が3月31日である。もし、取り下げるということになったら書面の準備はしなくてよくなる。3月1日に取り下げの打診をするということは、拒否されたらすぐに裁判所に行かないと間に合わないので、書面の準備は済ませていなければならない。取り下げの打診を2月半ばぐらいまでに行っていれば、取り下げがOKなら書面の準備が不用になるし、拒否の場合は書面の準備をする時間的余裕がある。労力的に得しないタイミングでの取り下げの打診である。

1つ前のエントリー「「提訴します」は口先だけ?ウルフアンドカンパニーが裁判所でまともに反論しなかった件」で個別に指摘したように、大竹氏がメールで書いてきたことと、大竹氏の実際の行動に食い違いが多すぎる。やりとりを初めてまだ1年経っておらず、取り交わしたメールもウェブページ1箇所におさまる程度だったにしては、食い違いが発生している割合が随分多い。このため、大竹氏がメールで何を連絡してきても、その通りの行動を大竹氏がとる保証が全くないと考えざるを得ない。こんな状況だから、取り下げを言い出されても真に受けるわけにもいかないのである。

いずれにしても,どういう主張をするかも含めて本気で争う意志や計画がないのなら,他人に向かって気軽に訴訟を持ち出すべきではない。また,訴訟は一旦始まったら勝手な都合で途中で止めることはできないので,本当に最後まで争う覚悟があるか,他のことで忙しくなったり事情が生じたりしてもやるつもりか,訴状を出す前によく考えるべきだろう。国が用意している,強制力を伴う紛争解決制度というのは,被告だけでなく原告も拘束する制度なのだから。

postheadericon 「提訴します」は口先だけ?ウルフアンドカンパニーが裁判所でまともに反論しなかった件

山形地裁で私が原告となって株式会社ウルフアンドカンパニー(代表取締役大竹誠一氏)を提訴していた事件は、本人訴訟対決で、相手方の大竹氏が答弁書は出したものの2回連続期日に欠席し、2回目の期日までに出すべき反論の書面を何も出さなかったため、弁論2回で結審した。判決は4月に出る予定である。

これまでのところ、大竹氏は言っていることと実際の行動が食い違いまくっており、大竹氏の主張を真に受けるだけ無駄という判断をせざるを得ない。今後、ビジネスで大竹氏に関わるのであれば、そのことを折り込んで関わるべきである。

せっかくなので、訴えてやる、と言われた場合にどう対応しているかとか、対応のスケジュールがどんな具合だったかということも含めてまとめておく。

事件の背景

新型コロナウイルス対策と称する次亜塩素酸水の噴霧装置が学校や公共施設をはじめとするいろいろな場所で導入されるに至った。しかし、消毒作用のあるものを人が吸う状態で使うことは、WHOはもちろんのこと、標準的な消毒マニュアルでも、してはいけないことになっている。そこで、人が吸う形での噴霧はしないようにネットで注意喚起していたところ、BuzzFeedJapanの取材を受けることになり、2020年6月3日付けで「大量に商品が出回る「次亜塩素酸水」の危険 科学者「一番怖いのは…」」という記事が公開された。同じ記事中で取材を受けたのは、私以外に、小波秀雄京都女子大名誉教授と、聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんである。

そうしたら、2020年6月14日に、株式会社ウルフアンドカンパニーの代表取締役大竹誠一氏からメールが届き始めた。内容は、弱酸性次亜塩素酸水には効果があって安全だというエビデンスを持っているという主張で、さらに、

当社及び正しい方法で次亜塩素酸水を製造している会社に対して、貴殿は営業妨害、業務妨害をしています。貴殿が望めば、メールにて送ります。
貴殿がマスコミ各社に対し訂正の報道を行わないのであれば、貴殿を提訴します。

私は弁護士無で裁判が行える能力を持っています。
裁判所は当社の本社のある埼玉県越谷市の 簡易裁判所です。

と提訴の予告が書かれていた。やりとりの全体は「ウルフアンドカンパニーから訴訟を予告するメールが来ました(2020/06/14-」の通りである。なお、私より先に小波さんが大竹氏からの訴えるぞというメールを受け取っていて、そのことはSNSのやりとりで教えてもらっていた。

まずは、科学の問題として議論すべきと考え、大竹氏から資料などを送ってもらって読んでみたのだが、エビデンスといえるようなものが無かったばかりか、根拠として送られてきた日本語の報文中で、著者たちが、安全生を考慮してマスクを着用し吸入量を減らすようにと書いていることがわかった。その後もメールのやりとりは続き、大竹氏は、

当社は同じく記事に出ていた小波教授も訴訟の提起をする予定ですが、
小波教授は「使用後、最終食品の完成前に除去される場合、安全性に懸念が無いと考える」
と結んでいます。当社が小波教授に対してそれをしらせ、謝罪すれば訴訟を取りやめる可能性はあります。

や、

貴殿が当社が添付資料やエビデンスを見て発言を撤回し、様々なメーカーがあり、
ウルフアンドカンパニーが販売する製品は安全だと認めれば訴訟の提起を取り下げることも考えます。

などと書いてきた。

大竹氏が送ってきた資料を検討した結果、大竹氏の希望には添えないと判断したので、科学の面からの反論の書面を郵送とpdfで送信した。そして、私は、

 全面的に貴殿の希望には添えない内容となりましたことをご確認いただけたことと思います。

 さて,貴殿は,「貴殿の次亜塩素酸水のYahooニュースの件苦情抗議 と貴殿裁判の提起準備の件4」という件名のメールを
何通か送信し,その中で,「貴殿が当社が添付資料やエビデンスを見て発言を撤回し、様々なメーカーがあり、ウルフアンドカンパニーが販売する製品は安全だと認めれば訴訟の提起を取り下げることも考えます。」と書きました。
 私の回答が訴訟提起取り下げの条件を満たしていないことは明白です。

 まさかこのままうやむやにして訴訟せずに終わるなどということは無いと考えますので,訴状の提出状況についてお知らせ下さい。
 もしくは,私が回答中で求めた,エビデンスたり得る資料を新たに送る予定があればその旨お知らせ下さい。

とメールした。これが6月25日である。そうしたら、大竹氏からの返信は、裁判所の門の前で自撮りしたらしい写真付きで、

時間ができたら適切な時期に。

写真は、度々行く裁判所前での記念撮影です。(写真転載禁止)
7月は地裁で2100万円請求の損害賠償事件1件、簡易裁判所で簡単な事件1件、の予定が入っています。
いづれも弁護士無しです。弁護士付きの被告や弁護士をいつも涙目にしています。^^

というものだった。

訴訟予告をされたままというのは不安定なので困る。そこで、2020年7月1日付けで、「時間ができたら」などと曖昧なことを言わずに、さっさと提訴するか、訴訟予告の部分のみを撤回するか、それとも私が提訴するかのどれかを選べ、ということを書いて、内容証明で送った。なおその内容証明には、これまでのメールのやりとりを「ウルフアンドカンパニーから訴訟を予告するメールが来ました(2020/06/14-」で公開しているということも書いておいた。それに対する大竹氏の回答は、

明日は法廷で私が2100万円の損害賠償を求めている被告と弁護士をオラオラして涙目にさせてきます。
当然、私は弁護士無しです。そこら辺の出来損ない弁護士よりは力ありますよ。
弁護士は文書では強い事書きますが、法廷で会うとへなちょこばかりですね。
文武両道の私とは違います。
越谷の裁判所の裁判官の部屋を知っていまして、関係者以外知らないのですが、何故か私は知っています。
越谷の裁判所では、私が法廷に行くと厳戒態勢で、裁判官の部屋の前に防刃手袋をつけた職員が立ちます。

と、むやみに弁護士をdisったり、法廷でも何かの暴力を行使すると思われていることを示唆したりする内容であった。さらに、

今、一人の医者と遣り合っています。これが長引いています。
それが終わったら、優先順位的に「不安商法」と言った小波さんかな~
で、時期が来たらあなたかもしれません。

貴殿が待てないのであれば、どうぞご自由に訴訟の提起をしてください。

で、届いた内容証明は熟読してませんし、何かのURLも興味ありません。
流し読みしました。以上、ご報告まで。

とあった。これを受け取ったのが2020年7月06日である。

訴訟の準備開始のタイミング

大竹氏の方も提訴了解済みということになったので、訴状を書き始めた。大竹氏が要求した記事コメントの撤回やウルフアンドカンパニーの製品を安全だと表明する義務が無いことを確認する、という債務不存在確認の訴えに加えて、権利の無いことを行わせる目的による訴訟予告で生じた損害の賠償請求である。

今確認したら、書証のpdfファイルの作成日で一番古いものが2020年6月17日であった。最初に訴訟を予告するメールが来たのが2020年6月14日だから、科学としての反論をしながら、3日後には訴訟の準備を開始していたことになる。これは、まず科学的な面から大竹氏の主張を検討した結果、大竹氏の要求をまったくのめないことが明らかになったので、訴訟不可避と判断したからである。まともに訴訟する気が無いのに、複数の他人に向かって訴えるぞと言い出す人が世の中に存在するとは思っていなかった。

時系列に整理したメモの作成と、証拠として使えそうなものの印刷イメージをpdfにして整理し、紙ではなく電子的にとりあえず固定する、というのが、訴えてやると言われた場合に、ただちに開始する作業である。今回は、やりとりをウェブサイトで日付を入れて公開していたので、それがそのままほぼ時系列のメモとなっている。ネット上のやりとりを巡った紛争対応の場合は、直接のやりとりの整理はもちろん、裁判になったら使えそうな資料も、目に付いたものを全部pdfにしてソースを明記した上で整理するという作業を、継続的に行っていくことになる。相手が会社であったので、まず、登記簿謄本を取りよせることになり、その費用がかかった。

このように、訴えてやる、と言われたら、やるべきことは訴訟の準備に決まっているので、その時から現実に手間やコストが発生する。「○○しないと訴える」まで要求が明確であれば、言われた側も「○○する義務はない」ことを確認する訴えが起こしやすくなる。だから、本気で提訴して最後まで争うつもりがないのなら、気軽に他人に向かって訴えてやるなどと言わない方が良いだろう。

2020年6月は、やっと在宅勤務から解放されたものの授業は全部オンラインで、教材整備に追われていた上に、卒業研究が遅れて開始されたのでそちらの対応があり、7月になってオンラインの成績判定と、後期の学生実験の前倒しの準備があって、かなりばたばたしていた。そのため、書証を集めながら訴状を書き始めたのが2020年7月7日だったが、途中にお盆休みもあったりで、その後はぼちぼちしか進まなかった。それでも、2020年の8月下旬頃には、訴状、証拠説明書、書証が大体揃って、若干の手直しでいつでも提出できる状態にはなっていた。

言ってることとやってることが違う(その1)

「届いた内容証明は熟読してませんし、何かのURLも興味ありません。」と書いた大竹氏であったが、2020年8月になって、「ウルフアンドカンパニーから訴訟を予告するメールが来ました(2020/06/14-」で引用しているメールに書いてある会社の名前を消して欲しいという要望があった、と、越谷警察署から大学宛に電話があった。興味が無いと明言した内容について、何と、大竹氏は、わざわざ警察にまで足を運んで相談していたのである。さらに、8月16日になって、大学に電話してきて、会社の名前や大竹氏の名前の削除要求があった。興味ない、って明言したくせに興味ありまくりやんけ!

言ってることとやってることが違う(その2)

さて、私より先に訴訟予告を受けた小波さんは、弁護士に依頼して交渉事件として処理した。ところが、小波さんが弁護士を代理人としてやりとりしている最中に、私にも送ってきた裁判所門前での自撮り写真を、大竹氏は小波さんに直接送信したのである。結果、代理権の侵害という理由で弁護士さんが激怒。このへんの事情を小波さんからきいて、大竹氏は相手に弁護士がついている訴訟に慣れているはずなのに、代理人がついてる時に本人に連絡する、って一体何考えてるんだろうと思って呆れていた。紛争慣れしているという主張と行動にギャップを感じたからである。

メールを読んだ限りでは、大竹氏の提訴の優先順位は、小波さんが圧倒的に高く、私はオマケ以下の扱いだった。しかし、小波さんが弁護士を立てて交渉した結果、今までのところ小波さんとのやりとりはほとんど終了している。かわりに、と言っては何だが、「ウルフアンドカンパニーから訴訟を予告するメールが来ました(2020/06/14-」でメールを引用しているのが著作権法違反だという理由で、私が2020/09/22付けで大竹氏から提訴された。

提訴の理由が予告された内容と全く違う上に、提訴の優先順位もメールに書かれたものと違う。メールに書いた内容と行動がここまで食い違いまくるのでは、大竹氏がメールに何を書いてきても、全くあてにならない。

山形地裁に提訴

2020年9月22日付けで大竹氏がさいたま簡易裁判所越谷支部に訴状を提出した。それが送達されてきたのが9月26日だった。訴訟物の価額が簡易裁判所で扱える上限を超えていたため、職権で地方裁判所に移送するという書面とともに、訴状と甲第1号証などが送られてきた。

さいたま地裁での提訴に先立って、メール引用部分の削除を求めるメールが大竹氏から9月17日に届いていた。削除についても争うことになると考えたので、ほとんど完成していた、大竹氏の要求に応える義務がないことを確認する、という内容の訴状に、当該ウェブページの内容を削除する義務が無いことを確認する、という請求を書き加える作業をを9月18日に終えた。出そうかどうか様子を見ていたところ、大竹氏が提訴したことを知ることになった。それならば、とこちらも提訴することに踏ん切りがついた。大竹氏の会社についてとりよせた資格証明書の使用期限が9月末日で、これを過ぎると取り直しになって1週間ほど提出が遅れる上に追加で費用がかかるので、9月28日にとりあえず手元にある訴状と書面に資格証明書を添付して提出してしまった。

訴状を出した後で、訴訟係属の日付は地裁に移送された日ではなく簡裁に訴状が出された日付であるということを確認し、私の提訴の方が後になるので、請求が重なっている部分を削除することにした。その削除の作業を終えて訂正版を裁判所に出したのが、10月17日であった。実は他にもいくつか書式のミスや修正箇所があったため、最初に提出したものは裁判所でチェックのために止まっていて、相手方に送られたのは訂正済みのもののみである。

おそらく10月中には訴状や書証が大竹氏に送達済みになっていたはずである。

新型コロナウイルスのせいで裁判所も混み合っていたり、年末年始を挟むという事情もあって、山形の第一回口頭弁論は2021年1月22日だった。裁判所に提出する書面の〆切は1週間前なので、大竹氏には、2021年1月15日必着で送るようにという連絡があったはずである。

言ってることとやってることが違う(その3)

そもそも、私に、「マスコミ各社に対し訂正の報道」「ウルフアンドカンパニーが販売する製品は安全」という内容を、訴訟で強制して公表させるという意図を持って、メールで通告してきたのは大竹氏で、それは2020年6月14日のことである。交渉次第で訴訟が不要になるかもしれないので、メールの送信時点で訴状が完成していることまでは期待しないが、少なくとも、他人に対して提訴の予告をする以上、交渉が決裂したらどういう構成で訴状を書いてどんな書証をつけて主張していくか、という見通しぐらいは持っていて当然だろう。

また、私は7月1日付けで、大竹氏が要求した内容について私から提訴することがあり得ることを内容証明で予告した。訴状の訂正などがあったので、具体的にどういう訴訟をするか細部が確定したのは10月下旬になってからだが、大筋は、大竹氏の最初の要求について争うものである。つまり、大竹氏は、6月14日の時点で私を提訴しようと考えて訴状に書く予定だった内容そのものを主張するだけで、反論できる状態だった。答弁書の〆切は2021年1月15日なので、大竹氏には訴訟の準備期間が7ヶ月あったことになる。大竹氏にとって、今回の訴訟は不意打ちでも何でも無く、十分予見できたというか、むしろ当初の訴訟予告で考えていた内容そのものであったはずである。

ところが、届いたに答弁書にあったのは、項目毎の認否だけで、具体的な反論らしいものは無かった。最後に、備考として

第1回目は擬制陳述とする。第2回目以降は、被告が提出する書面をもって陳述とし、裁判官からの質問に対しては電話で対応します。理由は暇な学者と違い、会社の代表取締役社長兼営業マンとして売り上げの上昇もあり多忙であり、山形までいく時間が作れないからです。
そして当社は本件よりも前に原告をさいたま地方裁判所に訴訟の提起をしており、被告が同じような訴訟を山形でも行っているものと認知しています。

と書かれていた。

2回目の口頭弁論は2021年2月26日、裁判所への書面〆切は1週間前の2月19日であった。ところが、大竹氏は「被告が提出する書面をもって陳述とし」と書いたくせに、書面を何も提出しなかったので、そのまま結審してしまった。

書面の提出状況をみた限り、7ヶ月前から訴訟を計画していたとはとても思えないものだった。こうなると、2020年6月頃に盛んに主張していた「訴えてやる」は、全くの口先だけであったと考えるしかない。私以外に小波さんや吉村医師にも、さかんに、訴えてやると言いまくっていたのに、準備がまるでできていないというのはお粗末という他はない。

ところで、第一回期日の後、予納郵券が足りなくなったので追加で納付するようにと言われた。書証の量は多かったが、やりとりもそんなにしていないのになぜかと思って訊いてみたら、大竹氏が最初、こちらからの送達を受け取らず、再送したといったことをちらっと言っていた。大竹氏にとっては、当初のメールで予告した内容をきちんと裁判所で争えるようになったわけで、願ったり叶ったりのはずなのに、一体何をやっていたのだろうか。

参考までに。さいたまで進行している分についてだが、私が大竹氏から提訴されて訴状の内容を知ったのが2020年9月26日、答弁書の提出は12月8日で、この内容で提出した。名誉毀損とか営業妨害したという不法行為で来るかと思ったら著作権法違反だったので、訴えられてから慌てて本屋に走る羽目になった。まずは、著作権法の体系書である、「著作権法 第3版」(中山信弘著)と、「著作権法 第4版」(岡村久道著)を買ってざっと通読し、著作権法の何条の適用で争えそうかを確認し、訴状があまりにも不備だったので何をまず確定させるべきかを洗い出して答弁書に書いた。仕事が終わった後や休日に家で作業するなどして、およそ2ヶ月ちょっとかかった。移送と回付のせいで期日がなかなか決まらなかったのだが、答弁書は必ず出さなければならないので、さっさと準備にとりかかった。素人の私でも、想定外の条文で提訴すると言われて2ヶ月でこの程度の書面は書ける。本人訴訟自慢の大竹氏がいかに手抜きしているか、わかってもらえると思う。

大竹氏は本人訴訟が得意?(その1)

答弁書を見る限り、大竹氏は、裁判を電話会議だけで進められるとか、私が暇だから裁判所に出頭していると思っているらしい。勘違いも甚だしい。

確かに電話会議で進めることはあるが、それは争点整理のための弁論準備手続きで、口頭弁論期日には本人あるいは代理人が法廷に行く必要がある。移動の負担等を考慮し大部分を電話会議にするとなった場合でも、普通は、初回か2回目のどちらかは裁判所に出向いて、次回以降を弁論準備にするという裁判所の判断をきいてからになる。また、書面が出そろったあたりで、期日に出向いて準備手続で出した書面について陳述しておかなければならない。弁論準備手続にして電話会議にしてほしいという要望は出せても、それを決めるのは裁判所なので、意図通りにならなくても従う以外にない。

私が忙しくても時間を作って裁判所に出向いているのは、本人訴訟の場合、自分で行かないと陳述したことにならず、陳述しなかったものは審理してもらえないからである。

たとえば、さいたまの第一回の時は、1コマ目の持ち回りの大学院講義の日に重なった。年明けから講義は全部リモートでやることになっていて、講義は1コマ目、裁判の開始は11:30(裁判所には11:00までに入って手荷物チェックを受ける)だったので、講義の準備を全部持って浦和のホテルに前日から泊まり、チェックアウトの延長料金を払った上で、1コマ目の講義はホテルからZoom配信し、終了後にチェックアウトして裁判所に移動した。全くもって暇ではない。1回目は陳述擬制もできたのだが、裁判所の感触も知っておく必要があったので、多少無理をしてでも出頭したのである。

答弁書にあてつけを書いたのではなく、素で、忙しければ電話会議だけで民事訴訟がなんとかなると思い込んでいるのであれば、大竹氏は民事訴訟の手続き自体をろくに知らないことになる。本人訴訟が得意だとか、弁護士無しで提訴できるといったことを大竹氏自身も自慢しているし、従業員らしき人もYouTubeのコメント欄に書いていたが、とてもそんな知識が大竹氏にあるように見えない。

大竹氏は本人訴訟が得意?(その2)

私が最初に訴状を提出した時は、「ウルフアンドカンパニーから訴訟を予告するメールが来ました(2020/06/14-」の削除の義務が無いことを確認するという内容を訴状に入れていた。しかし、そのままだと二重起訴の禁止に抵触すると判断し、10月17日付けの訂正で削除した。相手方には、訂正済みのものだけを送達するというのが書記官の話だった。だから、混乱の生じる余地はなく、訴状をきちんと読めば、さいたま地裁で争っている内容と、山形地裁で争っている内容が独立であることは明らかであったはずである。

ところが、大竹氏は「被告が同じような訴訟を山形でも行っているものと認知」というトンチキな内容を答弁書に書いて出してきた。訴状の内容自体を読解できておらず、訴訟物という概念すら持っていないとしか思えない。こんなことを書いてくるようでは、どう見ても、本人訴訟が得意には見えないし、弁護士無しでやれるとも思えない。

まあいろいろ興味深かった

私を含め複数の相手に対して訴えてやると予告しながら、準備を全くしないような人が世の中に存在することがわかって、正直な話、ちょっと驚いている。

きちんと裁判所で争うつもりが無いのであれば、最初から、他人に向かって訴訟するなどと言うものではない。今回、言われた側がどういうスケジュールで訴訟の準備をするかも書いた。訴えるぞと言われると、訴訟の準備を始めるので、手間もコストも発生する。訴訟自体を忌避するつもりはないし、揉めた場合にさっさと裁判所で解決、というのは、司法制度改革が目指したところでもあるのでむしろ歓迎だが、そうは言っても手間がかかるので、気軽に言わないでもらいたい。

なお、今回の状況を考えるに、大竹氏による「訴えてやる」は話半分以下にきいておけば十分と思われる。

むしろ、なぜ、大竹氏が、本人訴訟が得意で弁護士無しでやれる、という自己認識に至ったのかの方に興味がある。本人訴訟をやってうまくいった体験があったりするのだろうか。じっくり訊いてみたいところだが、その機会はおそらく訪れないだろうし、訊いたところで正直に答えるとも思えないが。

さすがに原告をやっていて書類提出を手抜きするとも想定しがたいので、さいたま地裁に提出される書面には期待したい。

postheadericon ウルフアンドカンパニーと同時に2つ訴訟開始(たぶん)

 久しぶりに本人訴訟が2カ所で同時進行になりそう。どちらも相手は次亜塩素酸水の販売をしているウルフアンドカンパニー(代表取締役は大竹誠一氏)。

 ウルフアンドカンパニーは以前から,BuzzFeedJapanの取材に対して私と小波さんが行ったコメントに対し,内容を撤回しウルフアンドカンパニーの装置を安全だと宣言しないと提訴するぞ,としつこく通告してきていた。なお,取材記事中にウルフアンドカンパニーの名前も具体的な製品名も登場しないので,ほとんど一方的にウルフアンドカンパニーの方から絡んできた状態である。なお,大竹氏は,本人訴訟が得意だと自称しており,かつ,越谷簡易裁判所で訴訟を行うことにこだわりを見せていた(下記LINK先参照)。

 小波さんは弁護士を代理に立てて交渉事件として進めた。私は自分で反論することを選んだ。大竹氏に訴訟をちらつかされている人が複数居ることがわかったので,私に送られた訴訟予告のメールをウェブに掲載して,反論を掲載していたところ,メールの無断公開だから削除せよといってきて,拒否したら,越谷簡易裁判所に訴状が出された。

 ところが,本人訴訟が得意だと自称していたにも関わらず,大竹氏は,訴訟金額の計算を間違えた。100万円の損害賠償に加えて,削除要求を訴状に書いたため,削除要求の部分が160万円として扱われることになった。結果,訴額260万円となり,簡易裁判所で扱える額を越えてしまった。裁判官は,職権で,管轄違いにより地裁に移送する決定を行った。その決定の通知と訴状と書証のコピーが送達されてきた。おかげで,改めて地裁から連絡があるまで答弁書を出せない状態である。まあ,先に訴状の内容がわかったので,ゆっくり答弁書を練る時間ができたとはいえる。

 大竹氏がそのつもりなら私も遠慮無くやってもいいだろう,ということで,一昨日,山形地裁に,BuzzFeedに出したコメントを取り消す義務はなく,ウルフアンドカンパニーの商品を安全だと宣言する義務もないことを確認する債務不存在確認訴訟+理由の無い提訴を予告されて精神的負担と手間がかかったことについての慰謝料20万円請求等の内容で,訴状と証拠書類一式を提出した。小波さんが弁護士を代理にして,実際に費用が発生している状況を考えると,自分で対応した私に発生した余分な手間や精神的負担について請求したってかまわないだろう。

 元々,訴訟するぞというメールを公開して反論を加えておいたのは,次亜塩素酸水に批判的なことを公言すると営業妨害で訴えられるぞなどといった投稿がツイッターなどで散見されるようになったため,次亜塩素酸水についての自由な批判を妨げる動きを牽制する目的であった。だから,ダメ押しをするには,債務不存在確認訴訟が必要な状況ではあった。ただ,3省庁合同の発表や,北里大の試験結果の発表などがあって,次亜塩素酸水の消毒効果については帰趨が見えていたので,慌てる必要もないかと思って延び延びになっていた。反論公開について提訴されたので,じゃあ残りの部分もやっとくか,となった。

 まあ,そんなわけで,ウルフアンドカンパニーが原告で私が被告の訴訟と,私が原告でウルフアンドカンパニーが被告の訴訟が,同時に別々の裁判所に係属することになる予定である。

 ただ,さいたま地裁の方の開始は少しかかるかもしれない。大竹氏による訴状を見たところ,貼用印紙額の記載はないし,予納郵券の記載もなかった。大竹氏は,よほどすぐに弁論したかったのか,訴状で「請求の原因」と書くべきところを「準備書面」と書いてしまっていて,手書きで「請求の原因」に直されていた。いくらなんでも気が早すぎるだろう。また,始まったとしても,訴状が今のままだと,請求の趣旨と関係ない内容が請求の原因に書かれていたりするので,答弁書を出した後,まずは,法律の問題と根拠となる条文に絞った形で請求の内容を整理してもらうところから始めなければならない。請求の趣旨と,請求の原因の中身が,少なかったりかみ合っていなかったりで,このままだと,何をどこまで反論するかがすぐには決まらないかもしれない。

 なお,意外だったのは,てっきり,私が書いた批判の部分が名誉毀損や誹謗中傷で営業妨害にあたる,という内容で訴状が来るだろうと思っていたら,大竹氏が書いたメールの内容をまるごと載せている部分を消せ根拠は著作権法違反な,と言ってきたことである。私の批判よりも,大竹氏自身が書いて送ったメールの内容が公開されていることの方に不利益があるということのようだが,一体どういうことなのだろうか。

postheadericon ご協力御礼(学内向け)

 本業でバタバタしていてエントリーを書くのが遅れましたが、山形の裁判は7月10日で結審となりました。1ヶ月くらいで認容判決(削除義務がないことを認める内容)が出て終了です。蒸し返しはおそらく無いだろうと見ています。

 年末から年度末の大変忙しい時期に、北野理事、理学部事務長を始め、事務の方々にお手数をおかけしたことをお詫びすると共に、ご協力(といっても強制的に呼び出した形で恐縮なのですが)御礼申し上げます。

 神戸の裁判の結論が出て、お茶の水大が現状の規則運用の範囲で免責されれば、それが先例になります。そうすれば、いろんな大学でのウェブ関連の規則改定や運用が一歩進むのではないかと考えています。今回は、神戸の結論が出る前でしたので、債務不存在確認訴訟という形をとることになりました。

 大学に対する請求は取り下げました。同意いただき、ありがとうございました。
 どこまでの情報発信をどういう形でやるかということは、プロバイダ責任制限法等も含めて、規則を整備する方が全体としてうまく回るだろうと考えています。民事訴訟では、弁論次第で結論が変わりますので、私が下手くそな弁論をしたせいで変な判決が残ると、後々規則等を整備する際に別の悪影響が出かねません。裁判で結論を出すよりは、まずは運用面で法を踏まえた工夫をする方が良いと考えていましたし、債務不存在確認の結果が出るまでの間相手方の会社から大学に対する請求ができない状態に止めるという目的も達しましたので、大学との間については判決を出さない形で終わらせました。

 私が阪大に勤務していた頃、取材で会った記者さんが、ネットから情報発信するというのは「メディア」だと言っておられました。最近、このことの意味が別の形でしっくり馴染んできています。個人が「メディア」を持つということは、従来の「メディア」(こちらはマスメディア、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、一般の出版関連など)が行っていた、表現の自由をめぐる紛争を、規模が小さいものであったとしても個人が行わざるを得ないということです。紛争にどう対応するかということとセットで考えないと、ネットを使っての情報発信はうまくいかないのではないでしょうか。

 従来のマスメディアは、いろんな形で訴訟を行い、表現の自由をどこまで確保するか、どこまで書けば名誉毀損等になるかという部分のせめぎ合いを行ってきました。個人レベルでも、これをある程度はやらないと、ネットと社会のすりあわせがうまくいかないでしょう。私は、今後も、特定の企業の利益の差し障りがあってもニセ科学に対する批判は続けていくつもりですし、法的紛争をどうするかということも考えていくつもりですし、機会があれば、判例を積み重ねることを厭わないつもりです。

postheadericon 資料公開開始

 専用サイトにて東京の裁判の資料公開開始。画像ファイルが多いので、今回はOCRが必要な分だけ先に公開。残りは順番に公開の予定。

 A4文字情報主体の画像ファイル、300dpiで取り込んで、公開用は25%のサイズにすると割といいかも……。

postheadericon 冨永教授が独立当事者参加、代理人は壇俊光(サイバー)弁護士

 神戸地裁で第4回口頭弁論が終了した。
 今回のハイライト(?)は、お茶の水大のサイトの管理責任者である冨永靖徳教授が独立当事者参加の申立を行ったことである。代理人はサイバー弁護士で有名な壇俊光氏(Winnyの弁護団事務局長)。
 実は、第一回口頭弁論終了後に、当事者参加の話はあった。しかし、「参加申立は、裁判官の訴訟指揮の状況がわかるまで、二、三回待って欲しい」というのが、お茶の水大の顧問弁護士のコメントであったらしい。冨永教授は職員である以上、大学の代理人の意見を容れざるをえなかった。一方、私は職員ではないので、自らの権利に基づき、詐害防止参加を第2回口頭弁論から行った。冨永教授としては、参加すると訴訟がややこしくなって大学が嫌がるので、当面は参加を見合わせるつもりだったらしい。
 ところが、口頭弁論を3回行った結果、当該表現とは最も関係の薄い学長が提訴され、当事者参加が学外の私で、学内外にウェブサイトの責任を負うことになっている冨永教授が全く何もしない状態が実現してしまうことになった。つまり誰が見ても「責任者は一体どこで何をしとるんだ?」ということになったわけで、さすがにこれはまずいと気付いたらしい。
 冨永教授の参加によって、私の権利は冨永教授との明示の契約によって発生し、対大学との関係はすべて冨永教授が責任を負うという、本来あるべき形をとることになった。権利の振り分けで、冨永教授と私が利益相反の関係になることはあり得る。このため、冨永教授は独立に訴訟代理人を立てて、訴訟参加を行うことになった。
 これらの流れが決まったのは、年末年始をはさんでのことで、訴訟参加が決まったのは御用始め早々くらいであった。弁論の形が変わるという話や、冨永教授の参加が必要だという話を年明けそうそうに絵里タンには説明した。絵里タンとしては、冨永教授の参加無しに勝てる状況だと考えていたらしく、当初はさほど歓迎していなかった。が、今のままだと学外の私が直接お茶の水大学との「黙示の契約」を主張することになり、弁論としてはそんなに重い部分でなかったとしても、この形で決着すると大学が大変嫌がることが予想される。また、以前に母校を提訴までして(冨永教授経由で意見書を出したりして)交渉してできあがった、「研究室ページの責任者は明示された教員」という規則を破ることになってしまう。裁判には勝ったが運用規則はめちゃくちゃになりました、では、その後のネット利用に大きな支障を来してしまう。このあたりのことを絵里タンに話して、納得していただいた。訴訟が終わった後でも、制度の運用は続くのであり、当事者としてはそこまで考えて訴訟を行わないといけないのである。
 冨永教授の立場としては、大学との利害も一致はしておらず、学内で参加の是非について判断を求めることができない状態であった。それで参加することは今日まで伏せておくという話になった。このため、裁判について他所の掲示板等ではあまり突っ込んだことを書くのを止めた。詳しく書くと「冨永が居ないのは変」という話になったりするが、私は当事者ゆえに状況を知ってしまっているから、何を書いても後から見るとウソを書いたことになりそうだったからである。

 壇弁護士は、別の裁判とダブルブッキングだったらしく、今日は欠席。申立書だけあらかじめ裁判所に届け、本日提出となったので、次回以降弁論をすることになる。

postheadericon 東京の裁判の期日

 吉岡氏(個人)、有限会社健康と環境の神戸クラブ、マグローブ株式会社を名誉毀損で東京地裁に提訴した事件の、第一回期日が決まった。2月7日午前11時、527号法廷。

postheadericon 年始提訴の結果

事件番号は5番だった。
1番を取るにはどうしたらいいんだろう?と絵里タンと首をかしげることになった。
第一回期日はこれから決まる予定。

postheadericon 提訴しました

 マグローブ株式会社・上森三郎・吉岡英介及び山形大学を被告として山形地方裁判所に提訴した。弁護士を探す時間も無かったのと、ある程度は自分でやれるだろうと思ったので、本件は代理人無しの本人訴訟である。
 マグローブ株式会社・上森三郎・吉岡英介に対する請求は、お茶の水大の掲示板コメントを削除させたことに対する損害賠償請求および、山形大のblog内容を削除しなくていいことの確認(債務不存在確認)を求めた。山形大学には、削除要求のあったblog内容をそのままにしておいてほしいという不作為の請求を立てた。
 訴状提出は平成19年12月5日、事件番号は平成19年(ワ)第610号、第1回口頭弁論は平成20年1月23日午前11:00。

 普通は、インターネットの掲示板等に対する削除要求が原因の紛争は、プロバイダ責任制限法にのっとって発信者情報開示→書き込んだ人を特定→提訴、といった流れになる。しかし、この流れに任せていると、書き込んだ人が表現の自由の範囲内であると考えていても、名誉毀損か何かで訴えてもらうまで、書き込んだ人には内容が正当かどうかの立証をする機会が与えられない。
 ところが、名誉毀損による提訴は、提訴された側が表現が名誉毀損にあたらないことを立証しなければならず、非常に立証の負担が大きい。これは、名誉毀損が主に力のあるマスコミによってなされた時代の判断基準がそのままになっているということによる。昔であれば、「公然と」表現するには、新聞を印刷して配るといった資本力や設備が必要であったので、公然性=金も力もあるプロのジャーナリズム、が成り立っていた。
 しかし、インターネットの時代になって、個人が誰でも簡単に公然性のある表現ができるようになってしまった。このような場合には、攻撃防御の方法も変わってしかるべきである。
 私は以前から、表現の自由を侵害するような削除要求に対しては、訴えられるのを待たず、先に、削除義務が存在しないことを確認する訴えを提起するということで抵抗できるのではないかと考えてきた。民法では、人に何かをさせる権利・義務は全て債権債務である(一方、物権は法定されている)。債務が存在しないことを確認する訴えは民事訴訟の訴えの形としては確立している。従って、削除要求に対し、債務不存在確認を書き込んだ人から提起するという手段で、表現の自由をもう少し積極的に守ることができるかもしれない。しかし、なかなかそこまでやる機会に恵まれなかった。また、削除要求に対して、要求された側が先に提訴するというケースは希で、ひょっとしたらこのケースが最初かもしれない(別にやっている当事者参加の方は、既に紛争発生後の話なので状況が違う)。裁判所の判断がどうなるかわからないが、試してみる価値はあるのではないかと考えている。

 「民事訴訟法 第四版」(上田徹一郎著、法学書院)によれば、確認の訴えの機能とは、

(1)権利・法律関係の不明確をめぐって生じている争いが悪化して給付の訴え、さらには確定給付判決の執行力に基づく強制執行によって処理せざるを得ない状態になることを防止し、(2)あるいは基本的な権利・法律関係を明確にすることによって基本的な権利から発生する種々の請求権に基づく多様な給付訴訟の続発を防止する、という「予防的機能」を営ませることを目的とする。

となっている。「確認の対象は権利・法律関係であって、かつ特定の具体的なものでなければならない」から、内容を特定した削除要求があれば、訴え提起は可能である。

postheadericon 取材など

 山形新聞から電話がって、提訴の件について訊かれた。定期的に裁判所の事件一覧をチェックしているらしい。表現の自由がらみなので記者さんは興味を持っておられるようだが、「難しい……」とつぶやいていた。まあ、今時のことだから、名誉毀損訴訟と言われれば素人にもどういう種類の争いか見当がつくしイメージも湧くだろうけど、「債務不存在確認の訴え」では、余分な説明が要るわなぁ……。確認の訴えなどというものがあることを知っている人が少ないし、それを表現の自由を守る手段に使うというのも多分稀だろうし。

 ところで、何でまた取材、と思った。また、というのは、飛騨の人を訴えた時も取材があったからで、その時はありふれた名誉毀損訴訟なのに一体何が珍しいのかと、訝ることになった。
 で、ちょっと考えたのだけど……。12月に提訴して事件番号が610だったのだが、神戸だと、9月の当事者参加で事件番号が2300である。神戸では新規提訴が300件/月、山形では55件/月、という見積もりになる。記者さんが裁判所の民事訴訟リストをチェックしていられるのは、単純に件数が少ないからではないかと思ったり。これが東京地裁になると、提訴多すぎで一通り見るのも大変なんじゃないかなぁ。

 そういえば、山形地裁の1階には切手と印紙の売捌所があるが、月・水・金の午前中しか営業していない。今回、提出が水曜日の午前中だったので、買いに行ってみた。
私「収入印紙ください」
店の人「いくらですか」
私「24,000円分」
店の人「……」
私「何か?」
店の人「ありません」
私「組みあわせで枚数が多くなってもいいので……」
店の人「枚数増やしてもありません」
私「はぁ?_?」
店の人「ちょっと待ってもらえれば、買ってきますけど」
私「買って……って、一番近いのは隣の山形市役所の売店ですよね」
(市役所と裁判所は隣接していて、市役所地下の売店では切手や収入印紙も扱っていて在庫はそれなりに豊富)
店の人「そこで買ってきます」
私「それなら自分で買いに行きます。ところで、他の皆さんはいくらくらいのものを買って行かれるのですか?」
店の人「150円くらい」
私「って、地方裁判所に出す訴状の(訴訟費用の)金額はそんなもんじゃ無い筈……」
店の人「そんな高額なの、買う人が居ません」
私「そういうものなんですか……」

 いくら山形が田舎だといっても、県庁所在地にある地方裁判所の印紙売り場でこの展開は無いだろう、と、何だか釈然としなかった。実はみんな市役所地下で買うから裁判所内の売り場は使われないとか、そういうことなんだろうか。