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中西準子氏の訴訟続報

Posted on 5月 30th, 2005 in 倉庫 by apj

 中西準子氏の名誉毀損訴訟続報。ライブに行った人が居たようです(児童小銃、というブログより)。ただ、この記事、しょっぱなに「中西準子氏の第一回公判行ってきました。」とあるけどこれは違う。民事訴訟だから「第一回口頭弁論」が正しい。「公判」というのは刑事訴訟手続きの用語なので、区別しないといけない。(向こうのブログに修正が入ったのでこちらも修正。ただ、他のサイトでも、中西氏の訴訟で「公判」という記述を見かけたので、見え消しにしておく)

 民事訴訟の常として、口頭弁論は書面の確認と交換で終わったようである。ところで管轄裁判所が横浜地裁だというのが気になった。原告の松井教授は京都大学所属だから、京都府あるいは京都大学への通勤圏のどこかが住所になるはずである。不法行為で訴えるときの管轄の裁判所だが、民訴5条9号により、「不法行為があった地」が適用される。じゃあ、今回のようなネット越しの名誉毀損発生の場合どこになるかというと、不法行為は松井教授の勤務地と解されるのではないか。私も遠隔地の相手に対する名誉毀損訴訟の原告をやろうという案件を抱えており、裁判管轄について弁護士に相談したところ、私の勤務地の裁判所に訴状を出すように言われた。地方都市間の移動は大変だし個人の争いなので便利さを考慮して東京地裁を使うつもりだったんだけど、「山形地裁に移送されるよ」って言われちゃいました。
 ただし、民訴12条で、第一審で被告が管轄違いの抗弁を提出しないで弁論した場合は自動的にその裁判所が管轄裁判所になることが定められている。普通は、訴訟実行の便利さを考えて、原告住所地で提訴し、その後移送請求を出したりして管轄をどこにするかやり合ってから弁論になると思っていたのだが、今回は最初から横浜地裁に提訴したということなのだろうか。
 原告代理人の弁護士の事務所の所在地が東京都港区である。普通、素人が民事訴訟を起こすときは、自分の住所地の近くの弁護士に仕事を頼むものである。訴訟で勝つつもりがあるなら弁護士とのコミュニケーションは欠かせない。遠隔地の弁護士に依頼したら、打ち合わせに必要な時間と金が跳ね上がる。京都の人が横浜の人を訴えるのに東京の弁護士を使うというのは、無いとは言わないが希なケースではないだろうか。
 そうすると、この間このブログでも書いたように、本件訴訟が訴訟を隠れ蓑にした言論封鎖ではないかという推測は、やっぱり当たってるのではないかと思う。裁判管轄を考えると、本来は京都地裁あるいはその周辺の地方裁判所に提訴することになるが、もともと弁護士主導で作りだした訴訟だから、打ち合わせの旅費と手間は弁護士的には省きたいだろうと。だからといって、管轄の合意なんざあるわけもないから東京地裁は使えない。とすると、横浜地裁しか選択肢がない。被告住所地であれば、アクセスに便利だから、まず100%被告側は移送請求せずそのまま応訴して、口頭弁論が始まるだろう。東京の弁護士事務所から横浜に出掛けるのは、京都近辺に出掛けるよりずっと楽でもある。横浜地裁で始まったという情報からは、こんな構図が透けて見える。
#移動の労力をいとわないなら、いっそ京都に移送してやれば面白いことになったのに……ってこれじゃ単なる消耗戦か^^;)

 この話題、食品安全情報blogでも取り上げられた。

今回の件では中西先生の勝敗が心配なのではありません。
「訴訟をおこされたら面倒だから、何も言わず、問題があっても関わりにならない方が賢い」と考える科学者や関係者が増えることが最も恐れることです。

とあるが、全くその通りであると思う。私も、別に中西氏のシンパではないが、「水商売ウォッチング」などというコンテンツをやってる以上、他人事じゃない。怪しげ企業の御用聞き学者を堂々と批判することだってあるわけで、これに対してセンセイから名誉毀損訴訟を仕掛けられる可能性は充分にある。だからこそ、中西氏に下手な負け方をしてもらうと困るのだ。広い範囲で萎縮効果をもたらす可能性があるから。