水素ガスについて訊かれたのでコメントした

 水素水ではなく水素ガスの効果について週刊新潮から意見を求められたので,いろいろ話をした。大体こんな感じ。

  • 水素水の場合は体内に入る水素の量がとても少なかった上,胃腸からのガスの吸収という効率の悪い方法だったので効果は無さそうだが,肺からのガスの吸収であればなにがしかの生理作用・薬理作用があるかもしれない。どれくらい効率が違うかは,息を止めて酸素水を与えても窒息するし,胃に酸素ガスを送り込んでも呼吸のかわりにならないことから見当がつくはず。
  • 生理作用や薬理作用は,臨床試験によって判定されるべきもので,試験の結果なしに効果を期待しても無駄。仮に,何かの病気に効くとか症状を和らげるといった効果が見つかったとしても,それはその特定の病気だけの話なので,予防に役立つとか健康にいい,といった拡大解釈をしてはいけない。
  • 研究の状況の判定方法は,たとえば,「食べ物とがん予防」(文春新書)に出ている,「健康情報を評価するフローチャート」によるべき。研究デザインが正しく,十分な数の被験者が確保できていて,結果が論文誌に出され,複数のグループの追試も同じ結果である,といった場合に,そこそこ信頼していい結果があることになる。動物や培養細胞で実験しただけとか,被験者が少ないとか,学会発表しかない,といった状態なら,十分な研究が行われるまで判断を保留すべき。
  • 病気の人に使うのと,健康な人に使うのとは状況が違う。病気の人に効果があっても健康な人には関係無いかもしれない。予防の効果の確認は,健康な人の大人数の集団を長期にわたって追跡しなければできないので,そうそうすぐに結果は出てこないだろう。
  • 効果の判定をするなら,吸わせる水素ガスの濃度と,血中水素濃度の変化の計測が必須。
  • 太田教授のもともとの研究は脳梗塞ラットの血液再灌流時に発生するフリーラジカルの影響を減らすというものだった。ヒトに使えるなら助かる人も多いかもしれないと思って論文を見ていた。水素濃度を上げておくと,何かの異常で大量にフリーラジカルが出来る時の影響が減らせるかもしれない(単純に化学反応が競合するので)。もともと,ヒトの体内では,フリーラジカルは必要な時に作られ,必要なくなったら分解されているもの。水素の量を増やして競合させてもどれだけ意味があるかは疑問。ただ,大量にフリーラジカルができるといった異状な場合に限っては,効果があるかもしれない。が,臨床試験の結果次第だし,積極的に臨床試験すべきかどうかについては,水素よりもっと有望な方法があればそちらが先に試験の対象になりそう。このあたりの優先順位については私でなく医者に訊くべき。

電話取材だったのでこんなことをいろいろ話した。まあ,そんなに長いコメントは出ないだろうなあ。