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水によるアトピーの治療(1999/11/07)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 このページの情報は,すでに元ページも大幅に改訂されていて古くなったので,固有名詞やリンクを削除し,古くなったコメント欄に移動させました。
 この水についてのコメントを書いたときには,まだ体験談の扱いなどについて,私の方の知識も十分ではありませんでした。ですから,読み方によっては,効果だけ出して売れ,というふうに読める部分もあります。コメントを書いてから現在までに,景品表示法の改定などもあり,効果だけ示して販売するというのも,表現によっては法的にまずい状況にとなりました。
 「体験談は,臨床試験を計画するきっかけにはなるけど,効果があるという根拠にはならない」というのが,体験談との正しい付き合い方でしょう。また,アトピーを水で治療するというジャンルは,当サイトで紹介している「アトピービジネス」という本でもインチキ療法の1つとして取り上げられています。水を使うことが快適な人はやってもかまわないでしょうが,同時に普通の皮膚科の治療も受けること,怪しげ療法の宣伝にだまされないことが大事ではないでしょうか。


 水を用いた、アトピーの治療法を提案している。そういう水があることを、うちのページを見た方からメールで教えていただいた。アトピーを始めとする、皮膚疾患に効果があるというふれこみである。

 サーチエンジンで探すと、実際に使って効果があるという報告が結構引っかかってきた。だが、やっぱり水のクラスターの話が平気で使われているので、ツッコミを入れることにした。

 アトピーに悩む人は多い(私の友人にもいる)し、根治する方法を求めて、いろんな民間療法を試す方もいらっしゃると思う。このページでは、そういう方々が水を使うことについて、止めも勧めもしない。何か治療法を試したときには、一般に利用する人の状態によって効果に差があるので、なんとも言えない。たとえば、ミネラルを多く含む水を飲んで体調が良くなる、ということがあったとしよう。そういう水は、たまたまミネラルが不足している状態の人には効くが、ミネラルが足りている人には効果が出ないかもしれない。どういう人に効果があって、どういう人には効かないかを調べるのは、物理学の問題ではなくて生理学の問題である。

 また、暗示による効果(プラセボ効果)も無視できない。薬の場合だと、本当に効くかどうかは、2重盲検で、心理的な影響を排除して確認する。効果があることをちゃんと確定するのは、実はなかなかやっかいなのだ。

 素材としての水の記述で謎だと思った部分のみコメントする。「水が効いた」と思って喜んで報告している人に水をさすつもりはない。私は別に水に効果がないと主張するつもりはないし、商売の邪魔をするつもりもない。ユーザーになるかどうかは、各自が判断すればよい。

 まず、水の説明として、

この水は数百年かけて石灰岩に染み込んだ中性の地下水です。
沖縄だけでしかとれません。
もともとそのままでも肌に良い水なのですが、それを加工(特許申請中)し、
100万分の1のアミに通して、クラスターを小さくしてあります。

だそうな。石灰岩を通り抜けてくるなら、カルシウムは豊富そうである。それはいいとして、「100万分の1のアミ」って一体何だろう?特許申請ってことはこれが企業秘密だとしても、何の100万分の1なんでしょうね。基準がわからないと分数だけ言われたって大きさの見当もつかないのだけど。

 さらに、その企業秘密の特別製のアミを通った水のクラスターが小さくなったなんて、どうやって確認したのだろうか。液体の状態で水のクラスターのサイズを測定で決める方法なんかないはずなのだが。

 ってなことを書いて、他の関連サイトを見ていたら、アミの穴のサイズが100万分の1mm(0.01μm、10nm)であることを開発者さんにメールで問い合わせておしえてもらったということが書いてあった(注:100万分の1mmは,正しくは1nm。この間違いが,話をきいた人の書き間違いなのか,開発者の勘違いなのかは不明。)。また,この水と精製水の違いについて、開発者の方に質問したところ、「この水は、自然の地下水をこしたものです。水道水は、どんなにこしても化学物質は抜けません。....現在の技術では、こまかいアミを通り越したカルシウムイオンやミネラル、ナトリウムイオンを調べることが出来ません。イオンのバランスが良い水だと思います。」なる回答をいただいたと書かれている。開発者の方は、サイトを訪問した人が指摘した精製水が蒸留されている可能性を無視して、濾過についてのみ問題にしているようである。また、現在の元素分析法の検出限界以下の濃度で、イオンのバランスが良いというのなら、バランスが良いことをどうやって確認したのかがやっぱり謎である。
このフィルタについて、市販の浄水器開発をやっている方から、メールでコメントをいただいた(1999/12/08)。それによれば、この膜は、
「10nmはRO(逆浸透膜)までは行きませんね。限外ろ過、ルーズROといったところでしょうか。でも実際は、個人でそんな膜は作れませんから、市販のRO膜でしょう。電解試験で電流が流れないところからも。でも、ROの場合膜を通して水分子を押し出すというイメージのため、特にアミ(?)=孔径という言葉は使いません。ROを通した水でもICP−MSで金属イオンは十分測定できます。」
だそうな。

さらに効果の説明を読む。

一方、分子が非常に細かいこの水は、角質層に染み渡り、有益なバクテリアの増殖を助けると共に、外部からの刺激が侵入するのを防ぎます。

...っておい、分子の大きさって決まってるんじゃなかったっけ?理科の教科書に載ってるはずだ。「分子が細かい」ってどういう意味だろう。

これについても、さらなるツッコミをメールでいただいた(1999/12/08)。
曰く、「有益なバクテリアと有害なバクテリアを分けるのは人間であって、水にとってどのバクテリアが有益なのかどうやって知るのでしょうね。」
....他のページでは、私も雑菌の話で似たようなツッコミを入れてたんですが、今回は忘れていましたm(_ _)m。

 さらに,この水の不純物の検査をした実験の説明では、市販のミネラルウォーターとこの水に電極を入れて、電気分解を行った結果を紹介している。電極は、鉄とアルミニウムの2種類で、この水は電解の前後で変化無しだが、ミネラルウォーターでは電極から泡が発生、水に泡ができてどろどろに濁って発熱した、という写真が掲載されている。

 それって電気分解じゃなくて単に電極が溶けたんじゃないのか?発熱は電流が流れたために起こったのではないか。普通電気分解するときは、電極材料が溶液中に溶け出すのを防ぐため、金、白金などの貴金属を電極にするか、炭素電極を使うかする。電極材料がどの程度溶けやすいかは、元の水の成分による。だから、この実験は、「この水とミネラルウォーターでは、鉄とアルミニウムの電極を入れて電流を流したときに、どっちで電極材料が溶けやすいか」を調べていることになる。で、この実験で何を主張したかったのだろう?電極が溶けにくいことと、皮膚に良い水であることの間には、かなりギャップがあると思うが。

この話については、浄水器開発をやってる方から、
「これも以前から良くある手ですね。電気伝導度の違いを利用して電極を溶かしています。ごく一部のROメーカーがこの手を使っています。これを信用した人には、私共が科学的に浄水の原理を説明しても理解してもらえず困ってしまいます。これは、一種の新興宗教ですね。」
というコメントが届いている。
 まあ、私は善意に解釈して、ここで実験した人は、どこか他のメーカーでやってる怪しい実験を、それとは知らずに真似したんだろうと受け取っている。せっかくの商品の価値を落とさないためにも、この手の実験の話はしない方が望ましいと思う。

この水の不純物検査では、試験器(何の試験器か詳細は不明)を用いて、不純物の濃度を調べている。ミネラルウォーターが100ppm、東京都の水道水が130ppm、この水は0ppmという結果が出たそうな。水分子以外の物質を不純物とするなら、ミネラルウォーターの100ppmってのは、そりゃミネラルそのものだろう。この水では0ppmだそうだが、石灰岩にしみこんだ水なら、多分カルシウムを多量に含んでいるのではないか?それが測定にかからないとすると、一体何を測定しているのか不明である。

 がんばって科学的説明をしようとしたらしいのだが、わけのわからない記述をする位なら、こんなことは書かずに、「アトピーにこんなに効きます!」ってことだけちゃんと書いたほうがよっぽどいいのではないだろうか。自分から製品の信用を落とすような実験の話を持ち出すことはないと思うが。