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行列とか群とか

Posted on 10月 25th, 2005 in 倉庫 by apj

 量子物理化学なんてものを担当してるので、ちょいと表記法になれてもらおうと思って、行列力学の初歩をやってるわけだが。で、波動関数が実はベクトル空間を作ってるとか、演算子が行列で表現できるといったことをやってみたら、さっぱりわからんという学生さんが質問しにきてくれた。よくよくきいてみたら、高校ではベクトルと行列はまったく別物として教えられているのだそうな。ということは、ベクトルに行列を演算するとか、ベクトルを行列で変換するという発想自体が抜けている、と。それで、もっとよく訊いてみたら、教養のあたりで線形代数をやらなくても進級できる制度になっていたりすることがわかった。こりゃもう学生さんの責任ではなく、明らかにカリキュラムの穴というかバグの問題である。
 おかげでこちらも、一体どこから話をすればいいのかがわかって、却って助かったわけであり、質問に来てくれた学生さんには、実は感謝している。何せ来年から、高校数学との橋渡しを教えることになって、今、講義内容をどうしようか悩んでいる真っ最中なので「ギャップが大いにありまっせ」という情報は非常に役立つ。
 だがここで、ちょいと引っかかるものがあった。私が担当してるわけじゃないんだが、ウチの学科には「群論」という講義がある。化学の群論だから、当然、分子の対称性と基準振動解析を扱っている筈である。それでは、ということで「線形代数でやってなくても群論では行列が出てくるよね。行列の演算って群になってるよね」と言ったら、学生さんがポカーン。「行列なんか群論の講義でちっとも出てこなかった」と言われてしまった。行列無しでどうやって化学で使う有限群の表現をやるのか、行列の部分対角化無しでどうやって振動モードを求めるのかと思ったわけで。赤外とかラマンとかやってる見としては、振動解析欲しいなあ、と。
 多分、線形性という概念を身につけるのが、数学系以外を狙ってくると最近はなかなか難しいようなので、表現の話に行くよりも目に見える形を示すという方向の方がなじみやすいということもあるかもしれないけど。

 ついでにネタを振っておく。私が学部の時に思いついたジョークで「仮面ライダーの変身ポーズの全体は群をなす」ってのがある。授業始まる直前にこれを口にして、少し後ろの席の奴(S野君)に思いっきり顔をしかめられてたわけだが。ちょうどその頃、仮面ライダーBlack とBlack RXがリアルタイムで、欠かさず見ていたわけで、ポーズのいくつかを取り出すとそれっぽい感じにはなる。厳密にやると足りないから群にはなってないが、「変身」のかわりにポーズを構成する動作を取り出して「変換」で各ライダーのポーズを作れないかと思った次第、単位元やら逆元やら積が定義されてりゃいいわけで……。たとえば単位元はぼーっと突っ立ったまま(爆)。ちなみにコレを言った相手は、物理科一の特撮アニメ好きの奴で、「西千葉駅の前でライダーの変身ポーズをやったら周りの友達が全員他人のフリをした」と言ってたが(I上、お前のことだぞ……)。
 クウガ以降はポーズの雰囲気が変わったので、今じゃますます当てはまらない。困ったものだ(って一体何が?^^;)。


ここからは旧ブログのコメントです。


by apj at 2005-10-13 05:25:13
Re:行列とか群とか

 元の文章にちょっと表現が不適切なところが合ったんじゃないかと指摘を受けたのでちょいと書き換えた。もちろん、元の文章を書いた時に、特定の誰かを批判するつもりも中傷するつもりも注文を付ける意図もまったくなかったのだけど、違うように受け止めた人がいるらしい。
 単に、私が、普段から「群論=振動解析」と思いこんでいたというか、そうす刷り込まれていたもので、違う内容だと聞いてびっくりしただけの話である。


by kei-2 at 2005-10-35 11:07:35
Re:行列とか群とか

分野によってずいぶん違いますね。

うちのほうで群論というと、やはり符号理論に逝っちゃうので
GF(2)上の多項式の話が多いかなぁ。でも正則行列の話は確かにあったような…

そういえば、ルービックキューブはもともと群論の教材だったとか。


by apj at 2005-10-31 13:17:31
Re:行列とか群とか

  物理だとSU(2)、SU(3)、SO(3)、SL(2,C)とかが出てきます。素粒子の標準模型で使います。点群の方は結晶解析で使いますね。振動解析は物理ではそんなに意識されないし、そういう研究室に行かない限りスルーで、むしろ化学でやるものだと思います。数学者の群論は経験ないけど、きっともっと抽象的なのをやってるだろうし。

 そういえば、学部の2年くらいだったか、群論に興味がありますと言ったら、ポントリャーギンの連続群論(岩波)を先生に勧められました。調べたら絶版で、神田の明倫館で倍以上のプレミア価格で売られていて、涙をのんだ覚えがあります。で、行くたびに見ていたら、ある日、値段がいきなり下がっていた。その2箇月後くらいに、生協の復刊フェアで出ましたね。
 後から、その昔岩波が一度つぶれかかったことがあって、神田の古本屋に随分助けてもらったて話をききました。なので、絶版だから値段高くても良いとか、再販するから値段下げないと売れないとか、そういう情報がきっと流れているのだろうなあ、と。
  でも結局、ポントリャーギンはあまりにも数学者の群論だったので、連続群をやるならもうちょっと物理屋にとってとっつきやすい本の方がいいので、途中からシュッツの「物理学における幾何学的方法」の原著に走りました。つか、ポントリャーギンするめる物理の先生っつーのもなーんか無茶な気がするなあ、今にして思えば。せめてスミルノフの5巻位にしておけ、と思う。

 ルービックキューブについては、Adventures in Group Theory: Rubik’s Cube, Merlin’s Machine, and Other Mathematical Toys、David Joyner、0801869455なんてのがありますね。昔、群論使うと解けるよ、って言われたのですが、言われたのが中学生の頃で、さすがに追求しないままに終わっていました。キューブは今でも売ってるし、本買ってやってみようかなぁ。

 数学、というかアルゴリズム使ったオモチャというと、10段くらいのハノイの塔のオモチャを高校の時に見かけました。コンピュータおたくの同級生が買って来たので、借りて遊んだ覚えがあります。同じ大きさの長方形の薄っぺらいコマが、三列ある溝の両側に取り付けられているものでした。確か、1段目は1段目までしか、2段目は2段目までしか動かないようになっていたはず。コマをスライドさせて両側を入れ換えるっていうオモチャでした。


by rmiya at 2005-11-20 09:49:20
Re:行列とか群とか

結晶構造解析の場合は空間群で、分子分光学ならば点群。私の場合は群論は基準振動解析の他にも分子軌道っていうのもあったけど、でもどちらも遷移の選択則と云う点では同じか。化学系の場合には、結局は指標表の使い方に行っちゃうので、行列とか変換とかはあまり意識しないかも。そもそも「ある対称操作の集合が群を作っている」という認識すらないかもね。


by いいじま at 2005-11-30 06:57:30
Re:行列とか群とか

651609いいじまとりあえず、高校側の事情を。

1130882250211.121.7.131


by apj at 2005-11-51 11:24:51
Re:行列とか群とか

  高校の教科書なら入試課が持ってるでしょうね。
あと、私自身の数学(ってぇか計算)のブラッシュアップも兼ねて、
MATHEMATICAL METHODS for Scientists and Engineers, Donald A. McQuarrie, 1891389246
を読んだりしています。多分これをヒントにしてノートを作るのが、最初の作業かな。