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こんな学習法では脱落する

勉強するときの注意点だが、大学に限った話でもない。

 「ごまかし勉強 上、下」藤澤伸介著(新曜社)を読んでみたら、なかなか興味深かったので少しまとめておく。

 世の中には「ごまかし勉強」というものがあり、小中高とこれを助長するシステムができ上がっているという話。「ごまかし勉強」の特徴としてあげられているものを、上巻105ページから抜粋してまとめると、

  1. 学習範囲の限定
    • 教材の限定:使う物は教科書だけ。資料集、読み物、参考書には手を出さない。解説のない要点集を好む。興味関心に応じて教材を広げない。
    • 関心の限定:他の単元との関連、分野との関連、因果関係、用語の意味、背景的知識、記述の具体例、日常生活への往々の可能性、他の解決法、類例の探索など、教科書に直接記述のない事がらには関心を持たない。
  2. 代用主義
    1.で範囲を限定した上で、記憶する時にさらに限定。何を記憶するかの選別は自分で考えず、教科書や要点集に頼る。問題の解法は1問につき習った方法のみ。
  3. 機械的暗記志向(暗記主義)
    意味や関連性を考えて暗記せず、ただ機械的に覚えるのみ。
  4. 単純反復志向(物量主義)
    似たような問題の出ているトレーニング教材をたくさんやる。(高校まではそういった教材が市販されているが、大学では存在しない)
  5. 過程の軽視傾向(結果主義)
    目先のテストの結果のみを気にする。間違ってもなぜ間違ったかは追求しない。

といったものになる。

 同じ章に、科目別のごまかし方法の例も出ていて、次のような具合である。

  • 英語:教材は教科書のみ。宿題で訳や単語調べを要求されると教科書ガイドをうつしておく。試験前は教員の作ったプリントや出版社の作った暗記材料を暗記。単語の暗記は意味1つだけを暗記。
  • 数学:教科書の問題の解答を暗記。授業中に板書で示された場合はそれも暗記。
  • 国語:教科書ガイドを使って教科書の問題と解答を暗記。
  • 理科:出版社の作った1問1答の内容を暗記。予想問題が入手できるときは問題と解答をセットで暗記。
  • 社会:試験に出そうなところをチェックペンでマークして暗記。空所補充問題として活用。予想問題が入手できそうな時は解答を暗記。

 こういったことをほとんどやらなかった人は大学でも困らないが、この手のその場限りの方法で試験を切り抜けてきた人はまず確実に大学では脱落するので、早めに勉強方法を変えなければならない。

 英語では、科学でよく使われる意味は、辞書で単語を調べた場合、たいてい後の方に書いてある。従って、単語を調べて最初の意味だけ覚えている状態で科学の英文を訳すと、日本語として意味が通らないめちゃくちゃな内容になる。

 数学は、実際に計算ができないと意味がない(ただし数学科以外)。入試のようにひねった応用問題は出ないが、必要な量を求めるための式の変形と計算ができないと用をなさない。

 理科は、そもそも暗記では対応できない。物理は全体の構造の理解が必要だし、化学は教科書がどれも都会のタウンページ級で、関連づけて理解しないかぎり普通の人が暗記で乗り切れる分量ではない。生物も事情は同じ。

 大学には、出版社が作ったトレーニング教材は存在しない。理学部の場合、講義で使う教科書は指定するが、それのみで勉強することを推奨はしていない。自分に合った書き方の教科書を勝手に選んで勉強しても、理解が深まれば教員としては何も言わない。数冊紹介して相性の良いのを勝手に選べ、という科目もあったりする。

 「ごまかし勉強」を読んで驚いたのは、教科書プラスαの内容や、科目の内容の広がりやより進んだ解説を書いた参考書が売れなくなり数がへって、そのかわり、教科書ガイドと、内容を減らした単元ごとの暗記用の参考書(書き込み式が多い)、定期テスト対策の参考書が大流行中だということ。大学で教えていると、入試対策で教科書や指導要領は読むけど、小中高の参考書がどうなっているかは見ていないので変化を認識していなかった。

 すでに理科や社会の学習用用語集(辞典)は絶版だそうで、用語の意味を詳しく調べたければ、安価で手頃な学習用辞典のかわりに、いきなり理化学辞典とかをあたらないと駄目な状態らしい(※2017/01/28、地元の本屋に行ったら、高校向けの科目別の小辞典は売っていたので、この本が書かれた頃の話なのか、著者が調査した本屋に無かったということなのかではないかと思う。あるいは、著者が想定していたものが無かったとか。)。ネットが代用してくれるといいのだが、間違いもあふれているから、正しい意味を知るにはまず正しい知識が必要で、鶏が先か卵が先かな状態になるだけだろう。

 実験は、写真入りの詳しい解説参考書があって、各ステップからぶちあたりそうなトラブルまで細かく書いてあるので、実験をさぼっていても、実験に関するテスト問題で点はとれるという状態になっているとのこと。このため、先生ががんばって実験を指導しても効果が今ひとつだそうで……。ずいぶん前に、学生実験をやって教科書通りの結果が出なかったら「先生、自然が間違ってます」と言い出す学生の存在が話題になった。解説参考書の通りで終わり、と思っているなら、実際やってみてうまくいかなかったときにこういう反応になるのもわかる(これじゃだめだけど)。

 大学の学習はこういったごまかしとは正反対のものである。教科書は指定はされることが多いが、他に自分と相性のいいものがあれば使ってもよい。同じ内容を書いている教科書でも、書き方に大差がある。また、分野をまたがって書いてある参考書や専門書を積極的に読むことが推奨される。自然は1つだから何がどこにつながっているかわからない。習った範囲を超えて自分でいろいろ調べてつながりをできるだけ沢山把握しておくと、学習の効率が後になるほど上がっていく。穴埋めの参考書もトレーニング教材も存在しない。まるで高校参考書のようなテキストもいくつかはあるけれど、学部の初学者向けに限られ、そこから先はきちんと本を読んで何が大事か自分で把握していく以外に方法はない。教科書の巻末問題は、答えを暗記したのでは何の意味もなく、教科書を読んで自分が内容を理解しているかどうかを自分でチェックするという目的に使うものである。教員も、問題解答を全部講義時間内に行うことはしないし、細かく宿題に出すこともない。問題を使ってチェックし、解けなければ何をまだ理解できていないか考えるのは、学生が自分で行うことである。

 もし、ごまかし勉強で大学入試まで切り抜けてきた場合、学習方法の切り替えができなければ、早々に大学のカリキュラムから脱落することになるので、注意してほしい。

 

2017/01/28

仕事の帰りに地元の本屋に寄って、高校の参考書コーナーを見てきたのだけど、確かに教科書ガイドがやたら多かった。教科書の問題解答やら解法が全部書かれている模様。どの程度普及しているのか(生徒の何割くらいが使っているのか)が気になった。教科書の問題って、選別を目的とした入試問題と違ってごく易しいひねりもなにもないものが出ていて、教科書読めば大体解答できるものばかりだろう。それでガイドが必要ということは、本当に必要なのはガイドではなく教員にしっかり訊いて教科書の内容以前からどうやって理解するか教わることだろうから、却って問題解決からは遠のきそうだ。