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どんな主張をしたのだ?

Posted on 12月 12th, 2008 in 倉庫 by apj

 asahi.comの記事より。

中日新聞社に賠償命令 「あるある」番組内容の報道巡り
2008年12月12日20時37分

 東京新聞に虚偽内容の番組を製作したとの記事を掲載されて損害を受けたとして、東京都港区の番組製作会社が約2370万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、東京地裁であった。笠井勝彦裁判長は「真偽を確かめる取材をした形跡がない」として、東京新聞を発行する中日新聞社(名古屋市)に275万円を支払うよう命じた。

 この製作会社は、捏造(ねつぞう)が発覚した関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典II」のうち、手のひらで悪玉コレステロールの有無を判定する「手のひら判定」を紹介した番組(05年6月放送)を製作。東京新聞はこの番組内容が虚偽だと指摘する記事を07年1月31日朝刊に掲載した。

 笠井裁判長は、番組を監修した大学教授が手のひら測定の有効性を主張していたのにもかかわらず、教授本人への取材をしないまま記事を掲載したと指摘。「取材をすれば医学界に対立する意見があったことを認識できた。報じた内容が真実だと信じる相当の理由がない」と結論づけた。

 判決は、「手のひら判定」の有効性そのものについては「判断するに足る証拠がない」とした。

 中日新聞東京本社(東京新聞)の深田実編集局次長は「判決内容には承服しがたい部分もあり、よく検討したうえで今後の対応を決めたい」とコメントした。

 てのひら判定は見るからに怪しいのだが……。捏造じゃないかということを報道した東京新聞の記事を引用したblogを見つけたので、記事を貼っておく。日付も2007/01/31と一致しており、この記事が、訴訟の原因になった記事っぽいのだけど、本当のところは訴状を見ていないのでわからない。

手のひら判定もウソ 捏造疑惑まだ『あるある』

 実験データの捏造(ねつぞう)が発覚して打ち切られた関西テレビ制作の情報番組「発掘!あるある大事典2」で、動脈硬化の原因物質となる超悪玉コレステロールを紹介した放送分でも「超悪玉コレステロールを持っているかどうか手のひらを見れば分かる」などと虚偽とみられる情報を流していたことが三十日、出演した学者の証言で分かった。
 
 二〇〇五年六月十九日に放送された「身体の危険度シリーズ第2弾 『知られざるコレステロールの恐怖』」で、病院に行かなくても超悪玉コレステロールをチェックできるという方法を紹介。テーブルの前に座り両手を足の上に置いて十秒後、手のひらをテーブルに載せて血色を確認。赤い人は要注意で、霜降りの人は危険信号と超悪玉コレステロールが多い可能性があるとした。

 番組前段で超悪玉コレステロールについて説明した東邦大学医学部の芳野原(よしの・げん)教授は「取材に来たスタッフに『手のひらで分かるんですよね』と尋ねられ『血液を採って調べないと分からない』と答えた」と言う。同教授は番組全体は知らされていなかった。放送された番組には手のひらチェックがあり「そんなことで分かるはずがない。専門家の意見を無視した内容だ」とあきれたという。

 さらに番組では「手のひらの血色チェックは、超悪玉コレステロールができる原因となる肝機能の低下をみるためだとも理由づけていたが、そのような判断ができるという理論は医学界には存在しない」としている。

 関西テレビは「過去の分についてはまとまった段階で回答をしたいので個別のケースには答えられない」としている。

 記事通りなら、手のひら判定を紹介した芳野教授に話を聞きにいっていることになるので、「教授本人への取材をしないまま記事を掲載した」と食い違っている。あるあるの捏造を報道した記事の3段落目の内容が新聞社による捏造だったということなのだろうか。

【修正】
 芳野先生は、手のひらチェックの回には関わっておらず、別の先生が出演・監修していたとのこと。であれば、芳野先生のところに取材したが、別の先生の方に行かなかったのだろうと考えられる。詳しくはこのエントリーの最後へ。

 手のひら判定そのものについては、判断に足る証拠がない、というのが裁判所の判断になったということは、「手のひら判定は客観的に見てインチキ」という立証はしなかったか、したけど失敗したということなのか。特定の研究者だけが主張していて普通の医者は全く認めていない検査方法であるという立証ができれば、内容が虚偽、と記事を書いても、真実相当性を認めてもらえるのではないかと思うのだが……。

 ところで、手のひらでコレステロール測定については、いきいき健康 NIKKEI NETにこんな記事がある。

(4/24)皮膚のコレステロール検査で心疾患リスクを評価 手のひらからわずかな皮膚細胞を採取するだけのコレステロール検査で、健常者の心疾患リスクを評価できることが報告された。この検査法は、血液中のコレステロールと分子的に関連した物質である皮膚のステロール値に着目するもの。 9,055人を対象とした試験の結果、皮膚ステロール値とHDL(善玉)コレステロール、および炎症マーカーで心血管疾患の危険因子(リスクファクター)とされるC反応性蛋白(たんぱく、CRP)の値との間に強い相関が認められた。グラクソ・スミスクライン社のDennis L. Sprecher博士が、米アトランタで開催された米国心臓協会(AHA)動脈硬化・血栓症・血管生物学会議でこの知見について発表した。

 今回報告された検査法は、カナダPreMD社が販売する既存の皮膚ステロール検査に改変を加えたもの。旧型の検査は現在ヨーロッパ、カナダで用いられており、米国では限定的に使用されている。この検査では、小型のプラスチック器具を用いて手のひらの表面から死んだ角質細胞を剥離し、細胞内のコレステロール値を測定する。

 2005年、米ウィスコンシン大学のJames H. Stein博士が、この旧型検査により得られるコレステロール値が、超音波で測定した動脈壁の厚さおよび狭窄の評価と相関していることを報告しているが、新型の検査についてはこのような超音波での評価は実施されていない。また、旧型ではその場でコレステロール値がわかるが、新型の検査は検体を研究室に搬送して分析する必要がある。PreMD社のMichael Evelegh氏は、新型検査はまだ臨床試験を始めたばかりと説明している。

 Evelegh氏は、この方式の検査は「保険加入の際などに、血液を採取せずにコレステロール検査をしたい場合に有用」と述べている。今回の研究は、生命保険加入のために検査を受けた被験者を対象とした。皮膚コレステロール検査が有効である理由は、血液中のコレステロール値よりも、血管壁に蓄積されるコレステロールが重要であるためだという。コレステロールが血管壁に蓄積されるなら、皮膚をはじめとする全身の組織にも蓄積されると同氏は説明している。

 また、従来のコレステロール検査では検査前に絶食する必要があったが、この検査では絶食の必要がなく、朝食の内容によって結果が左右されない点も長所の1つだという。

 これが実用化されれば、血液を採らなくてもコレステロール値がわかることになる。残念ながらこの記事は放映の3年ばかり後で、まだ報告されただけの段階である。
 もちろん、あるあるの「血色による確認」とは何の関係もない。

【追記】
「タブー無き医療特集」のページに、この件について書かれていることをNATROMさんより教えていただいた。関連部分を引用する。

誤解生む放送「ビックリしました!」 
― 今回問題になっている「発掘!あるある大辞典2」の過去の放送に、芳野先生もご出演なさっています。
その放送でも、事実が歪められた部分があったとか。
私が協力したのは、コレステロールについて放送された回です(2005年6月19日放送「身体の危険度シリーズ第2弾
『知られざるコレステロールの恐怖』」)。コレステロールにもいろんな種類があります。
よくいわれる悪玉コレステロールに加え、最近はさらに悪性度が高い「超悪玉コレステロール」の存在を、
私たちが提唱しています。その時は「悪性のコレステロールについて紹介したい」ということで依頼が来ました。
趣旨自体には賛同できたので、ご協力したんです。
― 同番組は関西テレビの制作ですが、取材に来たのは別の会社だったのですね?
はい。系列の制作会社です。放送の数ヶ月前でしたか、30歳代くらいの若い人たちが3人くらいやって来ました。
誤解のない様に言っておくと、彼らは私の話を一生懸命聴いてくれました。
視聴者に分かりやすい内容にするため、とても頑張ってくれたんです。
―え!? そうなんですか?
若いスタッフたちは皆さん熱意を持って取材してくれて、専門的な話もよく理解してくれました。
悪玉コレステロールの生成過程についてアニメーションまで作ってくれて、正しく、分かりやすく伝えてくれました。

― 虚偽と思われるのは、確か「手のひらを見れば、超悪玉コレステロールの有無が分かる」という
内容だったと思いますが。
そうです。その部分には私は関わっていませんでした。
別の先生が出演・監修されていたので、私の名前も使われていません。
ただ番組は、前半が私の出演による「悪玉・超悪玉コレステロールの説明」で、後半に「手のひらでそれが分かる」という内容が続いていました。
私が関わったのは前半だけなのですが、その流れだと後半の内容についても私が認めているように映ってしまった……
そこが問題であり、困惑したところなんです。
― なるほど。
言ってもいないことが、さも先生の主張のように誤解されてしまう放送内容だったのですね。
制作会社のスタッフは、私にも「手のひらで、超悪玉コレステロールの有無が分かるのですか?」と聞いてきました。
もちろんそんな事で分かるはずがありません(笑)。
「血液をとって調べないと分からない」と言っておいたんです。
ただどうしてもこの筋書きで番組を作る必要があったのか、後半には別の専門家が出演し、「手のひらで分かる!」と検証しています。

―う~ん、ムチャクチャな番組制作ですね……。
ただね、制作会社側には責任がないと思うんですよ。
後半部分に協力した3人の専門家が、「手のひらで超悪玉コレステロールが分かる!」とお墨付きを与えているんですから。
むしろ誤った情報が流れてしまった責任は、専門家にあるはずです。
この専門家がねぇ……3人のうち2人は、皮膚科の先生だったんです(笑)。
皮膚科の先生は悪玉コレステロールについて、よくご存じないはずですよ。
― 専門外の事柄について、お墨付きを与えていた事になりますね。
もう一人は確かに代謝・内分泌系の先生でした。
しかしその先生が「手のひらで超悪玉が分かる」なんて論文を出しているわけではありません。
学会でそんな理論は全く認められておらず、「ナンセンス」の一言です。
― 研究による立証など、しっかりした根拠がないわけですね。
そもそも悪玉コレステロールの概念が出てきたのが20年前くらいで、超悪玉に関してはごく最近なんです。
超悪玉は、悪玉の中でも特に小型で重いものを指しています。
これは非常にタチが悪く、動脈硬化を引き起こす可能性も高い。とても危険な存在です。
新しい説だからこそ、その内容と注意点を、一般の方にしっかりお伝えしなくてはいけないのです。
なのに、誤った意見がまかり通ってしまうと……(ため息)。
― 患者さんが、誤った情報を真に受けてしまうこともあり得ますね。
実際、私の外来患者さんでもいらっしゃいました。
「先生、手のひらで分かるんですか?」って。
先にも述べたように、番組は、私までがその内容を認めているような流れでしたからね。
さらにはね、息子にまで誤解されたんですよ(笑)。
「お父さん、スゴイね!超悪玉コレステロールは手のひらで分かるんだね」なんて。
「いやいや、そうじゃないんだよ(汗)」って、患者さんにも息子にもいちいち説明しなくてはなりませんでした。
― テレビ局に抗議なさろうとは、思われなかったんでしょうか?
ただ私が関わっている部分(前半部分「悪玉・超悪玉コレステロールの説明」)については、 正しい内容を伝えてもらっているんです。 問題の後半部分は、あくまで他の先生の出演・監修でした。 その誤った部分が私の主張と混同されたのは迷惑でしたが、かといって私が抗議する筋合いでもないですからね……。 ただ私が関わっている部分(前半部分「悪玉・超悪玉コレステロールの説明」)については、 正しい内容を伝えてもらっているんです。 問題の後半部分は、あくまで他の先生の出演・監修でした。 その誤った部分が私の主張と混同されたのは迷惑でしたが、かといって私が抗議する筋合いでもないですからね……。