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特商法方式でカルト対策はできないのか?

Posted on 5月 3rd, 2009 in 倉庫 by apj

 酔うぞさんの「東京スポーツの加護亜依報道から」を読んでいて、ふと思ったこと。

 訪問販売や電話勧誘を規制する法律に、「特定商取引に関する法律」(以下特商法と略)がある。これが定められた背景には、消費者が店舗に行く時は、事前に情報を調べたりして「買い物に行くぞ」と心の準備を整えて行くのだけど、訪問販売や電話勧誘は心の準備ができていない状態で勧誘されるから、その心の準備が無いということを補うために規制が厳しくなっている部分がある。で、条文にこんなのがあるわけ。

(訪問販売における氏名等の明示)
第三条  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品若しくは権利又は役務の種類を明らかにしなければならない。

 カルトの勧誘の問題の1つに、「正体を隠して近付く」というのがあるので、この特商法の条文のようなもので規制したらどうだろう。
 つまり、
「宗教施設であると表示されている場所以外の場所で、宗教団体又は宗教団体への勧誘を行う者は、勧誘をしようとするときは、その勧誘に先立って、その相手方に対し、宗教団体名及び教団代表者(教祖など)の名称及び氏名、宗教団体への勧誘をする目的である旨を明らかにしなければならない。」
といった条文を、罰則付きで決めたらどうかという提案である。で、多分これをやっても、信教の自由には抵触しないと思う。
 ちょっと今出先で、憲法学の教科書や法律用語辞典を忘れてきたので、wikipediaに頼るのだけど、信教の自由の中身は、

1.個人が自由に好むところの宗教を信仰し、宗教的行為(礼拝・布教など)を行い、宗教団体を結社する権利。
2.宗教を信仰するかしないか、するとしてどの宗教を選択するか、自由に決める権利。および信仰を強制・弾圧されない権利。
3.宗教を信仰していたり、していなかったりすることによって、いわれのない差別を受けることのない権利。
4.上記の権利を確保するために、国家が特定の宗教について信仰の強制・弾圧・過度の推奨などを行う事を禁ずる制度(いわゆる政教分離)を行うこと。

となっている。
 特商法方式の宗教勧誘規制を行った場合、勧誘の中身つまり教義の説明や活動について述べる前のところを規制するだけだから、規制があることによって勧誘の内容が左右されることはない。この規制は名乗って堂々と勧誘するならOKという意味だから、勧誘することそのものを妨げるものではない。勧誘であることを承知した上で内容を聞いた個人の判断に、規制の有無は影響しないだろうから、実質的に布教を妨げるものにはなっていない。また、勧誘であることがその場ではっきりすると、その宗教を信仰するかどうかとか選択するかどうかをより意識的に各人で決めることができるようになることが予想され、むしろ信教の自由の内容を充実させることを助ける効果があるかもしれない。
 「勧誘であることを告げなかった」という、中身の話に入る前の勧誘の態様の規制を、すべての宗教団体に適用すれば、特定の宗教団体に不利益を与えたということにもならないし、政教分離の原則に引っ掛かることもないのでは。
 また、ここはお寺とかここは教会とか、誰が見ても宗教施設とわかる場所に(だまし討ちで呼び出されたのではなくて)自分から進んで出向いていって話を聞こうという人については、勧誘されることも予期しているはずだから、規制対象に含めなくて良いだろう。
 「およそ宗教者たる者は、個人の精神を律したり救済したりする高尚な役割を担っているのであるから、こそこそせずに堂々と名乗って勧誘するべきである」とか言い張ると、タテマエとしてもそれなりに立派に見えるし、聞こえだって悪くない。
 この規制をやった場合、正体を隠してこっそり勧誘して本人が気付かないうちに特定宗教に嵌めたい場合だけがやりづらくなるんじゃないだろうか。つまりカルトのよからぬ振る舞いだけを入り口のところで選択的に撃てるんじゃないかと思うのだけど。

 どうだろう?