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「科学の権威」の害って何?

Posted on 5月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

 waveriderさんの、「権威の取り扱い:Chromeplated Rat への回答? のようなもの」を見て気になったこと、というかどうしても私にはわからないことを1つ。

 科学に権威が伴うとして、そのことによって一体どんな被害が発生しているのか?

「双方が科学を信奉しているがゆえ、正しいことを述べる側に権威が発生してしまっている。批判 vs 批判とはつまるところ権威に対する反発であり、”構図” が引き起こす問題だ」

『科学は万能だ。科学はいずれあらゆる問題を解決できるようになる。科学こそが真理だ。原理はよくわからんが科学スゴい!』
…といったように、肥大化が盲信を生んでしまう。
さらに、『科学は人間の都合なんて考えてくれない。合理性は感情を殺す。科学が環境を破壊する。科学コワい!』
…のように、科学や合理性の持つ「非人間性」が怪物化して、恐れをも生んでしまう。

 waveriderさんにはこのように見えているということだろうし、それを否定するつもりはない。ただ、これを受け容れようとすると、上記の疑問になる。

 科学の権威の効力発生の場面で、思いつくものをいくつか挙げてみる。

 まず、権威だけ借りてきたけど内容が伴わなかったケース。
○悪徳商法業者
 「インチキな測定データとかをつけてクズ健康食品を売り出したら、売れること売れること……バカがみんな信じてくれて簡単に儲かるなぁ」
→でも、これって、科学に権威があることによって生じた被害じゃなくて、他人を騙す人が発生させた被害だよね?「科学に権威があること」に対して責任は問えないじゃないの?
○悪徳商法の被害者
 「科学的根拠があるって宣伝信じて買ったけど、効果ないし、ぼったくられただけ。おまけにマルチにはめられて借金まで……」
→この場合、責任を問うべきは、嘘付いて騙したヤツだよね?「科学に権威があるから信じた、けしからん」と科学を責めるのはお門違いだよね?

 次に、権威を借りてきて内容も正しかったケース。
○「取引先の会社がトンデモにはまって、ウチの現場でも使わないかと薦めてくるんだよな。怪しいと思うんだけど、真正面から、「インチキを言うな」などと言って断ると人間関係で維持してる商売が後で困ったことになるし……あ、大手企業の研究所か大学あたりで検査して、役に立たないって結論だしてもらって、それを理由にやんあり断れば、あんまり角が立たなくて済みそう」(実際にこのやり方をしたいという業者さん、居ます)
→うまいこと権威をつかって、人間関係を損なわずに金銭的損害を免れたのだから、これって権威がくっついてることのメリットだよね?断られた側は多少は気分を害するかもしれないけど、他人に高価なものを薦める時はそれなりに慎重じゃなきゃいけないよね。科学とは関係なしに。

 waveriderさんの指摘について見てみる。

○科学は人間の都合なんて考えてくれない
→こういう人、時々見かけるけどね、それじゃあ質問したい。
「科学のために、あなたの都合が邪魔された具体的な例ってどんなのがあるの?」
 ……いやその、「科学のせいで自分がやりたかったこれこれが邪魔された」って具体的な事例が書かれているのを見たことがないんだよね。だから知りたい。「人間の」じゃなくて「あなたの」都合が邪魔された具体例を。
○合理性は感情を殺す。
→「科学が、あなたの感情を殺した例ってどんなのがあるの?」
○科学が環境を破壊する。
→環境を破壊したのは、科学じゃなくて、それを使って過剰に活動した「人間」だよね?後先考えずに金儲けのことだけ考えて、あちこち壊しまくったのまで科学のせい?はっきり言って濡れ衣じゃないの?自分の不注意で指先を怪我したのを、よく切れるナイフのせいにする、ってのとどう違うの?

 科学に権威が伴うとか、その権威で抑圧されるから反発する、という立場の人に訊きたいのだけど。

「科学の権威で抑圧された結果、あなたに(あるいはあなたの友人知人に)どんな具体的な被害が発生したの?」

 例えば、人間関係で抑圧されてたら鬱病になりました、という話ならしばしば見かけるし、だからその抑圧を何とかしないといけない、というのもわかる。だけど、「科学の権威で抑圧された結果鬱病になりました」というのは聞いたことがない。

 科学に権威が伴ってるとか、だから気を付けろとか言われても、そのことによってどんな被害が出てるのかがはっきりしないと、何をどうしていいかわからない。少なくとも、この手の内容を主張してくる人にとっては「科学に権威がくっついている」の部分が変わることはないのだし、それなら「こんな被害があった」というのを出してもらって、類似の被害が発生しないようにするにはどうするかをみんなで考えるしかないわけで。

【トラックバック用追記】
 poohさんのところの「権威の取り扱い」にもトラックバックしておく。

【メモ】脂肪燃焼サプリで健康被害

Posted on 5月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

 asahi.comの記事より。

脂肪燃焼サプリ健康被害 ハイドロキシカット、米で警告
2009年5月2日10時48分

 【ニューヨーク=田中光】米食品医薬品局(FDA)は1日、脂肪燃焼をうたった健康食品(サプリメント)のハイドロキシカットの使用を中止するよう警告を出し、カナダにあるメーカー側も自主回収を始めた。死亡例や、肝臓移植を必要とする肝機能障害が報告されているという。

 FDAによると、ハイドロキシカットは主に脂肪を燃焼させ、体重を減らす効果をうたい、薬局やコンビニなどで売られている。昨年1年間で900万個が販売され、日本のインターネットサイトでも販売されている。

 これまでに19歳の男性が死亡するなど、23件の肝機能障害が報告されている。このほか、発作や横紋筋融解症などの健康被害もあった。どの成分が健康被害につながっているか調査しているという。

 健康食品・サプリによる事故例追加、かな。講義資料に入れるかもしれないのでメモ。

【ネタ】

Posted on 5月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

一般人・やる夫「司法改革だお!弁護士ふえたお!」
弁護士・やらない夫「何をそんなにさわいでるんだ」
やる夫「これからは一般人もどんどん弁護士に相談するお!……でも困ったお。どの先生がいいかわからないお……」
やらない夫「そりゃ相性ってのがあるから」
やる夫「雑誌のランキングとか、行列の出来る何とかに登場する先生に頼めばいいんだお!」
やらない夫「でもその超有名先生がやってくれるとはかぎらないぞ。超有名だから仕事が殺到してて同じ事務所の新人が担当ってこともある」
やる夫「じ、じゃあ、電車に広告を出しているとことへ行くお!借金の相談にものってくれる親切な事務所みたいだお」
やらない夫「広告で人を集めて、薄利多売の仕事をしているところに行って、きちんと話をきいてくれるかね?避けた方がいいと思うが」
やる夫「どうしたらいいんだお。お医者さんだったら、あそこの先生は名医だとか、街でも噂になってたりするお。」
やらない夫「そりゃ、他の医者が治せなかったのがあの先生にかかったら治った、となれば噂になるな」
やる夫「でも弁護士先生の仕事なんかわからないお。しつこい風邪が治ったのとは違うお。書面見て、ここの先生ならではの妙技、なんて素人には判断無理だお」
やらない夫「それに、どの医者がいいか知ってる患者ってのは、病気がちでいろんな病院を回ったんじゃないか」
やる夫「それだお!いろんな弁護士先生のところを回るお。訴訟しまくればいいんだお。そうしたら弁護士の選び方がきっとうまくなるお」
やらない夫「でも、そういう人は訴訟狂と言われて、弁護士も敬遠するんだな」
やる夫「どうすればいいんだお」
やらない夫「被害者の立場で事件に巻き込まれる回数が増えれば、どういう弁護士がいいかわかるんじゃないかな」
やる夫「たとえばどんな風になるんだお?」
やらない夫「そうだな……まず、痴漢冤罪で捕まって告訴されて、最高裁あたりで無罪を勝ち取る」
やる夫「この間新聞で見たけど、あれは大変だお。仕事クビになるお」
やらない夫「やっと無罪になったと思ったら裁判所からの帰り道で交通事故に遭う」
やる夫「痛いお……」
やらない夫「で、担ぎ込まれた先の病院で医療過誤。その訴訟をしている間に親が死んで遺産相続争い。親族の揉め事に嫌気がさした嫁さんが離婚言いだして調停ではカタがつかずに裁判所行き。あとは、自動車事故の時に保険会社がズルして金を出さないのを何とかしなければならない、ってのもあるかな。これくらい揃えば、個人が巻き込まれる法的トラブルは一通り全部経験できる。それぞれ違う先生に依頼すれば、弁護士を見る目は確実に養えるぞ」
やる夫「小説になりそうなくらい不幸な人生だお。そんな人生イヤだお……」

【コメント】括れないからわからないのでは

Posted on 5月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

 kaqu11さんの疑似科学批判批判批判批判、を読んでいて思ったあまり関係のない感想へのコメント。

これらの場合はニセ科学批判を普段行っている人たちが「多」側にいるわけですが、多人数がいろいろなことを言っていると読んでいて誰が何を言っていて結局どういう考え方なのか情報を整理できなくなってしまいます。私の読解力の問題でしょうが。

 多分そんなことではないと思う。既に、関連のエントリーを2つトラックバックさせていただいたが、kaqu11さんの読解力に問題があるのではなくて、実際にいろんな人がいろんな立場でやっていることを「ニセ科学批判」という同語反復でしかなく実体を伴わないもので括って議論すると、誰のどの話についての議論かがわからないために、「自分とは違う」と自覚した人達がめいめい議論に参加して説明したり反論したりする結果、話が発散しているだけでは。
 もっとはっきり言ってしまえば、Judgementさんが、TAKESANさんのエントリーとコメントを読んで問題があると思ったのなら、誰それのこの主張は違う、別の誰それのこの言い分は見当外れ、と、最初から個別具体的に撃ちまくってくれれば、問題がはっきりしたのだろうけど、それをさぼって「ニセ科学批判」という括りで話を済まそうとしたからいけないんじゃないか。
 私は今のところ、「ニセ科学批判」には実体が無く、現実に存在するのは個別のニセ科学についての議論があるだけだ、という立場である。
 「ニセ科学批判」で括ることに意味があると主張する人を頭から否定するつもりはないが、同語反復以上の意味内容を持たせた「ニセ科学批判」を定義するという手順を踏んでからにしてほしい。それは「ニセ科学批判」という括りを(批判のためにであっても)必要としている側の仕事だろう。
 科学っぽくて他人を騙す言説に注意喚起したいという立場のきくちさんや私や他の人々は、その批判のために「ニセ科学」という用語を作り、きちんと定義して意味を持たせた。定義の内容についても、この言葉を使いながら議論してブラッシュアップし、より精密にすることを試みた。
 一方、ここ2年位の間、「ニセ科学批判批判」側は批判のターゲットとして「ニセ科学批判」という言葉を使いながら、意味のある定義もせず、その括りで何が明らかになるかということもきちんと詰めてこなかった。未だに議論がまとまらないのは、批判対象である「ニセ科学批判」に対してろくな定義も意味づけもできなかった批判批判側に責任があるんじゃないの。