掃除機過大表示

 プラズマクラスターについては基盤教育でも質問が出たりするのでメモ。
毎日JPの記事より。

シャープ:掃除機過大表示 再建に冷や水 独自技術に傷
毎日新聞 2012年11月29日 東京朝刊

 シャープが28日、消費者庁から電気掃除機の性能で過大表示と指摘された「プラズマクラスター」は、経営再建の柱の一つに位置づける白物家電の独自技術だ。性能そのものは問題視されておらず、他の搭載製品への波及もないとしている。ただ、イメージダウンから販売減につながる恐れもあり、シャープの再建に冷や水を浴びせかねない。

 同社は掃除機のプラズマクラスター性能について、ダニのふんや死骸のたんぱく質を分解・除去するなどと表示。その根拠として1立方メートルの空間での実験結果と注釈したうえで「約15分で91%作用を低減する」としたが、消費者庁は「こうした性能はない」と指摘。シャープはすでに4月時点で消費者庁から指摘を受け、10月末までに対象の表示を削除した。プラズマクラスターはエアコンや冷蔵庫など16品目に搭載されているシャープの独自技術。

 13年3月期の営業損益が1550億円の赤字見通しの中、白物家電を含む「健康・環境機器」は330億円の黒字と全6部門の中で最大の利益を生み出す貴重な収益源。最新液晶パネル「IGZO(イグゾー)」とともに業績回復の柱に据えているだけに、同社は「プラズマクラスターの効果自体は実証されている。他のプラズマクラスター搭載製品も安心して使用してほしい」と呼びかけるなど、影響を最小限にとどめたい考えだ。【鈴木一也】

 実験結果を正直に述べていたとしても、実際の使用条件と著しく異なっていれば、消費者にとっては意味がないわけです。
 家電製品の試験条件は、あくまでも、普通の消費者が使いそうな条件にするべきです。

未だにWindows95で動いてたり

 師匠のところから譲り受けたラマン分光器のコントローラー周りが移転早々逝ったのが一昨年。PC(HDDも電源も)+インターフェースボード+コントローラーのセットがお亡くなりになった。何せ、MS-DOSで動く測定ソフトウェアだったものだから、今更インストールしようにも記録が無くてどうにもならない。インストールディスクを手に入れたんだけど動かそうとするとエラーが出てダメで、元のとバージョンは同じだから多分うまくやる方法はあるはずなんだけど、誰も覚えていない。製造元は三回くらい会社合併やら買収やらされて、日本の代理店も買収されて元代理店の人々は別会社作ったり再就職したりで三分割されてる状態。その誰にきいてもやり方を知らない、と。
 この組み合わせよりは新しいセットが別の大学で動いていて、ちょうど廃棄処分になるということだったので、譲ってもらってつないで動かしているのが今のコントローラー一式で、OSはWIndows95。先日このマシンのWindowsが立ち上がらなくなり、コマンドラインならディスクのディレクトリも見えている程度の障害だったので、修復サービスを利用して復旧させてもらった。
 症状としては、測定が終わった時間に行ってみたらPC本体の電源のLEDが点滅していてマウスを振ってもディスプレイが消えたまま戻って来ないという状況で、リセットしたら立ち上がらなくなっていたというもの。
 戻って来たマシンをつないで院生と実験していたら、今日もまた、同じ症状が出ている、と院生が私を呼びに来た。また同じトラブルか、と思いつつリセット。今度は無事に動いてくれた。

 前回の故障直前も、今日似たような感じで止まった時も測定していたのはベンゼン。こいつは振動モードの強度がかなり強い。回折格子の分光器で赤外領域のラマン散乱を測定するということで、スリット大きめにあけてレーザーのパワーも300mW入れていたのだが、フォトマルに届く光が強すぎたらしい。リミッターに引っかかったという理由で測定が途中で止まってしまう。水やアルコールなら同じ条件で測っても全く問題ないのだけど、試料によって散乱強度は随分違うので、こんなこともある。去年はアルコールの超臨界測ってて、低振動数領域で散乱が強く無かったから止まるということはなかった。
 今回の問題は、Windows95のの設定が省電力するようになってて一定時間後にディスプレイが消えたりしている間に、測定プログラムがエラーで止まると復帰してこないというものらしい。何も問題なく測定が終われば、マウスを振ってやると画面もシステムも復帰してくるので、データを保存するだけなのだが……。
 「電源の管理」で、システムスタンバイ、モニタの電源を切る、ハードディスクの電源を切る、を全部無しに設定してから測定すると、途中で止まっても、ウィンドウに警告メッセージが出ているだけで、適当にOKをクリックして対応して再測定で何も問題はない。院生の測定も本日分は無事終了。

 どうも、Windows95あたりの古いシステムで、本体にボードを突っ込んで装置のコントロールをするような時は、省電力設定はしてはいけないということなのかも。

簡単な練習問題

 基盤教育の「科学リテラシー(化学A)」では、講義の時に、「食べ物とがん予防 健康情報をどう読むか」(坪野吉孝著、文春新書)のフローチャートを紹介している。

【健康情報の信頼性を評価するためのフローチャート】
ステップ1 具体的な研究にもとづいているか
はい  いいえ → それ以上考慮しない(終わり)

ステップ2 研究対象はヒトか
ヒト  動物実験や培養細胞 → 「有害作用」についての研究は、
                 それなりの注意を払う。
                「利益」についての研究は、
                人間にあてはまるとは限らない
↓                ので、話半分に聞いておく(終わり)
ステップ3 学会発表か、論文報告か
論文報告    学会発表 → 科学的評価の対象として不十分なので、
↓               話半分に聞いておく(終わり)
ステップ4 定評ある医学専門誌に掲載された論文か
はい    いいえ→  ひまな時に参考にする(終わり)

ステップ5 研究デザインは「無作為割付臨床試験」や
      「前向きコホート研究」か
はい      いいえ → 重視しない(終わり)

ステップ6 複数の研究で支持されているか
はい    いいえ → 判断を留保して、他の研究を待つ(終わり)

結果をとりあえず受けいれる。ただし、将来結果がくつがえる可能性を頭に入れておく。

 さて、このチャートを適用できそうな報道があった。

 日テレNEWSより

ゲルマニウムに血液の流れを改善する効果
(高知県)

13日、高知市で記者会見した高知大学医学部の植田名誉教授などの研究グループによると、ことし6月から5か月の間成人の男女あわせて33人を対象に純度の高いゲルマニウムを使ったネックレス着ける前と、着けてから40分後の血液の流れを測った。その結果、着ける前の測定で血液の流れが悪かった10人すべての血流が善くなったという。高知大学医学部の植田名誉教授は「血液の流れが良くなることで、肩こりや頭痛などの対策に効果が期待できる」と話している。今回の研究結果は、来月兵庫県で開かれる学会で発表される。
[ 11/13 21:54 高知放送]

 順に見ていくと、一応研究はしているのでステップ1はクリア。研究対象はヒトなのでステップ2もクリア。ステップ3で、学会発表なので右側に分岐……発表が無事済めばね。結論は「科学的評価の対象として不十分なので、話半分に聞いておく。」
 貴重な電波をつかってわざわざ報道するような情報ではないですな。

 間違っても、こんなあやふやな情報に基づいてゲルマニウムネックレスを売っても買ってもいけません。

 ネックレスをつけるのに悪戦苦闘した結果腕やら肩やらを動かして血液の流れが良くなったりしたんじゃないかというツッコミにこたえるためには、ゲルマニウムじゃないネックレスをつけさせた対照群が必要ではないかと。

EM菌:experimentなきdemonstration

 macroscopeさんのところをを読んで。
有用微生物は活用すべきだが、比嘉ブランドのEMは勧められない
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (2)
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (3)

 科学教育の問題について、以前から気になっていることがあります。教育用のために作られた実験と、まだ未知のことがらを確定させるための実験とは違うということです。
 理科教育のために行われる実験はdemonstrationつまり演示実験であり、既に確定した自然現象を教育のために見せやすくしたものです。一方、まだ不確かなことを確定させるための実験は、主に大学以上で学ぶもので、experimentといいます。理科教材として準備されたdemonstrationには、experimentの裏付けが十分にあります。これは無理からぬことでもあります。小中高の理科でexperimentを経験することは、予備知識とかけられる時間を考えた場合、非現実的です。ただ、demonstrationを生徒の前でやっていい条件は、experimentが終わっていて、説明が確定している自然現象に限られているということです。
 EM菌を環境教育に使うことの問題は、experimentが十分ではない、つまり、その菌を使って河川の浄化などを行った時に、本当に効果があるのか、効果があるとしたらどんな条件が必要なのかということを十分確かめないままに、demonstrationと区別がつかないやり方で学校に持ち込まれているということです。
 菌を使って河川の浄化を試みるなら、菌を投げ込んだ→川がきれいになった、だけを見るのは不十分です。撒いた菌がその後どうなったか、その場所で生きて活動しているのかということくらいは調べてからでないと、菌の効果だという結論は出せないでしょう。
 EM菌の提唱者である比嘉氏は、効果について「波動」(オカルトです)や重力波(こちらは専門家がこれから検出するための装置の準備をしていますが、菌と関係するとはとても考えられないものです)といった、科学としてはまともでない説明をしています。EM菌を無批判に使うと、こういったまともでない説明を肯定していると受け取られても仕方がありません。どうしてもEM菌を使いたいのなら、こういったインチキな説明を正面から批判した上で、かつ、実験で十分に確認された菌の作用を利用するという形でしか、学校に持ち込んではいけないでしょう。しかし、批判を行ってから実践したという話も出てきません。この批判を教師がしてくれれば、別の意味で教育効果が高いと思うのですが、残念ながらEM菌を使っての実践は良い面だけ強調してやっているのではないかと思われます。
 EM菌で環境浄化の実践例では、菌を撒いた後その菌がそこに居るかについてはスルーされています。率先して持ち込んだ教師がその後菌の生存を確認するところまでやったという話は出てきていません。提唱者の比嘉氏は、確認のための実験には許可が必要だと主張し、検証を拒否しています。これを教育の場で使うということは、科学は誰でも検証できるという条件でしか進まないものだという、科学の教育にとって決定的に重要なことを無視するという教育効果をもたらしかねません。
 教わっている生徒は、demonstrationしか経験していないでしょうから、EM菌のdemonstrationを見て、普段教わっている理科の実験と質的な区別が出来なかったとしても仕方がありません。しかし、教える教師の側が区別できないのはまずいです。自分が何を教えているかわかっていないということになるからです。

 EM菌を学校で使ってはいけません。理科教育の重要な内容を否定する結果になります。

マイナスイオンの件、電話取材を受けました

 八戸大学の高大連携事業のマイナスイオンマップの件、朝日新聞の長野記者から電話取材を受けていました。記事になる前に話題にするのはよろしくないので黙っていましたが、本日記事が出ましたので紹介します。記事カテゴリーは「朝日新聞デジタル> マイタウン> 青森>」です。

マイナスイオン実習を中止 八戸大

2012年11月09日

 「体によい」などと紹介される一方、その根拠があいまいとの批判も多いマイナスイオンについて、八戸大学は今月、3年間続けてきた測定の実習を中止した。大学は「商業用語と科学を混同していた。反省を教育に生かしたい」としている。
 マイナスイオンは、一般に空気中の電気を帯びた物質を指すとされ、インターネットには「自然治癒力を上昇させる」とか、「血液サラサラに」などの説明が多い。2000年前後には、効果をうたう家電製品も多く販売された。
 一方、科学理解を養う科学リテラシーの講義を持つ山形大の天羽優子准教授によると、マイナスイオンという言葉は科学用語に存在せず、健康効果を示す科学論文もほとんど無い。立証されない効果をうたう商品・商法には批判も多く、公正取引委員会から効果をうたうことを禁じる排除命令をうけた商品もある。
 八戸大は三つの高校とともに10年から十和田市の奥入瀬渓流で、市販の測定器を使ったマイナスイオン測定を開始。結果を健康効果の説明と併せ、ネットやパンフレットで紹介してきた。これまで5回、測定会を開き、のべ36人の高校・大学生が参加した。
 大学の担当者は「インターネットなどを使った観光PRの手法を学んでもらう目的だった」と話す。
 10月末、測定会を報じた新聞記事が科学者の間で話題になり、天羽准教授は「効果のはっきりしないものを確定したもののように教えるのは問題」と、電話で八戸大に伝えたという。
 大学は2日、ホームページに「マイナスイオンは明確な定義の無い用語。実習で使ったことをおわびする」との学長名の声明を掲載、実習中止を表明した。今後、参加した学生にも説明するという。
 担当者は「恥ずかしいことだが、当初の検討が不十分で、あいまいなマーケティング用語に踊らされた。学生が同じような失敗をしないように授業などで伝えていきたい」と話す。
(長野剛)

 記事中でも言及されていますが、マイナスイオンと血液サラサラの組み合わせは最悪でした。
 マイナスイオン関連の商品販売時に、血液サラサラのデモンストレーションをするため、業者が勝手に客から血液をとって顕微鏡で見せるといったことが行われました。採血の方法は、小さな針を指の目立たないところに刺して一滴だけ血液をとるというものです。シリンジを使った本格的な採血ではなかったので、不審に思わずに応じてしまった人も居たのだろうと思います。問題は、針の滅菌が十分でなかったり、採血器具の針のキャップが使い回されていたらしいことです。このため、血液サラサラのデモ付きセールスを受けた人が、B型肝炎などに感染した可能性があります。マイナスイオンをそのまま信じるような知識しかない業者が、医療機関並みの注意深さで針や器具を滅菌してくれることは全く期待できません。
 マイナスイオンと血液サラサラ大流行中の時に、針刺し血液サラサラ検査を業者にされてしまった人は、必ず医療機関に相談し、必要な検査を受けて下さい。私も、本務校での講義の度に、学生の父母や親戚の年配の方でこの検査をされた人が居たら医療機関に相談するようにと伝えていますが、十分ではありません。マイナスイオンに踊らされるだけなら財布が痛む程度で済みますが、血液サラサラとの組み合わせの方は健康被害が発生する可能性が高いのです。この話は、以前、学外ブログに書きましたが、大事なことなのでここでも繰り返しておきます。
 八戸大学もマイナスイオンのまずいところに気付いてくださったようですので、できれば血液サラサラ採血についての注意喚起をお願いしたいところです。

学生のケアを

 「高大連携でマイナスイオン:八戸大学」で取り上げた件について、10月29日に八戸大学の担当窓口に電話で問題点について伝えた。詳細は後ほど文書で、と連絡したが、別書類の締め切りやら、弁護士事務所に持って行く書類制作やらに追われて、完成はしたが発送する余裕がなく、週明けにでもと思っていたら、11月2日に対応済みとなっていた。
 まず、学部のトップページからこの件が消えた。さらに、学長からお詫びと訂正が出た

高大連携奥入瀬渓流マップ作成プロジェクトについてのお詫びと訂正

 地域での調査・実習を通じた学生のフィールドワーク活動(高大連携事業の奥入瀬マップ作成事業、平成24年10月20日実施)において、マイナスイオン(空気イオンカウンターで測定した数値を使って)マップ作成を行う予定でおりましたが、マイナスイオンそのものが明確な定義のない用語であるため、マップ作成は行わないことと決定いたしました。
 また、過去に実施したフィールドワークで作成した「奥入瀬渓流 マイナスイオン物語乙女の記録」は配布先より自主回収を行い、今後、マイナスイオンの調査・実習は実施しないことと致します。
 今回及び過去の奥入瀬渓流における実習活動において誤解を生む用語を使ったことをお詫び申し上げるとともにマイナスイオンは明確な定義のない用語であることを合わせてお知らせ致します。

平成24年11月2日
     
八戸大学学長 大谷真樹

 大谷学長の迅速な対応がなされて良かったのだが、気になったのは、とても楽しそうに測定していた学生・生徒さんたちに何と説明すると良いのかということである。
 単に、チェックが甘かったとか流行に(だいぶ遅れて)つい乗っかった、ということになると、がっかりするか立腹する人が出てきそうである。まあ、情報の取捨選択をするプロであるはずの教員についてはがっかりしても立腹しても自己責任だと思うが、学生・生徒さんは育てなければいけないので、自己責任というわけにはいかない。
 こればっかりは、実際に企画が動いた時にどうだったかがわからないとケアの計画が立てられない。

 「マイナスイオン」の正体を実験的に調べる、だと高大連携のテーマとしては多分難しすぎる。「マイナスイオン」と自然放射線の関係は、だと、理科としては正しい方向だが、放射線恐怖症に陥っている人が全国各地に多々いる現在、奥入瀬にマイナスイメージを与える結果になりかねない。
 テーマを変えて空気イオンの利用方法(あるいはイオナイザの利用方法)、というテーマにして、健康にいいとか○○に効くといった話とは全く違うものについて使い方が確立してるんだよ、というのは有りかもしれないが、だからマイナスイオンでも良かったんじゃん、と思われてしまうと元の木阿弥になるから注意が必要だろう(それほどに「マイナスイオン」が定着してしまっているため)。
 積極的に関わった学生さんが落ち込まない、かつ、奥入瀬のイメージダウンにならないケアをやっていただけることを願っている。
 同時に、なぜチェックできなかったのか、ということは、運営側でしっかり調べて欲しい。学長のお詫びは「マイナスイオン」のもたらした問題について突っ込んだものではないが、まあ、一般的に「学長のお詫び」とはこういうものである。しかし、実働した人達がこれで終わってしまうと、次に別の変なネタに乗っかってしまうかもしれない。過去に「水からの伝言」が学校教育に持ち込まれ、学外から批判が出た時、実践していた学校の先生達は理由の説明もなぜひっかかったかの検証もせずにただその実践例を削除しただけだった。で、次は学校の環境教育がEM菌に乗っかるというていたらくになっている。大学と小中高では文化が違うが、削除して無かったことにして終わる、というだけだと別ネタにひっかかる可能性が大きいままになりそうで心配である。