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「ナノ銀」へのコメント(2012/04/26)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 2011/08/11に、マイナビニュースに「ホタルの再生技術が放射能汚染水を浄化する!?--"ホタル博士"が提唱」という記事が出た。

 内容を見た限り、放射能汚染の原因となるRIを吸着して取り除く装置のようである。開発者は、記事によると「同システムを発案したのは、東京板橋区のホタル生態環境館の館長を務める、阿部宣男氏。」。

阿部氏によると、ナノ純銀粒子には、銀イオンが飛び出しても瞬時に元の金属の状態に戻る特異性があり、その際に発生する電気的エネルギーの電位差は1600mV以上となり、放射性物質のマイナスイオンをナノ銀のプラスイオンで瞬時に吸着できるという。

取材を受けて記者に説明したものが記事になったので、本当にこの通りに阿部氏が語ったのかは定かでは無いが、この説明は意味がわからない。まず、ナノ銀粒子から銀イオンが飛び出してまた戻るという過程があるとして、この電気的エネルギーの元になったエネルギーは一体どこからくるのかがわからない。さらに、「放射性物質のマイナスイオン」もおかしい。もし、放射性物質が、今、陸と海で問題になっているセシウムや、海で問題になっているストロンチウムのことを意味しているなら、いずれも、水環境中でイオンになると正電荷を持つ。マイナスイオンをanionのつもりで書いたのだとしても電荷が逆である。

一方、福島第一原発では、現在、汚染水の処理として、活性炭やゼオライト、フェロシアン化鉄といったろ過材が用いられているが、阿部氏は次のような問題点を指摘する。
「これらの素材は、吸着作用は優れているが、吸着効果期間が短く交換がすぐに必要になってしまう。ゆえに、吸着材そのものが使用後に汚染された廃棄物になってしまう。また、多孔質である、活性炭やゼオライトは孔内に細菌類が繁殖しやすく、定期的な殺菌処理が必要」

放射性物質を何かに吸着させたとしても、そのことによって、原子核の状態には何の変化もおきない。物理的あるいは化学的に吸着している状態では、放射性物質は放射性物質のままである。ナノ銀による放射性物質の吸着が起きたとしても、吸着された放射性物質は固有の半減期でどんどん壊変して放射線を出す。どんなもので吸着したとしても、吸着剤は放射能汚染される。しかし、主催記事からは、阿部氏は、ナノ銀では吸着後の放射能汚染が問題ではないと考えているように読み取れる。

さらに、阿部氏によると「半減期が短い放射性ヨウ素から最近はセシウムへの関心が高くなっているが、原子力発電所からはそれ以外の危険な放射性物質も生成されている可能性が高い。例えばストロンチウムは、β線というヨウ素やセシウムが出すγ線よりも危険な放射性物質。今、原発で使っているろ過材はストロンチウムには効果がない」とのこと。

セシウムは134も137もβ-壊変する。つまり、β線も出す。γ線も出す。ヨウ素もβ-壊変でγ線も出す。この記述からは、ストロンチウムだけがβ線を出すように読み取れるが、それは間違いである。さらに、γ線と物質の相互作用は、γ線が物質の中の電子をはね飛ばす、つまり物質内部で、β線のように相互作用する2次電子を作り出すことによって起きている。物質に対する放射線の影響のメカニズムは、β線がやって来たのと、γ線がやって来たのとは、結局のところ同じである。γ線だから危険が少ないというわけではない。結局、やってきた放射線が物質にどれだけエネルギーを与えたか、そしてエネルギーを与えた相手がどんな臓器だったかで、生き物に対する影響が決まる。放射能対策をやろうというときにこんな基本的なことを間違えているようでは、大丈夫なのか。いやいや、これは記事を書いた記者の理解不足かもしれない……。

これに対し、阿部氏が有効だと唱えるのは牛骨炭だ。ストロンチウムというのは、カルシウムに似た性質を持ち、骨炭に含まれるカルシウムがストロンチウムを吸着する効果が期待できるとし、「骨炭も多孔質の構造だが、ナノ純銀を付着するための担持材として用いることで、双方の相乗効果による優れた放射性物質のろ過材となりうる」と説明する。

思いがけないものが吸着材になることはあってもおかしくはない。本当に有効なら朗報である。ただし、吸着が効率的に起こるなら、用いた骨炭は放射能に汚染されるので、定期的な交換が必要になるはずである。使用前後の牛骨炭のストロンチウムの量の分析結果があれば性能の見当がつくだろうが、どこかにデータは公開されているのだろうか。

どうも、記事を書いた記者がどこまで正確に理解しているか不安があるので、開発者ご本人のブログを読んでみることにした。おそらくこの「ホタルのホンネ(本音)」というのがご本人のものだろう。ナノ銀の話は、「放射性物質をナノ純銀が減らす!」に書かれている。ご本人の書かれたものなら、記者によって情報が歪むことは無いだろう。

 放射性物質は下がらないと言うのが世界的に定説ですが、ナノ純銀の作用で半減期だと思われる様に速やかに実行出来るのです。眉唾、ウソと疑う人は是非とも板橋区ホタル生態環境観に来て下さい。実際にその眼で見て感じて頂ければ幸です。ホタルには「本物」が存在します。国の研究所や大企業も出来ないから所詮無理と言う認識は捨て去るべきです。放射性物質は元の原子に戻ろうとし、その際に悪い放射性を出しています。そのお手伝いをするのがナノ純銀です。放射能等の専門の先生に是非とも立証して頂きたいです。

どう読んでも、ナノ銀が原子核の状態をいじっている話に見える。しかも、「放射性物質は元の原子に戻ろうとし、その際に悪い放射性を出しています」って、何が言いたいのか全く意味不明。元の原子って一体何?

 問題になっている放射性物質は原子核の陽子と中性子数がアンバランスになった物質です。ナノ純銀はそのアンバランスを整える役割です。早い話、半減期(放射性物質は、放射線を放出し、別の原子へ、やがて放射線を出さなくなる)に近づける役割です。

やっぱり、ナノ銀で核の壊変に影響を及ぼせると考えておられるらしい。残念だが、ナノ銀を持ってきても、核の状態を変えることはできない。化学反応と核の反応ではエネルギーが違い過ぎるので、どうやったって届かない。放射能対策は、集めて移動して遮へいして、半減期の何倍か待って減るのを待つ以外に方法はないのである。もし、ナノ銀や牛骨炭に吸着剤としての良い性質があったとしても、核の壊変に影響を及ぼすことが可能だと宣伝してしまったら、逆に信用を落とす結果になり、有用なものの普及が遅れるかもしれない。阿部氏に限らず、このような商品を開発する方は、放射能と原子核の壊変とはどういうものか、まともな教科書でまず勉強した上で、吸着能力を評価できる測定結果を出すようにしていただきたい。

 

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