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i-H2Oへのコメント(2014/01/07)

 

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 アイ・ウォーターという活水装置を販売している。もともとは、米国で開発された装置らしい(http://www.mygiawellness.com/19445/products/aqua-gia/i-h2o/ を参照)。

 製品紹介を見ると、麦茶クーラーのよな形状のピッチャーの写真が出ている。ピッチャー上部の部品が水を変えるという触れ込みである。使用方法の図を見ると、アクティベーターと呼ばれる装置は電気式だが、水を触れさせてはいけないとある。
 同じ温度という条件では、水の味を変えるには水から何かを取り除くか何かを加える以外の方法はない。わずかな不純物の組成が全く同じであっても、温度が違えば、飲む側の人間の感じ方が温度によって変わるので、水の味が違って感じられることはある。いずれにしても、本当の意味で非接触なら、おまじない以上の効果はない。本当の意味で、と書いたのは、アクティベーターの構造が図だけではわからないからで、何かを吹き付ける仕組みなら不純物組成を変えることで味が変わる可能性があるからである。

 液体論の立場からみた仰天の説明は、

特許技術MRETと独占技術ERTの相乗効果で、水道水を30分で水分子1個ずつが一直線に並んだシングル・ファイル・アライメント(SFA)の美味しい水に変えます。

という部分である。室温では水分子は絶えず動き回っているので、直線上に並ぶことはない。また、水分子同士の水素結合は四面体的配置をとりやすいので、直線にずらっと並ぶのはほとんんど不可能である。

アイ・ウォーターのアクティベーターは、MRET技術の信号を発信し、水には一切触れずに使います。
ERT技術の信号は、アクリル製のピッチャーから発信され、ガラスボトルとプラスチック製スプレーボトルからも発信されています。 部品の交換やフォルターは全く不要で、14,400回、一般の水の活性化に使えます。

 何かの信号で水分子を配列させられると思い込んでいるようだが、夢物語に過ぎない。

 列挙されている効果は次のようなものである。

野菜や果物を洗えば、冷蔵庫に入れても新鮮さが長持ちします。
毎日の洗顔に使えば、その日から肌の感触が変わる体験ができます。
洗髪に使えば、髪の毛のツヤやハリが変わり、感触が変わります。
ペットの飲み水にすれば、毛並みが良くなり元気に長生きします。
ガーデニングや生け花に利用すれば、発芽や成長が早くなり、花も長く咲き続けます。
お風呂に6リットル以上入れると、お湯の感触が変わり、温泉のようになります。

 この手の宣伝の特徴は、提唱されている水の構造(この場合は直線上に並ぶ水)とは関係しない効果ばかり並べ立てるというところにある。もし、水の構造が直線上に並んだ水分子のあつまりになるのなら、それに伴ってマクロな物性値も軒並み変わらなければおかしい。融点、沸点といったおなじみの量も、熱容量や蒸発熱や密度も変わる。分光学的な実験だと、赤外吸収やラマン散乱や誘電測定やNMRのスペクトルが通常の水とは違ってくるはずである。X線や中性子の回折実験で水分子の空間配置を見ても、4面体的ネットワーク構造が広がっている普通の水と、直線上にならんだものが多数存在するアイ・ウォーターの違いが出るはずである。こういった物性測定は、民間の分析会社に持ち込めばそれほどの費用をかけなくてもやってもらえる。しかし、どういうわけか、ただちに直線とまでは結論を出せないとしても普通の水とはミクロな構造が相当に変わったことを主観を交えず精度よく即座に検出できる実験方法が使われた形跡がない。そのかわり、どういうわけか、野菜や果物の新鮮さ(最初の状態や冷蔵庫のどこに入れるかという条件で結果が違いそう)、洗顔・洗髪・お湯の感触(利用者の体験のみなので暗示にかかりやすそう)、ペットの健康状態(水以外の要因でも随分かわるんじゃないの?)、ガーデニングや生け花(育て方によって差が出そうだよねえ)といったものばかりが選ばれる。

アイ・ウォーターの効果を見てみる。

赤ちゃんの時は、身体の中の水が全て、シングル・ファイル・アラインド(SFA)の水分子が1個ずつ直線に並んだ状態です。
そして飲んだ水を、シングル・ファイル・アラインド(SFA)にする身体の機能が100%働くので、身体や細胞の中が、いつも新鮮な水分子で満たされています。

しかし年を取ると、水分子をバラバラにする身体の機能が50%以下に落ちて、飲んだ水をSFAにできないので、細胞膜にある水分子の通り道「アクアポリン」から細胞の中に入ることができなくなり、細胞の中が絶えず水分不足の状態になります。

大人になると、ナノ・クラスターのどんなにクラスターが小さい水を飲んでも、その水はSFA(直線状)ではないので、「アクアポリン」を通れずに、細胞内の常に水分不足の状態を改善しにくいのです。

 体内の水の構造が、赤ちゃんで直線状で老人ではそうではないという話はない。

  アクアポリンについてはこのへんが詳しい。細胞膜を貫通する筒状のタンパク質(チャンネルという)で、水の直径と同程度の大きさの穴を作っているので、水のみを選択的に通すことができる。ただ、その通り方は、チャンネル内部の電荷分布に引っ張られて水分子間の水素結合が切れて、通っていくというものであり、最初から水が並んでいるわけではない。細胞内に入った水はまた他のものを水和するなどして他の水とかわらなくなる。

アイ・ウォーターなら、SFA化された水を毎日、気軽に飲めるので、何歳になっても、水分子が「アクアポリン」から細胞の中へ入り、細胞の隅々まで若返ることができます。

アイ・ウォーターの水は、飲むだけでなく、肌にスプレーすれば、更なる効果が期待できます。
肌の表面から角質細胞の中まで水分子が浸透して、肌を内側から瑞々しくしてくれます。

アイ・ウォーターのSFA化された水は、細胞の新陳代謝を促進します。
細胞の中まで入り、蓄積された毒素を掻き出すことができるので、老化防止だけでなく、免疫力、殺菌力、生命力、活力のすべてを向上させます。

 良いことづくめのようであるが、触れ込み通りに水分子が直線状になるのなら、実はむしろ危険な水である。

 水のミクロな構造が変わればマクロな物性値が変わると書いた。変わってしまう数値のなかには、物質の水に対する溶解度も含まれる。溶質が水に溶ける時は、水分子が溶質のまわりを取り囲んでいる。もし、水が直線にならんだ構造をとってしまったら、その水は溶質を取り囲むことができなくなる。その結果、物質の溶解度が下がってしまうことが予想される。そんな水を飲めば細胞に取り込まれるという設定なのだから、細胞に取り込まれる前に、まずは血管を通って運ばれるのだろう。すると血液の成分の溶解度が下がってしまい、溶けきれなくなったものが結晶となって析出したり沈殿したりした後血管の中を漂うことになる。血管はあちこちで詰まるかもしれない。何だか命に関わりそうである。

 紹介されている本 Applied Biophysics of Activated Water: The Physical Properties, Biological Effects and Medical Applications of MRET Activated Waterは存在する。このWorld Scientificという会社は、おおむねまともな本を出すし私も何冊か専門書を持っているのだが、過去に、水につては相当アレな本を出した前科があることを指摘しておく。なお、amazonの星4つをつけた人はUSAの水商売業者らしい。

  驚異的な浸透力をウリにしているが、細胞内の水分量は細胞の都合で決まっている。無理矢理通ろうとする水が来たら、細胞の負担になるだけである。

  開発ストーリーを見ると、「1986年のチェルノブイリ原発事故の後、避難勧告地域に住み続けて、現在でも、被曝症になっていない住民が、何と1万人以上いました。」ということの原因を水に求めたらしい。被曝は急性症状が出ない程度なら、短期間では目立った変化は起きない。内部被曝を問題にするなら食物の放射能検査が必要だし、外部被曝を問題にするなら空間線量の測定が先だろう。その上でもっと長期間観察する必要がある。それをしないで、一足飛びに原因を水に求めたりするからおかしなことになる。

  MRET&ERTによると、

MRETとは、Molecule Resonance Effect Technology(モレキュール・レゾナンス・エフェクト・テクノロジー)の略で、特殊ポリマーが発信する情報を用いて細胞を共鳴させて効果を生み出す技術です。

とある。波動系グッズの一種のように見える。

  ここまでなら、よくある活水器の説明なのだが、この活水器は放射能除去効果をうたっている。

  飯舘村役場の水道水を測った実験では、セシウム137のみが検出されている。測定は平成23年4月22日、原発事故が起きてまだ間もない頃である。今回の原発事故の特徴として、降ったセシウムは、スペクトロメーターで測ると137と134がカウント数では同程度というものであった。放射能を出すまではどちらもセシウムなので化学的性質は変わらず、一緒に動いていく。137の半減期は約30年、134の半減期は約2年である。水道水かが137しか出なかったということは、見ているものは原発事故由来のセシウムではなく、昔の核実験の残り物ではないかと思われる。さらに、137の量も検出下限に近いところなので、これが出なくなったから直ちに放射能除去に効果があると結論するのは無理がある。

 汚染土壌の実験を見ると、使っているのはこの機種らしい。ガイガーカウンターの小型のもので、X線とγ線に対応と書いてある。ということは、β線の影響は受けないように遮へいはしているのだろう。しかし、この手の機種の検出部分は小さいので、試料の汚染状況がよほど均一でないと、入ってくる放射線の量が違ってしまい、結果としてカウント数が違ってくることになる。最初の実験を見ると、お皿に入れた土を水に浸して測っているが、装置の置き場所がずれている。これと、試料の汚染具合の不均一が重なれば、測定しても正しい値は出ないだろう。その次に書かれている、水に浸した後乾かしたものの測定でも同じである。

 放射能を水で除去という話は、洗い流す以外のものは戯言であると断言しておく。水を直線状にする話は論外としても、いかに水を処理したところでそれは化学反応の範疇でしかない。原子核の内部で起きている反応のエネルギーは化学反応のエネルギーのおよそ6桁大きい。化学反応ではどうがんばっても核の中で起きている現象には手出しできないのである。 

 いずれにしても、これだけ怪しい説明をしまくっているのだから、この水で(いや、この水に限らずだけども)放射能消せるかも……などといった期待はしないでもらいたい。 



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