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マイナスイオンな水(2001/05/05)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 このページの情報は,すでに元ページも大幅に改訂されていて古くなったので,固有名詞やリンクを削除し,固有名詞の一部を伏せ字とし,古くなったコメント欄に移動させました。

 水と、その関連製品を販売している。他には健康食品などの販売も行っている。なぜか、だいぶ前に、ウチに

Date: Wed, 04 Oct 2000 10:19:10 +0900
To: apj@atom.phys.ocha.ac.jp
Subject: 水についての新しい情報提供

はじめまして。
貴HPでは、水についてのいろいろな情報を研究されている
ようですので、新しい情報を提供します。
水の名前は・■■■といいます。
その昔、底津地球の大宝(そこついわねのおおたから)と言われ、
奈良時代の天平の疫病を治したという言い伝えのある水です。
この水から(煮詰めることにより)古代・「出雲石」といわれる、
いまでこそ科学の力で証明されていますが、
マイナスイオンが放出されている石ができたのです。
私のHPに詳しく載せていますので参考にして下さい。
http://www.■■■■
成分も・■■■・の紹介のなかの(健康の奇蹟1)に載せています。
マイナスイオンが1kg中610mg含まれています。
強酸性でphは2.66〜3.0です。
飲むと酸っぱい味がします。
サンプル必要であればお送り出来ますのでご連絡ください。
 
よろしくお願いします。
というメールが送られてきたのだった。

 まず、この水は「出雲石」なる石が産出する土地で採取でき、場所は福島県の山奥とされている。その効能は、

『出雲石』は古代より病気を治すために使用されていたとの言い伝えがありますが、最近では、優れた遠赤外線効果やマイナスイオン効果などが明らかにされ身体や心を癒す力があることが科学的にも認められています。

だそうな。

PH約2.5〜3.0、分子が細かい、マイナスイオンが多い

 と書いてある。pHの値からは酸性の水であることがわかるが、「マイナスイオン」って一体なんだろうか。酸性の水なら、プラスイオンである水素イオン濃度が高くなっており、カウンターイオンとして、同じ濃度のマイナスイオンが含まれている、水溶液である。マイナスイオンって、具体的にはどの化学種のことなんだろうか。また、分子が細かい、というのも理解に苦しむ。分子の大きさって、化合物の化学式が決まればすべて同じ大きさのはずである。水分子はH2Oだが、この大きさは半径が約1.4オングストロームの球と大体同じである。どんな操作をしても、水分子の化学式が変わらない限り、分子の大きさが変わるはずがない。これは、化学の原則である。

 「遠赤外線効果」はクリックするとさらに詳しい説明が出る。

専門的には「4〜14ミクロンの赤外線」 「4〜14ミクロンの電磁波」といい、気功の「気」も同じ波長の電磁波です。

 気功の「気」が電磁波なら、ちゃんと測定できるはずだが、測定した結果については何も情報が掲載されていない。少なくとも、出ている電力、波長のスペクトルなどが、標準的な方法で測定されない限り、「気」と遠赤外線を同一だと言われても、とても信用できない。ついでに、アルミ箔を置くだけで遮蔽できるとか、金属に当てる角度によって反射させることができるとか、KBrの結晶は突き抜けるとか、セラミックを突き抜けるとか、そういう性質もちゃんと示してもらわないとねぇ。

 遠赤外線によるクラスターの細分化も、液体の状態での水のクラスターを測定する方法自体がないので、確認のしようがない話である。一体どうやって確認したのだろうか。

 「マイナスイオン」についても説明を見ることができる。しかし、「マイナスイオンが体にいい」ことを直接実証した臨床試験は、私が知る限りまだない。空気中には、宇宙線や自然放射線で電離した酸素ガス分子のマイナスイオンが一定数存在する。来れに比べて、有意にマイナスイオンが多いとすれば、それは一体どこから来たのだろうか?

滝の側や噴水の側,または渓流など水の多い場所で,すがすがしい快適な気分になった経験はありませんか.それは,このような場所の周囲が,マイナスイオンを豊富に含んだ空気だからなのです.

 といわれても、そういう場所は気温や湿度も違うし、滝の側であれば大抵は山の中だろうし、そうなると森林浴の効果もあるだろう。気分が良くなるのがマイナスイオンの効果だと言われても納得できない。他の要因と比べてどうかがわからないと、何とも言えない。

岩などに水が激しくぶつかり微細な水滴が飛び散るときに,水滴はプラスに,周囲の空気はマイナスに帯電することが知られており,その結果,マイナスイオンの多い環境が作り出されています.

 これは、いわゆるレナード効果だと思われるが、水を破砕するだけではイオンは生じない。このことは、分子線クラスターの実験で確認済みである。実験では、液体をジェットにして真空中に吹き出させ、さらに断熱膨張で分子数個から数十個のクラスターを作って質量分析などの測定をする。この実験をしている分子研の西先生にきいてみたら、水で実験しても、水の破砕でイオンが生じることはないし、微小液滴が帯電することもないとのことだった。もし、破砕で液滴が電荷を持つなら、質量分析器に導入したときに観測にかかるはずだが、そのような実験事実はないという話だ。

 マイナスイオンの測定結果を見ると、湿度が高いところで高いという結果が出ているように見える。マイナスイオン測定器がどういう原理か知らないが、湿度によって静電気の出方が違う、というのは日常よく経験するところである。マイナスイオン測定器は湿度の影響は受けないのだろうか。私なら、こういう測定結果が出たら、まず湿度を測定しているのではないかと疑う。一般家庭の風呂場で風呂桶に湯があるときに測定した結果をぜひ知りたいものだ。もしかしたら、わざわざ森林や海周辺に行く必要も無いほど高い値がでるかもしれない。誰か測定した人がいたら教えてほしい。

また、この30年間、急速に普及したテレビやコンピュータ、電子レンジなどの各種電気・電子機器から放出される「電磁波」もプラスイオンの仲間です。

 さすがにこれは完璧に違う。電磁波とプラスイオンは別物である。イオンは、原子・分子やその集団がないとできないが、電磁波は物質とは無関係に存在する。

 また、マイナスイオンの環境への主な作用として、有害物質の分解作用などが上がっているが、具体的にどういう化学反応で分解されるのかということについては、何も述べられていない。参考文献も示されていない。殺菌作用や化学物質の分解作用を同時に持つような化学種は、一般に反応性が高いと考えられるので、人体にとっては毒物あるいは劇物として働く可能性がある。もし、マイナスイオンの効果がふれこみ通りなら、私は、個別の化学反応と生物に対する作用機序が矛盾無く説明されて、人体に害がないことが実証されるまで、マイナスイオンを吸い込みたくない。

 人体にはさまざまな電解質や分子が存在し、それらはマイナスイオンにもプラスイオンにもなっている。説明にあるように、マイナスイオンがいい効果をもたらし、プラスイオンが悪い効果をもたらすような、単純な話ではないのである。もし、体内に存在するプラスイオンを全部取り除いたら、我々の体は機能を維持できなくなる。細胞の活動電位を出すのに必須のナトリウムイオンやカリウムイオンはいずれもプラスイオンであるし、信号伝達に不可欠のカルシウムイオンもプラスイオンである。このページのようなイオンの分類は、とても納得できるものではない。

 血液の浄化作用に至っては、

健康な血液は、弱アルカリ性です。プラスイオンは、血液を酸性にかえるため、万病のもととなります。

 と書かれているが、恒常性の維持によって、人体の血液のpHはそう大きく変わるものではない。逆に、pHを調整できなくなったら相当重態で、命に危険のある状態である。もし、マイナスイオンを与えてそんなに簡単に血液のpHが変わるなら、与えすぎた場合は血液のpHがアルカリ側に振れすぎて、命が危なくなるはずだ。そうなると、マイナスイオンは素人考えで投与できる代物ではないことになる。まあ、現実に健康用品(食品?飲料?)として市販されているということは、多分ふれこみのような効果が無いからじゃないかと思うが....。

 「活性水素のTVよりの報告」は、そもそも情報源が情報源なので信憑性の薄い内容となっている。おそらく、元ネタは、電解還元水を紹介した番組ではないかと思うが、電解還元水に活性水素が存在するという話自体、まだ仮説に過ぎない。一部の電解水メーカーは、既に解明されたかのような宣伝を行っているが、活性水素を直接確認した論文はまだないはずである。「活性」の名のように一種のラジカルであるとすれば、ESRなどの、フリーラジカルを検出する方法で測定ができるはずである。しかし、そういう測定がなされたという話は今のところ無く、そのかわり、どういうわけか飲ませたらどうなったとか、動物実験でどうか、という、間接的な実験の話ばっかりである。活性酸素消去効果にしても同じ状況で、直接証拠がちっとも示されない。フリーラジカルの測定法は、当方のウェブぺージで紹介した本に出ている。ここの主張は、少なくとも、標準的な測定方法で存在確認がなされるまでは、そのまま鵜呑みにはできない。活性水素の効果としてうたわれている内容にしても、臨床試験がないので、真実である証拠はまだない話である。確かに、書かれているような効果を体験した人は存在するかもしれないが、治療法としてみた場合に効果があるかどうかは別問題である。

 ついでにいうと、活性水素存在を主張し、その分析方法の研究を行っているのは、九州大学農学部の白畑教授である。しかし、昨年、白畑教授に問い合わせたところ、「詳細については、論文の投稿準備中&特許出願準備中なので明らかにできない」という返事をいただいた。この状態が変わらないとすると、まだ活性水素の存在確認については、他の研究グループが検証できる状態にはないことになる。もし、他に活性水素を直接確認する方法を持っているグループがいらっしゃいましたらお教えください。ここの主張が、何に基づくものなのか、ウェブページからは全くわからないので。白血病細胞の実験についても、どこのグループがやってどこに発表したのか不明でである。

その白血病細胞の増殖抑制効果だが、私ならこう読む。以下に実験結果を示した表を引用する。
開始時 2日目 4日目 6日目
対照群
100,000
380,000
960,000
1200,000
試料?(原液) 0.25ml加群
100,000
380,000
950,000
1100,000
0.5ml加群
100,000
380,000
910,000
960,000
1.0ml加群
100,000
370,000
840,000
850,000
試料?(原液) 0.5ml加群
100,000
290,000
700,000
730,000
1.0ml加群
100,000
260,000
410,000
340,000
数値は1ml当りの白血病細胞数(個/ml)
試表?:1.0(濃縮)mlでは70%以上の増殖抑制を示した。

 効果が出たとされているのは、赤で示した行である。実験は、単に■■■を加えたものと、■■■の濃縮液を加えたもので行ったと読みとれる。また、加えた液量は0.25mlから1mlだが、元の培養液の量については何も述べられていない。6日目の数で比較すると、対照群に比べて、■■■の量が多い方が、細胞数が少なくなっている。また、濃縮0.5mlと素美霊1.0mlでは、濃縮0.5mlの方が少ないという結果になっている。これだけ見ると、「■■■は白血病に効く」という結論を早合点して出してしまいそうになるが、ちょっと待て。

 細胞の培養では、電解質やpHを一定に保つような培養液を使う。そうしないと細胞がうまく増えなかったり死んだりするからである。■■■は酸性の水で、電解質もいろいろ含まれていると書いてあった。ということは、これを加えると、培養液のpHや電解質のバランスを崩すことになる。加えた量が多いほど、また濃縮したものを加えるほど、培養液は理想的な状態から外れることになる。たった一回加えただけで、と書いてあるけど、培養液のバランスを崩すには、1回加えただけで十分ということではないのだろうか。こう考えると、細胞増殖が抑制されるのは当たり前で、この実験結果は、白血病の治療とは何の関係もないんじゃないの。

 この実験結果からは、「■■■を飲むと白血病の治療に役立つ」という話は、どうやったって出てこない。ヒトの体は、電解質やpHをできるだけ一定に保とうとする働きがあるので、■■■を飲んでも、培養実験で生じたはずのpHや電解質バランスの変化が引き起こされることはない。

 ■■■は鉄分や亜鉛などのミネラルが豊富だということだから、この成分による効果はあると考えられる。確か、亜鉛が欠乏すると味覚が狂うという話があったので、■■■を定期的に飲むと、そういう症状は防げるかもしれない。ミネラルウォーターとして使って、微量金属元素をとるために使うのが、■■■の正しい使い方なのではないか。もっとも、そういう金属の過剰摂取の害については、医者に確認をとった方がいいと思う。

 少なくとも、宣伝中の「奇跡の水」の明確な根拠は、ウェブページを見た限りでは見あたらなかった。

 ■■■グッズとして、セラミックを使った遠赤外線の効果をうたった製品がいくつか宣伝されている。これらの製品の効果は、■■■という水とは何の関係もない。セラミックを使った繊維製品が遠赤外線を発生するというのは、測定すればわかる話である。実際に、いろんな繊維製品のメーカーが測定結果とともに販売を行っている。では、なぜ遠赤外線が発生するのだろうか?

 熱がどうやって伝わるかについては、理科の授業で習った通り、伝導、輻射、対流がある。対流は、熱源の周りの空気や水などの媒体が直接暖まることで、密度が変化し流れが起きて、結果として媒体全体が暖まる効果だから、より基本的な伝熱過程は、伝導と輻射である。繊維製品の評価では、ヒトが着て部屋の温度が低いときや、繊維製品自体の温度を室温より上げた状態で測定がなされる。もし、繊維製品の保温性能が良く、空気が繊維を通過したりすることで温度が下がらなければ、輻射によって冷却するしかなくなるのではないか。輻射するより先に空気の動きで効率的に温度が下がるようなら、輻射はそれほど起きないと考えられる。従って、遠赤外線を出すような繊維は、他の方法で熱が逃げないから暖かいのだと理解することができる。

 それなら、もしそのセラミックの材料を水に触れさせたらどうなるだろう?もし、セラミックの温度が高かったとしても、水と直接接触することで、輻射よりずっと効率的に熱を逃がすことができる。そうすると輻射がどの程度起きるか疑問である。そのようなセラミックや石などに接触した水が、何か違う性質を持ったとしても、それは遠赤外線とは何の関係もない。水処理に使うとされるセラミックや石には、外から電力などを供給して加熱して使うという話にはなってないから、水で冷やされて熱平衡になったらそれで終わりである。