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小学校学習指導要領解説 理科編

Posted on 10月 29th, 2008 in 倉庫 by apj

 大学生協にて、平成20年8月発行の、小学校学習指導要領解説理科編を購入。
 今回の指導要領で大きく変わったところは、「生物とその環境」「物質とエネルギー」「地球と宇宙」の3分野であったものを、「物質・エネルギー」「生命・地球」の2分野にまとめたところである。
 10ページには、「○ 科学的な見方や考え方を養うこと」があり、内容は次の通りである。

ここでは「科学」というものの考え方と「見方や考え方を養う」ことの二つの部分に分けて考えることにする。
 科学とは、人間が長い時間をかけて構築してきたものであり、一つの文化として考えることができる。科学は、その扱う対象や方法論などの違いにより、専門的に分化して存在し、それぞれ体系として緻密で一貫した構造をもっている。また、最近では専門的な科学の分野が融合して、新たな科学の分野が生まれたりしている。
 科学が、それ以外の分化と区別される基本的な条件としては、実証性、再現性、客観性などが考えられる。「科学的」ということは、これらの条件を見当する手続きを重視するという側面からとらえることができる。
 実証性とは、考えられた仮説が観察、実験などによって検討することができるという条件である。再現性とは、仮説を観察、実験などを通して実証するとき、時間や場所を変えて複数回行っても同一の実験条件下では同一の結果が得られるという条件である。客観性とは、実証性や再現性という条件を満足することにより、多くの人々によって承認され、公認されるという条件である。
 見方や考え方とは、問題解決の活動によって児童が身に付ける方法や手続きと、その方法や手続きによって得られた結果及び概念を包含する。すなわち、これまで述べてきた問題解決の能力や自然を愛する心情、自然の事物・事象についての理解を基にして、見方や考え方が構築される。見方や考え方には、短い時間で修得されるものや長い時間をかけて形成されるものなど、様々なものがある。
 見方や考え方は「A物質・エネルギー」「B生命・地球」のそれぞれの内容区分によっても異なっている。いずれにしても、理科の学習は、児童の既にもっている自然についての素朴な見方や考え方を、観察、実験などの問題解決の活動を通して、少しずつ科学的なものに変容させてゆく営みであると考えることができる。

 平成11年刊行の学習指導要領解説にくらべて、科学観の提示の仕方が妥当なものになっている。細かい言い回しや表現の仕方に異論がある人は居るだろうが、全体を読む限り、この科学観に大きな異を唱える科学者はいないのではないだろうか(科学哲学方面からはいろいろうるさく言われるかもしれないが、小学校中学年から高学年が対象ということを考えるなら、あんまり細かい科学論に突っ込んでも仕方がないし……)。
 平成11年5月刊行の指導要領解説にも同じ項目があったが、そちらでは、

まず、「科学的な」のうち「科学」について考えてみよう。現在、科学の理論や法則についての考え方が次に述べるように変化してきているといわれている。それは、科学の理論や法則は科学者という人間と無関係に成立する、絶対的・普遍的なものであるという考え方から、科学の理論や法則は科学者という人間が創造したものであるという考え方に転換してきているということである。この考え方によれば、科学はその時代に生きた科学者という人間が公認し共有したものであるということになる。科学者という人間が公認し教諭する基本的な条件が、実証性や再現性、客観性などである。

 これは、以前にもblogで言及し批判していた部分である。同様の記述が、少し前の方にも出ていた。しかし、平成20年版では、(科学者という)人間が創造した科学、という記述は全く無くなっている。あちこちで科学者が批判していたが、それが届いたのだろうか。
 また、平成20年版では「実感を伴った理解」ということが強調されている。理科の授業で学んだことを、実際の生活の場で出会う現象と結びつけて理解しようというのが主旨である。科学的な見方や考え方を養うのは理科の授業の間だけの話ではなくて、普段の生活でも科学的な見方や考え方を持っていこうということである。このあたりは、ぜひ徹底させていただきたいところである。何せ、大学の共通教育で「理科の知識は試験が終わったら忘れてもいいってもんじゃない、生きていくのに必要だ」と学生に向かって講義しているので……。
 念のため、生活編の解説の最初の方も読んでみた。目標が「地域のよさに気付き」「自然のすばらしさに気付き」「自分のよさや可能性に気付き」と3つ並んでいる。自然を礼賛する方向に突き進むのではないかとちょっと不安になった。しかし、「自然のすばらしさ」の中身として想定されているのは「自然の美しさや巧みさ、不思議さや面白さ」である。小学校低学年が対象であるから、そもそも児童が興味や関心を持たなければ話が始まらないので、とっかかりとしては必要なことだろう。