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他は見直さないのか?

Posted on 8月 19th, 2006 in 倉庫 by apj

 産経新聞の記事より。

先生はエンジニア 理科離れ防止、企業から派遣

≪来年度、全国1万校≫
 子供の理科離れを防ぐために企業のエンジニア(技術者)らの知見を生かしてもらおうと、文部科学省と経済産業省は来年度から、技術者や教員OBらを小学校の“理科講師”に起用する新事業を連携して進める。文科省は来年度の2学期から、技術者や研究者、教員OBらを理科支援員として全国約1万校に派遣。経産省は企業の保有技術や、どんな指導が可能かといった情報をデータベース化し、学校と企業の橋渡しに努める。

 政府の平成19年度予算の概算要求で、文科省は派遣する技術者らへの報酬などとして60億円を盛り込む。経産省もデータベース構築などに数億円を要求する。

 小学校の教諭は1人で全科目を担当するが、理科の実験や観察の指導を苦手とする声は多い。また、最近は専用の教材で失敗のない実験ばかり繰り返すため、失敗の理由を考えて新たな対応を見つける応用力が養われないとの批判も出ている。

 そこで、文科省は来年度から「サイエンス・コラボ・ティーチャー」事業を展開し、全国約2万3000の小学校の4割以上に対し、5、6年生の理科の授業に支援員を派遣する。支援員は年間95時間の授業のうち最大30時間程度を教師とともに担当。今秋には千葉、石川、兵庫の3県・十数校で先行的に試行し、将来は全国に広げる考えだ。

 支援員への学校側の要望を吸い上げるため、理科に強い学校長OBらをコーディネーターとして都道府県・政令市の教育委員会に配置する。

 一方、経産省は地域ごとに講師にふさわしい技術者らをデータベース登録する「博士実験教室」を展開。企業が学校に提供できる知識や教材、学校側が企業の支援を受けたい授業内容などを一括検索できるシステムを、来夏までに構築する。

 技術者らに求めるのは「実社会に関連づけた実験や観察」。音響機器会社なら「身の回りの音の世界」、化学系企業には「化学変化とエネルギー」などの具体例を挙げており、専門家の視点で興味深い授業が期待される。教師の指導力向上に役立てる狙いもある。

 経産省は「企業の技術や人材を教育現場に生かせば、人材育成につながり、長い目で見て企業のPRにも結びつく」(産業人材参事官室)と話している。

(08/18 02:26)

 一時しのぎでこういうことをやるのは仕方がないとは思うけど、文部科学省なら、もっと根本的な部分を変えるべきではないのか?教員養成課程の見直しや、ゆとり課程の指導要領で縛りまくって内容を分断してしまった理科の教科書をもうちょっと体系だったものに変えるとか。教科書では学習が困難になるほど内容を抜いておいて、理科離れが起きたから社会人を連れてきて対応させるというのは、いくら何でも対策を間違ってないか?


ここからは旧ブログのコメントです。


by 酔うぞ at 2006-08-00 18:21:00
Re:他は見直さないのか?

すでにこれに近いことはやっているわけですが、この分野でキーワードは「失敗しない実験」でしょうね。

実験や実習のようなものを時間内に終わらせるから失敗しないようにする、という考え方がヘンでそんなことはあり得ない、といったところです。

まぁ11月には小学校で工作教室ををやることになるので、どんなことなるでしょうか?


by apj at 2006-08-14 01:09:14
Re:他は見直さないのか?

 大学だと、
時間内に終わらせるパターン
→実験手順書が、何分後にこの操作をやれ……と事細かに書かれていたりする。有機合成がこれを採用。
エンドレス
→実験手順書は最低限。道具は全部与えてある。あとは自分で考えろ。途中でしくじってやり直しになっても、できるまで帰るな。物理化学がこのパターン。
 だったりします。

 これを小学校でやるとしたら、理科を一日の最後の時間に持ってきて、失敗してもやり直せるとか延長できるといった状態でやるしかないでしょうね。
 それでも、順調にいけば時間内に終わるようにプランを立てておくのは当たり前ではないかと。演示実験は普通はそうそう失敗しないものではないかと。


by 酔うぞ at 2006-08-56 02:59:56
Re:他は見直さないのか?

今高校でやっているロボ・サッカー製作は、先生がとても積極的なこともあって、最後の時間を取った上にホームルーム免除にしているから、時間が終わっても自分のクラスに戻らないでも良い。
という時間延長には恵まれた環境でやっています。

高校の1時限は50分だけど、50分で自然に終わったことは1度もない。
一番強烈だったのは、100分間やっていたことがあります。
それだけ生徒は集中しているわけだ。

そういう思い入れのある作業だから、いろいろ主張も出てくるわけで、つまりは時間に関係なくやってみるといったことも授業の内なんですよな。

機械的に時間割に当てはめるから、が問題ではなくて、その広角をどう考えるかなんでしょう。


by apj at 2006-08-39 11:57:39
Re:他は見直さないのか?

酔うぞさん、
 勿論、教育の内容の全てが時間内に終わるべきだとは思っていません。熱中しすぎて時間を忘れる体験もあっていいと思います。例えば、週に1回、そういう時間を一日の最後に持ってきて、経験してもらう授業を企画するというのなら、そりゃ大いに賛成します。これは、失敗したり試行錯誤したり熱中したりという経験をさせようという目的に合っています。
 ただ、記事には2つの事が一緒に述べられています。失敗経験などについては、時間延長作戦でやればいいのですが、教師が理科苦手であることによって生じる理科離れへの対策については、教員養成課程を考え直さないといけないでしょうし、それ以外の理由による理科離れであれば、教育内容(教科書の構成も含めて)を考え直さないといけないでしょう。
 違う種類の問題を分けずに提示しているので、元記事は少し曖昧になっていると思います。


by 酔うぞ at 2006-08-56 17:18:56
Re:他は見直さないのか?

>それ以外の理由による理科離れであれば、教育内容(教科書の構成も含めて)を考え直さないといけないでしょう。

社会人講師を始めてから「教科書は良くできている」なんです。
100年以上になるのかな?教育のノウハウの厚さを感じるのですが、それがやり過ぎなのではないか?という感じもします。

たぶん、全教科についてまとめて整理しないとダメなのではないか?

総合学習についても、取って付けたようになっていて活用できる学校と全く邪魔になる学校がある、ということ自体が同じには出来ていない証拠ですからね。

現状をなんとかしようというのであれば、それは何をすればよいのか?を検討するべきで、何かを足せば良くなるだろう。では無理でしょうね。


by apj at 2006-08-48 19:25:48
Re:他は見直さないのか?

 2年上の先輩(中学の部活が一緒、高校も同じ)が、地元で小学校の先生をやっています。総合学習が始まって少し経った頃に会う機会があって、いろいろ話をしました。
 そのときにきいたのは、先生達が神経質になって、「どうすれば外からみて自分がやった総合学習に合格点をもらえるか」という方向に走っているということでした。つまり、何をすべきかを自分で決められないために、「例えばこんな事」と例示されたことを徹底的に全部やろうとして破綻寸前になるという……。
 学校の先生になるような人は、もともと優等生タイプが多い上に、減点方式で評価されると思ってるらしく、どうしても神経質に失点を減らす方向で考えてしまうのかなあ、と思ったものでした。

> 100年以上になるのかな?教育のノウハウの厚さを感じるのですが、それがやり過ぎなのではないか?という感じもします。

 これは私も同感です。たとえば、古文や漢文や社会科といった、自分が専門ではない分野について、標準的な一通りの知識を得ようと思ったら、高校の教科書を読むのが一番手っ取り早いんですね。多分、他の科目についても同様かと思います。つまり、ダイジェスト版なんですよ。ですから、削りすぎて面白くなくなっている部分はあると思います。冗長性を無くしすぎたと言ったほうがいいかもしれません。

 あとは、やっぱり指導要領の縛りで、物理で微積分を使わないことになっているから公式の暗記に終始するといったことがありますね。
 化学は、トピックによっては定量的に扱わないことになっているから、お話だけではやっぱりわからなかったり。

 以前、日本の大学に進学する日本語学校の留学生に物理を教えるというアルバイト講師をやったことがあります。最初は英語でやって、それを日本語でどう言うかも含めて教えるんですね。で、種本にアメリカの高校~学部教養レベルと思われる物理の教科書を買いました。日本の教科書と違うのは、写真が多いことです。びっくりしたのはエネルギーの説明のところで、果物やら肉やらが大量に積んであって、人間が1年生きるのに必要なエネルギーを実際に食物で表すとこの量だ、なんてキャプションがついていたところ。
 数とか量を直感的に把握させるには非常にいいし、インパクトがあるなと思いました。

 理科についていえば、教科書検定の問題は、月の満ち欠けを説明するのに月の図は何枚までとか(アニメーションぽいコマ割で順番に示した方がずっとよく理解できるのに)、地学の岩石を説明するのに何種類以上図を出してはいけない、といったしばりがあるというところです。ゆとり教育の指導要領でこの手の制限が増えたということでした。受験勉強の暗記の負担を減らそうというつもりらしいのですが、系統的にいろんなものを比較することで理解が深まるものにこういう縛りをかけると却ってわけがわからなくなります。


by 酔うぞ at 2006-08-48 20:21:48
Re:他は見直さないのか?

日韓自動翻訳掲示板で遊んでいますが、韓国の人が「ハングルが優れている」と強調することが多いですが、大学生以上おそらくは大学院か研究者のタマゴぐらい人が

論文などを読むとハングルでは音だけだから、機械的に言葉を音で暗記することになって、非常に苦しいので漢字を書いておくこれによって、言葉の意味で記憶出来る。

と言っていて「教育を物理的な量や形」で測るのはダメだな。と改めて思いました。

まして「教科書に絵の数の制限」なんてのは意味あるのかね?

一般に、英語以外の教科が英語で書かれている教科書は大学でお目に掛かりますが、興味がある分野は面白いもんね。
高校の教科書が英語でも良いと思うのよ。

効果を測定しがたいから、間接的に管理するという意味で、数字で縛れる方向に行っているのだろうけど、それ自体が現実からの逃避のように思う。

大学が入試の横並びを止めてしまえば、高校は受験勉強ができなくなる、と思うのですがね。


by apj at 2006-08-37 22:20:37
Re:他は見直さないのか?

>大学が入試の横並びを止めてしまえば、高校は受験勉強ができなくなる

 教科書を逸脱した出題をすると、外から叩かれるために、それがまったくできないのです。教科書に無い用語を使っただけで大問題、ヘタすりゃ記者会見だと、入試の責任者がおびえまくっています。
 ウチは化学ですが、日本化学会が入試問題を検討して、逸脱に目を光らせています。
 また、複数の教科書に載っているものしか出すなといった縛りがあります。1社だけに出ているネタを出すと不公平が生じるというのがその理由です。
 常用漢字かどうかを国語辞典でチェック、教科書に出ている表現かどうかをチェック(単位の書き方で、/記号を使うか-1乗と書くかといった細かいところね)に多大な時間を費やしています。

 好きで横並びなんかしてません。完全に神経症にかかって身動きとれないというのが現実に起きていることのようです。


by apj at 2006-08-32 22:32:32
Re:他は見直さないのか?

 なお、受験勉強はちゃんとやれば役に立つはずです。
受験勉強やら詰め込みやらに反対している人達は、受験勉強で身に付くはずの知識をきちんと身に付けていないことが多いと思うんですけどね。
 受験勉強はあるレールの部分しかやらないわけですが、全教科範囲にわたっていてそれなりに情報量としてはあるわけです。習ったときに関連性がつかめなくても、頭に入っていれば、別の経験をしたりといった、何かのきっかけで理解しなおしたり相互のつながりがついたりすることがあるわけです。しかし、そのもとになる知識すら欠いていたらこれはもうどうしようもない。
 なお、大学の勉強は量も多く忍耐を要求されることもしばしばあります。受験勉強程度の「訓練する」という行動ができなかったら、大学に入ったって専門課程の教科についていけず脱落するのが目に見えてます。よほど向いてる人か天才ならともかく、普通の人にとっては、面倒だったり敷居が高く感じたりしても粘り強くやる、といった行動が必要になります。