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株式会社イメンス(2002/04/24)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 元記事は、2002年3月25日(月曜日)の、日本経済新聞の夕刊16面に掲載された全面広告。当ページの掲示板にも書き込まれた名無しのゴンベエさんから送っていただいた。「ハイテク・ヘルスウォーターII」という浄水器の宣伝である。

 まず、見出しが、

水道水を、健康に良い水に変える
「酸化還元浄水器」破格の28、800円。

とある。装置の図を見ると、活性炭を多量に使っており、残留塩素試験液付きで効果を消費者が自ら確認できる。このあたりは、消費者に納得して使ってもらうという姿勢があらわれていて、好感が持てる。酸化還元特殊合金フィルターというのを使っているところが特色らしいが、これについては、宣伝だけでは説明が少なくてよくわからなかった。「酸化還元」という言葉は使っていても、別に電解を行っているわけではなく、フィルターを使った浄水器のようである。浄水器自体は、リーズナブルな値段だし、活性炭の効果で有害物質を吸着して取り除くわけだから、「酸化還元」はともかくとしても、臭いなどのない飲みやすい水になることは確かだろう。まあ、普通の浄水器に見える。

 ところが、水に関する説明は訳のわからない説明のオンパレードである。

「ハイテク・ヘルスウォーターII」には酸化還元装置である酸化還元特殊合金フィルターが装着されています。この合金フィルターには+200ミリボルトの自然体の電気が流れており、水道水が通過すると水流のエネルギーにより-500ミリボルトに瞬間的に変換されます。
(中略)
同時に水は中性に近い弱アルカリ性に変化し、水分子のクラスターも小さくなり活性化されます。さらに、「ハイテク・ヘルスウォーターII」を通った水の酸化還元電位(Oxidation Reduction Potential)は70mV〜150mVに低下(水道水は460mV〜750mV)。各地の湧き水や名水とほぼ同じ酸化還元電位に変化します。酸化還元電位が低下すると浸透圧が高くなり、体内への吸収率が良くなります。

 「自然体の電気」って一体?それよりなにより、200mVの電気が流れると言われても・・・。200mVの電位差によって何mAかの電気が流れる、なら記述としてわかるが、そうだとすると永久機関っぽい。図を見ると、「酸化還元フィルター」は普通にフィルターとして設置されているように見える、フィルターと何の間の電位差の話かもはっきりしない。

 浄水器で達成できる70mV〜150mVだが、アルカリイオン水の方がもっと低いと宣伝されている。この尺度で宣伝合戦をしたら、アルカリイオン水に負けてしまう気がするが・・・。

 ところで、電解水の宣伝でも頻繁に出てくる「酸化還元電位」だが、宣伝する側も消費者も誤解している(それ以前に酸化還元電位の何たるかを知らない?)ようにも見える。

 「酸化還元電位」を一言でいうと、「ちょっと特殊な電池の出す電圧(起電力)」である。

 小学校や中学校の理科で出てきた電池の話をまず思い出してほしい。グレープフルーツや夏みかんなどを半分に切って、亜鉛板と銅板など異なった2種類の金属を差し込む。金属の間の電圧を測定すると0ではないし、金属の間に豆電球をつないで光らせたりもできる。金属の材料の組み合わせで電圧が変わる。豆電球が光るのもわずかの間だけだから、乾電池のように実用には使えない。小学校や中学校の実験だと、果物の種類を変えたり、電極の組み合わせを変えたりして、電圧の大きさや豆電球の明るさ・光る時間を比べるということになる。そうやって遊んでいるうちに、電極が汚れたり錆びたりすると、うまく電池にならなくなったりもする。ここまでが遊びから学ぶ科学である。

 精密な科学にするには、これだけでは不十分だ。高校の化学では、イオンの含まれている水溶液中に異なった金属を入れると、金属の間に電位差が生じるということを学ぶ。果物を選んでいたのが、「イオンの含まれている溶液」と、成分を問題にするようになって、ちょっと話が精密になってくる。

 これをさらに精密な科学にするには、単純なイオンの組み合わせをたくさん調べる必要がある。つまり化学種ごとにどれだけの起電力が出るかという表を作って定量的に議論することになる。測定に使う金属材料の組み合わせで起電力が変わってしまうから、何か標準になる材料を選んで、いつでもそれを使って測定するという約束が必要になる。また、標準になる電極の材料は、測定している途中で錆びたりすると正しい値にならないので、繰り返し使っても変化しないものを選ばなければならない。

 歴史的には、いい材料がいくつか見つかって、研究が進んだ。一番古くから使われたのは、標準水素電極(SHE)といい、pH0の水溶液に白金線を浸し、1気圧の水素を加えるというものである。この水溶液と測定したい水溶液を塩橋(高濃度のKCl溶液を含む寒天のようなもの)で結び、測定したい試料水溶液に白金や金など腐食しない金属電極を入れて、SHEとの電位差を測定する。このようにして測定した値が、標準酸化還元電位と呼ばれる値である。水素を使うのはちょっと面倒なので、最近では標準水素電極のかわりに、銀/塩化銀電極(銀の表面を塩化銀にして、飽和KClに浸したもの)を標準電極として使うことが多い。銀/塩化銀電極を使って起電力を測定しても、後で標準水素電極の値に換算することができるので問題はない。

 標準酸化還元電位は、代表的なものが化学の教科書に表になって出ている。酸化還元電位の低い代表例がLi+/Li系で-3.045V(-3045mV)、高い代表例がF2/HF系で+3.053V(+3053mV)である。酸化還元電位が低いほど、還元体が酸化されやすく(電子を出しやすく)酸化体が還元されにくい(電子を受け取りにくい)。酸化還元電位が高いほど還元体が酸化されにくく酸化体が還元されやすい。詳しくは、「電気化学」というタイトルの本についている付録の酸化還元電位の表をながめてみてほしい。

 酸化還元電位とは、ちょっと特殊な電極を使ったときの電池の起電力のことで、2つの電極のどっち向きに電圧が出るかで、酸化還元電位+と−が決まる。酸化還元電位は、電極表面での化学反応がどちらに進むかということや、電気分解をするのにどの程度の電圧が必要かということを予測するのに役立つ。

酸化還元電位が低い水とは●酸化とはエネルギーを放出、還元とは蓄えること。酸化還元電位が高い水は抗酸化物質の働きを弱めて、活性酸素を多く発生させる場合があります。逆に電位の低い水(還元水)はエネルギーを蓄える作用があり、浸透圧が高くなって食物の養分が体内に吸収されやすくなります。
活性水とは ●水の分子はクラスター(ぶどうの房)状につながっており、クラスターが大きいと分子間に有害物質が取り込まれやすくなります。逆に小さいと入り込む余地がなく、水は活性化された状態に。この活性水は体への吸収率が良くなり新陳代謝を活発にします。

 酸化とエネルギーを放出すること、還元とエネルギーを蓄えることが関連づけられるわけではないから、この記述は誤りである。

 次に、酸化還元電位と活性酸素の発生だが、酸化還元電位はイオンの組み合わせを変えることで+3Vから-3Vの範囲でいかようにでも変えることができる。ここに書かれているようなことを主張するのなら、水溶液の酸化還元電位を変化させて、抗酸化物質(いろんな種類がありそうですね)について、活性酸素消去効果が本当に変わっていることを示した実験が必要である。しかし、どういうわけか、この浄水器の宣伝でも、アルカリイオン水(電解還元水)の宣伝でも、本当に必要な単純な実験結果が説明されることはない。酸化還元電位を示しても、それだけでは水質の指標にならない。水道水のように不純物が多い水の場合は、ある酸化還元電位を出すような成分の組み合わせはたくさんあるので、化学種まで含めて議論する必要がある。酸化還元電位の数値だけが一人歩きしているようだが、ほとんど意味がない。せいぜい、極端に酸化還元電位が大きい場合に、何か不純物が入っていてよろしくない水かもしれないということが言えるだけである

 浸透圧が生じるのは、水が通過できるが溶けている物質は通過できないような膜をはさんで、物質の濃度に差があるときに生じる。酸化還元電位との間に直接の関係はない。ある酸化還元電位を示す物質が膜を通過できず、膜の一方に偏って存在する場合は浸透圧が高くなるだろうが、これは単に濃度の違いによるものである。

 また、水が液体であるかぎり、クラスターの大きい水の隙間にものが入りこむようなことはない。物質が水に溶けるときは、そういう溶け方をするわけではない。水は砂粒ではないから、隙間に物が入りやすいということはない。こんなことが起きたとすると、いろんな物質の溶解度が大きく変わってしまうはずである。クラスターサイズを測定する方法がないことも、既に書いた通りである。

 宣伝中には、球根の水栽培の写真が出ていて、成長のいい方が「ハイテク・ヘルスウォーターII」の水で育てたものだと書いてある。これを「活性水の効果」だとしているが、多量の活性炭を始めとするフィルターによって、有害物質が取り除かれたから、結果として植物に負担を与えなかったのだと考えても、効果を説明できるだろう。わざわざ「活性水」などという曖昧なものを持ちだす必要は全くないし、それでも浄水器の宣伝は十分に可能ではないだろうか。


ハイテクヘルスウォーターIIのページを見る(掲示板で存在を教えていただきました。mizutayuuさんに感謝します。)