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化学の世界(化学C)

着任した年の10月から始めた共通教育についてのサポート記事。 この年のものが原型となり、科学リテラシー(化学A)となり、板書していたものをプリントにし、QandAを掲載するという形に変わっていった。

はじめに:シラバスに書けなかったことなど

 化学の世界(化学C)の講義内容のサポートページ兼私のメモ書きのページです。講義内容,補足説明,学生達からのコメントとそれに対する私の答えを載せていきます。全部いっぺんにはできないので,順次内容を追加していきます。

 シラバスにもあるように,化学Cは,週2回(月曜日と水曜日)の開講で,それぞれ別の人たちが受講します(月・水で重複受講はありません)。2003年後期は10月1日(水)から始まったことと,ハッピーマンデーで月曜日に休講が多くなることから,同じ週の内容は月曜日の方が遅れることになります。

 これとは別の理由で,同じ内容をやってるつもりでも,月曜日の方が若干時間が長くなって,遅れがちになっています。出席カードの裏にその都度コメントが書けるようになっているのですが,先行している水曜日のコメントを見て,私なりに穴をふさいで月曜日に話をしています。このため,伝える情報量が(パッチを当てた分だけ?)多くなるので,時間も少しかかってしまいます。その割には凡ミスが多かったり直ってなかったりで,後で気付いて焦ったりするのですが・・・・。

 講義のまとめは,1回目,2回目・・・と区切りますけど,完全には1回1回の講義には対応していません。大体は対応してますけど,一部足りなかったりずれたりしています

 私は,山形大に来る前から,水関係の怪しい話に突っ込みを入れるウェブサイト「水商売ウォッチング」を作ってきました。私の専門は液体の動的構造の研究ですから,これに関係する一般向けの話を公開することにしたのです。私の共同研究先のお茶の水大にサーバを置いて,今も製作を継続しています。この内容等について,一般の方々(消費者,企業の人,その他)から質問をもらうこともかなりありました。そのときに思ったのは,理科の知識の使い方を知っていれば怪しい話を怪しいと判断することができるのではないか,ということでした。

  ですから,今回は私なりに,世間にあふれる怪しい話にだまされないための知識を教える,というのをやってみます。主なターゲットは,新聞広告でもおなじみの「電解還元水」ですが,これ以外の事も個別に紹介します。電解水を中心にしようと思った理由は以下の通りです。

  • 水の電気分解だから,きちんと話をするには電気化学の基礎を知る必要があり,化学の授業に適している。
  • 酸化還元電位がキーワードだったりするが,この説明も電気化学の基礎的な部分である。
  • 九州大学農学部の白畑教授が「活性水素」の存在を主張して,新聞にまで出てきて話をしているが,あえてそう呼ばなければならない物質はいまのところ見つかっていない。有名な大学の教授が言うことでも裏をとらないとまずい,という格好の例である。さらに,論文発表が無いのにマスコミに宣伝されるというのは,病的科学の特徴でもあり,これまでに起きた疑似科学騒ぎと比較して考えることができる。
  • 実は,抗酸化力があるとされる水について研究が進み,活性水素を持ち出さなくても説明できるのではないか,という話も出てきた。科学の概念がどうやって進むかとか,新しい考え方を導入するのはどういうときか,という説明をするのに使えそうだ。また,研究者が新規だと主張される話題をどう扱うかも説明できそうだ。しかも,現在進行形で旬のネタでもある。
  • だからといって,電解水が完全なデタラメかというと,実はそうでもない。食品分野では使える可能性がじゅうぶんある。pHの効果を利用すればいいはず。
  • 還元水と双璧(?)をなす日田天領水だが,バイブル本(=あれが治った,これも治った,奇跡の効果だ,と言いまくる本)と一緒に(薬事法と景品表示法にひっかかるんじゃないの)大学前のコンビニThanksで売っている。実はこの天領水の方も分析が進んでいる。
  • 関連する特許が出ていること。特許は内容まで確認しないとだめとか,特許が出ているからといって正しいとは限らないとか,事実に合ってるとも限らないとか・・・。社会に出る時には知っておいたほうがいい。

 他にも,電気分解やイオン化傾向の話を知っていれば,トルマリン処理した水の話が変だということもわかるでしょう。「水に電子を注入し・・・(この宣伝は実在する)」なんてあるわけがないってことも。

 まあ,科学を知ってると得をするよ,って思ってもらえればそれでいいかと。技術立国とか特許とか金もうけ以前の問題として,間違った判断をしないですむとか,ろくでもないものに金をつぎ込むことを防げるとか,生活の知恵として得をするってことなんですけどね。

シラバス

 後期授業のガイダンスが9月30日にあるので,担当者や講義内容変更のときは,このときに連絡するはずなのですが,私の着任が10月1日からで,今回は対応しきれませんでした。30日までにシラバス改訂版を提出せよという指示もなかったので,状況を知ったのは着任してからになってしまい,学生さん達にはご迷惑をおかけしました。

 第一回の仮履修届提出のときに,改訂版シラバスを印刷したものを配りましたが,その後,取り消しや追加があったので,見ていない人も何人かいるかもしれません。以下に改訂版の内容を示しておきます。


 

化学の世界(化学C)
World of Chemistry (Chemistry C)
担当教官:天羽優子 (AMO, Yuko)
開講学年:全学年
開講学期:後期
単位数:2単位
開講形態:講義(一般・発展)
教官の所属:理学部物質生命化学科
授業概要
 私たちの日常生活に,「化学」あるいはもう少し一般的な「科学」は欠かせないものとなっています。衣食住はもちろん,携帯電話やパソコンといった電気製品,医薬品などを作るのにも科学と技術の知識が使われています。私たちは,日常の経験から無意識に,科学的=信頼できる,という図式を受け入れてしまっています。実際,科学技術は多岐にわたっているので専門家でもそのごく一部しか知らないというのが現状ですし,いちいち疑っていたのでは日常生活に差し障ってしまいます。しかし,このような科学と技術に対する信頼を背景として,「科学を騙る」ということも,実は,広く行われているのです。たとえば,テレビや雑誌・新聞の広告等で宣伝されている健康法,浄水器・活水器やマイナスイオン製品といったものは,いかにも科学的裏付けがあるかのような体裁をとっていますが,宣伝内容の多くは科学的根拠に乏しいのです。教育課程を考えた場合,中学理科の範囲までは全員が学ぶはずですし,この講義を受ける人たちは,高校の理科の一部は学んでいるはずです。「科学っぽい話」をきいたときに,それが真実かどうか,信頼度はどの程度かということを判断するには,高校の理科の知識だけでもそれなりに可能ですが,そういう訓練は必ずしも十分ではありません。。この講義では,日常生活で使えるような科学の知識とその活用法を身に付けることを目指します。「科学」とはどういう方法論なのか,科学に関する情報をどう取り扱うか,といった,科学リテラシーを向上させることが最終的な目標です。

授業計画
 科学の方法論そのものに関する解説,個別の「科学っぽい話」を見分けるために必要な正しい科学の知識を,化学,物理,生物から選んで解説します。予備知識は問いません。最初に,簡単なアンケートを行い,どの程度理科を学んできているかを調べてから,どこから説明するか決めます。ですから,文系の方でも安心して受講してください。

成績評価の方法
 出席とレポートで評価します。

テキスト
 特に指定しません。
参考書
 講義中で紹介します。

その他
 科学リテラシー向上が目的ですから,教材はみなさんの生活の中にあります。たとえば,テレビや,製品の広告などを見て,どこでゴマカシが入っているか,どんな情報が意図的に隠されているかを見抜けるように,科学的に判断するトレーニングをしておくことが,良いレポートを作るコツです。こまめにネタを拾っておいてください。

化学の世界(1回目) :10月1日(水),10月6日(月)

 第1回目は講義なし。講義概要を簡単に説明し,集まっている学生から仮履修届を受け取ったら解散。15分程度。ただし教官はそのまま教室で待機。

 人数がめちゃくちゃ多くなった科目はたいてい抽選になるので,はずれた学生は他のを受講して単位をそろえなければならない。そういう学生さん達がくるのを待つことになっている。また,早めに終わるのは,他の講義内容もききにいって,比べてから選べるようにするためである。

 受講可能人数は,レポートや出席で判定する場合は教室の最大収容人数まで可能,テストをするときは教室に1人おきに着席できる人数となるが,有る程度の増減は教員の裁量にまかされている。

 学生によると,一番人気は環境問題を扱ってるものとか,出席点を半分以上みてくれる講義とかだそうで・・・・配点をどうするつもりか訊かれたが,何とも言えませんでした^^;)。実際,講義するのは今年が始めてなので,どうするといいかこっちも模索している真っ最中だったりして。

化学の世界(2回目) :10月8日(水),10月20日(月)

 シラバスに書いた通り,簡単なアンケートを書いてもらって終了。1時間程度。アンケートの内容は以下の通り。

 


 

受講前アンケート

  1. 高校で化学を履修しましたか?【履修した・履修していない】
  2. 高校で化学を履修した人は,どこまで履修しましたか?化学I,化学II,あるいはこれらの半分までとか最初の方だけ,といった状況を書いてください。
  3. 以下の問いに答えてください。説明中に出てくる言葉をきいたこともない,という場合は,そのことを書いてください。
    • 原子は何からできている?
    • 混じっている物質(食塩水や泥水や農薬の混じった水のようなもの)はどうやって分ける?分ける方法を思いつくだけ書いてください。
    • イオンって何?
    • 電解質ってどんなもの?身近な例には何がある?
    • 酸化と還元って何?
    • 酸・アルカリって何?酸性やアルカリ性を示すものには,どんなものがある?
    • 電池はどうやって作ればいいの?
    • 腐敗と発酵は何が違う?
    • 絶縁体と金属と半導体の違いは?それぞれ具体的にどんなものがある?
    • 「生物の体の中は,酸性やアルカリ性といった性質が大きく変わることはない」これは本当?
    • 「エネルギー」について説明してください。どんな性質があるか,具体的にどんなエネルギーの話をきいたことがあるか,など。
    • 「特許をとっている技術は科学的にも正しい」というのは本当?
  4. 「科学的に正しい」「科学的に証明された」ってよく言われるけど,実際にはどういうときにこう言っていいと思う?科学的ってどういうこと?あなたが「これは科学的に正しい,証明された」って判断するのはどんなとき?

 


 

 大学で訊ねるには易し過ぎる内容かもしれないが,一般教養なので,高校で化学をあまりやってないとか,全くやってないという文系の人も一緒だし,受講にあたって予備知識は問わないよってことにしてるので,まずはどのあたりから話をしなければいけないかを決めるために訊いてみた。受験科目に化学を選んでしっかり練習問題を解いてきた人には非常に物足りなかったんじゃないかなあ。

 さすがに,原子の構造が出てこない人はほとんどいなかった。まあ常識と思って良いのだろう。

 とにかく人数が多いので,ちょっとすぐには集計できない。(このページには,面白い回答を少しずつ追加していくつもり)