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提訴を装った詐欺に注意

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 悪マニさんのところで知ったので、こちらでもネタとして取り上げる。
 以下のような文面の葉書が出回っているらしい。

内容確認通知書

契約会社に対し貴方が行った、料金の未払い或いは契約不
履行に対し、契約会社が貴方に対し訴状を管轄簡易裁判所
に申請した事をこの通知書にてお知らせ致します。

当センター職員にて契約会社、訴訟内容等につきましては
お調べ致します。
私どもは原告側からの最終通知、並びに被告人と訴訟内容
を確認する機関の為、個人情報保護法に基づき通知書本人
様のご連絡をお願い致します。

御連絡なき場合、管轄裁判所から訴訟の日程を決定する、
呼出状送達後、出廷となります。
尚、裁判所からの重なる通達を無視し続けますと原告側の言
い分通りの判決が下り、執行官立会いのもと、財産の差し押さ
え等をされる事がありますので十分に御注意ください。

※企業間で個人情報をやり取りし、悪用するケースもござい
ますので、至急御連絡ください。
※この通知は金銭の請求ではございません。

登録番号 (○) ○○××△△ 平成21年

NPO法人 国民消費相談センター
9時~17時30分
〒104-0061
東京都中央区銀座1-18-16
03-5649-9071

 もちろんこれは詐欺で、国民生活センターとも消費生活センターとも何の関係もない。
 こんなものが出回っているということは、これを信じてひかかる人が世の中には居るということだろう。しかし、少々の知識があれば、この葉書がいかにヘンテコかがわかって、お茶を吹く結果になるので、具体的に説明しておく。

  民事訴訟の開始は、
(1)原告が管轄の裁判所に訴状を提出
(2)内容に不備がなければ、裁判所が、期日を決めて被告に特別送達。
である。つまり、訴状が被告に送達されるまで、(代理人弁護士を含む)原告と被告と裁判所以外の誰かが関わることなど無い。そもそも、裁判所や原告本人以外から、訴状がどうなっているかの連絡が来ること自体が有り得ない。

 訴状は申請するものじゃなくて提出するもの。基本的な用語を間違えるなと。
 訴状に不備があれば、補正するように言わるし、従わなければ却下となる。却下されれば訴訟は始まらない。訴状の審査は裁判官の仕事、窓口で教えてくれるのは担当の書記官だったりするが、この内容が裁判所の外に漏れることはない。

 裁判所に訴状を「申請」し、それが関係ない第三者に知られているという設定自体、少なくとも日本の裁判制度の話でないことは確か。

 また、訴状の内容やら相手方については、訴状が送達されてくればはっきりするわけで、事前に誰かを通して調べてもらったって何の役にも立たない。訴状と証拠書類の実物を見ないことには答弁書も書けないし、弁護士に相談もできない。要約だけ先に知るメリットは何一つ無い。

 原告側の最終通知に至っては、一体どういう設定なのかと(笑)。最終通知も何も、裁判所にあるか、裁判所から送達途中の訴状について、誰か他の人が内容を知ることなんか不可能である。だから、原告:提訴と同時に記者会見、被告:「訴状を見ていないのでコメントできない」が繰り返されるわけだ。

 つまり、この葉書の、連絡を寄越せというお願いに至るまでの話は全部嘘である。

 大体、普通はこんな面倒な手順は踏まないはず。普通の原告は、提訴するぞといった内容証明の1通でも送って様子見した後は、訴状を提出しているものだ。相手が悪徳なら、内容証明を送るなどという効力もない無駄なことはしないで、とっとと訴えた方が手っ取り早い。そこに、関係のない自称NPO法人が絡める余地なんかあるわけがない。

 嫌がらせにせよ詐欺にせよ、本当に訴状が提出されているのならば、訴状が裁判所から送達されるのを待って対応すれば十分間に合う(「特別送達」というものでやってくる)。この葉書は、どう見ても架空提訴に架空NPOだから、きっと、脳内訴状しかなく、実際に訴状が届くことは無いと思われる。

 この手の葉書を受け取ったら、近くの消費生活センター(本物)や、警察に届けて、周辺住民や悪徳業者に名簿が渡ってしまっている人達への注意を喚起するために使って貰うと良いだろう。

【追記】ニセNPO法人は内閣府が晒してくれているので、内閣府に連絡するのも1つの手かと。


ここからは旧ブログのコメントです。


by エンパワー at 2009-06-52 04:44:52
Re:提訴を装った詐欺に注意

4~5年前から聞いている手口ですが
相変わらずというか・・・騙される人は
どう啓蒙しても騙されてしまうような(悲しい事ですが)


by apj at 2009-06-21 06:22:21
やっぱり「二十歳の民事訴訟」ですよ

エンパワーさん、

 そこで、向こうで「ものつくり屋」さんが書いてたように、「二十歳の民事訴訟」ですよ。一度手続きしてみれば、どういうものかよくわかるはず。

 まあ、騙される人は騙されるんでしょうね。オレオレ詐欺だって撲滅はできてないし。


by Majesty at 2009-06-10 06:27:10
私の処にも、今日、6月11日来ました

内容確認通知書
なのでNPO法人国民消費相談センターで検索してたどり着きました。まじめに受け取り、対処されないよう、お知らせしたいですがねぇ!。


by なざろふ at 2009-06-28 08:02:28
Re:提訴を装った詐欺に注意

7~8年前に、私も架空請求のハガキを受け取ったことがあります。
督促状なのにハガキ(しかも宛名はシール)で来た段階で詐欺ということに気付き、すぐに捨ててしまいましたが・・・。
(今にして思えば「残して置けばネタになったのに」と後悔してますが(笑))


by 多分役立たず(HNです) at 2009-06-37 11:17:37
そういえば、

私が悪マニを見るきっかけが架空請求でした。本当に初期の話で…

消費者センターに相談したのですが、警察や近隣自治体の消費者センターと連絡を取り合っているとのことで頼もしかった思い出があります。

噂では捕まったと聞きましたが、その後の架空請求の流行を見ると…


by apj at 2009-06-15 03:09:15
Re:提訴を装った詐欺に注意

多分役立たず(HNです)さん、

>噂では捕まったと聞きましたが、その後の架空請求の流行を見ると…

(1)実はマニュアルが流出して別グループに引き継がれた
(2)お手軽なので模倣犯続出
(3)捕まったが既に出所して性懲りもなくまたやっている
(4)「誰でも簡単にできる在宅ワーク」の商材になって広まっている

さてどれでしょう^^;)


by 多分役立たず(HNです) at 2009-06-58 05:51:58
割れた窓

(5)警察が本気で火消しをしなかったので、気が付いたときには大火災になったとか…orz

#警察に相手にされなかったという書き込みを幾つ見たことか(哀)


by のの at 2009-06-43 09:33:43
Re:提訴を装った詐欺に注意

 これは虚偽のでしょうが、たしか本物の訴訟を起こして、詐欺に使っていたケースがあったはずです。
 詐欺グループが架空の貸金返還訴訟を実際に起こして、本物の裁判所からの送達だったのに、受け取った方は心当たりがないから「どうせ詐欺だろ」と何もせずに放っておいたら、被告の反論なし、欠席のまま原告の主張どおりに判決が確定。で、その判決をたてに金を取り立てるという。


by 多分役立たず(HNです) at 2009-06-45 09:47:45
これですね。

>詐欺グループが架空の貸金返還訴訟を実際に起こして

だまされ続けた法の番人 「訴訟詐欺」事件 (東京新聞)
http://www6.big.or.jp/~beyond/akutoku/news/2002/0301-5.html

実際に出廷しても被告の言い分をきっちり聞かなかった恐れがあるようです。

素人の反論は裁判では不十分なことも多いでしょうから、裁判官だけを責める訳にはいかないかもしれませんが。

架空請求グループが起こした裁判は、逆に断罪されたようですね。

速報!「架空・不当請求」少額裁判の判決が出ました! 「架空・不当請求」裁判に判決! – [防犯]All About
http://allabout.co.jp/family/bohan/closeup/CU20050323B/


by apj at 2009-06-01 11:36:01
だから「特別送達」とエントリーにも書きました

ののさん、
 本物の訴状が来たケースがあったことも知っています。
 だから「裁判所から特別送達」が来たら、身に覚えが無くても、裁判所に出向いて弁論しないといけないんですよ。つまり、
・裁判所以外からの訴訟に関する連絡→無視
・裁判所からの特別送達→身に覚えが無くても出て行って反論しないといけない
ということになります。このあたりのことを「常識」として知っていないと危ないのかな、と思います。

 ところで、相手の居所がわからない場合の提訴の方法として、裁判所に掲示して提訴したことを通知する「公示送達」という方法があります。詐欺師にこれをやられると、提訴されたことを知らない(普通の人は裁判所の公示送達リストをこまめにチェックしたりはしない)ために、何もしないで負けるのではないか、と思ったのですが、公示送達可能なのはかなり努力しても居所不明の場合に限られるし、そうそう悪用はできなさそうでした(確か、もう一度争うとか、追加で相手に損害賠償を求めることもできたけど何条でどうやっていたかは覚えてません……勉強しなきゃ)。

多分役立たず(HNです)さん、
 当然の判決ですよね。
 ただ、裁判制度についての最低限のリテラシーを、社会に出る前に持てるよう、高校卒業までにもっとちゃんと教育するといったことは必要かと思います。このコメントにも箇条書きした2点くらいは知ってないと、トラブルに巻き込まれるかも。


by 多分役立たず(HNです) at 2009-06-16 15:26:16
Re:提訴を装った詐欺に注意

公示送達を見てみたのですが、

民事訴訟法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08HO109.html#1000000000000000000000000000000000000000000000011000000000000000000000000000000
110条以下に記載があります。

条文に「公示送達」とあるのを探したのですが、

第百五十九条(自白の擬制)
 公示送達の場合はこの条文は適用されない。

第二百五十四条(言渡しの方式の特則)

第六編 少額訴訟に関する特則
第三百七十三条(通常の手続への移行)
 公示送達の場合は通常手続きへ移行

再審関係を見たのですが

第四編 再審
>一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
>二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
>三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
>四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
>五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
>六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
>七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
>八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
>九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
>十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

公示送達の場合は記載がないです。一度公示送達で判決が確定すると後が面倒なようです。

でも、公示送達後に速やかに差し押さえを行うためには、相手の住所等を知る必要が在りますね[:うっしっし:]

そういえば、ものつくり屋さんが、二十歳の裁判を勧めていたような。