やはり私刑は認めない方向

 YOMIURI ONLINEの記事より

ナイフで脅した小6の頭叩いた校長処分…退職

 大阪市教委は31日、児童7人の頭を手でたたいたとして、同市都島区内の市立小学校の校長(62)を25日付で戒告の懲戒処分にしたと発表した。

 校長は「指導のつもりだった。深く反省している」として、31日付で依願退職した。

 市教委によると、校長は5月、6年男子児童が校内にナイフを持ち込んで他の児童を脅し、一緒にいた同級生6人も先生らに知らせなかったことを知り、7人を別室に呼び出して頭を1発ずつたたいた。7人にけがはなかったが、市教委は「市立桜宮高の体罰自殺問題を受けて、暴力に頼らない指導を目指す中、管理職が手を上げた責任は重い」として懲戒処分とした。

(2013年8月1日11時59分 読売新聞)

 一昔前までは、この手の事件が起きた時に、警察マターにはしないかわりに学校内で処罰するという「教育的配慮」が当たり前とされてきました。しかし、最近では、教育的配慮であっても私刑は違法という判断が続いています。多分この流れは変わらないでしょう。
 現実に違法なことをする生徒が居る以上、秩序の維持のためには何らかの懲罰が必要です。教師が懲罰を与えることが違法とされてできないことになったのですから、警察に通報し、少年法の手続きに則って粛々と進めるしかありません。
 この元校長先生は、一緒にいた同級生が先生に知らせなかったことを叱っていますが、自分だって警察に通報はしていないわけで、生徒を叱れる立場じゃなさそうですね。
 教師による懲戒を問題とする=「教育的配慮」の拒否、にほかなりません。わかりきったことですが、社会でこれを選んだのですから、その結果も引き受けるしかないということです。これから教師になる人には、手続き優先、教育的配慮はしないように注意、と教えた方が職を全うできそうです。

どの程度なら削除すべきなのだろうか

 古いブログエントリーへの削除要求について、どう考えるべきか迷っている。
 確かに、人の前科等にかかわる事実をブログに書いて、検索して見に来た人が「Aさんは○○で逮捕された」などとわかってしまうというのは、更生という点から問題である。一定期間後に消すべきだと思うし、ネット上の忘れられる権利も認めて良いと思う。
 しかし、「Aさんは既存の会社と似たような名前の会社をなのっていた」「それはB会社関連も同様だった」程度の内容だった場合どうなるのだろう。Aの名前とB会社を組み合わせて検索すると前科に関する情報が出るが、ブログを見ただけではそのことがわからない場合、この程度でも削除すべきなのだろうか。
 「前科等にかかわる事実」を広く解釈し過ぎると、自由な議論や情報発信に対して制限が強くなりすぎるという弊害が出る。しかし狭く解釈し過ぎると更生の妨げになる。一体どこでバランスをとるべきなのだろう。現状の下級審裁判例も含めた相場はどのあたりなのだろう。

 ウチの人文学部の判例検索室、開いてるかな……。しかし明日は午前も午後も会議だしなあ。

NMRパイプテクターについての相談

 NMRパイプテクターの件で相談があった。

団地の理事長が委任状を使って、勝手に買うことにしましたが、団体裁判でお金を払い戻す方法はないでしょうか?

 この商品の説明が科学としてはナンセンスであり、また、過去に私を脅したことは既に水商売ウォッチングの方に書いた(日本システム企画株式会社よりのクレームとその対策水商売ウォッチングに対するクレームと、法律相談の結果警告文ウォッチング)。私がある程度真面目に法律を勉強しようと思うきっかけになったクレームで、今読み返すと懐かしい。それはともかく、その後もここの宣伝資料はものすごいものが続出したので、と学会年鑑AQUAでもネタにした。売り込みを受けて困惑している方はこれらをご覧下さい。
 それはともかく、この会社はうまいところに目を付けて売り込んでいるので、買ってしまった後で説明に担がれたと気付いても、救済の道が容易ではない。
 この相談者のケースでわかるように、団地の理事長やマンション管理組合の理事長に売り込んでいるので、訪問販売の形式をとっていても、消費者契約法での保護から外れるし(たぶん)、景品表示法の適用も難しいという問題がある。集合住宅に売り込まれた場合、こりゃダメだと思った人は当然「自分の出資分の金返せ」と思うわけだが、それをどうやって実現するかが難しい。また、ダメ判定をした人達が返金を求めれば、信じている人達と正面から法律問題として争うことになる。争う相手は同じ集合住宅の住民ということになるので、人間関係を重視するなら住民を二分して揉めるというのもそれなりに覚悟が必要である。
 マンションやアパートの管理運営を引き受ける方はそれなりに物の道理もわかっており住民にも支持されている方なのだろう。しかし、ニセ科学宣伝への抵抗力が一般の消費者よりもあるかというと、必ずしもそうではない。
 今足りないのは次のようなことである。
(1)形式上は一般消費者扱いではないが力の実態は一般消費者と何ら変わりがない集合住宅の管理担当者を、一般消費者と同じ基準で救済できるようにするための法改正(景表法及び消費者契約法)。
(2)現状の法の枠組みで、出資した金が明らかにヘンな製品に使われた時に出資者が救済される法律構成を弁護士に考えてもらって、実際に訴訟を行い金を回収する下級審裁判例を作る。
(3)(2)を楽に実現するための立法。

 さしあたり、相談者が実行できるのは(2)しかない。そこで、「委託した金が全く同意できないことに使われた場合の救済策については、私は素人なので何とも言えないが、弁護士なら考えてくれるかもしれないので、まずは弁護士に相談するように」という旨回答した。さらに、「もし弁護士に相談して訴訟ということになった場合、宣伝の非科学性を裁判所で立証するための意見書を書くといった協力をする予定はあるので、相談時に弁護士にそのことを伝えてもかまわない」と付け加えた。

 (2)の裁判例が出ればかなり状況は良くなるだろうとは思うのだけど……。