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文系の人と語る楽しみ

Posted on 1月 24th, 2008 in 倉庫 by apj

 最近、黒猫亭日常さんのところにおじゃまして、いろいろコメントを書いている。黒猫亭さんの文章を読むのが楽しみだったりする。
 blog主の黒猫亭さんは文系の人である。最初に黒猫亭さんの文章を見たとき、この展開の文章はどう頑張っても私には書けないと思った。言葉が人に向かう時の厚みをもった紡ぎ方は、やはり文系の人の物である。理系では、言葉の半分が数式や記号だったりするし、余計な言葉をそぎ落として自然を記述することに向かう。私はそういう訓練をされてきたから、私の使う言葉もそうなっている。
 言葉を尽くし、言葉を積み上げて人に向かうというのは、理系の訓練からは出てこない。理系はそんなふうに訓練されていない。しかし、人を考え理解する方法としては言葉をきちんと使うというのは非常に強力であるし、積み重ねもあるのだと思う。
 自然科学の修得には訓練の積み重ねが必要だが、言葉を使うという文系の分野にも訓練と積み重ねがある。人間には両方が必要だと思う。特定の個人が片方のやり方しか習得できなかったとしても。
 もちろん、言葉を積み上げたって自然科学に対しては無力だし、科学の方法で人を理解しようとしたって生理学的な理解以上のものは何も出てこないだろうから、使う方法と対象を間違えては意味がない。これはまあ、言うまでもないことである。

 理系文系論争というのは大抵不幸な方向、つまり互いにこき下ろすという方向に行ってしまうことが多いのだが、理系だから数学や実験器具を駆使して自然を相手にできる、文系だから言葉を尽くして人にきちんと向き合える、などと、互いに何がアドバンテージかを主張した方が、実りがあるのではないか。