日本トリムが無節操な件

産経WESTの記事より。

「インチキ水素水」ブログ、「中傷だ」と日本トリムが研究者提訴

 研究者のブログに「インチキ水素水」と書かれ、自社製品の信用を傷つけられたとして、家庭用整水器大手の日本トリム(大阪市北区)が、水素の医学的効果を研究している元日本医科大教授の太田成男氏を相手取り、約4400万円の損害賠償と謝罪文掲載を求める訴訟を大阪地裁に起こしたことが13日、分かった。同日開かれた第1回口頭弁論で、太田氏側は請求棄却を求めた。

■「本物の水素水」と「インチキ水素水」…

 訴状によると、太田氏は昨年12月、国民生活センターが容器入り水素水と生成器について行った商品テストの結果を受けて、自身の当時のブログに「本物の水素水とインチキ水素水」と題した文章を掲載。「容器入りの水素水では、10社製品中商品表記と同じ水素濃度のものは3社製品」のみだったとしてトリム社以外の3社の名前を記載した。

 トリム社の製品で商品テストの対象となったのは生成器のみで、表示と同程度の水素濃度が確認されたが、ブログ掲載後の5日間で返品やキャンセルが計143台に上ったという。

トリム社側は太田氏について、テレビや新聞で水素に関するコメントをしており、知名度もあると指摘。「影響力の大きい太田氏の発言で製品の社会的評価が低下した」としている。

 一方、太田氏側は答弁書で「『インチキ』という言葉はペットボトル入りの水素水に関する意見で、トリム社製品について述べたものではない。売り上げの減少とブログに何の因果関係もない」と反論している。

日本トリムは、水を軽く電気分解して作る飲料水製造装置を製造販売している会社である。

九州大農学部の白畑教授と組んで、電解水の穏やかな抗酸化作用を示す実験をし、日本トリムの技術者が白畑教授と共著で論文を発表した。その中で、抗酸化作用の原因物質として、白畑教授は「活性水素」という物質の存在を仮説として提案した。「活性水素」は、あくまでも実験結果を説明する作業仮説に過ぎなかったのだが、日本トリムは、活性水素の存在を九州大の農学部の教授が証明した、という内容の宣伝に利用した。当時、白畑教授は、活性水素=原子状水素、と主張していた。このため、電気分解してできる原子状水素の入った水、という宣伝を行う同業他社も多数出てくる結果になった。その後、白畑教授は、活性水素とは原子状水素ではなく、白金ナノ粒子に水素分子が吸着したものである、と主張を変えた。

研究が進んだ結果、主張を変えること自体はよくあることなのだけど、最初から仮説でしかなかったものを「実在を証明」という風評を流し、それに乗っかって商売したのは日本トリムである。当時は、白畑教授も、積極的にその風評を流すことに協力していた。

そうこうするうち、太田氏が始めた水素の生理作用や治療効果の研究が知られるようになった。活性水素じゃなくただの水素だということは知らんぷりして(BBRCに論文通すだけの知識のある研究者が社内に居れば、水の電気分解でできるものは水素ガスであることくらいとっくに知っていたはず)宣伝していたのに、太田氏の仕事が知られるようになったとたん、水素水製造装置として電解水を作る装置を売り出した。

ところがその水素水や水素ガスも、治療効果としての臨床試験は行われているが精度の高いものはまだ無く研究途上であり、健康な人に対する効果についての試験結果はない。つまり、健康な人向けに製品を売るということ自体が、現状では、水素水の「風評」に乗っかった商売であるといえる。

現在、訴訟資料の情報が無いのでなんとも言えないが、産経新聞の報道の通りなら、太田氏はペットボトルの水だけを対象にしてホンモノニセモノの評価をしており、装置を作っている日本トリムには何も言っていないように見える。しかも、国民生活センターの調査結果公表の直後であり、キャンセルの原因は太田氏のブログではなく国センの結果公表ではないかとも思える。

これまでさんざん「風評」を利用して、というか積極的に振りまいて商品を売っておいて、インチキ水素水論評の巻き添えを食らったからといって、信用を傷つけられたとはどの口が言うのか。無節操にもほどがある。

太田氏には、ずいぶん前に、水素水で商売する有象無象が出てくるに決まってるから用心するようにと伝えたが、逆に、積極的に水素水を売りたいのだという返事がきた。そのうち、水素サプリを積極的に推すようになった。今回の訴訟は馬鹿健康グッズ業界にどっぷり使った状態で他社製品を批判した結果なので、まあ仕方ない。ただ、国センのとばっちりを受けてるだけのようにも思える部分だけはちょっと気の毒ではある。

とはいえ訴訟資料は見たいので、もしここを見ていたら、連絡ください。資料公開ウチで取り扱います。> 太田氏

「強命水 活」続報

msn産経ニュースより。

「がんに効く水」で罰金刑 長野の会社、薬事法違反
2014.9.8 23:15
 松本区検(長野県松本市)は8日、がんに効果があるなどとうたった飲料水を無許可で販売したとして、薬事法違反の罪で、同県諏訪市の水販売会社「エーイーエム」の菅原越雄社長(62)と法人としての同社を略式起訴した。松本簡裁は同日、菅原社長と同社にそれぞれ罰金100万円の略式命令を出し、同日納付した。

 菅原社長は8月、飲料水「強命水 活」などの商品を「がん細胞をも押さえ込む」などとウェブサイト上でうたい、無許可でインターネットを通じ販売したとして、県警に逮捕された。

 菅原社長と共謀したとして、妻(62)と長男(30)も逮捕されたが、長野地検松本支部は8日、2人を不起訴処分にした。地検は理由を明らかにしていない。

 警察も検察も条文以上のことはできません。
 
 で、この罰金は、ぼったくり商売を続けた社長にとってははした金に過ぎず、ほとんど何の影響もありません。利益を吐き出させるなら、信じて買った人達が返金訴訟を起こす以外にありません。民事で責任追及しない風潮が、インチキな水商売をのさばらせてしまう面もあります。

「強命水 活」

日本経済新聞の記事より。

「がんに効果」と水無許可販売 3人逮捕、容疑を否認
2014/8/20 1:40

 長野県警は19日、がんに効果があるなどとうたった飲料水を無許可で販売したとして、薬事法違反(医薬品の無許可販売)の疑いで、同県諏訪市の水販売会社「エーイーエム」社長、菅原越雄容疑者(62)と妻の同社役員、まさ子容疑者(62)、長男の関連会社役員、健彰容疑者(30)を逮捕した。

 県警によると、容疑を否認している。

 逮捕容疑は共謀し、500ミリリットル2千円の飲料水「強命水 活」などの商品についてウェブサイト上で「がん細胞をも押さえ込む」「痛み・かゆみを瞬時に消す」などといった効能をうたい、国や県の許可を得ず、3月にインターネットを通じて販売した疑い。

 茅野商工会議所(同県茅野市)は「強命水 活」を2011年に「推奨土産品」に認定しており、担当者は「認定取り消しを検討する」と話している。

 同社はウェブサイトで「薬事法を順守するため、効果効能は記載していない」と強調していた。しかし県警によると、同じサイトで「諏訪 不思議な水」というキーワードでの検索を勧め、効能をうたった別のサイトに事実上誘導していた。

 越雄容疑者は商品を製造する茅野市の会社の社長も務めている。〔共同〕

 2012年にNAVERまとめで薬事法違反が指摘されてました。
 逮捕を受けてか、効果効能を謳った別サイトでは見えなくなっているページが多かったり、NAVERまとめに紹介されたページも削除済みだったりしています。

 常識的に考えて、ペットボトルの水の値段として500ミリリットル2000円というのは、ブランドによる付加価値を考慮したとしても、相場を著しく逸脱して高価なわけで、こんな値段がついているものを「推奨土産品」に認定するというのは、客からぼったくりますよ宣言にしか見えません。茅野商工会議所の見識を疑います。

クレームにより記事訂正

 古い記事にクレームが来たので対応しました。
 クレームの内容は次の通りです。

天羽様

最近、ネットで
http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/atom11archive/wwatch/others/comment_11.html
のページを発見し、記載内容に間違いがあり、訂正をして頂きたく、メールを差し上げました。

コスモアート・ジャパン(株)&オーセンネットショップ(2002/10/06)
のコメントについて

扱っている製品が同じなので、2社同時に眺めてみる。「カーツ活水器」という、蛇口部分を取り替えて水流に空気を送り込むタイプの活水器である。オリジナルは、コスモアート・ジャパン(株)で、販売ルートの1つがオーセンネットショップらしい。

と記載されておりますが、
カーツ自体は当社で仕入れて販売しておりましたが、
オリジナルは、コスモアート・ジャパン(株)で、販売ルートの1つがオーセンネットショップらしい。
と言う部分は推測であっても完全な間違いで有り、訂正、又は削除をお願いします。

追記
カーツの発売元は大阪府羽曳野市にあった大揮産業商事(有)で、その後、社長が死亡され、2~3年後に廃業、東京の代理店が引き継いだと聞いております。

4、5、6の説明文は、大揮産業商事のカーツのカタログに記載されていた内容で有り、当時の大揮産業商事(有) 澤社長の説明文です。

赤字の部分の訂正がなされないで公開が続いた場合、記録として公開されている天羽氏に対して、大阪地裁に訴訟をさせて頂くことになります。

コスモアート・ジャパン株式会社
代表取締役 安西憲雄
558-0004 大阪市住吉区長居東3-20-16
mail: cosmoart.jp@cosmoart-japan.com
tel:06-6609-2611 / fax:06-6699-6672

 当時は、同じ製品の説明が2カ所に出ていて、ウェブを見てもどちらがオリジナルかわからないので「…らしい」と書いた。が、当時であっても、別の開発元(特にコメントをつけた宣伝内容を書いた会社)がわかっていれば、そのように書いたはずである。もちろん、今でも、事実関係が間違ったままにしておくつもりはない。
 かなり時間が経った後ですが、本当の開発元についての情報提供はありがたく受け取って早速記載に反映させた。delタグで挟んで打ち消し線で削除し、追記した。
 メールには「赤字」とあったが、私は plain text でやりとりする設定にしているため、メールの本文そのものの文字修飾情報は全く見えなかった。メールでのやりとりの時には、相手の環境次第で文字修飾は見えないことあるので、文字の装飾を前提にした書き方をしない方が安全である。だから、赤字、の部分で行き違う可能性もあるが、文章を読んでわかった範囲で対応した。

 と、これだけにしようかと思ったのだけど、「大阪地裁に訴訟をさせて頂くことになります」について検討しておく。
 このような内容が届いた場合、私の判断は「相手は訴訟の準備ができておらず言ってみただけ」となる。なぜなら、このメールには事実関係が書いてあっても、訴訟になった場合の争点になりそうな内容や法律構成を窺わせる記述が全く無いからである。相手はまだ弁護士に相談すらしていないと推測する。プロがついていればもうちょっと法的な内容を書いた手紙が届くはずだからである。
 本当に恐いのは、訴えるぞとは全く書いてなくて、かつ、行為が法的にどういう意味を持つかを丁寧に記載したものが届いた時である。つまり、読めば相手が出しそうな訴状やら準備書面の内容の見当がついて、どういう法律構成で争うつもりかもわかるような内容ということである。こういうお手紙が来たら、相手は既に弁護士に相談済みで充備万端整えているはずなので、こちらもプロのところに持ち込んで対応を検討しなければならない。

 事実と違うことを出しっぱなしにするつもりは無いから、訴えるとか書かなくても普通に「会社が違います」と言ってくれれば対応はするわけで、何もわざわざ、準備できてなさそうにみえる訴訟なんか言い出さなくても良いのにねえ。

レポートを読み書きする能力は必須

 ウチの学科は実験を伴う必修の講義が1年次後期から始まるし、卒業研究は必修、卒業論文もほぼ全ての研究室で書くことを課している。学生実験であるので、テキストもあり、やる内容も決まっている。レポートには使った実験器具や実験手順も書くように指導しているが、メニューが決まっているので、書くとなるとほとんどテキストの一部分を丸写しする結果になる。
 わかりきっていることを何故書かなければならないかというと、レポートとしての形式を満たすための訓練である。これをおろそかにして社会に出ると何が起きるかを最近実感した。

 事件は、某水処理装置会社が某管理会社にトルマリンを利用した水処理装置を売ったが宣伝文句が科学としては間違った内容を含んでおり、後から事業を引き継いだ某管理会社2がそのことに気づいてメンテナンス料の支払いを拒んだところ提訴されたというものである。現在進行中の他人の訴訟であるし、議論の本筋と関係がないので、固有名詞への言及は差し控える。
 さて、訴訟が始まり、原告の某処理装置会社は、製品には科学的根拠もあるし大学で測定もしてもらっている、と、製品開発の参考にした日本語の報文(ここで取り上げたもの)や、自社製品を某大学某研究室に依頼して測定してもらったレポートを証拠として裁判所に提出した。被告から、原告提出の証拠について科学的見地から意見書を出して欲しいと頼まれたので、私の出番となった。
 まずは大学で行った実験について検討するか、と、原告が某大学某研究室に依頼して測定してもらったと称するレポートを見たら、これが、主に次のような理由で大変ひどい出来であった。出されたレポートが後から改竄されていないという確証が得られないので、具体的な研究室名は伏せる。

(1)測定に使用した装置の製造元と型番が充分に記載されていない
 レポートには試料の電顕写真やX線回折の結果、元素分析の結果が掲載されていた。しかし、元素分析をどのような方法でやったのかについては、装置も手法も書かれていないため、推測するしかない状態だった。このため、一体どの程度信頼できるデータなのか、信頼性の相場はどれくらいなのかの評価が困難だった。
(2)図のキャプションと、レポートの後の方で出てくる説明が食い違っている
 試料の加熱処理の温度を変えて同じ測定をしたグラフが1ページにまとめて掲載されていた。ところが図番号を示して書かれたレポートの結論を読むと、その中に別の測定法を用いたものが混じっていると読める内容になっていた。キャプションが正しいのかまとめの説明が正しいのか、推測で判断するしかない状態だった。具体的には、元素分析のグラフなのかX線回折のグラフなのかが曖昧という状態だった。
(3)結果について何も言及していないグラフが掲載されている
 部材と錆びた金属片を水に投入し、撹拌しながらpHがどのように変わっていくかを測定したグラフが載っていた。この商品を使うと水道配管の防錆効果があると宣伝されており、錆びた金属片を加えた実験は、セールスポイントである防錆効果を直接確認するものであった。しかし、錆の状態がどうなったかについてはレポート中に記載が無かった。その上、その図の番号を示して結論部分に書かれた説明は「熱分布曲線の測定」となっていた。なお、レポート中のグラフに熱分布曲線を測ったらしきものは存在せず、単純な図番号の付け間違いとも思えない状態だった。
(4)図の縦軸と横軸の判読が難しいものが多数ある
 図のキャプションと説明が食い違うという状態だったので、図の縦軸と横軸がわかれば少しは推測もしやすいところ、判読できないものが多かった。
(5)説明が不十分かつ不親切
 この商品は、上記報文の久保氏の説によるトルマリンの焦電性を利用した水処理を原理として採用していた(この内容自体の是非はともかく)。ところが、大学が出したX線回折の結果は、商品の部材にトルマリンの結晶構造が存在しないというもので、レポートにも文章で明記されていた。トルマリンの焦電性は特定の結晶構造によって維持されているので、結晶構造が壊れれば焦電性もなくなる。トルマリンの結晶構造が無いという測定結果を得たのであれば、焦電性が消失している可能性に言及するのが当然であるべきところ、何も書いていなかった。依頼された方法で測定を行い結果の解釈は依頼者に任せるという立場があることを否定はしないが、こうして裁判所にまで証拠書類として出された挙げ句、宣伝の前提を否定する実験結果であることを晒すくらいなら、説明を書いておくのが依頼者に対して親切だったのではないか。

 こんな具合に、測定を引き受けた教授の印鑑(コピーで見た限りシャチハタっぽかったけど)が表紙に押されていたレポートが、レポートべからず集のオンパレードであった。変なことを言いだす水処理装置会社がいるのはよくあることなので別に驚かなかったが、大学の名前でこんなレポートが民間企業に出されていたことの方にショックを受けた。さすがに、大学の研究室がこんなものを出したとはすぐには信じられず、誰かが途中で改竄あるいは編集したのではないかと疑っている。
 私は、測定法に馴染みがないであろう裁判官のために、用語集や教科書などから引用したものを資料として添付し、それぞれの測定法がどんなもので何がわかるかを解説した上で、問題点を指摘した意見書を書いて被告代理人に託した。
 意見書の中で「もしこの書き方のレポートを学生実験の結果として学生が提出したら,私は間違いなく書き直しを命じて再提出させるか,不合格の判定を出す」と書かずにはいられなかった。読んだ裁判官は苦笑したにちがいない。原告から次回の反論のため某研究室に私のコメントが回されたら、私は研究室を2つばかり完全に敵に回したことになる。

 当学科の卒業生なら、学生実験をこなし指示通りに実験レポートを書く習慣を身に付け、社会に出てからもその基本を忠実に守っていれば、(1)〜(5)にあてはまるようなレポートは書かないはずである。

 ここからは学生向け。
 実験のレポートは個人の成績評価に使われるものだと思っているかもしれないが、社会に出たらそうではない。書く側の心構えとしては、出る所に出される可能性を考えて、評価に耐えられる程度に必要事項を記載しなければいけない。それができなければ批判に晒され信用を落とすし、今回のように、依頼者を裁判所で不利にする材料を提供することにもなり得る。
 逆に、企業等に就職し自社製品に関わる測定を依頼する場合、受け取ったレポートが最低限の形式を満たしているかということや、内容に矛盾が無いかといったことのチェックをしなければいけない。不明なところがあれば問い合わせてはっきりさせるといったこともしなければいけない。チェックのポイントは、これまでに正しいレポートの書き方として指導された項目全てである。
 大学では、全員同じようにトレーニングされるので、まともなレポートが書けて読めることが強みだとは意識しないかもしれないが、最低限満たすべき基準を超えていないと信用されないし身を守ることもできない。今受けている面倒なトレーニングには意味があるということを認識してもらいたい。

NMRパイプテクターについての相談

 NMRパイプテクターの件で相談があった。

団地の理事長が委任状を使って、勝手に買うことにしましたが、団体裁判でお金を払い戻す方法はないでしょうか?

 この商品の説明が科学としてはナンセンスであり、また、過去に私を脅したことは既に水商売ウォッチングの方に書いた(日本システム企画株式会社よりのクレームとその対策水商売ウォッチングに対するクレームと、法律相談の結果警告文ウォッチング)。私がある程度真面目に法律を勉強しようと思うきっかけになったクレームで、今読み返すと懐かしい。それはともかく、その後もここの宣伝資料はものすごいものが続出したので、と学会年鑑AQUAでもネタにした。売り込みを受けて困惑している方はこれらをご覧下さい。
 それはともかく、この会社はうまいところに目を付けて売り込んでいるので、買ってしまった後で説明に担がれたと気付いても、救済の道が容易ではない。
 この相談者のケースでわかるように、団地の理事長やマンション管理組合の理事長に売り込んでいるので、訪問販売の形式をとっていても、消費者契約法での保護から外れるし(たぶん)、景品表示法の適用も難しいという問題がある。集合住宅に売り込まれた場合、こりゃダメだと思った人は当然「自分の出資分の金返せ」と思うわけだが、それをどうやって実現するかが難しい。また、ダメ判定をした人達が返金を求めれば、信じている人達と正面から法律問題として争うことになる。争う相手は同じ集合住宅の住民ということになるので、人間関係を重視するなら住民を二分して揉めるというのもそれなりに覚悟が必要である。
 マンションやアパートの管理運営を引き受ける方はそれなりに物の道理もわかっており住民にも支持されている方なのだろう。しかし、ニセ科学宣伝への抵抗力が一般の消費者よりもあるかというと、必ずしもそうではない。
 今足りないのは次のようなことである。
(1)形式上は一般消費者扱いではないが力の実態は一般消費者と何ら変わりがない集合住宅の管理担当者を、一般消費者と同じ基準で救済できるようにするための法改正(景表法及び消費者契約法)。
(2)現状の法の枠組みで、出資した金が明らかにヘンな製品に使われた時に出資者が救済される法律構成を弁護士に考えてもらって、実際に訴訟を行い金を回収する下級審裁判例を作る。
(3)(2)を楽に実現するための立法。

 さしあたり、相談者が実行できるのは(2)しかない。そこで、「委託した金が全く同意できないことに使われた場合の救済策については、私は素人なので何とも言えないが、弁護士なら考えてくれるかもしれないので、まずは弁護士に相談するように」という旨回答した。さらに、「もし弁護士に相談して訴訟ということになった場合、宣伝の非科学性を裁判所で立証するための意見書を書くといった協力をする予定はあるので、相談時に弁護士にそのことを伝えてもかまわない」と付け加えた。

 (2)の裁判例が出ればかなり状況は良くなるだろうとは思うのだけど……。

水素結合は変わりません

 長崎新聞の記事より。

ペットの歯周病を予防

 日本理工医学研究所(佐世保市、阿比留宏社長)は、犬や猫など動物の口臭と歯石予防に効果がある飲用水を家庭で生成できる機器「アニマルウォーター」(税込み1万9800円)を商品化し、4月8日から販売する。

 アニマルウォーターは、電気の力で水分子の水素結合を弱め、口臭や歯石の原因となる菌や汚れの吸着を促す仕組み。使い方は、水道水を入れたペットボトルをアクリル製の機器(高さ28センチ)に入れ、電源を入れるだけ。生成時間は約5時間、電気代は月1・5円(月4回生成の場合)。

 市内の中小企業29社でつくる同市異業種交流協会、佐世保高専、県外の動物病院などが開発支援。昨年9月に動物病院用の生成器を開発し、その後家庭向けを商品化。動物が生成水を継続して飲むと、1~2週間で口臭を軽減したり、約90日間で歯石を希薄化するなどの効果が実証されたという。

 同社は「飲用水を使った歯周病の治療・予防で、歯石除去時の動物の身体的リスクや飼い主の経済的負担を軽減できる」としている。販売目標は年間千台。問い合わせは同研究所(電0956・30・8121)。

 電気の力だろうが何だろうが、水分子の水素結合を弱めることも強めることもできません。水素結合の状態は、温度と圧力によって少し変わるだけです。温度と圧力を元に戻せば、水素結合も元に戻ります。同じ温度・圧力の水の水素結合はどれも同じです。
 もし、水の水素結合が弱くなったとしたら、不純物の効果を越えて、水の沸点も融点も下がります。この水が、他の水と同じように沸騰したり凍ったりしているなら、水素結合は元のままです。

 それにしても、こんな話をチェックできないどころか開発に荷担するって、佐世保高専大丈夫か。
 触れ込み通りの事が起きてるなら、密度最大の温度や、水の静的誘電率、3500cm-1付近の水素結合に由来する赤外吸収やラマン散乱のスペクトルなど、マクロな物性から分光学的データまで軒並み変わるはずですけどね。一体どんな測定法を投入したんだか。

ナノバブル水素水フコイダンへのコメント

ナノバブル水素水フコイダンに近しい人が嵌まりつつあって下手すると必要な治療が遅れかねないという悲鳴が聞こえてきたのでコメントしておく。

製品例としては、http://www.ecotex-j.co.jp/productinfo.htmlのアスミーテという商品がある。フコイダンを薦めているところは例えば「代替医療を考える会」のこのあたり

まず、水の方から見てみよう。

ナノバブル水素水フコイダン50000の組成は、

フコイダン:50,000 mg
ビタミンC:10,000 mg
溶存水素水量:1ppm(製造時)

とある。

水素を強調しているが、室温1気圧の水素の溶解度は、ppmで表すと1.6ppm。他社の水素水も、高濃度と称しているものが1.2ppmだったりするから、つまりは飽和もしていない水素濃度のものが水素水と称して市販されているということになる。

トップページには、メチレンブルーを水素水に加えた場合の、他社製品との比較写真が出ている。青くなったものは「還元力」が失われているという話で、「還元剤としての水素が最初から入っていないか、抜けてしまう事が分かります」と主張している。しかし、この実験は水素が抜けたかどうかを反映していないのではないか。メチレンブルーの発色がみられなかったナノバブル水素水フコイダン50000にはビタミンCが含まれている。ビタミンCは抗酸化作用を持つことで知られているし、水素のように時間が経つと抜けていったりはしない。この実験では、ビタミンCがメチレンブルーの発色を妨げた可能性が高い。もしこの実験で水素が抜けたかどうかを確認するなら、他社の水にも同じ濃度になるようにビタミンCを加えた上で試験をしないと、水素の量の違いについて結論は出せない。

水素が超微細気泡化することにより水の中から抜けにくくなり、また、イオン化することによって気泡同士が反発し合い結びつかなくなるため、その大きさを維持するイオン化ナノバブル製法を採用しています。

とあるが、気泡の内部は水素ガスのはずである。水素分子イオンというものは放電管の中などには存在するが、通常の環境では安定に存在することはない。一体何をイオン化しているのかが謎である。

ナノバブル技術により、ナノバブル水素水フコイダン50000(通称:フコイダン水素水)は、他社水素水製品と比べ、たっぷりと水素が溶け込んでいます。

既に書いたが、他社の水素水で水素濃度が1ppmを越えるものが普通に販売されているので、他社製品に比べて水素が多いとはいえないのではないか。

また、溶存した水素が長時間持つ事の証拠として、ORP値のグラフが示されている。しかし、この製品には抗酸化作用を持つビタミンCが含まれているので、ORPの値はビタミンCの影響で下がっている可能性がある。同じ濃度のビタミンC水溶液のORPも一緒に掲載しておくべきだろう。また、ビタミンCを含んでいるのに、「科学的な添加物などを全く含まず」(化学的、の間違いと思われるが原文ママ)とはどういう意味なのか、わけがわからない。

抽出されたフコイダンを大量に含んだ独自製法のナノバブル水素水フコイダン50000であれば、容易に摂取することができます。

とある。フコイダンが体内に吸収されたことはどうやって測定したのだろうか。

もう少し詳しい説明を見てみる。

水素は、活性酸素を除去する働きがあると言われています。

普段私たちの体は、ストレスに晒されたり有害なミネラルなどの物質が体内に入ってくると活性酸素が発生します。この活性酸素は体の老化、サビの原因であり、様々な病気、体調不良の原因とも言われ、この活性酸素を減らす事が老化予防、病気予防になると言われているのです。

水素は抗酸化作用物質であり、酸化された細胞等を還元(元の状態にする)させる、つまり、体内の病気の元である活性酸素と結びついて安全で無害な水に変化し体内から放出させてくれると言われています。

見て分かるとおり、全て「言われています」と伝聞ばかりである。つまり、この水素水の効果については、自社で確認をしていないし、する気も無いし、効果があるとはっきり述べられるだけの証拠も持っていないにもかかわらず販売しているということになる。

フコイダンの説明は、多糖類であることや発見の経緯を書いている。しかし、効果がある、という根拠に結びつきそうなのは

2002年にはフランスの科学者による研究で、F-フコイダンがウサギの細胞の過形成を抑制することが明らかとなり 、また、2005年に慶應義塾大学教授・木崎昌弘博士らの研究により、フコイダンが人間の悪性リンパ腫の細胞にアポトーシスを起こさせることが発見され、注目されました。

の部分である。この部分を注意深く読むと、どこにも、実際のヒトの悪性リンパ腫に対して治療効果があったとか、臨床試験の結果が出たとは書かれていない。もし、臨床試験で認められた治療効果があれば、それは、企業にとってもっとも売り文句になるはずである。それが無いのだから、ここに書かれた効果は細胞培養の実験でのみ確認されたものだと読み取るべきである。そうすると、「簡単な練習問題」で紹介したフローチャートを適用するなら、フコイダンはステップ2で右側に分岐する。つまり、フコイダンの抗がん作用というのは、「人間にあてはまるとは限らないので、話半分に聞いておく」程度の扱いをすれば十分なのであって、とても、病院での治療の代わりに使えるようなものではない。

なお、この会社のフコイダンを紹介している資料の中にはまともな論文は1つも無く、いわゆる健康本のみである。これらの資料は何冊出ていても効果の証明には何の意味もない。すべて、フローチャートのステップ1を通過できず、「それ以上考慮しない」情報である。もちろん、医薬品でもないフコイダンについて、癌に効果があると誤認させるような、効果効能を謳った販売は違法である。