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その「カルト性」はニセ科学のもの

Posted on 6月 30th, 2009 in 倉庫 by apj

 渋研Xさんのところの「教えて、元増田」を見て。
 気になったのは、引用されていた「ニセ科学批判をしている人の一部に、何だかカルト宗教と五十歩百歩の凝り固まった精神が感じられる時があるのは、わたしだけではないでしょう」というフレーズ。別に、この手の言い方をする人はこれまでも他にも居たから、別に珍しくもないのだが、「カルトっぽさ」は、ニセ科学を取り上げている人のものではなくて、ニセ科学が本来持っているものではないかと考えた。

 カルトの被害発生の第一歩は、社会で受け入れられている価値判断の基準と違うものを信じ込ませることにある。そこを足場にして、信者に、反社会的な行動をさせたり、経済的に被害を与えたり、家族などの人間関係を壊したり、低賃金あるいは無償の労働を強いたりといったことをする。ニセ科学は、「ニセ」でそもそも「嘘」なのだけど、それが真実であり正しい、と他人に信じさせることで広がる。
 カルト並のしつこい個別勧誘(というか説得や宣伝)で、ニセ科学製品が良いものであると信じ込まされることもある。また、カルトと違う拡がり方として、マスコミが荷担したことによって、真実でないものを真実であるかのように見せかけてしまって広まるということも起きる(あるある大事典など)。
 うまく表現できないのだが、「嘘を信じさせる」プロセスというのは、カルトもニセ科学も共通しているのではないか。社会全体、というかより広い範囲で見渡すと明らかに変なのだけど、一部分だけしか見せないようにすることで、整合性があるように見せかけるといった部分が共通している。
 ニセ科学を問題にする際に、既に信じている嘘に対して丁寧にカウンターをぶつけて真実を信じさせる、という方向に行くと、見かけ上、カルトの勧誘のように見えてしまうということではないか。しかし、そのカルト性は、元の嘘を正確に撃ったために浮かび上がってきたものであり、もともと、ニセ科学が備えていたものだと考えるべきだろう。
 引用したような批判をする人は、ニセ科学のニセを指摘したことによって、ニセ科学のカルト性が見えてきているものを、「批判者のカルト性」と取り違えているんじゃないだろうか。

 渋研Xさんのところにトラバしたので追記。
 マイナスイオンの蔓延に手を貸しておいて、環境保護を謳うのは矛盾している。投じた資源に見合った効果がまったくないものを、大手電機メーカーにまで搭載させて、環境負荷を増やした。明らかに無駄。効果を信じて、実際には必要が無いものを買うはめになった人が全国に大勢居たわけで、被害総額を考えると笑い事で済ませる状態ではないだろう。
 ゲルマニウムについては、無機ゲルマニウムは既に重金属中毒事故の貴重な例を提供した前科がある。有機ゲルマニウムは、業者の触れ込み通りならば、医師の監督の下で服用しないと副作用が発生する薬剤と似通った化合物で効果の方も似たようなものということになるので(「セロシオン」類似の化合物)、無駄に真面目な業者が薬剤を入れていたら、場合によっては命に関わるかも知れない。肌に触れさせるだけななら害はないだろうが、インチキ商品を買わされたことに変わりはない。

ただ、そもそも、こうしたあやしげな、あるいはあやふやな話にすがってしまうのは、それなりに理由のあることだと考えている。現代医学の限界にぶつかってしまって、それ以外にしかすがれるものがない、という人が頼る最後の砦まで奪ってしまっていいとも思わない。そうした窮地にある人を嗤うような態度も許しがたい。

 弱っちくても「最後の砦」として機能するものならばいいのだが、実際には、「最後の砦(書き割り)」だから問題なのだ。「嘘であってもいいから信じたい」のなら、信仰の領域だからご自由にどうぞとしか言えないのだけど、「嘘だと知っていたら信じなかったのに」という人まで一緒に道連れにしてもらっては困る。

迅速に削除してるのに平気で提訴した竹村龍二

Posted on 6月 29th, 2009 in 倉庫 by apj

【追記】このエントリーについて、もし、私を訴えるつもりがあるなら、まずは、さくらインターネットに対して発信者情報開示請求をかけてください。私は逃げるつもりはないので、私の氏名以外の情報をネットに公開したりしないと確約してくれれば、開示に同意するつもりです。そうすれば、プロバイダ責任制限法によってプロバイダを提訴する手間が一つ省けます。本筋でないところで争っても仕方ないでしょう。

 悪マニさんのところより

2009年6月22日
■竹村龍二という人に訴えられました

最近は訴えてばかりなのですが、このたび悪徳商法?マニアックスが、竹村龍二という人に訴えられました。第1回口頭弁論は、平成21年7月3日午後1時15分から、東京地裁507号法廷にて行われます。
さて、訴えられた経緯について簡単に説明を行いまが、まず、私が管理を行っているスレッドランキングというサイトがあります。スレッドランキングでは、2ちゃんねるのスレッドの一部がキャッシュされていて、2ちゃんねる本体で削除されたスレを見れる場合があるのですが、そこに「竹村龍二氏のことが書かれた新聞記事(を含むスレッド)」が転載されていました。

で、そのスレッドに対して、3月30日に削除要請が来たため4月1日までに削除したところ、280万円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟が起こされました。

訴状は、そのうちアップしようと思いますが、とりあえずご報告です。興味のある方は、傍聴に来てください。

 訴状を見たいな。
 削除を拒否されたから提訴したのなら話はわかる。しかし、削除要求があって、2日後に削除したというのは、常識的に考えて妥当な範囲ではないか。削除要求の中身について事実確認するのに中1日程度はかかっても不思議ではない。それでも提訴するのが、竹村龍二という人物ってことなのだろう。こんな無茶を許してはいけないと思う。

 争点はどうなるのだろう。
・自動キャッシュの運営者にどこまでの責任を負わせられるか
・どの程度の期間、削除が遅れた場合に責任を問われるのか
というあたりか?
 既に2ちゃんねるで広まっている情報のキャッシュの削除に中1日かかった場合に発生した損害をどう考えるかという話になるのだろうか。

【追記】
 余談だが、私が時間を争って訴訟を係属させたのは、大学もろとも吉岡氏を訴えた時だった。その時は、既にお茶の水大に来た削除要求について、プロバイダ責任制限法通りのやりとりの途中でお茶の水大学だけが訴えられるという状態で、向こうが先に神戸で提訴したら、山形大の担当者が神戸に行く羽目になるところだった。既に相手には遠隔地で大学だけを訴えた「実績」があり、神戸で勤務先大学だけが提訴される可能性は十分にあった。そこで、先に山形で不法行為コミで削除義務無しを主張して訴訟を係属させることにした。で、大学だけ分けて提訴されないために、暫くの間私の被告にして、裁判所に釘付けにしておくことにした(向こうが神戸で大学相手に始めても、こっちの審理に併合せよと主張しやすいだろうと考えた)。相手が提訴に動くより先に訴状を出さなければならず、その時は、冗談抜きで時間との戦いになった。木曜日に削除要求が来たのだけど、たまたま私が週末を挟んで出張だったので、週明けの火曜日に山形にもどり、水曜日の昼には提訴していた(出張じゃなかったら金曜日に提訴していたんじゃないかな)。
 時間を争って提訴しなければならない場合というのは、それなりに特別な事情がある時に限られると思うのだけど。

理学部ネットワークダウン中

Posted on 6月 28th, 2009 in 倉庫 by apj

 土曜日の午前中から、山形大理学部のネットワークの一部が落ちている。いくつかのサーバーは外から見えず、内部からも外に出れない状態。土曜になった直後くらいのサーバーログの定期配信は無事に行われていたので、早朝から午前中あたりに異常が発生したらしい。
 そんなわけで、この土日に理学部教員宛に送ったメールの大部分が配送されてないはず。明日、情報センターの人が出勤してきたら連絡して対応が始まる予定。
 もし、理学部の人宛に送ったメールがタイムアウトしたりした場合は、再送をお願いします。

【追記】
 2009/06/29、午前中に復活しました。
連絡をいただいていた、rika2MLのメールアドレス変更は、昼間は別仕事があるので、夕方以降に対応します。

起訴猶予の意味

Posted on 6月 27th, 2009 in 倉庫 by apj

 毎日.jpの記事より。

京都教育大生の集団準強姦:6人全員、起訴猶予処分に

 京都教育大の男子学生6人が酒に酔った女子学生への集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕された事件で、京都地検は26日、処分保留で釈放されていた6人全員を起訴猶予処分にした。集団準強姦罪は親告罪ではないが、示談が成立し、女性が告訴を取り下げたことを勘案した。大学は6人の無期停学処分を継続し、更生のための指導を続けるとしている。

 刑事事件のうち、起訴されて裁判所で刑を決めることになるのはごく一部で、実は不起訴の方が多い。この不起訴のうち、「起訴猶予」は、刑事手続き上、加害者が誰で被害者が誰で犯罪があったことが確定した、という意味を持つ。犯罪があったといえない場合には「嫌疑不十分」となる。

 告訴して不起訴になった場合は、検察官に求めれば、理由を書いた書類をくれる。これを貰っておくと、あとで(民事の損害賠償請求などで)、書証として使うこともできるかも。告訴をしたときは、結論が出た後、忘れずもらっておこう。起訴された場合は、訴訟手続が全部終わった後で、判決主文の内容が後から送られてくるので、特に何も尋ねなくても結果を知ることができる。

 で、Yahoo経由時事通信の記事

京都教育大生を不起訴処分=集団暴行事件-地検
6月26日21時14分配信 時事通信
 京都教育大の男子学生が女子学生に集団で暴行したとされる事件で、京都地検は26日、集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕され、処分保留で釈放した6人を不起訴処分にした。嫌疑不十分か起訴猶予かについて、地検は「今後の6人に対する大学の指導に影響を与える」として、明らかにしていない。

 は、上の毎日の記事と矛盾している。
 事の重大さをわかっておらず、注意しても被害者を中傷する書き込みが続いていて、セカンドレイパーの指導もろくにできないことが明らかになりつつある大学が相手なので、むしろ結果を指導に影響させないとまずいのではないか。結果を公開すべきと思うのだが。

 指導できていないというソースはこちら

京教大、甘過ぎ!?卒業後は教壇に?学生は反省ゼロ
やめない被害者中傷、また書き込み
 女子学生への集団準強姦容疑で逮捕され、不起訴処分となった京都教育大の男子学生6人に対し、大学側は退学処分を見送り、逮捕前の停学処分の状態に戻すことを決めた。

 「門前払いにはせず、更正をはかる」という趣旨だが、果たして“更正”は可能なのか。というのも、今回の件で被害者をネットで中傷して訓告処分を受けた別の学生が処分の翌日、まったく反省のないやり取りをネット上で行っていたことが明らかになったからだ。

 この学生は同大学アメフト部の所属で、6人が逮捕された直後の今月1日、携帯電話用の日記サイトに被害者の中傷を書き込んだ。

 その後、他の学生らが同様の書き込みで処分を受けたため、自らの書き込みを消去し、プロフィルも改竄(かいざん)していた。だが、すぐに人物を特定され、23日に大学から訓告処分を受けた。

 ところが処分の翌日、学生は知人の日記サイト上に≪あの書き込み内容は中立的にみた場合、誹謗中傷には当たらない≫≪僕は元々図太い方なので助かりました 彼女はそうすね…、示談になりさらに今まで同情してた何も知らない周りの人間まで不信な目で見るようになる≫などと書き込んでいたのだ。

 京教大は釈放された6人に対し、日記形式のリポートを課すほか、ネットに不謹慎な書き込みを行った学生に対しても反省文を提出させ、「人権やモラルの教育を徹底する」としているが、処分直後の学生がこの有り様では自浄能力が疑われる。

 夕刊フジの指摘に対し、京教大の小林宣之・企画広報課長は「訓告処分の学生が2回目の書き込みを行ったことと、処分が功を奏しなかったことを極めて遺憾に思います。さらなる厳しい処分で対処し、今後の指導をいっそう強めていきます」と回答したが、「先生の言うことを聞かない」学生が、卒業後に教壇に立って子供たちをちゃんと指導できるのだろうか。

 教師になる場合に限っては、性犯罪歴を明文で「欠格事由」にしても、世間の理解は得られるのではないか。

 準強姦の実行犯に対して「無期停学、退学無し、教師になれる道を残す」大学なら、準強姦を実行せず被害者を中傷する内容を「ネットで書いただけ」なら、実行犯より重い処分にはなり得ないだろうということくらい、すぐにわかる。つまり、いくら被害者を中傷したって大学は大した処分はしません(できません)、と最初から宣言しているようなものなので、今更、「さらなる厳しい処分」などと言っても、説得力が皆無である。

やっとゲルマニウムもチェックされたか

Posted on 6月 25th, 2009 in 倉庫 by apj

 毎日jpの記事より。

ゲルマニウムブレスレット:健康効果を科学的に確認できず

 国民生活センターは25日、健康効果をうたうゲルマニウムブレスレットの成分調査で12品中8品にゲルマニウムがほとんど含まれていなかったと発表した。ゲルマニウム自体の健康効果についても科学的根拠は確認できず、景品表示法や薬事法に違反するおそれがあるとして公正取引委と厚生労働省などに監視・指導の徹底を求めた。

 ゲルマニウム使用アクセサリーに関する相談が04年度からの5年間で2309件に上ることから2~5月に調査を実施した。インターネット通販などで流通量が多いとみられる1万5000円未満の12品を選定。ベルト部分に埋め込まれた黒色粒などのゲルマニウム含有量を調べた。

 いずれも「純度99.99%」などと高純度がうたわれていたが、4000円未満の7品ではゲルマニウム含有量は1.5%未満で、検出されない銘柄もあった。9000円以上の5品では4品は96~100%だったが1品は0.1%だった。

 また「生体電流を整え、血行をよくする」「電子を放出し、細胞を活性化させる」など何らかの効果を示す表示も全銘柄にあったが、科学技術振興機構による日本最大の科学技術文献情報データベース(2080万件収録)では過去5年分に科学的根拠を示す文献はなかった。同センターは「健康効果は期待すべきでない」としている。【山田泰蔵】

 Yahoo経由読売新聞の記事。

ゲルマニウムブレスレット「疲労和らぐ」根拠なし
6月25日22時34分配信 読売新聞

 国民生活センターは25日、インターネット上で販売されているゲルマニウムの使用をうたったブレスレットの中に、ほとんどゲルマニウムを使っていなかったり、薬事法上問題のある表示をしていたりするものがあると発表した。

 同センターは、ゲルマニウムを100%近く使っているなどと表示して販売していた1万5000円以下のブレスレット12銘柄を2~5月に調査。その結果、6銘柄でゲルマニウムの含有量が1%に満たず、1銘柄では検出されなかった。また、ブレスレットは医療機器として認められていないにもかかわらず、5銘柄は「疲労を和らげる」「血液をさらさらにする」など、薬事法に抵触する恐れのある表示をしていた。

 同センターは業者に表示の改善を求めるとともに、厚生労働省などに指導の徹底を要望。消費者に対しては、「国内外の文献を調べたり事業者にアンケートをしたりしたが、ゲルマニウムの人体への効果を表す科学的根拠は確認できなかった。購入者は健康への効果を期待するべきではない」としている。

 ゲルマニウムブレスレットに効果が無いだろうということは、触れ込みを聞いた時から丸わかりな話だったが、「ゲルマニウムをほとんど含んでいない」というオチは想像してなかったわ……。
 なお、ゲルマニウムプリズムは、FT-IRのATR測定用として使っているけど高価。二十万円から三十万円くらいする。材料としても、貴金属よりはマシだろうかど、そんなに安くはないはず。

 なんていうか、トルマリンのミラクルな効果を謳っていたけど、効果に科学的根拠がないだけではなく、現実にトルマリンとして売られていた石は、ミラクルな説明を思いつくもとになったはずの焦電性を示さない結晶になってないクズ石だったというオチと通じるものがある。

 ところで、この手の注意喚起だが、お役所のチェックはいつも初動が遅れて、世の中に蔓延してからしか対応がとられない。出遅れるということについて、いっこうに改善しないし反省もしていないように見える。もうちょっと、最初のチェックを出始めにやるように方針を変えたらどうか。

 ところで、読売新聞の記事では、ゲルマニウムブレスレットの写真としてこんなのが出ていた。
!!$img1!!
記事によると、「ゲルマニウムブレスレットの例。内側の黒い粒が高純度のゲルマニウムとうたっている(読売新聞社)」とある。

 赤外分光で使っているゲルマニウムプリズムの色は、黒色ではなく、銀色で金属光沢がある。欠けたりして粗くなった面は、濃い灰色ぽくなるが、黒色ということはない。ある程度磨いた状態で黒色なら、ゲルマニウムではなくて、別の何かだと考えるしかない。

iPod Touchが資料集になりつつある件

Posted on 6月 24th, 2009 in 倉庫 by apj

 その後のiPod Touchは快適に動いて、PDAとして便利に使っている。ソフトはちょこちょこ買っている。最近そろえたものはこんな感じ。

・e六曜 六曜と月齢を出してくれる。まだまだ日本の文化に根付いてます。
・SkyVoyager 星座早見板ソフトだが、星の諸元の説明が、他のソフトに比べてとにかく豊富。これがあったらStarmapは要らないかも。日本語版があったら、小中高の生徒さんにもお薦めできるんだけど。あと、天体望遠鏡の制御もできるらしい。
・LaTeX Help TeXコマンドの簡単なヘルプ。アクセント文字の入力法を忘れた時などに便利。
・Hubble HSTの撮影した写真集。無料だしキレイ。
・Moon Atlas 月の地図。月球儀として回してみたり、拡大したりできる。
・Mars Atlas 火星の地図。火星儀として(以下略)
・Knot Guide ロープワークマニュアル。
・ITJ六法 六法のテキスト閲覧ソフト。無料なので入れてみた。
・ネスレレシピ 料理の作り方。写真がきれい。最近自炊はしていないが、そのうちすることもあるかもしれないので入れておく。
・Holy Bible ギリシャ語版を出せる聖書閲覧ソフト。これと、Bibles2GOとHebrewBibleでほぼ主要言語はカバーできる。
・Italian Verbs イタリア語動詞活用表 ただ、説明もイタリア語なので(汗)。

 結局、iPod Touchがひたすらお勉強コースをたどっているような。

下巻ゲット

Posted on 6月 24th, 2009 in 倉庫 by apj

 「微妙な本」で話題にした「不思議な水の物語 トンネル光子と調律水」の下巻が生協に入荷していたので即買い。
 週末に上下通して読んで、まとめを書いたら、どう料理するか考える。

 ちょっと見た感じでは、ものすごい設定なのに魚の鮮度の議論ばっかりしてるっぽくて、何だかもったいない。実体験に基づいているらしいが一応フィクションということになっているので、まともに科学考証したって、柳田理科雄の二番煎じ以下にしかならない。かといって水ヲチャーとしてはスルーもできないしなぁ……。いずれにしても、著者の意図とは違う方向で存分に楽しませていただきたく。

またまた途中まとめ

Posted on 6月 18th, 2009 in 倉庫 by apj

 ニセ科学まとめの方のコメント欄でいろいろ議論が進んだので、現状を簡単に整理。

○「ニセ科学批判」と括れるようなものは存在するのか?
→存在しない。スポーツをする、という表現と同様に、あくまでも個別の事柄への批判があるだけ。

○「ニセ科学批判批判」はあるのか?
→そもそも「ニセ科学批判」で括れるものが無いので、何を批判しているかが不明のまま。
 個別の議論の際に、もっとうまい表現がある、などといった批判が出ることは考えられるが、それは、ニセ科学を問題だと思う側もお互いにやってきている。この議論をするなら、「ニセ科学批判」対「ニセ科学批判批判」という構図を無理に作り出す必要は無い。

○ニセ科学はどう問題なのか?
→科学として間違っている(事実としての正しさが無い)上に、「嘘をつくな」「不確かなことを言い触らすな」といった社会規範にも違反する(規範としての正しさも無い)。

○「ニセ科学批判」に含まれる共通のものは本当に無かったのか?
→最近いろいろ考えた結果、含まれるものがあるというのではなくて、「嘘をつくな」「不確かなことを言い触らすな」という社会規範に拠って立っていたということが相当程度共通のことだったのではないかと考えるようになった。同時に、この社会規範を意識して説明する、という行動が、これまたかなり共通して「批判側」に抜け落ちていたのではないか。

○事実と規範の切り分けは?
→事実で規範を変えることはできない。規範に対抗するものは別の規範である。……このあたりは法哲学や法社会学の議論で当然知っておくべきことだと思うが、どうだろう。
 科学の部分を問題にする場合は、事実としての正しさを問題にしていることになる。科学の部分の内容に関わらず、その内容によって社会規範を新たに説明したり補強したりすることはないし、できない。あくまでも、現状の社会規範を再確認しているに過ぎない。
 なお、特定個人が科学的正しさを担保するわけではないのと同様に、特定個人が規範としての正しさを担保するわけでもない。前者は知識の集積でもって正しいことが徐々に確定するし、後者は合意を得るプロセスを通じて原則が何であるかが徐々に確定する。前者は自然現象を相手にするので、人の都合とは関係なく何が正しいかが決まるのに対し、後者は人の都合で何が正しいかが決まる。
※規範は不断の努力と考察をしないと維持できない。
※【追記】規範を決める時に、事実を踏まえてはいけないという意味ではない。事実を踏まえた規範にするか、それとも事実とは関係無く規範を定めるかどうかが人の価値判断に任されているということであって、事実によって自動的に規範の在り方が決まってしまうという関係ではない。

○ニセ科学の問題は規範の部分を含むのか?
→この社会で問題にする限り、科学の部分と規範の部分は不可分。
 なぜならば、もし、社会の側が「嘘ついてもOK」を規範としてしまったら、その社会では、ニセ科学を問題にする意味は無くなるし、逆にニセ科学を問題にすることの方が規範に照らして非難されるべきこととなるかもしれないから。事実としての正しさ(=科学の部分)のみでは、ニセ科学を問題にすることが正当であることを支えきれない。
※規範の部分が入る、即ち価値判断を含むことが、科学哲学とも異なっているのではないか?

○共通のものがあることが分かったところで、「ニセ科学批判批判」はどう位置づけられるか?
→これまでのところ、はっきり言って成果は無さそうである。
 「批判批判側」のいう「批判側」が共通に拠って立っているものが社会規範であるということを、「批判批判側」はきちんと拾い上げることができなかった。このため、科学以外のことを押しつけるなとか、科学教とか、ニセ科学批判一派といった、間違った問題を設定して批判するばかりであった。
 「嘘をつくな」「不確かなことを言い触らすな」という社会規範を受け入れているということがニセ科学を問題にする側の共通の部分で(多分ほとんど当てはまると思う)、これが事実(=科学の部分)以外のほぼ全てである。「ニセ科学批判批判」が、科学的正しさの部分は受け入れるというのなら、批判すべき対象は「ニセ科学批判」ではなく「批判側」が拠って立っている「社会規範」ということになる。
 つまり、「ニセ科学批判批判」は「ニセ科学批判」を対象とするものではなかったので、ネーミングが違っているとも言える。

○「ニセ科学批判批判」が本当にしなければならないことは何か?
→科学的事実以外の部分について批判をするという立場をとるのなら、議論すべき対象は「嘘をつくな」「不確かなことを言い触らすな」という社会規範ということになる。これらの規範は「原則」である。
 個人の主観と感情に基づいた「規範が押しつけだ云々」という議論で済むのは、せいぜい中学生までだろう。規範である以上、客観性があったり、社会における機能がどうであるかといった部分を無視して議論しても意味がない。既に書いたように、規範を制限したり変えたりするのは別の規範である。
 従って、特定のニセ科学を問題とすることに異議を唱えるのであれば、それが、「嘘をつくな」という規範の「例外」にあたることを説明しなければならない(原則が当てはまらないことを主張する側が例外を立証するのがルール)。あるいは、ニセ科学を問題にするのに、これらの社会規範に拠って立つことが妥当ではない、あるいは、社会規範そのものが妥当ではないことを示し、別の規範をぶつけて、どういう価値判断をするかについて論じなければならないだろう。
 つまり、「ニセ科学批判」論を展開するのではなく、「規範」論(勿論勝手な作文ではなくて文系のお作法に則ったもの)を展開しなければならないということである。

 コメントをいくつか。

 これまでの自称「批判批判者」は、「批判側」から共通に抜けているものを指摘し損なった上、見当外れの問題を設定して、メタな議論ばかりしていて役に立たなかった。だから、今度は、その人達が規範論をメタな方向に突っ込まずにやれるかというと、多分無理じゃないかと思う。ただ、問題にすべきことが規範の意味だったり位置づけだったり機能だったり、ということをはっきりさせておけば、文系の人が問題を認識して一緒に考えてくれるんじゃないかと期待してるんだけど……。

 実のところ、ある時期までは、私は「規範」ではなく「利害」を全面に出して進めようと考えていた。これは、悪徳商法系の人達による批判が、「安っぽい正義感を振り回しても現実は違う」といったパターンでやって来ることがあったからで、これに対抗するため「正義感じゃなくて利害」という説明をする必要があったことによる。また、一般論として正義の名のもとに何かやると歯止めがきかない、という危惧もあり、私自身が正義感というものに対してネガティブイメージを抱いていたこともある。
 ただ、被害を発生させない、という「利益」を実現するために、規範が実際に役立ちそうだということに思い至ったので、正義感よりは客観性と普遍性のある「規範」の方を考えることにした。
 まあ、見方を変えた理由は、私が、法の概念とは何かとか、法と道徳の関係はどうだとかいう話を、せっせと教科書を読んで勉強してみた、というのが主な原因かもしれない。

 ところで、「ニセ科学批判まとめ」の、「何故ニセ科学を批判するのか」では、理由は「人それぞれ」とされていて、いくつかありそうなものが列挙されている。私が見る限り、列挙されている理由は、「嘘をつくな」「不確かなことを言い触らすな」といった社会規範そのもの、あるいはこの規範が社会において必要である理由として説明できそうに思う。

【追記2009/06/19】
 ニセ科学が科学としてどう間違っているかを判定するのは、社会規範とは関係なく、自然科学のみで可能である。内容の正しさは、科学だけで支えられる。一方、ニセ科学をニセと間違いなく指摘して他人に伝える行為の正しさは、規範としての正しさである。だから、反論や検討としては、
(A)指摘の内容そのものへの異議→科学として間違っているかどうか、つまり事実として正しいかどうかが問題となる
(B)指摘するという行為への異議→規範として正しいかどうかが問題となる
という形をとることになる。この2つは異なった正しさなのだから、議論するときに混同してはいけない。
 科学の優位を主張しているわけではないことに注意。科学的に正しいことが(B)の主張の根拠になることはないし、規範が(A)の主張の根拠になることもない。規範は人の価値判断の結果出てくるものであり、科学は人にとって何が価値あることかを決めることはできない。規範を定めるときに、科学的事実を取り入れて定めるかどうかはケースバイケースである。科学的事実の一部が採用されたとしても、それは人が考えた価値判断基準によって選ばれただけであり、科学的事実が規範を規定するという関係ではない。
 科学としての正しさと、規範としての正しさは対立概念ではない。

早いと考えるべきか遅いと考えるべきか…… 

Posted on 6月 12th, 2009 in 倉庫 by apj

 河北新報社の記事より。

女性の顔の傷「仕事への影響40歳まで」 高裁判決

 交通事故で顔に傷が残った福島県南相馬市の20代の家事手伝い女性が、事故の原因をつくった福島県浪江町の男性に6535万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は10日、傷の影響を67歳までと認定した福島地裁判決を変更、「影響は40歳で消滅する」として賠償額を270万円余り減額し、男性に978万円の支払いを命じた。

 石原直樹裁判長は「外見への関心は人間的成長に伴い、内面から生み出される表情などに変わることは周知の事実」と指摘。顔の傷による仕事への影響を一審と同じ割合で認定した上で、適応すべき年数を減らした。

 一方で、女性が服飾関係3社の入社試験で不採用になったことなどを挙げ、「容姿に関心を持つ時期と就職が重なったことを考えれば、後遺症を単なる精神的苦痛と評価するのは不十分」と述べ、後遺症に対する慰謝料を増額した。

 判決によると、女性は18歳だった2006年3月、南相馬市で知人の車に同乗中、男性の過失で起きた車同士の事故で、別の車から衝突される事故に巻き込まれた。女性のほおには、最大で長さ4センチ程度の傷あとが数カ所残った。

2009年06月11日木曜日

 ケガをした女性はお気の毒と思うが、顔のケガが仕事に影響するのは40裁まで、というのは、果たして早いと考えるべきか遅いと考えるべきか……。美人が仕事で得をするのは40歳までとかそういう話になるのか、これは。「40過ぎたら自分の顔に責任を持て」ってのがあったと思うが、アレは男性の場合だったような。女性も同じだと裁判所が判断したということなのか。
 仕事への影響を基準にするのなら、1審判決は、67歳じゃなくて、60-65歳の間(つまり一般的な民間企業の定年)にするのが妥当だと思うが、なぜ1審は67歳にしたのかも謎。
 どこをどう突っ込もうか考えてしまった。

ac.jpなのにものすごいことになっている件

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニックの治療の方法メニューがニセ科学過ぎる件。

 私はこれまでに、怪しい情報かどうかをある程度判別するには、普通にネット検索したときと、ac.jpドメイン限定でネット検索した時の差を見ろ、と学生に教えてきた。しかし、今学期からは、ac.jpでもダメなものはダメ、と教えないといけないようだ。

 「自然医療と統合医療」では、

自然医療とは、漢方、鍼灸(刺絡を含む)、気功、マイナスイオン治療、音感治療、温熱治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピーなど、西洋医学(一般の病院・診療所等で行う保険の範囲の医療)以外の治療の総称です。同じような内容の言葉としては、代替医療やCAM(相補・代替医療)などがあります。東洋医学も自然医療の中に含まれています。

 「自然医療と統合医療」を見ると、もっと不穏なことが書いてある。

欧米に比べ、残念ながら、研究・臨床・教育の各面で日本の自然医療の普及は遅れています。欧米各国の進んだ状況をご紹介します。

 私は以前から、ウチの学生達に向かって、「特に米国では金持ち以外はまともな医療を受けられないから、代替医療を容認している面がある。日本でも、医療費抑制の目的から、保健医療の制度を潰して、貧乏人は代替医療で我慢せよ、という政策がとられないとも限らない。このとき、政治家や官僚は絶対に”貧乏人は代替医療で我慢せよ”とは言わないはずである。言うと反発されるのがわかっているからだ。そのかわり、代替医療を黙認したり、選択肢の1つとなるような状況を作って、弱者が自分から進んで代替医療を選び取るように仕向けるだろう。弱者は、自分で決めたということで満足するに違いない。今は、厚生労働省はインチキ療法を取り締まる立場だからまだ大丈夫だが、代替医療も積極的に試そう、という方向に流れて取り締まりが甘くなった時が要注意である」と教えてきた。

 日本で自然医療の普及が遅れている、などと脳天気な言葉に騙されてはいけない。代替医療なんか普及しなくたってちっとも構わない。普通の人が支払える値段で、そこそこのまともな医療にアクセスできる状態を維持する方がずっと重要である。

 ac.jp経由で、代替医療容認の方向に引きずられると非常にまずい。

 欧米各国が進んでいるなどというのはとんでもない話で、「弱者が騙されている」の間違いじゃないのか。

 十分な科学的根拠にとぼしいサプリメント等についてまともな評価をしようというのは、やってもよいだろう。他の、専ら患者をリラックスさせるであろう方法を否定するつもりもない。ただ、そのリストに、どう考えてもダメだろうというものが混じっていることが問題である。ダメな例を、「自然医療と統合医療」から抜き書きしておく。※印付きのものが、実際に行われているものらしい。

マイナスイオン療法※
マイナスイオン療法も、症状を抑えるだけの対症療法と違い、自然治癒力を高めて生体自らの力で病気を治す根治療法です。マイナスイオンが多くなると血液は弱アルカリ性になり、その結果、新陳代謝が活発になり、人体に有害な活性酸素を中和して水にします。また、細胞の活性化を促進し、精神を安定させ治癒力を高めます。
※当クリニックには、マイナスイオン発生器を設置しています。

 マイナスイオンの化学的実態もわからないのに、いきなり治療に使おうとすること自体が無理過ぎる。やるなら、マイナスイオンと称する物質の特定と濃度による効果を確認するという基礎研究が先だろう。

ゾーンセラピー※
ゾーンセラピーとは、20世紀初頭、アメリカの医師の研究から発展したもので、足を全身の地図とし、足の各部分を身体の各器官に当てはめ、反射帯(反応ゾーン)を治療することによって、体をよくするという反射療法です。
1930年代にさらに詳細な「足の地図」を作り上げ、「リフレクソロジー」と呼び名を変えました。

 骨相学の亡霊みたいな話だ。東洋医学ではツボは全身に分布しているとされるが、アメリカ人がやると足裏に全部集中するという話になるのか。健康サンダルを履いていればそれで済みそうな……。

ホメオパシー(同毒医療)※
ホメオパシーは、18世紀末にドイツで発祥した医療体系です。自然界に存在する動植物・ミネラルなどを希釈したレメディ(丸薬)を服用することで、いったん刺激を与え自然治癒力を高めて治します。

 質量作用の法則をまるで無視した話に乗っかってどうするのかと。

フラワーエッセンス※
フラワーエッセンスとは、花の持つエネルギー(波動)を水に転写して活性化した花の波動水で、主に飲んで身体に取り入れます。この植物エネルギーは、様々な感情や心の状態や性格のタイプに対応しており、穏やかに心と身体のバランスを取り戻すのを助けます。

 「波動」が登場している時点で終わっている。花の有効成分(化学物質)を利用するのならまだわかるが、意味不明な植物エネルギーって一体?

オーラソーマ(カラーセラピー)
ハーブやエッセンシャルオイルなどを原料とした102種類の様々な色のボトルから4本を順番に選び、専門知識と高いリーディグ能力をもつプラクティショナー(治療者)によって、その人に適した解釈(本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題など)をしてもらいます。魂のセラピーであって、体への直接的治療を目的とはしません。体に塗ったり眺めたりすることで、精神的リラクゼーションが得られるとともに、魂のレベルまで深く癒されます。

 他のセラピーはリラックスさせる効果くらいはありそうだが、「本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題」は、病院で決めてもらうことじゃないだろう。ってか、やってないとはいえ、これって「療法」なのか?

水療法※
広義の水療法には、�電解還元水・イオン水の飲用・塗布、�各種名水等の飲用、�波動水の飲用、�温泉、腰浴、サウナ、シャワー、プール、足浴、浣腸などが含まれます。

 「波動水」はダメだろう。というか、消費者被害の片棒をac.jpが担いで一体どうするのか。

健康関連器具・グッズ
快眠のための枕、電磁波防止グッズ、マイナスイオン発生器、入浴剤、マッサージ機・腹筋マシン・金魚運動マシン・健康サンダル・トルマリン・磁気ネックレス・ツボ押し棒・関連書籍など、広くは予防・健康を意識して購入したもの全般が含まれます。

 健康増進法にひかかるような「バイブル本」も含まれる罠。一応、アドバイスはしているらしいし、まともなアドバイスをしてくれるならいいんだけど、他の診療メニューに堂々とニセ科学が入り込んでいるようでは、不安を払拭できない。

 代替医療について解説しておかなければならないから怪しいものまで入れたのであって、実際にはこれ以外のまともなものしかやってないのでは?という淡い期待は見事に打ち砕かれた

【当クリニックで対応可能な自然治療】
漢方、鍼灸(刺路を含む)、気功健康食品・サプリメント(※1)、マイナスイオン治療、音感治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピー(※2)、ロルフィングなど

 どうも、説明で列挙した治療を実際にやっているらしい。

 「自然医療をこんなときに」を見ると、

全て自費診療で行うため、お1人ずつに十分時間をとって、ゆっくりとご相談に応じることが可能です。

ということで、当然のことながら自由診療である。つまりは、西洋医学の治療でものたりない金持ちをターゲットに、さらに代替医療で儲けようということか。
 金持ち以外はお呼びでないなら、このクリニックが直接の原因で貧乏人が損をすることは無いだろう。ただ、既にニセ科学だとはっきりしていて、他の民間企業が消費者被害を発生させているような商材をリストに加えることで、大学のお墨付きを与えたり、予想しない場所で宣伝に使われたりすることになったら、よろしくない結果になる。
 病気とはいえないが不具合の自覚症状はある、というケースの相談場所が少ないことは確かだし、そのニーズをくみ取るのはかまわないが、インチキまでセットにして広めなくたっていいのに。