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「マイナスイオンを考える」レポート(2002/12/09)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 2002年12月6日に、山口大学で、日本化学会中国四国支部懇談会「マイナスイオンを考える」が開催された。参加して発表を行ったのでレポートする。

 講演プログラムは以下の通り。

  1. 「空気マイナスイオンの生体に及ぼす影響 〜研究の歴史と展望」 琉子友男(東京都立大学大学院理学研究科 身体適応科学講座)
  2. 「マイナスイオンのドライバへの影響」 榊原清美 ((株)トヨタ中央研究所)
  3. 「質量分析法による大気圧負イオン反応の解析」 長門研吉 (高知工業高等専門学校)
  4. 「マイナスイオンの発生とモビリティー計測」 島田学 (広島大学大学院理工学研究科 物質化学システム専攻)
  5. 「マイナスイオンの自律神経系、髪への作用」 山内俊幸 (松下電工(株)電器分社 電器R&Dセンター)
  6. 「マイナスイオンと水」 天羽優子 (大阪大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)
  7. 「社会と科学技術に関わる問題としての「マイナスイオン」」 安井至 (東京大学生産技術研究所)

 以下、私が講演を聴きながらとったメモを簡単にまとめて内容の紹介をしたい。会場で急いでメモしていたので、間違いがあるかもしれないので、その点はお許しいただきたい。

 なお、予稿集については、希望者多数ということで、石黒先生に、ぜひウェブで公開してくださいとお願いをしてきた。

空気マイナスイオンの生体に及ぼす影響

 琉子先生の発表は、とにかく他種類の実験結果の紹介だった。メモをとれたものだけ列挙する。

  • 空気イオン欠乏が寿命に及ぼす影響。ラットの場合、欠乏状態で27日で死亡。通常の寿命は2、3年。
  • ヒトのマイナスイオンに対する反応は、病気の有無で異なる。
  • マイナスイオンの進入経路。体表、肺から肺胞に、気管から。
  • 効果のメカニズムに関する神経内分泌仮説。
    ケイヒ細胞に作用、視床下部に。
  • トリチウムチミジンを入れた水を破砕して暴露した結果、肺胞上皮細胞に入っていることがわかった。
  • セロトニンを静注してマイナスイオン暴露。暴露下で5ヒドロキシインドール酢酸増加。取り出したヒト血液で、セロトニン、血小板減少。正イオンでは増加。
  • 運動後の血中セロトニン濃度。マイナスイオン暴露で減少。血圧を低く維持する効果あり。
  • 心電図RR間隔も変化
  • 鏡面描写、追従動作テスト向上
  • 自転車運動後に暴露、回復が早い
  • マイナスイオンの実体は活性酸素か?
    SOD、グルタチオンペルオキシターゼにより活性酸素に対する防御機構は備えているが、ヒドロキシラジカルには防御機構なし。
  • 生理食塩水処理、ラット赤血球。マイナスイオン暴露でSOD活性上昇。
  • 術後患者に吸入させた場合、乳酸値が低下、SOD活性上昇。
  • 水破砕方式の場合。胆がん細胞移植マウスに適用すると、NK細胞活性化、癌細胞増殖抑制。
  • 発ガン物質暴露マウスの場合。水破砕方式暴露群は25匹中5匹が癌になる、対照群では25匹中22匹が癌に。なお、癌抑制効果は抗ガン剤と併用すると最大の効果に。
  • ストレスに対する効果
    ラットを筒に閉じこめて、コハク酸脱水素酵素を測定。マイナスイオン暴露で上昇が押さえられる。
  • ワープロ30分(ヒト)
    唾液中だえき中クロモグラニンAを測定。マイナスイオン暴露群はコントロール群より低下。
  • ラットの場合、GABA、アスパラギン酸は暴露で増加。学習効果有り?
  • 鬱病の症状軽減作用。
  • 副作用について。三十万以上プラスイオンでラット死亡。マイナスイオン5ヶ月10万暴露で影響なし。

 これだけの多数のデータを積み重ねても、どういう方法・条件で作ったイオンにこれこれの効果、という分類表が作れないのが現状。また、1cm-1当たりに2000個とか10万個とかいうと多いように見えるが、濃度で考えるといかにも少なすぎるのではないかという指摘があった。

マイナスイオンのドライバへの影響

  • 発表内容は、 概要、緊張運転、運転+選択反応、コンピュータ作業への影響
  • 生体計測によるドライバ評価法
    心理:NASA-TLX法、RAS法
    行動:操舵、ペダル操作、反応時間
    生理:尿、唾液中のストレス応答物質、->電気的ノイズに影響されない。
    心電図、筋電図
  • マイナスイオンの定義; 滝付近、森林に含まれる、 空気中の水分子などがマイナスの電荷を帯びたもの。
  • ラット大脳皮脂宇におけるセロトニン減少Diamond 1980
  • 運転課題は2つ
    1)模擬的な運転課題
     RAS、ラップタイム、尿中アドレナリン測定により評価
    2)運転+選択反応
  • CRT、ドライバ正面2.5m
    2.5-3m、斜め前方、マイナスイオン発生装置電子放射式、約1万個・cm3
    コントロールは送風のみで、ブラインドテスト。
    順序の影響を除去して行う。
  • 課題1の内容
    カーブが多い周回路(シミュレータ)
    速度120km/h、運転時間50分、2分で1週、椅子が振動する。
    被験者は男性6名
    運転課題の前後に40分安静時間をとる
  • 測定は運転後
    心理評価はRAS
    生理指標は尿中アドレナリン、運転前、運転直後、休憩後、高速液クロで測定
  • 主観評価では差なし。
    操舵成績(ラップタイム)、マイナスイオンに差なし
  • 尿中アドレナリン・運転前を1として評価
    終了直後の濃度が有意に低くなる。->精神的ストレスの緩和
  • 課題2の内容 14名
    速度40km/h、60min
    ランプを100msランダムに点灯。ランプの色と場所によって、対応する足とハンドル両側のスイッチを押す。
  • 主観評価:マイナスイオンによる差なし
    反応時間と見逃し:反応時間に有意差なし。見逃しについては開始後10分以内に有意差あり。それ以後はなし。最初の10分では運転に注意集中によって見逃しが多くなる時期。運転に不慣れな緊張の高い状態でのストレス緩和効果があるのでは?
    見逃し低減57%、増加7%(1名)、残りは変化無し(環境によらず見逃さない人)
    生理:尿中アドレナリン濃度は運転終了直後で低減。(4名平均)
  • 同じ被験者で、課題1と2で、両方とも、イオン環境下でアドレナリン濃度が上昇した人がいる(1名)
    全ての人に同じ効果があるわけではない。
  • 主観的には影響が認められず
    見逃し低減(周辺認知特性向上)の可能性あり
    精神的ストレスの影響を減らす(が、すべての人に同じ効果ではない)
  • ワープロ作業40分、女性12名
    心理:不安感
    行動:作業成績
    生理:唾液中クロモグラニンA(カテコールアミン量に相関)
    マイナスイオンはクロモグラニンAの上昇を抑える、作業成績もよい。作業不可による精神的ストレスの緩和効果、疲労回復効果

 質疑応答は以下の通り。

  • 課題1では慣れの効果を考えて評価していない最初の10分を、課題2で評価する理由は何か?
    ->1回目と2回目で差がない場合にマイナスイオンの違いを評価している。
  • 実際の滝では温度の違いや湿度の違いも影響する
    今回の実験では、電気的なので、被験者に違いがわからない。
    車の中では水破砕は使えない。
  • オゾンの臭いで差が出る場合があるが、どうなのか?条件として押さえるべき。
    −>今回の実験ではコロナ放電ではないのでオゾンは少ない。オゾン量は測定していない。
  • 見逃し率について実験2で後半はマイナスイオンの方が不利
    ->統計的に有意ではないが・・・・。マイナスイオン存在下で見逃しが増える傾向がある。
    流しっぱなしはよくない?

質量分析法による大気圧負イオン反応の解析

  • 大気イオン密度と組成について。
    ほとんどの大気が電離
     電離層100kmで高い
     上層大気の方から判明(組成が単純だから)
     質量分析で測定(ロケットで質量分析計を打ち上げたり気球で上に上げたり
  • イオンは15-20kmで多い(宇宙線と大気密度)
    地表面で増える(地表からのラドンなどの放出)
  • 生成量:陸上で10pair/cm3s 海上で2
    宇宙線は一様、地表からの放射性物質には場所によって違う。
  • 窒素、酸素が電離
    分子反応後、再結合するかエアロゾルに付着するか。
  • 粒子密度が高いとイオンが減る。
    10秒(粒子数が多い)−1000秒(クリーンな環境)
  • 発見はクーロン。静電気の実験から。
  • 移動度測定。負イオンの方が移動度が高いほうに分布する。理由は今でも不明。化学物質が何であるかによる。
  • 対流圏の反応
    正イオン:
    アンモニアに水がついたもの
    ピリジン
    質量の大きなものもあるが組成についてはわからない。
    負イオン:
    O2-になって、オゾン、CO3-、CO4-、さらに
    硝酸、硫酸のイオン
    NO3-+硝酸
    SO3-+硫酸
    他には、マロン酸、メタンスルホン酸(海の近く)
  • 大気化学組成の役割、微量分析の方法、エアロゾル生成のメカニズムの解明、が研究テーマ
  • イオン移動度の測定
    移動度スペクトルを測定すると、複数のピークからなるので、複数の種類のイオンができている。
  • 質量分析と組み合わせる。実験室の空気で。
    正イオン
    アンモニア+水->ピリジン->ジメチルアミン、トリメチルアミン
    プロトン親和性の高いものに電荷が移っていく
    負イオン
    NO2-、HCOO-、シュウ酸、に水がついたもの。
    シュウ酸のピークが残る。ショウ酸イオンも残る。
    空気に水を加えていくと、ギ酸やシュウ酸も出てくる。
    前段階としてOHが生成している。
  • 負イオン生成法
    放射線 HCOO-
    コロナ放電 NO3-, NO3-に硝酸、あと1つ。124は不明。高純度空気は124なし、水蒸気量によって124ができる。NO3と水?
    UV/光電子法
  • 大気中負イオンは、 反応によって変化していく。
    生成直後を除いて、electron affinityの高いものに移って安定化する。
    衝突頻度で反応が進む
    人工的に電離する場合はOHラジカル、O2-、NOXなど。

 質疑応答はこんな感じ。

  • どの程度のサイズのクラスターか?
    Massの測定では、圧力勾配による断熱膨脹によって冷えるので、その過程で余分な水がくっついて大きなクラスターになっている可能性がある。大気中ではそんなに大きくないのでは。
  • 純空気を電離するとO2-ができる。電離直後にはできている。
    不純物や水蒸気があるとそちらに電荷が移り、時間がたつと見えてこない。
  • H3O+の寿命はアンモニアとぶつかって反応するので、我々の身の回りでは推定msecオーダーである。
  • 正イオンについて。廊下にワックスがけしただけでスペクトルは変わる。
    居住環境に存在する物質によって影響をうける。

マイナスイオンの発生とモビリティー計測

 マイナスイオンの研究ではなくて、ガス中のエアロゾルの帯電の研究をしている。

  • ガス中のエアロゾル1nm-1um
  • 材料製造環境での粒子汚染、機能性材料(粒子、薄膜)の気相製造、環境大気中の粒子状物質、に関連。
  • イオンを用いた粒子計測、イオンが粒子生成の種になる場合。
  • 手法:
    サイズ分級装置
    濃度測定装置
  • 微分型静電分級器(DMA):大きさだけ分ける
    装置内に電場と気流を作って、特定の移動度の粒子だけスリットを通るようにした測定装置。
    粒子は壁にとらわれてしまうことが多いので・・・・・。
  • Faraday Cup Electrometer(FCE)
    箱の中にイオンを入れて、そこから流れる微弱電流を測定する。
  • Condensation Nucleus Counter
    レーザーを入れて散乱を測定。
    ナノ粒子の場合はアルコール蒸気で太らせて大きくしてから測定。
    小さいものを測定するのは難しい。イオン誘発核生成現象を観測できる。
  • DMAの中で電流も測って量を求める。
  • DMAの前段に放射線源を入れて空気を電離
    針放電装置(コロナ放電)
    放射線電離でも針放電でも、移動度はほとんど変わらない。
  • 工業的応用
    UV/光電子負イオンを用いた空気浄化装置
    表面付着ダストの除去(イオンを吹き付ける)
  • 水破砕の場合、滝付近も同様
    負イオン:4nm程度
    正イオン:測定限界以上に大きい
  • 軟X線を使っても発生させることができる。
  • 軟X線で作ったイオンによる、エアロゾルナノ粒子の荷電の制御など。

マイナスイオンの自律神経系、髪への作用

  • 空気イオンの定義
    大気中に浮遊している帯電微粒子の総称
    分類は、大きさ(電気移動度)で分類する
  • マイナスイオンブームは小イオン
  • 水破砕式で発生
  • 20-100万個のオーダー、マウス、28日間暴露
    体重、摂餌量、節水量、その他の内分泌の変化測定
  • 神経系への作用。
    ヒト冷水負荷試験。減算試験、深呼吸、数字逆唱
  • 冷水負荷試験
     イオン有りの方が回復が早い
  • 精神性発汗量
     ストレスをかけた場合に、イオンがあると減少。
  • 3週間の暴露試験(ヒト)
    ダブルブラインド。被験者の枕元に設置。午前1時から午後5時。
    職場で評価
     アンケート、発汗、
    主観評価では差なし。
    行動・動作能力は低下
    血圧、脈拍低下、α2波の増加
  • マイナスイオンドライヤーについて
    ブラインド試験
    3日間連続使用
    髪のつや、しっとり感、くせの伸び、しっとり感などで有意差あり。
  • 毛束に照射しながらブラッシングすると静電気がたまらない
    ブラッシング後照射で50秒ほどで静電気がなくなる。
  • 毛束を湿度70%のところで放置する。50%で8時間放置。
    その後水分量を計測
    イオン有りの方が普通のドライヤーよりは保持される。
  • リラックス効果については作用メカニズムの解明が必要。しかし、薬事法があるので効果をうたえない。
    髪への作用
    呼吸器系への作用
  • 長期暴露でのマイナスイオン発生装置は(気化+放電式)。
    ドライヤーのものとは違う

社会と科学技術に関わる問題としての「マイナスイオン」

  • マイナスイオンの人体影響は未科学である。
  • 実体の解明(化学種、量)
    人体影響(長期影響、個人差)
    発現機序解明
    これが終わってから商品化をするべき。
    現状=未科学商品+詐欺商品(非科学)
  • 社会現象としてのマイナスイオン
    問題発生の社会的原因
    1)市民社会と自然科学との乖離
    2)健康な市民に普通に見られる超健康志向
    3)市場を支配している量販店の存在
    4)マーケットからの要求には応えよ、という消費原理主義。
    5)一流電機メーカーの技術者倫理の堕落
    6)経営者倫理の信じがたい低下
  • 日本社会の自然科学のレベル
    大学の文系で理科教育が全く無いに等しいのが原因?
    新聞記者のレベルが問題?科学に対するリテラシーがない。
  • 遺伝子科学、遺伝子工学
    脳科学の発達
    環境問題
    地球環境問題
    化学物質管理
    情報化による差別の発生
  • 商品の改良では勝負にならない。
    付加的価値で勝負する。
  • なぜそんな少ないモル数で有効なのか
    臭覚にたいする作用ではないのか
    アロマテラピーの一種?
  • いい加減な製品をどうにかしないと、まじめに応用を研究している側が浮かばれない。
    濃度についてはなかなかはっきりしない。

などなど。あとは安井先生のウェブページでも見てください。

 なお、天羽が発表した「マイナスイオンと水」が抜けていますが、本人講演中のためノートがとれませんでした(笑)。これについては別途予稿内容と講演資料を公開します。

 今回の収穫は、水破砕で生じているのは単なる静電気現象による帯電微細水滴ではないかということがかなりわかりつつあるらしいということ。以前に、質量分析時の水破砕で水滴が勝手にイオンになることはないという理由を根拠に、水破砕でイオンが生じることはないだろうと私は主張していた。これはこれで観測事実なのだが、現状の水破砕式と分子線クラスターでは破砕条件が異なるということか。ただし、液体の(摩擦による)帯電が何故起きるのかという点は相変わらずよくわからないし、水破砕方式でできているものをmassで見るのも難しそうだ。放電式でできるものと水破砕式でできるものを「マイナスイオン」とひとくくりにすることには相当無理があるのではないだろうか。摩擦だというなら、いっそ、トライボロジーの専門家も呼んで話をしてはどうだろうか。