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レポート課題と採点基準

Posted on 2月 23rd, 2009 in 倉庫 by apj

 共通教育でやっている「科学リテラシー」の講義のレポート課題と採点基準。1年生向け、人文や教育系の人も、理工医農看護といった理系学部の人も一緒に受講する「一般」分類の科目。
 この講義ではテキストとして、松永和紀著「食卓の安全学」を使っている。

【レポート第1課題】
次の各項目について、テキストを要約せよ。

○2章まとめ
1.新聞記者が突っ込んだ記事を書くのが難しい理由
2.事実を伝えるのが難しい理由
3.リスクとハザードの混同
4.過激な報道が起きる理由
5.マスメディアが誤りを正さない理由
6.「ナンチャッテ学者」の問題

○3章まとめ
1.有名人のお墨付きかどうか
何があれば信用できるか?
2.体験談の信用度
3.動物実験の有無と扱い
4.記事広告
 プレスリリースも含まれる。
5.グラフのトリックの有無
 データの扱いは正しいか?
6.毒性について扱う場合
7.学会発表の取り扱い
8.論文発表について

【レポート第2課題】

 講義資料で取り上げた以外の、身近なニセ科学を1つ選び、
1.情報源(雑誌や新聞は記事のコピー、ウェブサイト印刷物、TVやラジオは放映日と番組と内容要約など)を添付し
2.どこがどうおかしいかについて
3.「食卓の安全学」に示された判定基準を適用して議論する
 勝手な思いこみによる議論ではなく、教科書の「食卓の安全学」に書かれた調べ方を適用して、具体的に判断の基準をあてはめながら書いてください。

○注意事項
※日本語の誤字脱字や多少のてにをはの間違いは採点対象としない。ただし、読んでも意味が全く通じないほど日本語が間違っていたら評価できないために大幅減点があり得る。
※ワープロでも手書きでも良いが、手書きの人は最低限他人が読める字で書くこと。自他共に認める悪筆の人には、むしろワープロの使用を勧める。
※講義資料以外の題材という縛りをかけているのは、講義資料を丸写ししたレポートが書かれるのを防ぐためなので、キーワードとして登場した程度のものにつき、具体的な資料をつけて、資料の中身を読み込んで当てはめをやる場合はOKとする。

 なお、これに先立ち、レポート第2課題製作見本として、2ページ程度の資料を添付し、あてはめを行ったものをプリントとして講義時間中に配布し、書き方を説明した。

【レポート採点基準】
○第1課題について 筆者の主張がわかる程度にまとまっていれば+50点を加算する。

○第2課題について
 採点項目を以下の5つとする。
1.情報源が添付されていること。
2.情報源に出された内容を、判定基準に具体的にあてはめていること。(適用して議論、を要求したので)
3.他の情報と比較検討する形で書いた場合は、批判的な情報・肯定的な情報ともに複数のソースにあたっていること。(Wikipediaしか見ない、批判派のサイトでも1つしか見ない、というのはダメ。)題材として取り上げた情報源1つについて、食卓の安全学の基準を具体的にあてはめて判定、という場合は、取り上げた題材1つでよい。限られた情報しかないという条件でどう判定するか、ということも大事なので。
4.引用と自分の意見の区別がついていること。
5.全体として矛盾が無いこと。

 第2課題の満点を50点とし、
(パターン1、言われたことにきちんと答えている場合)
☆1.ができている +10点
☆2.ができている +30点(当てはめがあれば、他に余計なことが書いてあってもそれは無視して評価、部分点を考慮するが、題材によっても差があるので、3つから4つ程度当てはめていればこの項目は満点でいいだろう)
☆5.ができている +10点
(パターン2、言われたことに完全に答えていない場合)
☆1.ができている +10点
☆2.の代わりに3.をやってしまった +10点 (ソースが単数の場合は5点)
  さらに4.ができている +5点
☆3.、4.が十分であった場合に限り、5.ができているかどうかを評価 +5点

番外:blogや他サイトの丸写しが発覚した場合は問答無用で不可(事前告知済み)。感想文しか書いてないとか、評論しか書いてなくて具体例を欠くものも不可。wikipediaを引っ張ってそのまま信じて書いているのもダメ。あくまでも、具体例に基準を当てはめるということを外してはいけない。

 第1課題でコケる人はほとんど居ない。コケる場合は、そもそも第1課題をまったくやっていない。150人前後の受講者がいると、そういう人が1人か2人は出てくる。
 第2課題は、むしろ文系の人の方が上手に書いてくれる感じ。中途半端に理系の知識があって、手持ちの知識で何とかしようとする方が、基準を満たせず得点が上がらない場合がある。また、資料の添付を忘れて減点という人も数人程度出てくる。

 選ばれる題材は、健康グッズや健康食品、通販の宣伝や雑誌コピーといったものが多くなっている。こういったものの方が書きやすい課題である。ここで、「ゲーム脳」を選んだりすると、当てはめの部分がすっきりしなくなりがちな上、批判本のまとめでは得点が上がらない基準となっているため、逆に難易度が上がってしまう。

 普段何気なく見ている科学っぽい宣伝にどれだけツッコミどころがあるかを発見してもらうことが課題の目的であり、かつ、ある程度形式的に当てはめていって、詳しい理科の知識が無くても「何かヤバそうだ」と感づいてもらえるようになることを目指しているので、こういう課題にしている。

 この講義を始めた頃は、レポート第1課題を出しておらず、製作例も提示していなかった。このため、出題意図と違うものが提出されることがそれなりにあった。そこで、まず、第1課題でチェックリスト製作をしてもらい、何をチェックすべきかを頭に入れた上で第2課題をやってもらうようにした。さらに、書き方をある程度型にはめるため、製作例を講義中に配るようにした。これで、ほとんどの人が、出題意図通りの形でレポートを仕上げられるようになった。

 多分、このレポートでちょっと面倒なのは「ネタ探し」である。大変だという人もいるし、積極的に探すことを楽しんでいるらしい人もいる。

 採点する側からすれば、半年に1回150人規模の集団に向かって「目に付いたネタを報告せよ」とやっているわけだから、どんなモノが世の中で目に付きやすい状態なのかを採点するだけで知ることができるというメリットがある。学生さんの方は欺されにくくなった(=将来の消費者被害にあう可能性を減らせる)上に単位を取得できるというメリットがあるわけで、まあ、ある種のwin-winの関係になっているかな、と。