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再び感想文コピペネタ

Posted on 4月 14th, 2009 in 倉庫 by apj

 msn産経ニュースの記事より。

【すくむ社会第1部】子供にも広がるコピペ症候群~『考える』の空洞化(2)
2009.4.10 18:56

 学生が書くリポートからインターネット上の文書をコピーしただけの「コピペ」を根絶しようとする動きが広がっている。背景にあるのは「考える」営みを奪うコピペが、知の衰退を招きかねないという危惧だ。
 金沢工業大学大学院知的財産科学研究センター長の杉光一成教授(42)が民間と開発中の「コピペ発見ソフト」はまだ試作段階だが、調べたい文書のなかにネットからのコピペが何%含まれるかを一瞬のうちに判断してくれる。コピペした部分を多少変えても追跡可能な優れものだ。
 きっかけは2年前、学生が提出した課題リポートで読み覚えのある文章に出くわしたこと。別の学生のリポートの一部と一字一句同じで、ネットで検索すると、彼らのリポートの“元ネタ”とおぼしきページがすぐに見つかった。
 杉光教授は、他人の論文を引用しても明示さえすれば問題ないと思っていたが、教員を欺く行為は見過ごせなかった。それにもまして気分を陰鬱(いんうつ)にさせたのは不正を問いただしたときの学生の態度だった。
 「返ってきた答えは『引用表示を忘れました』。文章の構成からして明らかなうそ。悪いことをした自覚がまったくなかった」
 なぜ、あっけらかんとしているのか、杉光教授は考えた。「情報は図書館へ行き、一生懸命本を読んで仕入れるものだったのが、今の学生は、物心ついたころからネットがあった。蛇口をひねればじゃぶじゃぶ出てくる水のような情報なら、ありがたみを感じられない。だから使って何が悪いのか、ということになる」
■◇■
 コピペ発見ソフトがニュースで取り上げられると、その反響は予想以上だった。杉光教授のもとにはコピペに悩む東大、京大、東北大などの教員から問い合わせがあったばかりか、思わぬところから引き合いがきた。中央官庁や地方自治体の監査部門だ。
  海外の道路事情をめぐって、国土交通省所管の公益法人「国際建設技術協会」が平成19年、コピペで作った3冊の報告書に道路特定財源から約9200万円が充てられていたことが国会でも取り上げられ、各地の地方議会でも議員の海外視察報告書が他人のホームページなどのコピペで作られていたことが次々と発覚。行政の現場にも不正が広がっていたためだ。
 自ら考え文章を書き上げることを放棄し、安直にネットに頼る“コピペ症候群”が社会に蔓延(まんえん)している実態。それは子供たちも例外ではない。
■◇■
 「あなたは私の救世主です!」「全国の子供たちを宿題から救ってください」
 全国の児童から大量に送られる感謝のメール。16年8月の開設以来、289万アクセスを記録する人気サイト「自由に使える読書感想文」=写真=に寄せられたものだ。「読書感想文」でネット検索すると“本家”の「青少年読書感想文全国コンクール」よりも上位に表示される。
 これは、夏目漱石の「こころ」や芥川龍之介の「羅生門」など17冊の読書感想文を公開、学校提出用に限り丸写しを公然と認めるいわばコピペ推奨サイトだ。
 サイト管理人でフリーライター、恩田ひさとしさん(44)は読書嫌いになった子供のころの教育に対する反発から4年前にサイトを立ち上げた。「書き方も分からない子供に、教員が指導もせずに『書け』と言うのは無責任だから」と開設した理由を説明する。
 それに対し、大人からは辛辣(しんらつ)な批判が続々と届く。「日本の子供たちを抜け殻にしてしまう」「自分で本も読めないガキを作るな!」。
 そもそも読書感想文は、子供たちが本に接することで思考をはぐくむきっかけにしてもらうのが狙いだが、読書の実態をみると憂慮すべき点が浮かび上がる。
  読書の振興を図る全国学校図書館協議会などの調査では、一見すると子供の読書量は増えている。昨年5月の1カ月の読破冊数は、小学4~6年生で11・4冊、中学生が3・9冊と、ともに昭和30年に調査を始めて以来、最高となった。
 だが、問題はその中身だ。同じ調査で中3女子に読まれている上位11冊のうち、実に9冊が恋愛などを扱った「ケータイ小説」。こうした作品は従来の文学作品に比べて表現が簡素との指摘もある。
 同協議会の森田盛行理事長(59)は、現場の教師から「いくら指導してもケータイ小説から脱皮できない」との悩みをよく耳にするだけに、深刻に受け止めている。「考えるには読書はぴったりだが、歯応えのあるものを避けてやすきに流れる風潮が、子供を含めた社会全体に広がっているようにみえる」

 どうも、共通するのが「コピペ」という現象だけであって、種類の違う問題が一緒くたにされているように見える。

 まず、引用元を示さないパクリを社会に出てからやったのが発覚したら、社会からは排除されることもあるので(記事中の監査部門のチェックに引っ掛かるケースなど)、危険だという認識をさせる教育が必要である。昔と情報の与えられ方の質と量が激変していることも確かだから、昔と同じ苦労をせよと言っても、ピンと来ないだろう。「明示して引用する」を徹底させるしかない。

 後半の読書感想文の部分はは手段と目的が入れ替わっている。「そもそも読書感想文は、子供たちが本に接することで思考をはぐくむきっかけにしてもらうのが狙いだが、読書の実態をみると憂慮すべき点が浮かび上がる。」とあるが、感想文を書かなければならないとなると読むのが逆におっくうになるのではないだろうか。また、読むという活動と書くという活動は全く別なので、本当に読書好きなら、感想文を書く労力を次の1冊を読むために使いたいと思うのではないか。私は、本好きの感想文嫌いだったことを白状しておく。
 小説を読んで共感を覚えるかどうかは、想像力が及ぶ範囲の話かどうかにもよるはずである。今、明治時代の文豪の小説を出されて読んでしっくり来る中学生がそんなに多かったとしたら、その方が不思議だ。ケータイ小説の次はキャラクター小説を読むようになり、続いては売れ筋の新刊文芸書を読む、というのでもかまわないはずだ。途中から夏目漱石や芥川竜之介を読まそうとするから、無理が生じているのではないか。
 第一、そんなに本を読んで何かを考えさせたいのなら、小説じゃなくて哲学書でも読ませればいい。なぜそこで文学限定なのか。数学じゃダメなのか。科学じゃダメなのか。社会科学じゃダメなのか。教える側の視野が狭いことが、意識されないままに当然の前提とされているようで、記事を読んでいて引っ掛かった。

 関連の話題として作文の思い出を。
 そういえば、読書感想文は大嫌いで、夏休みの最後の日あたりに涙目で書くことになってたし、ただ単に読書量が多いからという理由でクラス代表で私に感想文書きを振った担任には殺意を覚えた。当然ろくなものは書けなかった。遠足に行ったという作文(ジャンルとしてはルポルタージュ?)は書きやすかったし、先生からもそれなりに良い点がもらえた。一番、ノリにノって書いたのは、「この物語の続きを書け」というのが宿題に出たときだった。何か、無人島に何人かで取り残されたというシチュエーションの小説が教科書に出ていて、続きを作れと言われたので、架空冒険&探検記を原稿用紙何十枚か一気に書いた記憶が。その時はもうそればっかり考えていた。いずれも小学生の時の話だけど。
 ということで、読書量と感想文の得手不得手はあんまり関係がないし、読書感想文とそれ以外の作文の得手不得手にもあんまり関係がないと思うのだけど、どうだろう。


ここからは旧ブログのコメントです。


by いろものさんの近所 at 2009-04-26 19:09:26
Re:再び感想文コピペネタ

apj さん

> どうも、共通するのが「コピペ」という現象だけであって、種類の違う問題が一緒くたにされているように見える。

要するにこの記事を書いた記者も、あっちこっちで取材した内容(即ち他人の発言)をコピペして、それをつなぎあわせただけで記事を作ったのでしょう。

単純なコピペよりはましだけど、コピペを否定する視点から見ると、記事の作りが稚拙ですね。

昔からコピペはあったわけで、それが手軽になっただけの話。


by カータン。 at 2009-04-55 19:10:55
Re:再び感想文コピペネタ

私も読書感想文は苦手だった気が。具体的に登場人物の誰に共感を覚えるかとか、その理由は?といった、思考のためのガイドがあれば、まだ書きやすかったのでしょうけれど。でもそれじゃ、現国の設問か(笑)。

で、どうなるかというと、感想文と称してあらすじを書いてしまうのです。最後に二行ほど「意見」を入れて。ただ大人になって文庫本のあとがきなんか読んでいると、やっぱりほとんどがあらすじに終始しているので、文字書きを職業とする人でも感想文は苦手なんだ…と安心しています。


by RBの残党 at 2009-04-16 19:24:16
Re:再び感想文コピペネタ

当方はどちらかというと、感想文で評価されることが多くて得手の方ですが、それでも、「読むのは好き、書くのは苦痛」でした。
思うに、感想文は「本の良いところを探して延々褒める作業」であるのが苦痛の原因ではないかと。
星5つから星0まで6段階で点数をつけて、書評を書けというほうが、読書量も増えて、良さそうに思うのですけどね。


by apj at 2009-04-55 20:33:55
Re:再び感想文コピペネタ

いろものさんの近所さん、
 ネットが普及する前から、クラス内の友達のレポートを写させてもらったとか、先輩のレポートを回してもらったといった話はありましたし。大々的にやるようになって目立つようになったということなんでしょうね。

カータン。さん、
 あらすじ感想文は私も何回も書いた記憶が。

 それはともかく、プロが書く書評は、大人の事情もありそうな気がします。正直に書いたらその後の営業上、いろいろ差し障りがあるとか。また、最後の後書きを読んで買う人も居るでしょうから、ある程度の情報を入れないとやっぱり営業上まずいとか。

RBの残党さん、

>星5つから星0まで6段階で点数をつけて、書評を書けというほうが、読書量も増えて、良さそうに思うのですけどね。

 amazon方式ですね。
確かに、無理矢理誉めなければならないというのは苦痛です。


by がんのすけ at 2009-04-10 21:10:10
どえらいデジャヴ

どこかで読んだような、と思って「杉光一成 金沢」で検索をかけると、でて参りました。↓
http://www.j-cast.com/2008/05/26020566.html
去年の記事やんか。

「恩田ひさとし」では
http://www.mbs.jp/voice/special/200901/30_18006.shtml
とか
http://blog.zikokeihatu.com/archives/001409.html
も出てきます。
私はたまたまmbsの番組を観ておりましたから、記憶に残っていたのですが、産経の記者さん、半年以上経ってほとぼりも冷めてるだろうと、コピペしまくったんでしょうかね。


by 多分役立たず(HNです) at 2009-04-39 21:31:39
IT化の功罪

タイトルだけ捻ってみました。

昔は、紙に手で書き写していましたから、コピペするより、自分で書いたほうが早かったでしょう。

IT化、インターネットの普及のおかげで、情報の収集は本当に便利になりましたね。

ただ、情報の質に注意を払わない人が多いような気が...

ちなみに、私は昔から書くことが苦手で、嫌いです。その私が、様々な文章を投稿している不思議(^^;;

読書は好きで、高校生の頃までは、童話から、SFまで、様々な本を読みまくっていました。

#分野にかなり偏りがあるとは思いますが。


by g at 2009-04-27 03:19:27
Re:再び感想文コピペネタ

 そもそもの問題として、日本の場合、きちんとした論文のスタイルをまったく教えていないという問題もあるかと思います。
 アメリカなんかでは大学では1年生で徹底して理系、文系それぞれの論文スタイルを、必修となっている初級ライティングのコースでたたき込まれますし、その標準スタイルで書かれていないレポートは評価の対象にすらならずFがつきます。
 それにどの授業でもレポートなどでplagiarismをやると有無を言わさず退学になることが何度も念押しされます。
 それでもアメリカでもコピペはありますけど。


by apj at 2009-04-33 04:37:33
何かいい本ありませんかね……

gさん、
 
 標準スタイルの教科書、何かご存じないでしょうか。

 実験レポートの書き方は教えますが、論文は少し違うんですよね。あと、一般教養でもコピペは問題ですが、理系の学生が文系の講義をとっていたり、その逆だったりするので、どちらか一方のスタイルを教えただけだとやっぱり引っ掛かりそうです。かといって両方の分野を教えるのも、無駄が多くなりそうですし。でも、何を教えるかは大事ですから、資料を集めておかないと……。


by 杉山真大 at 2009-04-30 01:03:30
国語だけの問題にとどまらない気が

国語の読書で文学、ってのは案外国語を教えているのが文学部の出身だったりする、ってことが大きいんじゃないかと思いますね。それは言い換えるなら、理工系が理科や数学を教えているのに何故理工系に進まないのか?ってのと同じ問題になっちゃう。

読書感想文を書かされて殺意を覚える方もいれば、技術立国一点張りの理科教育に辟易する生徒がいても不思議は無いんですよね。


by とむけん at 2009-04-13 01:38:13
Re:再び感想文コピペネタ

哲学書の感想文を書かせたがらないのは、先生側の解釈と生徒の解釈が違っている場合に、その後の指導というかフォローが面倒くさいということもあるのかもしれません。また評価も難しいですよね。ソクラテスってへ理屈ばかりいってる、みたいな感想文が出てきたとき、読めていないと低い評価を与えるわけにもいきませんし。


by apj at 2009-04-58 03:05:58
Re:再び感想文コピペネタ

杉山真大さん、

>技術立国一点張りの理科教育

 小学校のあたりじゃ関係無いのでは。技術立国であろうが無かろうが知っていて当然の内容しかやってないのではないかと。

とむけんさん、
>先生側の解釈と生徒の解釈が違っている場合に、その後の指導というかフォローが面倒くさいということもあるのかもしれません。

 結局、指導する側に都合のよい本を読まないという理由で文句を言われている感が否めないです……。


by g at 2009-04-45 00:33:45
Re:再び感想文コピペネタ

ども
 というか、私は院なんて行ってないので分からないのですが、そもそも日本語でのペーパーを書く場合って定型のドキュメンテーションスタイルってあるんですか?学部で卒論書いた時も、社会学部でしたが、教授からは「引用ははっきりさせろ」「脚注をつけろ」と言われただけで、スタイルについて何かを教わった記憶はないもので。
 英文だと文系ならMLAがメーンで分野によってAPA、理系だとCBEをメーンに分野によってそれぞれ定型のスタイルがありますが。

 英文のペーパーの書き方の教科書ならThe Scott, Forseman Handbook for Writersが定番ですが・・・。クリティカル・ライティングとは何かから始まって、ペーパーを何のために書くのか、誰に向けて書くのか、テーマをどう設定するのか、ドラフトの書き方、効果的な導入部の作り方、パラグラフの切り方、トランジションの仕方、編集の仕方、コンマやセミコロン、コロンの使い方とか文法的なことまで事細かに書かれてます。


by apj at 2009-04-26 06:36:26
Re:再び感想文コピペネタ

gさん、

 情報ありがとうございます。amazom.comで探してみます。

 日本語で出た学部学生向けの本だと、
「これから論文を書く若者のために」
http://www.amazon.co.jp/dp/4320005716/
というのがあります。おっしゃっている英語のものと重なっているように思えます。
 1年生向けということだと、実験しなくても書けるトレーニング用のネタを準備しなければならないですね。本を参考にして見つけて貰うとか、あるいは教員側からいくつか提示するとか……。


by apj at 2009-04-09 06:39:09
Re:再び感想文コピペネタ

がんのすけさん、

 問題の記事自体がコピペだったという壮絶なオチだとorz。